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第42話 お前はただのバカだ


「それにしても面倒なことになったわね・・・」


眉間にシワを寄せながら幼い顔を不機嫌に歪めるチェルロッテ。

彼女の座る木製のテーブルがため息に合わせて軽く軋んだ音を立てた。


「でもジャスさんのおかげで未然に防げるかもしれないね」


リオンがチェルロッテとは対称的な笑顔でこともなげに言う。

まぁ確かにね、と呟くと桃色の髪を指先でいじりながらチェルロッテは考え込む。


ジャスはルクトウの町から帰ってきてすぐにブルーノ大臣に今回の依頼の報告を行った。

残念なことに大臣の読みどおり、魔人が絡んでいたこと。

最近の若者の失踪はその魔人と領主の息子が元凶であったこと。

そして、魔王復活のこと。


全てを告げた後、ブルーノはしばらく黙考していたが、「伯爵のことは上手くやるよ。何のお咎めなしとはいかんだろうが失うには惜しい逸材なのでな」と明らかに本題を避けた返答をよこした。

つまり、この話はここまでということだ。


そしてその夜に勇者と賢者の二人が何でも屋にやってきて今に至る。


「くどいようだけど、あの性悪魔人はたしかにそう言ったのね?」


カウンターの定位置に座るジャスにチェルロッテは何度目かの確認をする。

それくらい信じられない話であった。


「あぁ間違いない。ウォーツ、ウェルホルン、イルメジ、そしてマネル。この4つの都市の人間を生贄にするつもりらしい。しかもたった一ヶ月後にな」


先程の4都市は、魔法大国ルーフェンの首都ウォーツ、軍事国家ウェルザードの中心都市ウェルホルン。

セリヴァン神聖王国の聖地イルメジにゼカン国の首都マネル。

それにセドール王国の首都ゼドラルを加えた5つの都市が五大都市と呼ばれ、技術も人材も世界最高の水準のものが集まっている。

もちろん人口も他の都市に比べて圧倒的に多い。


一ヶ月後にゼドラルを除く4つの都市を同時に襲撃をする、これがヴァルディマがあの夜にジャスに告げた内容であった。


「貴方達が潰した拠点と合わせて五大都市全てに同時攻撃を仕掛けるつもりだったってわけね。一つでも防ぎきれなかったら数万人以上が犠牲になる。あーもう!何で今まで気が付かなかったのかしら!」


チェルロッテは堪らず座っているテーブルをガタガタと揺する。

そんな不機嫌な友人にリオンは問いかけた。


「でもヴァルディマが嘘をついてる可能性もあるんでしょ?」


「勿論あるわよ。でも・・・」


「対応しないわけにはいかないんだよ。もし奴が言っていることが本当なら人類滅亡の危機だ」


主要な都市が落とされた上に魔王の復活。

再び魔王を討伐出来たとしてもその頃には人類側のダメージは計り知れないものとなってしまう。

それだけは避けねばならない。


「なるほど!でも何となく魔人たちの拠点はあると思うな。勘だけどね!」


リオンが緊張感のない顔でへらっと笑う。

そんな勇者の姿を見て、ジャスとチェルロッテは顔を見合わせて深い深いため息をつく。

そう、今まさにヴァルディマの言っていた事が本当のことであると証明されてしまったようなものなのだから。


「チェル・・・これは本腰を入れないとダメっぽいぞ?」


「そうみたいね。半月以内に場所の特定と戦力の確保か・・・。あー!どうやって説得しようかしら!」


確かに現状では魔人たちが都市を襲う明確な証拠がない。

しかも情報源が元魔王軍幹部からである。

中々信用してもらえないであろう。


ブルーノが話を早々に切り上げたのもそこが原因であった。

通常の枠内の人間ではこの状況に対処することは出来ない。

なので、ジャスの元に勇者と賢者をよこしたというわけだ。


「はぁ・・・久しぶりに4人で集まる必要がありそうね」


「ナルとキルトに会いに行くの?久々だね!」


「不本意ながらね。英雄一行の言葉なら各方面への説得もそう難しくはないはずだから。あー!でも戦バカと神様バカとはなるべく関わりたくなかったのにー!」


戦バカと呼ばれたナルという女性は剣聖ナルナリアである。

軍事国家ウェルザードの出身で、対魔族でなければその戦闘力は勇者リオンの上を行くのではないかと言われている。

非常に好戦的で、揉め事は戦いで解決しようとする。

面倒見がよく、竹を割ったような真っ直ぐな性格をしているがチェルロッテは暑苦しくて正直彼女のことを苦手としていた。


勇者パーティ時代の役割は特攻隊長。

正確に言うと我慢が出来ずに突っ込んでいってしまうが、その殲滅力はとんでもないものがあった。


そして神様バカと言われるのが、大神官キルト。

七神教の大神官でセリヴァン神聖王国の本殿に仕えている。

性格は品行方正で弱者にも手を差し伸べるまさに聖者であるが、笑顔が胡散臭かったり、腹黒そうなところがチェルロッテは苦手だった。

しかし信仰心は本物で、操る奇跡はどんな傷も癒やすと言われている。


「まあまあ魔法バカ。勇者一行が集まるのは良い手だと思うぞ。お前らの要請を断ることが出来る奴らなんてこの世界には居ないだろうからな」


「誰が魔法バカよ!」


「ジャスさんボクは!?ボクは何バカ?」


「お前はただのバカだ」


「酷いよ!!」


結局真面目な空気も何処へやら。

その後はギャアギャアとどうでも良いことを言い合いその日は解散した。


その日からしばらく二人が何でも屋に顔を出すことはなかった。

魔人の拠点の捜査、様々な国や団体への協議。

時々チェルロッテの運び屋として呼び出されることはあったが、基本的にジャスがこの件に関わることはあまりなかった。


物語が動き出しました。


いつもお読みいただきありがとうございます。

読んで頂いているというのが一番の活力になります!


もうしばしお付き合い頂ければ幸いでございます!

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