第41話 私バラバラになっちゃいそうだから
前回の続きです。
サーナはテーブルの上に置かれた指輪を手に取り口元がにやけているララミーナの眼前に突きつける形で質問する。
露骨に話題を逸らすその姿にニマニマとしながらララミーナはその指輪をサーナの右手の指に通す。
「左の薬指は、私の担当じゃない」
「そ、そ、そういうのはもう良いですから!これの説明を!」
なかなか顔の赤みを取らせてもらえないサーナが説明を促す。
「仕方ない。その指輪は、双子の指輪。サーナ、目を閉じて、指輪に力を込めてみて」
「はい」
言われるままに目を閉じて指輪をしている右手をぎゅっと拳の形にする。
指輪に力を込めるというのがよくわからないが、自分の中に不思議パワーがあると想像してそれを送り込むイメージをしてみる。
すると何とも上手く言えないが、辺りの空気が変わったような気がした。
「じゃあ、ゆっくり目を開けて」
そう告げるララミーナの声にも違和感。
形容し難いが、あえて言うならばよく聞こえる?
そんな疑問を抱きながらそっと目を開けると目をキラキラさせているシェロと目があった。
いや、目が合っているのに合っていない。
「すごい!サーナが増えた!」
「「え?」」
驚いたサーナが左を向くと鏡でしか見たことがないが見慣れた赤毛の後頭部が。
慌てて右を向くとまたも同じ後頭部が。
「「えええ!?」」
シェロはパニックになりかけるサーナ達の右腕と左腕をそれぞれ引っ張り二人の彼女を向き合わさせる。
第三者的にはサーナだけ立体的な鏡合わせになっているように見える状態となる。
ただ、鏡と違うのは片方のサーナが右手を上げるともう片方も右手を上げるため、鏡のような対称にはならないところだった。
「「なんか普段より見えすぎて頭痛くなりそうです」」
「ん、それなら、ウィンクの要領で、サーナAは目を閉じて」
「「ううう・・・む、難しい」」
何度か挑戦してなんとか片方のサーナの目を閉じることに成功する。
今度は同じ要領で目を開けている方だけ椅子に座ったり、声を出したり、色々なことに挑戦してみるが、5分ほどでサーナの限界がきたためララミーナが指輪を外して分身体を消滅させた。
ようやく脳の過負荷から開放されたサーナは心底疲れ果てたようにテーブルに突っ伏し大きくため息をついた。
「あ〜死ぬかと思いました。結局今のは分身を作る指輪ということですか?」
「そういうこと。ただ、分身体の精度が、物凄く高い。本人が出来ることは、全て出来る。それに、匂いも気配も、本人と一緒。自分が二人になる、と考えていい。でもデメリットがあって、魔法が一切使えなくなる」
「魔法どころか歩くことすらまともに出来ませんでしたよ・・・」
「でもパパはそれでお母さんと戦ってたよ」
「ジャスは異常。通常、魔法で分身を作る場合、あらかじめ、動きを決める。つまり自動。だけど、ジャスは分身を操作しながら、自分も動いてる。変態と言っても良い」
雇い主の散々な言われように思わず苦笑する。
また一つ、ジャスの凄いところを知ったサーナであった。
ひとり感心するサーナを横に、シェロがテーブルの長い杖を手に持つ。
シェロの低い身長より更に長いその杖は古木の枝のような古めかしい雰囲気を醸し出していた。
まるでおとぎ話に出てくる魔法使いが持っていそうだというのがサーナの受けた印象だった。
「その杖は、室内では危ない。中庭へ」
「はーい」
「え?危ないって?」
サーナの疑問には誰も答えず3人は中庭へとつながる扉をくぐる。
昼を回ったばかりの中庭はじっとしているだけで汗が吹き出してきそうなほど暑かった。
そんな暑さの中でもシェロは身の丈よりも大きな杖を大事そうに抱えてにこにこと笑顔を振りまいている。
どつやらこの杖の効果を知らないらしく、楽しみで仕方がない様子であった。
「さて、お嬢様。その杖に魔力を込めて、飛べ、と命じて」
言われるままにシェロは目を閉じて魔力を込めていく。
そして大きな目を見開くと短く叫んだ。
「飛ーー」
言葉が終わるかどうかのタイミングでシェロの姿は上空へと消えていった。
かろうじてそれを目で追うことが出来たサーナは一瞬唖然とした後、慌ててララミーナに詰め寄った。
「ラ、ララさん!シェロちゃんが!!」
「そう、あれは大空の杖。見ての通り、空を飛ぶことが、出来る」
「飛ぶというより発射されてましたよ!早く助けないと!!」
もう既に見えなくなってしまったシェロの姿を求めて空を見上げて慌てるサーナとは対称的に、いつもの眠そうな声でララミーナはゆっくりと告げた。
「焦る必要は、ない。お嬢様は、もうここにいる」
「え?」
「び、びっくりしたー!」
サーナが視線を空から下ろすと先ほどと同じように大きな杖を抱えたシェロが射出された勢いのせいで髪をボサボサにしながらも笑顔で立っていた。
どうやら自分が空に目を向けた一瞬の間に、ララミーナが転移でシェロを救出してきたということに気がついたサーナは安堵のあまりその場に膝をついてしまった。
「サーナ大丈夫?今度は一緒に飛ぶ?」
「え、遠慮しておくね。私バラバラになっちゃいそうだから」
「そうなんだー残念。じゃあ最後の魔道具見てみようー!」
シェロは杖を抱えたまま小走りに店内へと駆けて行き、すぐに片手に何かを抱えて戻ってきた。
その何かというのは。
「それは・・・ジョウロ?」
「なのかな?」
二人して首を傾げてララミーナの方を向く。
4つの瞳に見つめられたララミーナは静かに頷くと、魔法で水を出現させてジョウロの中に注いでいく。
「サーナ。いつものように、植物に水をやって」
「あ、はい。・・・よいしょっと。これでいいですか?」
中庭の花壇に手渡されたジョウロでいつものように水やりをする。
この暑い夏の昼間に咲く花は、与えられた水にとても喜んでいるように見える。
それはもう感謝の声が聞こえてくるような。
<水、ありがとー!>
「え?」
<サーナいつもありがとう!>
「ええええ!?」
声は間違いなく花壇から聞こえてきている。
聞き間違いとは思えない。
ということは。
サーナは花壇の花を見回した後に背後のララミーナに視線で問いかける。
「そう。囁きのジョウロ。5分間だけ、水をやった植物の、声が聞こえる」
「えええ!すごい!素敵!お花と話が出来るなんて夢みたいですよ!」
「サーナ良かったね!」
「うん!」
<サーナと話せてわたしたちも嬉しいよ!>
「私も嬉しい!いつも私から話しかけてばっかりだったから」
<私達もずっと返事してたんだよ>
「そうだったんだ。気付けなくてごめんね」
もう完全に自分の世界へ入ってしまったサーナはしばらく花たちと会話を楽しんでいた。
そしてそろそろ効果時間が切れようかという時に、一輪の花が疑問を口(?)にした。
<サーナはいつジャスに告白するの?>
「え?」
<いつも言ってるじゃない!店長の優しいところが好き!とか意地悪してくるところが可愛くて好き!とか仕事しているときの横顔が好き!とか、あとは・・・>
<わたしも知ってる!いつも色々教えてくれるもんね!>
<わたしだって一日に3回は聞くわよ!>
<わたしも!>
<他には!>
あれやこれや。
次々に話を始めた花壇の花たちの喧騒は囁きのジョウロの効果が切れるまで続いた。
ようやく静かになった中庭でシェロはそっと立ちすくむ友人の顔を覗き込んで、悲しそうに首を振る。
頭の先まで茹だってしまったサーナを古代竜の二人は日陰で優しく介抱したのであった。
閑話休題。
次回から本編に戻ります。




