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第40話 私サーナ!15歳!


これはジャスが依頼を受けてルクトウの町に調査に行っていた間のお話。


何でも屋の看板娘であるサーナはいつものように朝の早い時間から店へと足を運ぶ。

散歩をしているご近所の老夫婦や様々な果物を店頭に並べるおじさんに朝の挨拶をして意外と家の近所にある何でも屋に到着する。

ここで働きだして1年半。

もうすっかり見慣れた店先である。


(ここ数ヶ月で一気に騒がしくなったけど)


サーナはくすっと近頃顔を出すようになった古代竜や勇者、それに友人となってくれた賢者の顔を思い浮かべては笑みをこぼし、店の扉の前に立つ。

すると突然、手も触れていないのにカチャリと軽い金属音がしたかと思うと、ゆっくりとサーナを迎え入れるように扉が開いた。


魔法について詳しくないサーナだが、この自動で解錠され開く扉が凄いものであることはわかる。

しかも鍵が開くのは店長であるジャスと店員であるサーナに対してだけというのがまた凄い。

こういうところからもいつも飄々としているジャスの底知れなさを感じるサーナであった。


(さて、と)


今日はジャスが依頼で不在である。

これは特に珍しいことではなく、依頼で何日か留守にすることは今までにも何度もあった。

そんな時にもサーナはいつもと同じ時間に来ては、いつもと同じように掃除をして、備品の整理をして、中庭の花壇に水をやって、帳簿をつけたり資料の作成や整理をしている。

今日も例外ではなく、仕事モードに移行してキビキビと書類の作成を行っていた。

何でも屋自体は依頼が少なくて暇な割に、いつもまとめるべき資料が意外に多く(実はジャスがあえて手を付けていないためだが)、気が付けばお昼前の時間となっていた。


ふとサーナが顔を上げると入口横の窓から見える外の日差しは目が痛くなりそうなほど強くなっていた。


「うわぁ・・・今日も暑そう。ってもうお昼か〜こんな日差しの中帰るのはちょっとなぁ。よし、台所借りてなんか作っちゃお」


キリの良いところまで進んだ書類を机の脇に置いて大きく伸びをする。

店内は外とは別世界のようにひんやりと冷えており、この天国のような世界から灼熱の地獄に旅立つ勇気がサーナにはなかった。


(夏は涼しいし、冬は暖かい。我が家にも店長が欲しいなぁ)


考えてから自宅にジャスがいる生活を想像して赤面してしまう15歳の少女。


ふるふると首を振って妄想を振り払いながら台所の食料保管箱を開けると、室内よりも更にひんやりとした空気が箱から流れ出てくる。

冷やした箱の中に食材を入れることで鮮度が保ちやすくなるという代物だ。

ちなみにもう一つの保管箱は水を入れると氷になってしまうほど冷えており、肉等の食材が凍らされている。


「えーと、葉物の野菜と卵、あとはパンもあるし、簡単にサラダとプレーンオムレツにしちゃおう」


ドレッシングは過去に作ったものが保管箱に入っているのでそれを利用する。

油と酢と塩などのさっぱりしたドレッシングが暑い時期にはよく合う。


まずはオムレツを作るためにフライパンを火にかける。

卵にミルクを混ぜ、それに塩と砂糖を少々。

熱したフライパンにバターを落とすと香ばしい香りが室内に広がる。

そこに先程の卵を入れて軽くかき混ぜてから焼いた卵を折りたたむ。


サーナは少し半熟である方が好みのため、早々に火を消して10秒ほどフライパンの予熱で温めた後にお皿に移す。

後は時間経過で良い感じに卵が固まるという寸法だ。

それから野菜を一口サイズにちぎってドレッシングをかけて、パンを用意したら。


「はい、出来上がりー!」


簡単な割にまずまずな昼食が出来たのではないだろうか。

沸かしていたお湯をティーポットに注ぎながら心の中で自画自賛するサーナ。

いただきます、と台所にある小さな机で出来たての昼食を取っていると、裏口の扉が開くと共に可愛い元気な声とぼんやりとした声が聞こえてきた。


「遊びに来たよー・・・あれ?誰も居ない?」


「良い匂い。きっと、台所にいる」


サーナが食べるのを中断して二人を出迎えようと腰を浮かしかけた時、台所と店を繋ぐ扉から妖精のような可憐な少女の顔がひょこりと現れた。

そして友人である赤髪の少女の姿を確認すると花が咲いたようにフニャっと笑顔になって駆け寄る。


「こんにちはサーナ!お昼ご飯中にごめんね」


「こんにちはシェロちゃん。全然問題ないよ!こっちこそ食べながらでごめんね」


「おっす」


「ララさんもこんにちは。すぐお茶を淹れますからお店の方に行っておいてもらえますか?」


「ん、お構いなく」


じぃー。

短く答えるララミーナの視線は机の上の皿に釘付けだった。

具体的に言うとフワっと良い香りを上げているオムレツに。


「えーっと・・・食べかけで申し訳ないんですけど、良かったら少し食べますか?」


オムレツのまだ手を付けていない部分をナイフで切り分けながらお団子頭の古代竜の少女に問いかける。

問われたララミーナはいつもより若干ではあるが機敏な動きで首肯すると口を小さく開けて、


「あーん」


と、餌を待つひな鳥のようにオムレツをねだった。


「はい、どうぞ」


切り分けたオムレツをフォークで小さな口に運ぶと目を閉じて咀嚼した後に「ん!」とララミーナは親指を立てた。

どうやらお気に召したらしい。


「良かったです!」


サーナはミステリアスでクールな印象をララミーナに対して持っているが、時々見せるこのような幼い仕草が堪らなく好きだった。

方向性は違うが、双子の妹のルルエンティも普段は何でも出来る大人の女性と言った感じだが、身内にだけ情けない姿を見せることがあり、そのギャップもまたサーナの心を鷲掴みにしていたりする。


「あーララだけずるいー!サーナー!あーたーしーもー!」


一人だけ除け者にされたような形になったシェロが不満の意を口にしながらぴょこぴょこと小さく跳ねる。

背の低い彼女が口を開けながら跳ねている姿は必死に餌をせがむ小鳥の姿そのものであった。


「はいはい、シェロちゃんもあーん」


「あーん」


パクリと差し出されたオムレツを口に含むと「ん〜〜♪」と嬉しそうに目を細めてララミーナを真似して親指を立てる。

彼女もまたオムレツが気に入ったようであった。

二人に今度一緒に昼食を食べることを約束させられながらサーナは残りを平らげて後片付けをする。

そして一段落して店への扉をくぐると古代竜の二人が何やら変わったものをテーブルの上に広げているのが目に入った。

一見、腕輪やら杖に見えるが素人目に見てもやたらと豪華な雰囲気をそれらは醸し出している。


「シェロちゃん、この高そうな腕輪とかどうしたの?」


サーナはテーブルの上に置かれた腕輪に手を伸ばそうとしたが、慌ててその手を引っ込める。

前に気軽に触った短刀が王都の屋敷1つや2つでは効かない価値のものであったことを思い出したからだ。


「これはね〜おうちにあった宝物庫から適当に持ってきたの」


その言葉に触らなくてよかったとサーナは心底安堵した。

シェロの言うおうちとは古代竜の神殿であることは間違いなく、伝説と言われる竜の宝物だ。

これもまたとんでもなく貴重なものであることは疑いようもなかった。

そんな冷や汗を流しながら固まるサーナにララミーナがフォローの言葉をかける。


「そんなに、身構えなくていい。ここにあるのは、どれも、おもちゃのようなもの。大した価値はない」


「なんだ〜よかった!この腕輪とかすごく綺麗で気になってたんですよ!」


ララミーナの言葉にホッとした表情を隠すことなく金色に輝く腕輪を腕に通す。

大小の宝石が散りばめられているが、豪華さと共に落ち着いた雰囲気も感じる絶妙なデザインをしていた。


「当社比、だけど」


「今なにか言いました?」


「何も」


ご満悦な様子で腕輪をつけていたサーナには幸いなことにララミーナの恐ろしい補足の一言が聞こえていなかった。

そんなことは露知らず、「似合うかな?」とポーズを決めるサーナにシェロがニコニコと話しかける。


「とっても似合ってるよ!それとね、この腕輪は面白い効果があるんだよ」


「ありがとー!って面白いってなんのこと?」


「えっとね、頭の中でパパの姿を思い浮かべてみて?」


「ん〜?うーん、ん〜・・・・」


言われるままに目を閉じてジャスの姿を思い浮かべようとする。

いつも見ているのだ、サーナにとってそれくらいは造作もない。

少し、本物より美化されているかもしれないが。


「しっかりイメージできたら「変化」って声に出して」


「ん〜むむむ、へ、変化!・・・・・・うわ!」


サーナがその言葉を口にした途端、彼女の身に着けている腕輪から光が放たれた。

そしてそこには驚いたように目を白黒させているジャスの姿が。


「え?あれ?視線が高い。って声が低い!ってこの声は店長の声!?」


「パパだー!」


「シェロちゃ・・・げっふ!!」


パニックに陥っているジャスの姿をしたサーナの胸にシェロがいつものようにダイブする。

しかし、姿はジャスでも中身は十代の普通の町娘である。

シェロのダイブに耐えきれず店内の椅子を巻き込みながら床に二人して転がってしまう。

その姿はいつの間にやらサーナ自身のものに戻っていた。


「ごめんね!サーナ!」


「い、いいよ。大丈夫。シェロちゃんって意外とパワフルなんだね・・・。それよりさっきのは一体?」


「変化のブレスレット。効果は文字通り、変化」


まだ床に尻もちをついた状態のサーナを助け起こしながらララミーナが腕輪を今度は自分の腕に通す。

そして小さく変化と呟くとそこには赤色の髪が肩下まで伸びた町娘の姿があった。

ただ、眠そうな目付きだけは本人とは違っているが。


「あ、私だ!すごいすごい!」


「このように、変化出来る。ただし、一歩でも動くと、戻る」


「さっきはあたしが転ばしちゃったから戻ったんだね」


こくりと眠たそうな方のサーナが頷く。

サーナはまじまじと自分そっくりなララミーナ姿を観察し、触れてみる。

どう見ても自分自身にしか見えない。

しかし。


「私の姿でララミーナさんの話し方だと違和感がありますね」


「ん。確かに、そうかも。それなら。・・・こほん、私サーナ!15歳!何処にでもいる普通の美少女なんだけど実は働いているお店の店長が気になるの!気になるというか好きなの!いつもアピールしてるんだけど全然振り向いてくれなーー」


「やめてやめて!本当にやめてー!!」


顔を自分の髪のように真っ赤にしながらサーナはサーナの肩を激しく揺する。

その際に一歩動いたのか肩を掴まれている方のサーナの姿がうっすらと銀色に輝くお団子頭に戻っていた。


「あっはははは!二人共面白いー!!」


「笑い事じゃないよ・・・と、ところでこれは!この指輪はなんですか!?」


露骨に話をそらしながらサーナはテーブルの上で不思議な色を放つ指輪に手を伸ばすのだった。


次回に続きます。

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