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第36話 めっちゃカッコ良かったよ!


「くそ!一体何が起こった!!」


突如生け贄であるミミから目を開けられないほどの目映い光が放たれ、キリマは近くに控えている筈である側近の女性を怒鳴り付ける。

まだ目を上手く開けられないが、雰囲気からブレンダも同じく動揺していることがキリマにも伝わってきた。


「わかりません。ただ、あまり良くない状況のようです」


「何?どういうことだ!」


ようやく視力が戻ってきたキリマの視界にフードで隠れているが焦っているのが一目瞭然のブレンダの様子が窺えた。

彼女の視線の先を追うとそこには信じられない光景が広がっていた。


「何だあれは!?何故あんなものが!!」


今も禍々しく光を放つ魔方陣の中心で横たわる獣人の娘。

しかし先程と違うのは彼女を囲うようにドーム状の結界がそこに発生していた。

横たわったまま頭だけをもたげて不思議そうに周りを見渡すミミを血走った目でキリマは睨み付けた。


「おい貴様!一体何をした!その結界はなんだ!?」


ミミはキリマの言葉で初めて自分が半球の中にいることに気が付く。

まだ身を起こすことは出来ないが先程までと違い、力が抜けていくようなこともない。

しばし気が抜けていたミミであったが突然堪えきれずに「フフッ」と笑みを溢す。


「何を笑っている!」


「そりゃ笑うよ。気休め程度って言ってたのにコレだもん」


「なんだと?」


魔法について知識があるわけではないが、この広間にある邪悪な魔方陣が大がかりなものであることはミミにもわかった。

しかしそれをこんな小さなガラス玉に入れた魔法で一時期的にかもしれないが魔方陣の効果を妨害している。

ということは、間違いない。

根拠なんか何もない。

信頼するほどの付き合いも全くない。

でも。


「ジャスさんが助けに来てくれる」


「正解」


声が聞こえたその瞬間。

キィンと金属が響くような音がしたかと思ったら身体がふわりと浮く感覚に驚くミミ。

一瞬遅れて足を拘束していた鎖が断たれてお姫様抱っこで救出されたことに気付く。

空中で目の前の無精髭が「大丈夫?」と優しい声音で尋ねてきていた。

キリマと側近の女と魔方陣を挟んだ反対側にジャスは静かに着地して顔が湯立ったように真っ赤になっているミミを下ろす。


「一応軽く回復魔法をかけておいたけど後でちゃんと医者に診てもらってね」


「わ、わかった。おにーさん。あの・・・」


「何?」


「助けてくれてありがと!それと、めっちゃカッコ良かったよ!」


油断無く二人の方を見ていたジャスは一瞬だけミミの方に振り返り、


「だろ?」


と悪戯っぽく笑った。

ますます赤くなるミミから視線を切り、正面を向き直るジャスに憤怒の表情でキリマが怒声を叩きつける。


「貴様何者だ!どうやってここに入り込んだ!?」


「敷地にはちょっと工夫して入ってきたよ。この建物には警備する人間が居なかったから普通に、ね」


その言葉にブレンダがぴくりと反応した。

それもそのはずで、この建物には認識阻害の結界で覆っており、もしそれを突破しても術者の彼女にはその事が伝わるようにしていた。

しかしジャスがこの場にいるにも関わらず、今も結界は正常に働いている。

そのあり得ない事態が今現実に起こっていた。


「結界の事で驚いてるなら説明してあげよう。まず認識阻害についてはこの程度なら俺には効かない。阻害が強すぎて逆に不自然になっているからもっと自然にやらないと。それで俺がここにいるのに反応がないのは、結界の波長に俺が魔力の波長を合わせているから。だからそれをやめると」


ジャスの言葉が終わると同時に広間にキィィンと甲高い音が何処からともなく響いた。

言うまでもなく結界内に侵入した者がいるという警告音だった。


「貴様ーー」


「ちょっと待った!」


得意気に話す侵入者の態度に我慢の限界を迎えたキリマが動き出そうとした瞬間、ジャスは大きな声でそれを制止して言葉を続ける。


「命が惜しかったら動かない方がいい。目の前に現れるまで俺の存在に気が付かないほど隙だらけだったアンタ達に俺が何もしてないと思うか?」


「この無礼者がほざく・・・っ!?ぐ、ぐあああああ!!!」


「あーあ。だから言ったのに」


忠告を無視してジャスに攻撃を仕掛けようと魔導書を掲げたキリマの右腕がボトリと床に落ちて転がった。

それはミミを助け出す直前にキリマの横を駆け抜け様に予め切っておいたものであり、あまりにも鋭利に切ったために余計な力が働くまで腕は落ちること無く胴体と繋がっていた。

辛うじて、ではあったが。


「おのれ!この虫けらが!!よくも高貴な自分の腕をぉぉ!!」


口の端に泡を作り唾を撒き散らしながら落ちた腕が抱えていた魔導書を拾い上げるキリマにフードの奥からブレンダが彼にだけ聞こえるような声で静かに語りかける。


「キリマ様、魔方陣の再起動を。私に策があります」


「それで奴等を八つ裂きに出来るんだろうな!!」


「勿論です。おまかせを」


「よ、よし。期待しているぞ!」


キリマはブレンダが静かに頷くのを見ると自らの血が滴る魔導書に魔力を流し込むことで魔方陣を再び起動した。

再度禍々しい光が魔方陣から発せられ広間が気味の悪い色に染まっていく。

それを止めようと一歩踏み出しかけたジャスであったが、背中にかばう怯えるミミがブレンダによりナイフで狙われているのに気付いて踏み留まる。


「勘の鋭い侵入者ですね」


「そりゃどうも」


ブレンダの賛辞に短く答える。

そのやり取りの間に魔方陣は先程ミミの命を奪いかけた時と同じ状態へと変化していた。


「準備出来たぞブレンダ!!」


ジャスと睨み合う側近の方を見ること無くキリマは叫んだ。

失血と魔方陣を維持する魔力の消費で彼に余裕など全く無い状態であり、そのため、側近の女が自らの背に向かって手のひらを向けていることに気が付かなかったのも無理のない話であった。


「ご苦労様です。ではサヨウナラ」


「は?」


側近からの不可解な返答に間の抜けた声をあげたキリマの背中に衝撃波が襲いかかった。


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