第25話 何処へなりとも!
「ところでチェル嬢」
怒り狂うチェルロッテに殴られながらジャスは先ほどから気になっていた疑問を尋ねようと口を開く。
「愛称で呼ぶなって言ってるでしょ!で、何よ!」
「あぁいや、俺たちが居ない間にこっちでも何かあった?なんつーか、サーナちゃんとの距離感変わってない?」
その問いにニマァとジャスがよくする類いの笑みを浮かべるとサーナの方に駆け寄っていき彼女の腕に絡み付いた。
「私達友達になったのよ!ねぇ、サーナ?」
「はい、恐れ多いですがチェルちゃんの友達になりました」
「だから、私が賢者とか気にしないでって言ったでしょ。ただのチェルロッテとして扱って」
むすっと膨れるチェルロッテにサーナは苦笑して「あはは、ごめんごめん」と謝罪する。
二人の仲睦まじい様子を見てジャスは隣に立っていたリオンにこっそり耳打ちする。
「チェル嬢のやつどうしたんだ?めっちゃ怖いんだが」
ジャスのあまりの言いように思わず苦笑して答える。
「あれ?ジャスさん知らなかったの?チェルはずっと前から普通の女の子の友達を欲しがってたんだよ。ほら、周りにいる女の子って」
「・・・変な奴しかいないな。魔導師組合は特に変わったのが多いからなぁ」
その点、サーナは本当に普通だ。
魔法の素養も特になく、戦いに身を置いていたこともない。
何処にでもいる面倒見の良い明るい女の子だ。
(しかし、改めて考えてみると普通の女の子なのに友人がとんでもない面子になってきたなぁ。何かごめん、サーナちゃん)
世界を救った勇者に賢者。そして生きた伝説とまで言われている古代竜にその女王と娘。
恐らくこの世界ティルムンドで、サーナほど交遊関係がおかしな町娘はいないであろう。
ジャスは心の中でそっと謝った。
「しっかし、あの性悪魔人の目的はなんなのかしらね。この性悪への復讐だけなら私としては応援しても良いくらいだけど、それだけじゃないんでしょうね」
苦虫を噛み潰したような顔で腕を組む。
チェルロッテのあまりの言いように苦笑しながらリオンは意見を述べる。
「今はまだ目的はわからないね。あの島の魔人のアジトもヴァルディマとは無関係でジャスさんを誘き寄せるために利用しただけみたいだしね」
そう、後でわかったことだが、実はヴァルディマと魔人のアジトは無関係であった。
ジャスと別れた例の分岐路の先で魔人達はリオンの姿を見るなりこう言った。
「『ヴァルディマ様の次は勇者か!』だったわね。確かにそれを聞く限り、性悪魔人も最近あの島に来たばかりって感じね。そういえば最初からいた魔人達の方は何が目的だったのかしら」
「多分だけど魔王復活とかじゃないかな?」
チェルロッテがふと呟いた疑問にリオンがとんでもない回答を返す。
言葉を発した本人以外意味がわからず青髪の青年へと視線を向けた。
その視線にリオンは不思議そうに首を傾げる。
「あれ?言ってなかったっけ。ジャスさんと合流する前に魔人3体を倒したんだけど、その部屋にでっかい魔方陣があったんだよ。嫌な気配がバンバン感じられたから聖剣で壊しといたよ」
あ、嫌な気配ってのが魔王と似てたから魔王復活かなって思ったのさ、と続けてドヤ顔で胸を張る。
やってやったぜという顔をしているリオンにジャスはじとっとした視線を向けた。
「俺聞いてないんだけど?」
「今思い出したからね!ジャスさんのピンチを見て頭からキレイに抜け・・・痛い痛い痛い!」
「そういう大事なことはちゃんと報告しようねぇリオン君?あと魔方陣は適当に壊すと危ないって前に教えただろうが!」
悪びれることなく話すリオンのこめかみを拳で力を込めて挟みあげた。
そしてたまらず悲鳴をあげて逃れようともがく彼に苦言を呈する。
「それでその魔方陣が魔王を復活させるものだったってことなの?でも貴方って魔方陣の解読出来なかったんじゃない?」
「出来ないよ。だから勘。あれ1つじゃどうなるってことはなかったと思うけど、嫌な気配はすごかったよ。しかし魔方陣といい魔人といい、今日まで気付けなかったのは問題だよね」
ジャスの拳に挟まれたままチェルロッテの疑問に答える。
ちゃっかり魔力により身体能力の強化を行っているためダメージが通っている様子は既にない。
「ん~仕方ない!ちょっと魔導師組合本部から要請して各国で調査をしてもらいましょう。早期発見早期対策!そうと決まれば行くわよ、ジャス!」
部屋着の上から豪華なローブを纏うことで賢者チェルロッテの格好となりジャスに転移を促す。
ローブの下はフリフリの部屋着だが。
「いや、無理。正直もう魔力空っぽよ。転移するのって結構しんどいんだよ。しかも本部って魔法大国ルーフェンだろ?メチャクチャ遠いじゃないか」
リオンの頭から手を離すとベッドにどかりと腰を沈める。
そのベッドは先程までサーナが休んでいたものであったため、少女はこっそり頬を染めていた。
「そんなの知らないわよ。じゃあルーフェンの首都までよろしく」
「いや、だからね」
「金貨1枚」
「何処へなりとも!」
チェルロッテが弾いた金貨をキャッチした瞬間、二人の姿が揺らいで消えた。
言葉を挟む間もなかったやりとりにリオンとサーナは文字通り置いていかれる形となる。
二人は顔を見合わせるとどちらからともなく吹き出した。
「すぐには戻ってこれないだろうしお昼ご飯食べにいこっか」
「はい喜んで!憧れの勇者様と一緒なんて緊張しちゃいます!」
「そんな良いものじゃないよ。そうだ、サーナちゃんにはジャスさんの武勇伝を色々聞かせてあげちゃおう」
「ホントですか!それじゃ私は店長の失敗談を。この前なんかですね・・・」
楽しそうに語り合いながら昼食に向かう二人。
その二人の元にジャス達が帰ってきたのは真っ赤な夕焼けが海に沈もうとする時間帯であった。
とりあえず一段落です。




