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第21話 貴女目開いてる!?


「あ~もう!腹が立って仕方がないわ!」


ホテルの大きなベッドに飛び乗り手足をバタバタとさせながらチェルロッテは不機嫌全開で声を荒げる。

小柄な彼女がそのような行動をするとまるで駄々っ子のようであった。


「昨日はうちの店長が本当に申し訳ありません」


荒れる小型台風にサーナは本当に申し訳無さそうに頭を下げた。

勇者に賢者、世界を救った英雄達に対していつもと変わらない態度のジャスに何故か彼女自身が何か悪いことをしているような気持ちになっていた。


「どうして貴女が謝るの?悪いのはあの性悪よ!昨日も逃げ場を無くしたというのにさらっと魔法を避けるし、さっきもそう!疲れた疲れたって言いながらも私たち3人をあっという間にホテルまで運んじゃうし!なんであんなに簡単に空間転移なんか出来るのよ!私でも出来ないって言うのに!」


またバタバタとベッドの上で暴れまわる。

みたいな、ではなく完全に駄々っ子と化した賢者を苦笑混じりに眺めながら先ほどのジャスの姿を思い出す。


(簡単にかなぁ?珍しく余裕無さそうに見えたんだけどなぁ)


いつもどこか飄々としているジャスが壁に寄りかかり「ちょっと休憩。先に行ってて」とサーナ達女子二人を先にホテルに入るよう促した。


チェルロッテが立腹しているのは、疲れたジャスを扇いだり、飲み物をとってきたりと勇者リオンが甲斐甲斐しく面倒を見ていたことも無関係ではないだろう。

そんな腹の虫が収まらない様子のチェルロッテにサーナは恐る恐る疑問に思っていたことを投げ掛ける。


「あの、チェルロッテ様は店長のことが嫌いなんですか?それともリオン様と店長の仲が良いのが嫌なんですか?」


その瞬間、桃色の髪の少女がものすごい勢いでベッドから身を起こしてサーナに飛び掛からん勢いで詰め寄った。


「そ、そんなのあの性悪のことが嫌いなだけに決まってるじゃない!なんでそこでリオンが出てくるの?意味がわからないわ!り、理解不能よ。はぁまったく、何を言っているのかしら。そりゃ、もう少しあいつにするみたいに私に構ってくれてもいいじゃないって思うことも、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけよ!あったりなかったりするけど!だからってなんで私がリオンを意識してるみたいな言い方になるわけ!私はジャスが嫌いなだけ!わかった!?」


顔を真っ赤にして一気に捲し立てると「ふん!」とそっぽを向いてしまう。

ただ、上手く誤魔化せたかな、と横目でちらちらとサーナの様子を窺ってはいるが。


(恋する乙女って感じで可愛い。賢者様はもっとお堅い人だと思ってたけど良い意味で想像と違ったなぁ)


にこにこと笑みを溢しながらサーナは目の前のエルフを見つめる。

赤い顔でこちらを窺う小動物のような彼女は威厳のようなものはなく、見た目通りの年相応な少女にしか見えなかった。

実際は見た目と年齢が大きくかけ離れているのだが。


「そ、そういう貴女こそなんであの性悪のところで働いているのよ?まさかとは思うけどあいつのことが好きだなんて言わないわよね?」


生暖かい目で見つめられるのに耐えられなくなったチェルロッテは苦し紛れに反撃をする。

半ば冗談のつもりで反論した彼女が目にしたのは、「あ、いや、えっと」等と不明瞭な言葉を漏らしながら赤面する少女の姿であった。

まさにそれは先程までのチェルロッテの姿と全く同じであることに、チェルロッテ本人は気が付いていなかった。


「え?ちょっとまさか本当に?あの性悪のことが?」


「えっと、あはは、あ~、はい、そのようなことになってるみたいですね」


眉をハの字にして困ったように指先を弄りながら他人事のような言い方で肯定する。

顔を真っ赤にしながらも正直に自分の気持ちを言葉にした彼女にチェルロッテはまたも詰め寄った。


「嘘でしょ!なんであいつなの?他に良い男はいくらでもいるでしょう?口を開けば憎たらしいことばかり言うのよ?」


「いやまぁ、そういう所も可愛いなぁって思ったり?普段からのギャップと言いますか・・・。普段は大人の男性!って感じなのにイタズラが成功したときは嬉しそうな顔するんですけど、そこがまた良いなぁとか?」


「貴女若いのに随分マニアックなのね。男はやっぱり優しさと純粋さが大切よ」


わかってないわねぇとばかりに嘆息すると頭ひとつ背が高いサーナに人差し指を突きつける。

言われたサーナは「ん~」と軽く考え込むと一人の人物に思い当たった。


「えっと、それは店長のことですか?」


「貴女目開いてる!?あいつが純粋ならアンデッドも純粋って言えるわよ!あんな性悪じゃなくて、その、いるじゃないそういう素敵な人。思い当たらない?」


「あ~リオン様のことですね」


賢者様が好きな、という言葉も聞こえないような小さな声で呟く。


「そう!マニアックかと思ったけど貴女なかなか見る目があるじゃない。いいわ、私の友人が言っていたリオンの良いところを教えてあげる。友人が言っていたのよ?」


またも人差し指をサーナに突きつけて念を押すとチェルロッテはリオンの良いところを語りだした。


普段誰にも言えなかった、語れなかった言葉がサーナ相手だと次々出てくる。

魔導師組合の名誉顧問である彼女の周囲はいつも老齢の者しかおらず、色恋沙汰とは無縁の環境であった。

たまにいる若い魔導師も魔法マニアというか、魔法の世界に人生全てを賭けているような人物ばかりで、そのような者からしたら賢者であるチェルロッテはまさに神に等しい存在。

会話の内容は99%が魔法のことなのである。


しかし、目の前の少女は違う。


魔法以外の話をしてもちゃんと聞いてくれる。

リオンの武勇伝を語ると目を輝かせて続きを促してくる。

リオンの真剣な表情が格好いいと言うと、笑った顔も可愛いし格好いいですよねと返ってくる。

熱くなって語りすぎても嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。

むしろノリノリのように見える。


(何よこの娘!めちゃくちゃ良い子じゃない!)


この後二人は男性陣のことなど頭からすっぽり抜け落ち、数時間に渡りキャッキャッと色恋話に花を咲かせるのであった。




一方、放っておかれた男性陣の方はというと。


「で、わざわざこんなリゾート地におっさんを引っ張ってきて何の用なんだ?」


朝の爽やかな日差しを浴びながら、ジャスはホテルの中庭にあるベンチに深く腰掛けて目の前でにこにこしている青髪の勇者に問いかける。

そして手に持っていた魔力ポーションの残りを一気に飲み干す。

劇的な回復は見込めないが、何もしないよりはマシ程度には力が戻った気がする。

そのおかげもあってか、ようやく魔力がある程度回復してきたことによりダルさが抜けつつあった。


「ヤダなぁ、一緒に旅行がしたかったって言ったじゃないか~」


相変わらず笑みを絶やしていないが、ほんの少しだけ口の橋がピクリと動いたのをジャスは見逃さなかった。


「似合わないことするなよ。馬鹿正直・・・じゃない、素直さが勇者様のウリだろ?」


「もう!ボクなんかよりジャスさんの方がよっぽど馬鹿正直じゃないか!」


「違うな。俺の場合はわざとだ」


ふっと鼻で笑うとベンチの横のゴミ箱に空になったポーション瓶を捨てる。

「かなわないなぁ」と何故か嬉しそうに呟きながらリオンはジャスの隣に腰かけると、


「なんかね、魔人がいるかもしれないんだ」


と気楽に口にした。


ジャスが口を開くよりも先に、リオンは前方の海を指差した。

余談だが、このホテルは中庭からでも海を見ることが出来るため、夕暮れ時には恋人たちのデートスポットとしてよく利用されている。


「あそこに島が見えるでしょ?最近漁師さんが人影を見たらしいんだけど、あの島って無人島なんだよ。だから怪しいなぁって」


「その話はどこで聞いたんだ?」


「王都だよ。たまたま買い物で出歩いてたときにちらっと聞こえてきたんだ」


「ほう?ならどうして魔人だと?」


「それはボクの勘!」


胸を張って言い切る。

今の会話から魔人に繋げるのは無理がある話なのだが、そんなことには構わずジャスは「よいしょ」とベンチから腰をあげると、


「じゃあ早めに対処しないといかんな」


と歩き出す。


リオンのこういう勘はよく当たる。

勇者だからなのかはわからないが、唐突と思える主張であっても結構高い確率でその通りになることが多い。

それは一緒にパーティを組んだ事があまり無いジャスでも知っているぐらい信憑性があったりする。


「あれ?信じてくれるんだ?ジャスさんってやっぱりツンデレだね~」


満面の笑顔で駆け寄り、ジャスの横に並ぶ。

そんな青髪の頭にコツンと拳骨を落としてジャスは尋ねる。


「作戦はどうする?」


頭をさすりながら「ん~」と軽く思案すると、彼にしては珍しく少し悪い笑みを浮かべて言い切った。



「お昼ご飯までに帰りたいから正面突破で」

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