表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/77

第13話 女王様、へたれ


正午を少し過ぎた王都のお洒落なカフェテリア。

南中央通りから一本東に入った、王都でも有名な人気店の屋外テーブルに人目をはばからずイチャつく二人組がいた。


「あ、あーんじゃ」


一人は金糸の刺繍が入った白のローブを身に付けた白とも金とも銀とも言えない神秘的な髪色をしたこの世のものとは思えない程の美貌を持つ女性。

華奢でありながら豊満なボディラインをローブのでは隠しきれていなかった。

いや、むしろローブの白が更に艶かしさを引き立たせているようにも見える。


「あーん」


もう一人は無精髭の気だるげな黒髪の男性。

悪くない外見をしているが、連れ合いの女性と比べると明らかに不釣り合いであると言わざるを得なかった。

彼女と釣り合う者がいるかどうかは定かではないが。


「ど、どうじゃ、うまいか?」


「うん、美味しい。ほら、次はローラの番だぞ。・・・あーん」


「うぐっ。あ、あーん・・・って恥ずかしすぎて味もわからんわ!」


甘々なやり方で甘々なパンケーキを食べていたジャスとローラルダであったが、茹で蛸のように顔を真っ赤にしたローラルダが我慢しきれず立ち上がった。

テーブルの上のパンケーキがガタっと揺れ、テーブルの中央に飾られた花瓶が危うく倒れるところであった。

ジャスとしてもその意見には全くの同意であったが、彼女のその行動は完全なる悪手である。


「あぁー!お母さんまたぁ!もういい加減にして!」


隣のテーブルから可愛らしく頬を膨らませながら娘であるシェロが抗議の声をあげる。

ちなみにこれで本日五度目の叱責である。

その5回全てが母であるローラルダ女王に向けられたものであった。


「そうは言うがな、娘よ。これは中々こう、心に直接来るものがあるというか。耐えがたい恥辱であるぞ」


ほんの少し前まではローラルダにとって何とも思わなかったであろうこの行為も、最近読むようになった人間世界の書籍、その中でも「ラブコメ」というジャンルの書物では、殊更登場人物がとんでもなく恥ずかしそうにしている描写が多々あった。


この「あーん」であったり、ひとつのグラスから二つのストローで一緒に飲むものであったり、バーガーなるものを分ける際の「間接キス」であったり・・・。


何でもないようなことが、書籍ではさも世界の始まりであるかのごとく、壮大に優美に情熱的に書かれているのである。


しかも一つの書籍ではない。


読んだ書籍ラブコメではほとんどのもので、何と言えばいいのか、甘酸っぱい?ムズムズする?そういった情景が描かれていた。

今までローラルダが特に感じたことがない心の動きがそこにはたくさんあった。


そうなれば影響を受けない方がおかしいのである。


それを今、仮初めであるとはいえ伴侶と表現しても、まぁ差し支えがない異性と行っている。

数千年の時を生きているローラルダであるが、こと男女間の付き合いについては、十代の町娘と経験値は変わらない、いや、下手をしたら下回っている可能性の方が高い。


その結果、赤面美女の出来上がりである。


「でもパパは平気そうだよ。流石パパ!」


「当然じゃないか。パパにとってはこんなこと余裕だぞ」


当然余裕でなければ平気でもない。

正直恥ずかしい。

なんで30歳になってまでこんな脳がとろけそうな事を人前でしなければならないのかとジャスは脳内で叫びながら思っていた。


しかし、そんな彼を突き動かしているのが、


「な、なんじゃと!妾も余裕であるぞ?今までは準備運動じゃ」


「ローラ」


「なんじゃ?いや、それよりもいつから汝は妾を愛称で呼ぶようになった・・・って何じゃ!何をする!?」


「頬にクリームがついてたぞ☆」


「な、な、なな!頬のクリームをそのままパクッ☆じゃと!?そそ、そんな高度な技を・・・!」


「パパすごーい!お母さんまっかっかー!」


「ちが、ち、ちがう!違うのじゃ!!」


ローラルダに対する嗜虐心。

ジャスが求めている以上の反応を彼女が返してくるが故に、ついつい弄りたくなってしまうという少年心。


ジャスは自分の事をおっさんだと思っているが、根っこのところはまだまだ子供なのであった。

ちなみにこの行為における被害者代表は言うまでもなく何でも屋の看板娘のサーナ嬢である。


「お母さん、ほらほら続き続き~」


「うぅ、うぐ・・・」


娘に促されて赤い顔のまま「あーん」をしてくるローラルダ。


今更だが、二人がこんなことをする原因は子竜のシェロにある。

人間界から取り寄せたとある書籍の中に、登場人物の女の子がラブラブな彼女の両親の姿を見て、「もう、いつもパパとママはしょうがないんだから」と言っている姿が、何かとても大人っぽくシェロには見えた。


理屈ではなく、彼女にはそう見えた。

そしてやってみたくなった。


では、とりあえずラブラブになってもらおう。


ということで最近母が熱心に読んでいる書籍ラブコメの展開を親の二人にしてもらい、そこで言うのだ。


『もう、いつもパパとお母さんはしょうがないんだから』


と。


ちゃんと腕組みをして、やれやれといった顔で、しかし口許は少し笑いながらだ。

鏡で練習したからいつでも出来る。

後は、肝心の二人がラブラブすることだけなのだが。


「女王様、へたれ」


「ねー?」


シェロと同じテーブルでもくもくとパンケーキを食べるララミーナの呟きに呆れたように同意する娘。

その言葉に怒りと羞恥で赤くなったローラルダが噛みつく。


「か、勝手なことを!そういう汝らはどうなのじゃ!?出来るというのか!」


完全に大人気ない八つ当たりである。

が、その言葉にシェロとララミーナは切り分けたパンケーキをお互いの口に「あーん」と運ぶ。


「「余裕」」


「お、女同士はズルじゃ・・・」



結局、この日はシェロの目的は達成されずにお開きとなってしまい、当然、竜の巣へ帰る時のシェロお嬢様のご機嫌は結構な角度で傾いていたのであった。

お読み頂きありがとうございます。

諸事情により明日以降は更新時間をお昼過ぎに変更させて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ