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第1話 「何でも屋」をご贔屓に

 

 世界の歴史は争いの繰り返しである。

 争いの相手は世界によって様々だろう。

 人類同士であったり、魔族が相手であったり、神が相手の世界もあるのかもしれない。


 この物語の舞台「ティルムンド」では人類と魔族が長らく争い続けている世界である。

 そしてこの話は何代目かの魔王を何代目かの勇者が討伐してから3年後から始まる。

 その何代目かの魔王を討伐した勇者一行は、勇者、賢者、大神官、剣聖の4名で構成されていた。

 ただ、当然ではあるが4名で魔王軍を討伐できるはずもなく、多くの人間および他種族の者の協力があってこその達成された功績である。

 世界の中心と言われるセドール王国は勇者の出身国であり、勇者が未熟なうちからサポートしてきた。

 賢者は永い時を生きるエルフ族の長老の娘であり、人間との関わりを持ちたがらないエルフも勇者達には協力を惜しむことはなかった。

 神官が所属する世界最大の宗教である七神教や、戦士の出身国の軍事国家ウェルザードも紆余曲折はあったものの最終的には後ろ楯となってくれていた。


 このように、勇者に協力した者は何万人といる。

 その中でも幾度となく勇者を助け、導いた一人の男がいた。

 ある時は共に戦い、ある時はダンジョンの鍵の在処を探し当て、ある時は魔人の館への侵入経路を確保する等。


 歴史の表舞台には出てこない彼の名前は「ジャス」といった。

 職業は「何でも屋」


 これは何でも屋の彼の物語である。




 ○ ○ ○




「くぁ、ねっむ・・・」


 セドール王国の王都セドラルの南中央通りと第二環状通りの交差店。その脇にある建物の壁に寄りかかりながらジャスは欠伸を噛み殺した。

 平均より高い身長に、無精髭。きちんとした格好をしたらそれなりの見た目をしているが、ボサっとした黒髪も相まって気だるげな印象になってしまっている。


 セドラルは王城を中心に正方形の形状をしている。

 東西南北それぞれに城門が設置されており、王城へ続く道を「北中央通り」「南中央通り」「東中央通り」「西中央通り」と銘打っている。

 また、王城から少し離れたところで東西南北の中央通りを結ぶ道を「第一環状通り」、街の中心部で結ぶ道を「第二環状通り」、最後に城壁沿いの道を「城壁通り」と呼んでいる。

 ジャスがいるのは王都で最も人車の往来が激しいところだ。

 何をしているかというと、勿論仕事だ。


 魔王軍に人類が勝利して3年。

 各地で復興が進められている中、お上が経済対策のために公共事業を興すやらなんとやら。

 その一つとして、中央通りの街道改修が計画されている。

 当然一度に全ての箇所で改修を行うわけにはいかないため、交通量が多いところから順に事業を始めようとしている。


 ジャスがしているのは交差点の交通量調査だった。


「店長。寝ちゃダメですからね」


 今度は我慢することなく欠伸をするジャスに燃えるような赤髪を肩の辺りまで伸ばした少女が抗議する。

 抗議をしながらも目は交差点の方から離さない。

 手に持った用紙には本人ではないとわからないほど数字やメモが羅列していた。そして今も新しく数字が書き足されていく。


「そんな一心不乱に数えなくても俺が数えてるからいいよ?サーナちゃんは店に戻っときなって」


「いえ、相互確認は大事ですから」


「真面目だねぇ」


「ありがとうございます」


 皮肉の言葉にもたいした反応もせず仕事をこなす少女を見てため息をつく。

 この仕事は今日だけのもので、朝昼晩のそれぞれ1時間毎の観測を行う。

 王国直々の依頼で1日でなんと銀貨10枚。

 一般の成人男性が1日銀貨1枚ぐらい稼ぐのが相場なので破格といえる。


(誰かしらが斡旋してくれたんだろうな)


 表舞台では名が知られていないとは言え、国の頂点付近に位置する者でジャスを知らない者はいない。

 今までも王城お抱えにならないかという勧誘があったが全て断ってきている。

 彼は堅苦しいのが嫌いなのであった。


(それに師匠も同じ立場なら断ってる気がするんだよな。あの人ジッと出来ないから)


 しばらく姿を見ていない育ての親を思い、口許に笑みを浮かべる。

 そんな雰囲気を察したのかサーナが相変わらず目線を前に向けたままで話しかけてきた。


「今日はご機嫌ですね」


「若い娘さんと二人っきりでお出掛けだからかな?」


「いつもは密室で二人っきりじゃないですか」


「ん!?ま、まぁそうだね。その通りなんだけどね」


「?」


 自分から言い出しておいて照れてしまう30歳の男。中々に情けない姿であることはいうまでもない。

 今回に限って言うと彼の話題を振ったタイミングが悪かった。


 サーナには少し変わった特徴がある。


 それは仕事モードの時は感情の起伏が平坦になるというものであった。

 人間誰でも大なり小なりそうであるが、彼女の場合は極端で、仕事モードの時はほとんど笑わない、驚かない、怒らない。

 その逆に、普段の彼女は喜怒哀楽がコロコロとかわる活発な少女である。

 いつもジャスにからかわれては怒って不貞腐れて、結局宥められて、といった感じだ。


 1年ほど「何でも屋」で働いているが、このメリハリは素晴らしいものだとジャスは日頃から思っていた。




「さて、時間だ。撤収しようか」


 しばらくして夕方の観測、つまり最後の観測が終了した。

 後はこれを報告書にして明後日までに王城の事務局に提出したら依頼達成となる。


「ふぅ~~。おっわったー!疲れましたね!店長ー!」


 両腕をぐぅっと天に伸ばし、満面の笑みを浮かべる赤髪の少女。

 モードは完全に日常モードのようである。


「1時間集中しっぱなしだったしね。それに3回目だから疲れも溜まってくるよ」


 肩や首を回し、ポキポキと音を鳴らしながら答える。

 そんなジャスをジトーっと睨みながらサーナが抗議する。

 先程の抗議と違って感情を乗せながらだ。


「でも店長はボーッとしてただけじゃないですか!仕事してません!サボりだサボりー!」


 仕事終わりの笑顔は何処へやら。

 ジャスを指差し眉間にシワを寄せている。


「サボってないよ。ちゃんと数えてるからね」


 そういうと頭を指で軽くトントンと叩く。

 ここに入ってますよ、というアピールにサーナが疑惑の目を向ける。


「嘘だぁ。それならこの紙に観測値を書いてみてくださいよー」


 にまにまと紙を一枚差し出されジャスはそれを受けとるとさらさらとペンを走らせサーナに返す。

 返された紙を確認すると、「え?うそ」と自分のメモと何度も見比べ、そして呆然とした顔をあげる。


「ほとんど私の値と一緒なんですけど。しかも店長は歩行者、人と荷車、馬車とそれぞれ分けて数えてるじゃないですか!」


「必要かはわからないけど、一応数えてとこうかなぁって思ってね」


「これ多分店長の方が正しくて誤差はきっと私の数え間違いだぁ」


 両膝に手をつき、がくりと頭を垂れる。

 はぁぁ~と深いため息をはくと、目に少し涙をためながらボソリと呟く。


「次は負けないんだから」


 とぼとぼと店の方へ向かう少女を見て、いつから勝負になったんだか、と苦笑しながら後を追う。

 肩を落とすサーナの横に並ぶとポンっと頭に手を置き、


「ケーキでも買って帰るか。今日はおじさんが奢ってあげよう」


 ジャスの言葉に感情が一気に右肩上がりに回復して天井まで上がったサーナは満面の笑みで3本の指を立てて見せつけて言う。


「店長!私3個!3個行けます!」


「夕飯食べられなくなるよ。お母さんに叱られても責任とらないからね」


「夕飯も完食します!私育ち盛りなので!」


 えへんと平均的なサイズの胸を張る。


(盛りかどうかは別として育っていることは間違いないようだ)


 等と失礼なことを考えながら「はいはい」と返事をする。


「本当に3個も良いんですか?やたー!店長大好きー!」


「あんまりはしゃぐと人にぶつかるよ」


 嬉しさのあまりスキップをしながら通りを進んでいくサーナ。

 夕焼けで彼女の頬は赤く染まっているのであった。




 翌日。

 昨晩のうちに調査結果や調査条件、及び日時を記した報告書をまとめたジャスは昼過ぎに王城の事務局へとやって来た。

 期日にはまだ日があるのだが、他にやることもなかったので余裕をもって依頼完了の報告をすることにした。


 彼の名誉のために断っておくが暇なわけではない。

 「たまたま」他にやることがなかっただけである。


「はい、確かに報告書をお預かりしました。相変わらずわかりやすくまとめられておりますね」


 事務局の顔馴染みである事務員のシェリーに誉められる。

 王城からの依頼は基本的に事務局を通すので顔を覚えられているというわけだ。

 それに依頼の指名はそう頻繁にあることではないので、事務員の中で何でも屋ジャスは有名人であった。


「うちには優秀な店員がいますんでね。ありがたいことです」


 報告書はいつもサーナと二人で作成している。

 彼女は書類作成の内業も得意としているが、これもジャスの育成の賜物である。


「サーナちゃん、でしたっけ。就職の際には是非うちに来てもらいたいですね」


「あはは、帰ったら伝えておきますよ。お姉さんにモテてたよってね」


「まぁ。口説き文句を考えておきますね」


 そういうと二人でプッと吹き出す。

 きっと彼女のことだ、顔を真っ赤にしておろおろするに決まっている。

 恐らくシェリーも同じ想像をしたのであろう。


「おお、ジャス君じゃないか!」


 呼び掛けられた方向に二人して目を向けると、そこには秘書らしき女性を連れた小太りの中年が歩み寄ってくるところであった。


「きょ、局長!お疲れさまです!」


 シェリーはさっと緊張した面持ちになると背筋をピンと伸ばして頭を下げる。

 局長と呼ばれた男は彼女に「良い、楽にしてくれ」と言うとジャスの手を取って握手をしてきた。


「ブルーノさんご無沙汰しております」


 ブルーノ事務局長兼財務大臣。

 セドール王国の事務方面のトップに位置する男である。

 かなりのやり手らしいがジャスにとっては気のいいおっさんでしかなかった。


「ここにいるということはうちの依頼を受けてくれたんだな。君なら安心して任せられるよ」


 あっはっはと背中を叩きながら豪快に笑う。

 ジャスは気付いていないが、ブルーノが勤務時間内に笑っている姿を見たことがない職員は驚きで声を出すことも出来ない。


「この度はありがとうございます」


「はて?何のことかね。」


「わざわざ顔を見に来てくれたじゃないですか」


「君の顔を見られるのだったらいくらでも足を運ぶさ」


 今回のおいしい依頼はブルーノからの斡旋であることに気が付いたジャスは礼を言うが、当然のことだがはぐらかされてしまう。

 しかし、わざわざ大臣が受付まで来ること自体おかしいのだ。

 つまり、調査日は昨日だが、ジャスの店が閑古鳥のため今日報告に来る、と完全にブルーノに読まれてしまったわけだ。


「ところでジャス君。どうだね?そろそろ儂の頼みを聞いてくれる気にはなってくれんか?」


 ブルーノは顔を寄せると周りに聞こえないようにこっそりと囁く。

 儂の頼み、とは「王城勤め」にならないか、という話だった。

 勇者が何度も頼った男であり、王都を何度も裏で救った隠れた英雄でもある。

 そんな男が売れない「何でも屋」を開いている。

 この事がブルーノには勿体無くて仕方がなかった。なんとか手元に置きたくて何度も勧誘をしていた。


 しかし、答えはいつもと同じものであった。


「すみません、大変ありがたいのですが」


「そうか、やはり無理か。気が変わったらいつでも声をかけてくれ。それとだな、他に何か儂に出来ることがあれば遠慮なく言ってくれ」


「あぁそういうことでしたら」


 ジャスは一度言葉を切ると居住いを正してブルーノに向き直り、微笑を浮かべながら、




「今後とも「何でも屋」をご贔屓に」


お読み頂きありがとうございます。

しばらくの間は毎日更新の予定です。

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