花束を手に、期待を胸に
お会計を済ませ、後は花束のラッピングをしてもらって受け取るだけだ。
男はその花束が綺麗な包装紙に包まれていくのを見ながら、婚約相手の彼女に渡したらどんな反応をしてくれるか想像する……。と、ふとその彼女に対してある疑問が湧いてきた。
「……そういえば朱里、花言葉なんて分かるかな?」
「彼女さんの名前、朱里さんって言うんですか?」
「あ、ええ、はい」
男は思わず口が滑ってしまった。だが結び花を用意してくれたこの女性にならば朱里の名前を知られても大丈夫だろうと思った。
女性はラッピングをしながら気軽に声を掛ける。
「そんなに心配しないでもいいですよ。お客様の彼女さんへの気持ちは絶対に伝わりますから。私常々思うんですよ。花言葉って言うのは、その花にそういう力があるからこそつけられたんだと……。だから朱里さんが花言葉を知らなくてもきっと伝わるはずです」
「だといいんですけど……」
「よしっ」
男が苦笑いしていたら丁度、女性はラッピング作業を終えた。
「どうぞ。これがスターチスの花束です」
そして渡してきたのは純白のベールを思わせる包装紙に、赤いリボンが結び付けられている花束だった。
男はそれをまるで赤ちゃんを抱きかかえるかのように優しく両手で受け取ると、改めて礼を言う。
「ありがとうございます。あとはこの花束を朱里に渡すだけですね……」
男はまだ婚約相手である朱里を目の前にしていないというのにかなり緊張していた……。そんな男の不安を軽く蹴っ飛ばしてしまうかのように、女性は微笑み柔和で明るい声で励ましてくれた。
「大丈夫ですよ」
「……そうですね。きっと伝わりますよね」
その女性の声に、男の不安は不思議と一気に無くなった。男は朱里と仲直りできそうな気分になり、結び花を選んでくれた女性に心地良く礼を告げる。
「ありがとうござまいす。もし仲直りできたら今度は朱里もつれて来ますね」
「はい、仲直りしてまた来てくれることを願っています。ありがとうございました」
女性の声を背に受けながら、男は結び花を手に自信をもって朱里の元へと帰って行った――。