告白
赤いエプロンを掛けた女性はまずレジ横のスペースにある小さな丸椅子に男を座らせると、先ほどまで自分がレジカウンターで座っていた同じ丸椅子を男の対面に持って来てそこにすとんと座った。
女性の手にはメモ帳と鉛筆、男はこれから何か聞かれるんだとすぐに理解した。
「では、結び花を作る為にこれからいくつか質問をしていきます。答えたくない事があれば答えなくてもいいですが、できるだけ答えてください。その方が良い結び花を作ることが出来ますから」
「はあ……」
どんなことを聞いてくるのか分からないが、それが結び花とどう紐づけられるのか男には想像つかなかった……。
疑問に思いながら、とりあえず男は女性の質問を受けるのであった。
「まず始めに誰と縁を結びたいんですか? 名前は言わなくていいので、その人との間柄を教えてください」
「婚約相手です……」
「婚約相手ですね」
女性はメモ帳にサッとその事実だけを書き、次の質問に移る。
「その婚約相手さんとは今、どういう状況なんですか?」
男は苦々しい表情をしながら口を開く。
「……付き合って三年目になるんですが、今ちょっとケンカしちゃって別れてしまいそうなんです」
「そうなんですか。そのケンカと言うのは何が原因で?」
「それは……」
男は言葉を詰まらせた。
何故なら今までの質問は全て表面的なもので話しても特に問題は無かったが、この質問に関してはとてもプライバシーに関わる内面的なものだったからだ。
「…………」
女性は手を止め、目を逸らす男の様子を静かに見守る。
一秒、二秒、三秒……と、沈黙の状態が続き、女性はこの質問に対する答えは返ってこないだろうと判断しようとしたその時、黙っていた男はゆっくりと口を開いた。
「……すべて私が悪いんです」
男は俯きながら気まずそうに続ける。
「昨日彼女とデートする約束だったんです。ですが、急に仕事が入って行けなくなって……それで……」
「そうですか」
その後の二人がどうなったか簡単に想像できた女性は何度か頷いた。
「あの……」
ここで男は女性を覗き込むようにして声を掛ける。
「まだ続くんですか?」
「あと少しだけ質問させてください」
「あと……少しだけですか?」
「そうですね、あと二つだけだと思います」
それを聞いて男は何とかあと二つぐらいはと、ため息を吐く。
「分かりました。あと二つだけですね」
「ありがとうございます」
女性は深くお礼をして質問を再開する。
「婚約相手さんは今もなおその事に怒っていますか?」
「はい、とても怒っています。話しかけても一度こっちを見るだけで基本無視しますし、視線が合ったとしても拗ねた顔してどこかへ顔を向けますから……。まあ、そうなるのも仕方がない事を私がしてしまったんですが……。彼女はそのデートをとても楽しみにしていたみたいです」
「……そうですか」
そう言って女性は冷静にそれを記載したら、今までずっと開いていたメモ帳を閉じる。そして真剣な顔して男に向き合うと最後の質問を始めた。
「それでは最後に、結び花を渡してその婚約相手さんとどうなりたいか、どうして行きたいかの教えてください」
「どう、って……」
男は難しい顔して腕を組む。婚約相手とどうなるか未来を考えながら、自分自身の心の内を徐々に言葉にしていく。
「……彼女との仲を元に戻したいと思っています。戻して、普段通りに話すことが出来たらいずれ結婚したいと伝えたいです」
「なるほど。分かりました、それじゃあ、その彼女さんにあなたの気持ちが伝わるような結び花を作っていきましょう」
男性の赤裸々な告白を女性はしっかりと受け止め、結び花を作る作業に取り掛かった。