Blue star ―― ブルースター ――
「ここが〝Blue star〟……」
会社帰りの男は、町から少し外れたある一軒の小さな花屋の前まで来ていた。
「…………」
険しい表情の男は〝Blue star〟と掲げられたオシャレな木の看板から視線を沿道にまで並べられている色とりどり花にそっと移す。赤、白、黄、ピンク等々さまざまな色の花、それらは素人目からしても全て生き生きとしているように見え、手入れの行き届いたとてもいい花屋なんだなと分かった。
「ここに〝結び花〟が……」
傍から見れば丁寧に花を扱っている何の変哲もないただの花屋だが、ここに来る特別な理由が男にはあった。それが〝結び花〟と呼ばれる人と人の縁を結ぶと言われている花束だった。
――今現在、男は婚約相手の女性と喧嘩中だ。しかもそれは婚約が破棄になるかもしれないぐらいの最大級の大喧嘩だ。口も一切聞いてもらえず、目もほぼ合わせてもらえない……何度も謝っても婚約相手の女性の態度が変わる兆しが一向に見えず、男はもう婚約破棄するかもと諦めかけていた。
そんな時、不意に人づてに〝結び花〟の情報が男の耳に入ってきたのだ。結び花のことを初めて聞いた男は「人と人を結ぶ花なんて無い」と嘲笑していたが、日々を過ごしている内に「もし本当にあるのなら」というほんの少しの希望が芽生え、男は今日ここに来たのだ。
未だ色鮮やかな店先で立っていた男。その結び花が本当にあるのかどうか、そしていつぶりか分からない花屋に少し不安と緊張を覚え中々に入れなかったが、ようやく決心した。
「……入るか」
婚約相手との修復を図る男は藁にもすがる思いで花屋の中に入っていった。