墓場の騎士
どうも、ドラキュラです。
灰色の聖騎士にも書きましたがメリディエース大陸にある東スコプルス帝国は、灰色の聖騎士の方では既に滅んでおります。
で、その滅ぶまでの過程を物語として書いていたのですが・・・・先に番外編が出来てしまいましたので投稿させて頂きます。
五大陸の北に在る「セプテントゥリオーネス」では、世を皮肉った歌が流行っていた。
その歌は現在のセプテントゥリオーネス大陸を痛烈に批判していて、如何なる状況かを皆に知らせている。
しかし、セプテントゥリオーネス大陸に根を張る国々は歌を禁じる動きを見せた。
当然の行為とも言えたが・・・・その歌を完全に取り締まる事は今もって叶っていない。
というのも事実であると然る一国は認めているからだ。
曰く「強権にて取り締まる時点で認めている」との事だった。
ただ、その一国はこうも続けている。
曰く「痛い腹を突かれたくないなら最初からやらなければ良いのに結果的にやったのなら甘んじて突かれるべきだ」と・・・・・・・・
まさに的を射た言葉であると同時に覚悟が足りない点と、先見の明が無い事を痛烈に批判していた。
実際の話だが皮肉られる2ヶ国の内一国は、これまた的を射られたとばかりに歌を苛烈に取り締まっている。
歌を作った者、歌った者などは問答無用で処刑しているのだから非情を極めている。
しかし、そういった強権で黙らされようとすればする程に民草達は歌う事で抵抗を続けた。
そんな歌は以下の通りだ。
『雪色は、白鷺。闇夜は鴉。正直者はアホウドリ。どの鳥も自分を表す色あるいは名前を持っている。だが、中には“偽者”も混ざっている。それこそ狐や狸などは人を騙す。泣かされるのは何時も弱者か、正直者ばかり。
しかし意を決して反対した者が居る。
東に居を構えていた“古の国”だ。
かつては東西合わせて一つの国だったが、質の悪い“西の地から来た狐”に騙された。
挙げ句の果てには同じ国だった西の国からは“泥棒”が来る始末。
何とも憐れな話だが、唯一の救いは東の国を見捨てなかった国が居た事だ。
南の地において産声を上げた国だ。
その国は東の国から受けた“恩義”を返そうとしたが後一歩という所で間に合わなかった。
まさに“善人は早死にし、悪人は長生き”するだ。
ただ、唯一絶対の掟がある。
人間は誰もが必ず死ぬ事だ。
死んだ人間は“棺桶屋”に頼めば後は終わる。
しかし、死んでも死に切れない・・・・・・・・
こいつ“だけ”は許せねぇって人間は誰しも居るだろう。
そういう人間が居るなら“墓場の騎士”に頼め。
墓場の騎士に頼めば必ず許せねぇ人間を地獄へ連れて行ってくれる。
だが・・・・忘れるな。
怨み辛みがあろうと他人様の命を奪うんだ。
何れ自分も・・・・地獄へ行く事を・・・・覚悟して墓場へ行け』
以上が民草の間で歌われている歌だが、世の非情さと人間の命に限りがある事を唱う辺り学の有る人間が混ざっているのだろう。
ただ「墓場の騎士」とは何か?
これは民草の間で噂されている殺し屋の渾名だった。
死を怨む相手に与えるからそのままの渾名と言えるだろう。
しかし他人様の命を奪う事を金を払って頼むのだから自分も地獄へ行く事を警告する辺り・・・・・・・・
どの国・・・・いや、世界でも共通しているのだろう。
即ち「人を呪わば穴二つ」という言葉が・・・・・・・・
もっとも歌にもある通り覚悟を持って墓場へ行く者は後を絶たない。
今もそうだ。
寂れた墓場を一人の幼さを残す娘が歩いている。
服装は襤褸切れで、その露出した肌には乱暴された痕が幾つも見られた。
しかし眼は絶望していない。
いや、絶望に負けないとばかりに強い気を宿している。
強い気を宿す瞳を持った娘は寂れた墓場の奥にある・・・・墓穴の前で止まった。
墓穴には開けられた棺があるも肝心の死人は入っていない。
つまり・・・・これから入る「予定」なのだろう。
「・・・・どうか、私の怨みを晴らして下さい」
娘は襤褸切れの服から薄汚れた革袋を出すと墓穴の前に置いて頼み事を口にした。
すると何処からともなく声がした。
『相手は、誰だ?』
「墓場の騎士様・・・・ですか?」
何処からともなく聞こえてきた声に娘は周囲を見回しながら問い掛けた。
『ここに来たのなら・・・・歌を聞いて来たんだろ?』
対して声は娘の問いに答えつつ更に問いを投げた。
「は、はいっ。お願いですっ。どうか・・・・私の家族と、私の人生を滅茶苦茶にした・・・・あの“狐”共を殺して下さい!!」
娘は両膝をつくと声に頭を下げ、自身が味わった苦痛などを赤裸々に語った。
そして地獄へ落として欲しい相手の名を上げると・・・・短剣を取り出し自分の喉へ当てた。
「お願いですっ。どうか、奴等を地獄へ連れて行って下さいっ。それさえ叶うなら今ここで私は死にます!!」
『・・・・そいつ等が墓穴へ入ったのを見てから死ね』
「で、では!!」
娘は短剣を喉から離すと声に問いを投げたが・・・・返事は返って来なかった。
しかし何時の間にか革袋は消えている。
そして生臭い風に乗って娘の耳に・・・・ある言葉が聞こえた。
『そいつ等が墓穴へ入るのを見れば“満足”して死ねるだろ?それまでは・・・・死ぬな』
娘の耳に聞こえたのが果たして幻聴なのか、それとも本当に聞こえたのかは定かではない。
だが・・・・涙を流す娘を見れば誰もが本当に聞こえたと思うだろう。
だからこそ・・・・・・・・
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「ぎゃあああああああ!?」
薄暗い路地裏で断末魔の悲鳴が聞こえた。
同時に血の臭いもしたが・・・・それに反応する人間は、路地裏には誰も居なかった。
居るのは、ガタガタと体を震わせながらも細身の刺突に特化した剣を構える「神聖十字教国」の人間と・・・・黒と灰色の2色を使った鎧を着て、表が黒で裏が赤のマントを羽織り、そして紫のマフラーで顔を隠した騎士だけだった。
騎士は右手にロングソードを持ち、左手には「ヒーターシールド」を手にしている。
ヒーターシールドには棺桶と「黒百合」が描かれていた。
黒百合の花言葉は「恋」、「愛」という花言葉もあるが・・・・どちらかと言えば負のイメージを与える花言葉の方が知られている。
それは「呪い」と「復讐」という花言葉だ。
そんな不吉な花言葉を持つ黒百合と棺桶を紋章とする騎士を東スコプルス帝国を滅ぼし、その土地に居座った「神聖十字教国」の人間は知っているのだろう。
「は、墓場の騎士だな?!」
震える声で目の前に迫る騎士に問いを投げた。
「俺を知っているなら・・・・解るな?」
墓場の騎士はロングソードを自身の右半身に引き寄せて「標的」である男に問いを投げた。
「ふ、ふざけるな!貴様のような金を貰って人殺しをする人間に、この私が殺されるなど神が許さん!!」
「だったら・・・・その神に助けを求めたらどうだ?」
お前の護衛がしたように・・・・・・・・
この言葉に男はビクリと反応し、墓場の騎士の背後を見た。
墓場の騎士の背後には数人の死体が転がっている。
全員、自分の護衛だった。
しかし・・・・墓場の騎士によって瞬く間に殺されたが・・・・断末魔の悲鳴と共に叫んだ言葉は憶えている。
『助けてぇ!神様!!』
護衛達は、神に救いを求めたが・・・・救いの手は出ず・・・・死んだ。
それを墓場の騎士は皮肉りつつ・・・・改めて男に事実を告げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男は悲鳴を上げながら細身の刺突剣を墓場の騎士へ繰り出した。
しかし墓場の騎士はヒーターシールドで難なく刺突剣を弾くと・・・・ロングソードを男の左袈裟へ食い込ませた。
「!?」
左袈裟に食い込む白刃を男は恐る恐る見たが・・・・更に白刃が肉を切り、骨に達するのを眼で確認すると早くも白目を剥いた。
だが墓場の騎士は時間を掛けるようにロングソードを男の体に切り込ませた。
ググググググググッ・・・・グジュ・・・・ブシュッ・・・・・・・・
肉が切られ、骨が砕ける音と共に・・・・血がジンワリと男の左袈裟から溢れ出た。
ガクガクと男は震え続けた。
「・・・・・・・・」
白目を剥いて痙攣する男を冷めた眼で見ながら墓場の騎士は止めとばかりにロングソードを振り切った。
すると男は仰向けに倒れると・・・・2度と起き上がらなかった。
「・・・・地獄へ行ったら“可愛がって”もらうんだな」
誰にとは言わずに墓場の騎士は血を吸ったロングソードを布で吹いてから鞘に納めると音も立てずに姿を消した。
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セプテントゥリオーネス大陸に嘗て「存在」した東スコプルス帝国の帝都「ポルタ(扉)」---現神聖十字教国の神都郊外に在る共同墓地。
その共同墓地に一人の娘が埋葬されようとしていた。
娘は自害したのだろう。
発見された時は短剣を両手で握り締めた状態だった。
だが、今は両手を組んだ状態で棺桶に埋葬されている。
ただ妙な所があった。
自殺したというのに死に顔は「満足気」だった事である。
この満足な死に顔が何を意味しているのかは・・・・娘本人しか知らないから永遠の謎だ。
「・・・・・・・・」
ここで墓掘り人の男は供花がない娘の胸に一輪の「白百合」を投げてから棺の蓋を閉じると土を被せ始めた。
ところが何時の間に現れたのか?
虚ろな浅葱色の双眸を持つ女性が「リュート」を弾きながら鎮魂歌を歌った。
「嗚呼、地獄へ行った娘よ・・・・満足して死ねたのなら地獄へ堕ちても“一安心”よ。
何故ならば貴女は覚悟を持って怨みを晴らしたから。
そして“満足”して死ねたんだもの。
地獄の王も犯した罪と、それまでの過程を吟味すれば“情状酌量の余地”があると認めてくれるわ。
でも地獄へ行った身。
決して家族と再会できるとは思ってはいけないわ。
地獄は地獄。
罪を犯した人間が罰を受ける場所。
如何に情状酌量の余地があっても罰は受けなくてはならない。
それでも貴女は我慢できるでしょう。
墓場の騎士が貴女に“満足できる死”を送ってくれたのだから・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
リュートを弾きながら歌う女を墓掘り人の男は見ずに土を被せ続けた。
そして土を被せ終えた後に十字架を墓穴へ立たせるとスコップを片手に背を向ける。
歌っていた女もリュートを背負い、墓へ背を向ける。
ただ、墓掘り人の男は・・・・たった一度だけ娘が眠る墓へ視線を向けた。
言葉はない。
しかし・・・・虚ろな瞳の女だけには解ったのだろう。
静かに悲しそうな笑みを一瞬だけ浮かべた。
それが意味するのは・・・・・・・・
墓場の騎士 完
御読みになられた方は察する所があると思いますが・・・・墓場の騎士のモデルは言わずと知れた「仕事人」です。
初めて仕事人を見たのは10代にも達していない年齢と記憶しておりますが、故藤田まこと氏が演じた「中村主水」の枯れた姿に衝撃を受けたものです。
そして今の年になって漸く書く事が出来ました。
些か遅くなりましたが・・・・この作品を藤田まことさんこと中村主水に捧げます。