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(4)

ふんわり残酷描写あり。



タグ詐欺では?

 淑女の顔をしたイヴェットが庭園へ戻ると、友人であり、仲間でもあるマリエールが、垂れ目がちな目をさらに垂らして、見るからに困った様子でロゼトワールの相手をしていた。マリエールにしては珍しい。

 保健大臣であり、王の主治医も務めるモンタニエ侯爵を父に持つ、マリエール・オルガ・モンタニエ侯爵令嬢はたおやかな笑みが似合う才色兼備な令嬢だ。『赤薔薇の淑女』と呼ばれるイヴェットとともに『鈴蘭の君』と呼ばれる社交界の華の一人。

 ――というのは表の顔で、実際の彼女は

「鈴蘭? 鈴蘭って簡単に毒が抽出できるのよねぇ。強心作用があるから、心臓の薬として使えないこともないのだけど、薬効のある量と致死量が近いから、薬を飲んだつもりが、うっかり心臓麻痺を起こして死に至らしめることがあるから気をつけないと、ね?」

 とたおやかな笑みを崩さないまま言ってのける令嬢だ。マリエールは鈴蘭の花のごとく、見た目の可憐さとは裏腹にかなり凶悪な毒を持っている令嬢だった。

 それもそのはずで、モンタニエ家は古くから医者としてだけではなく、王家の暗部としての顔を受け持ってきた家だ。毒と薬は表裏一体。その膨大な毒薬の知識と医術知識を用いて、政敵に緩やかな死と破滅をもたらしてきた。その聡明な冷酷さを買われて、マリエールはロゼトワールの守護者として選ばれたのだ。

 そして、イヴェットが狂狼と呼ばれる父親のように素手でプロの戦闘集団と渡り合えるのは、マリエールの知識によりより詳しく的確に人体の仕組み、急所を知り得たからだ。力技で捩じ伏せることの出来る父親と違って、女のイヴェットの持つ力だけでは限界がある。その性差は努力だけでは埋められない。だからイヴェットはそのウェイトの軽さを生かした動きで戦う術を身に付けたのだ。

 暗殺などの直接的な危険に対応するのがイヴェットであり、知謀策謀毒を用いて外敵を排するのがマリエールの役目だ。

 にこやかな笑みを浮かべながら、遅効性の毒を仕込み、捕らえた敵に自白剤を投与したり、一枚一枚爪や皮を剥いで拷問にかけることもある、そんなマリエールが、分かりやすく困惑しているのは珍しかった。


「何の話をしているの?」

「ああ、おかえりなさいイヴ」

 イヴェットの姿にマリエールはホッとした表情を見せた。

「またロゼが変な質問をしてマリーを困らせてるの?」

「そんなことしてないわ」

 むー、と唇を尖らせて抗議する姿は、十五歳の侯爵令嬢らしくないが、それが不思議と似合ってしまうのがロゼトワールという少女だった。ここに彼女を溺愛してやまない王太子殿下が居合わせれば、

「ああ、俺のかわいいヴィー。そんなに唇を尖らせてどうした。ああ、口付けのおねだりか。そうか、かわいいやつめ」

 と、その唇を啄み、

「やだ、もうっ、シャルったら、恥ずかしいわ」

 と、頬を染めて恥かしがるロゼトワールを腕の中に閉じ込めて、更にかわいいかわいいとチュッチュチュッチュとその唇を啄んだことだろう。

 ロゼトワールが絡むと色ボケが加速する王太子だが、対外的にはそんな姿を一切見せないのは流石としかいいようがない。冷静沈着、清廉潔白であり、婚約者の令嬢に優しく紳士的な非の打ち所のない王子様と思われている王太子殿下が、ロゼトワールのためだと思えば、冷徹残忍な手段も問わない婚約者狂いだと知るのは、彼の側近とその婚約者等の極一部だけの極秘事項だ。

 そうして色ボケ王子の姿を見ても、「普段完璧な王子様のシャルが、甘えてくる姿はかわいいわよね」と受け入れるロゼトワールの感覚はなかなか理解出来ない。かわいい? あれが?

 アシルのロゼトワールを愛する気持ちに嘘は無いのだろが、彼女の前での欺きっぷりが凄まじく、悪どい顔をする王太子殿下の姿を知る側近とその婚約者は、ロゼトワールの前での甘い王子様姿のアシルを見る度に性格の違うアシル・シャルル・エクトル・フォルタンが何人も存在しているのではと思うことが多くある。

 どこかでロゼトワールに黒い顔がバレたら面白いのに、と思うが今のところその尻尾の欠片も悟られていない。さすが、自他ともに認める外面完璧王子様。あるいは、さすが、天然お姫様だ。



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