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思いついたら手が止まらなくなる、私の悪い癖!

短編のつもりで書き始めたら一時間経っても終わらなかったから、「無理ですね!」と諦めて連載に。

10話以内で終わるといいですね。


 種々の花々が咲き誇る麗らかな春の昼下がり。王太子妃宮庭として知られる花の庭園では、未来の王太子妃とその友人である二人の令嬢がお茶とお菓子とお喋りを楽しんでいた。

 淡く光り輝くハニーブロンドの髪を緩く揺らしながら、ふわふわとした笑みで、友人達の話に相槌を打つのが、この国の第一王子であり王太子、アシル・シャルル・エクトル・フォルタンの婚約者、次期王太子妃。ロゼトワール・シルヴィア・フルベール侯爵令嬢だ。

 五歳の時から王太子殿下と婚約をしている彼女は、基礎教育こそ侯爵家で受けてきたが、十歳になる頃からは、王太子妃、後の王妃となるための妃教育を受けるため、日中のほとんどを王宮で過ごしている。それに合わせて、王太子妃宮が新しく建てられた。「いきなり城に住むことになっても戸惑うだろうから、今から慣らしておけ」とは王太子殿下の言葉だ。それ以来、侯爵家に毎日迎えに来る王太子専用馬車で城に入り、夕刻にまた王太子専用馬車で家に戻る日が続いている。日中に家に戻ることはないので、友人との茶会は全て城の庭園で行われている。「茶会ならそこの庭で出来るだろ」とはこれまた王太子殿下の言葉だ。


(殿下、どんだけ、外に出したくないんですか)


 とは、王太子の友人兼側近、その婚約者兼ロゼトワールの友人達の心の声だが、王太子殿下の寵愛を幼い頃から一身に受けてきたロゼトワールは、自身が王太子殿下に囲われていることに彼女だけが気付いていない。

「殿下は完璧な人だから、妃になる人もそれだけの教育を受けなければいけないということよね」

 と、自分が城に留めおかれている理由を解釈している。


「学園に通うようになれば、二人ともっと一緒に過ごせるのよね」

 今年十五歳になる彼女達は、この春揃って王都の高等学院に入学することになっている。

 楽しみだわ、とにこにこ笑うロゼトワールに、二人の令嬢も「そうね」と同調する。

 これから三年間通うことになる学院は、全寮制で、これまで家と城との往復しかしてこなかったロゼトワールにとっては未知の生活が待っている。不安がないとは言えないが、仲の良い友人達と一日中一緒に過ごせる学院生活は楽しみの方が強い。

「制服も今日届いたのだけど、とてもかわいくてあの制服を着て通うのが楽しみ!」

 出来上がったばかりの制服も普段のドレスとは違うもので、ロゼトワールには新鮮だった。

「どうです? 似合いますか?」

 とはしゃいでくるくると王太子殿下の前で制服姿を披露して見せたのは、殿下の午後の公務が始まる前のことだ。

 いつものように一緒に昼食を食べた後、学院の制服が届けられたと告げられた。それを受け、「採寸に不都合がないか確認するため、すぐに着て見せろ」と殿下に言われて試着をしたのだ。自宅ではなく城に制服が届けられることに彼女は特に何の疑問も抱かなかった。制服だけではなく、彼女宛の手紙等も城で受け取ることが多いからだ。そんな状況も、ほとんど城にいるものね、と彼女は普通に受け止めている。それ以外の理由は思い至らなかった。


 学院の制服は白いフリル襟に、袖口、裾に白いレースの付いた紺色のワンピースタイプのものだった。前ボタン式のワンピースはドレスと違い一人でも着脱可能で、これまで侍女に着替えを手伝ってもらっていたロゼトワールも、侍女に教えて貰いながら、ボタンを嵌めるのに少し手間取りながらも一人で着ることが出来た。

 制服は胸下で切り替えるタイプのものもあったが、彼女が選んだのは腰にリボンを巻くタイプのものだ。どちらもかわいいと思ったが、王太子殿下が「――腰リボンの方にしとけ」と言ったので、そちらを選んだ。


(ロゼトワール様のお胸が強調されて見えるのが嫌だったのですね)


 とは、空気に徹していた侍女の心の声だ。王太子殿下の婚約者は、全体的に小柄でほっそりとした体躯なのに、胸の発育はよいようで、魅力的な体型になっている。

 婚約者の胸が順調に育ったことは王太子殿下にとっては嬉しい半面、悩ましいもののようで、王太子の婚約者として舞踏会等に参加するときは胸元を隠すデザインのドレスの上に、ストールを羽織らせるなどして徹底的に隠している。

 学院の制服は、けして胸の谷間が見えるようなものではなかったけれど、王太子殿下的にはその大きさが露わになるのも頂けなかったようだ。

 ただ、細くくびれた腰が強調されるのも王太子殿下には苦渋の選択だったらしく、「ウエストは絞るな、緩く結べ!」と指示が飛んでいた。その言葉を「みっともない」と言われたと理解したロゼトワールは、素直に頷いた。王太子殿下の言うことなら間違いはない。

 そうして改めてリボンを結び直したロゼトワールはまた、「どうですか?」とくるくると回って見せた。ひらりと揺れる腰のリボンに、空気を含んで広がる白レースの付いた紺のプリーツスカートから覗くほっそりとした形の良い脚。着替えるのに邪魔にならないようにふんわりと編まれた三つ編みの長い髪がぴょこぴょこと跳ねる。そして無邪気に笑って見せる婚約者の姿に、王太子殿下の「俺のヴィーがかわいい」メーターが振り切れすぎて、かわいいの暴力が過ぎてしんどい、無理、と「ぅ」だの「くっ」だの呻いていたが、きゃっきゃっとはしゃぐ婚約者はそのことに気付かなかった。

 それからしばらくして平静を装った王太子殿下が

「学院では今より動くことが多いから、もう少しゆとりをもたせたサイズに作り直させよう」

 と言う言葉に、ロゼトワールは「さすが、シャルね!」と尊敬の眼差しを向けた。そういう細かなところに気が付くところが、完璧な王太子殿下らしいと彼女は疑わずに思っている。


 制服の手配も完璧で、寮生活に必要な物も王太子殿下の指示で揃えられているということなので、あとは入学式を待つばかりだ。

「シャルに任せっぱなしで申し訳ないわ」

 と申し訳なさそうに言うロゼトワールに、「大した手間ではない」とアシルはあっさりと言った。王太子として公務をこなしながら、婚約者の世話まで焼くアシルは、本当に仕事のできる王子様だ。

 実際のところは

「は? 俺のヴィーの準備を他のやつらに任せられるわけないだろう」

 という王太子殿下の執着によるものだが、勿論ロゼトワールは知らないことだ。寮の家具から私服、文房具まで、全て彼女のためだけに王太子殿下が自ら選び抜き、職人を雇い作らせた特注品ばかりだ。彼女が使う物、身に纏う物に、他の人間の意思が入ることすら許せない独占欲の塊だった。

 これで王太子殿下が愚かな王子であったならば、彼女は傾国の悪女扱いをされたかもしれないが、大事な愛しい婚約者にたった一つの瑕疵すら与えることを許さない王太子殿下は、眉目秀麗、文武両道を地で行き、公務でも辣腕を振るう完璧な王子様だった。おかげで彼のかわいい婚約者は、彼を完璧な王子様だと信じて疑わない。

 王太子殿下が完璧な王子様なら、その婚約者もまた理想のふわふわお姫様だった。

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