35.解決前夜
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捜査は滞っていた。八月に入っても、義高と菅野コンビは昇の他殺を立証する糸口さえ見つけられず、唯一協力してくれそうな高橋健太も出張先に戻っていった。探偵事務所に顔を出すと、ケンジと亜紀は留守にしていることが多かったし、電話対応や事務仕事をたどたどしくこなした。菅野は小栗虫太郎や浜尾四郎等の推理小説を、ケンジに興味を持ってもらいたいと、さりげなく探偵事務所に置いて行った。『黒死館殺人事件』というタイトルであり、ぺダントリックなミステリーを選んだらしいが、義高には少々内容が難しかった。
自分がなぜ昇の自殺説を疑い続けているかを、他の人間がいない状態ですべてケンジに話していた。誰も信じないだろうという落胆はあったが、ケンジの反応は意外だった。
「信じがたい話だが、お前が嘘を言っている様子でもないな」
「この場で信じてもらえるとは思っていませんが、嘘偽りない事実なんです」
それ以上言葉を発することはなかった。義高は黙礼をすると、美辞麗句探偵事務所を後にした。
強い意識もなく高橋昇の墓に足を運んでいた。
山の斜面に設置された墓地、彼の石碑にはお供えものが並んでいた。
達筆な字で書かれている記載内容から、先祖と一緒に御骨が収められている状態であると見てとれる。
「どんな気持ちなのかな……」
ふと呟いた。
亜紀に話した通り、二十歳が必ずしも輝いている時期ではないという考え方は義高のなかで変わっていなかった。でも、そうやって捻くれた態度を取れるのは生きているからであって、自分の思っている他殺説が本当だとすれば、無念だったはずであると考えた。
辺りはすっかり暗くなっていた。義高は其処を動こうとせず、只線香の匂いと近隣の民家から風鈴の音に耳を澄ませていた。
シャリン、シャリン
それから五時間後、日を跨ぐ時間だった。
ケンジから珍しく熱を帯びた声で呼び出され、菅野と一緒に探偵事務所へ駆けつけた。後から来た亜紀に急な依頼をしていた。
「これから今までの事件解決を行うから、俺が今から言う人達を探偵事務所に集めるんだ。高橋文子、武本、以上だ。根元は今からここに向っている。高橋健太も一時帰国してもらい、もう直ぐ着くころだ」
二時間後、『美辞麗句探偵事務所』に集まったのは、ケンジの依頼で呼んだ高橋文子、健太、武本の三人。元々事務所にいた亜紀とユキ子、一緒に来た菅野、そして義高の八人だった。これだけの人数でも事務所内では結構窮屈になってしまう。
「遅い時間に集まっていただきまして、ありがとうございます。深夜ではなく、朝でもよかったのでは? と思われている方もいらっしゃるとは思いますが、時間がありません。それは、今ここにいる方の中に犯人がいるからであり、拘束することで新たな被害の拡大が防げます。今回の犯人は大崎のように杜撰ではありません。故に、例え数時間であっても野放しにはできないのです」
静寂に包まれた事務所、誰もがしゃべろうともしない。今ここにいる方の中に犯人がいるという言葉に翻弄され、ケンジを除いた全員の視点が定まっていなかった。
「早速今回の事件解決編を始めよう」
一同が、一斉にケンジの方をみた。




