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夢遊病  作者: 京理義高
34/38

34.ご相談

 23


 黒幕は今でも次の獲物を刈る為に、巧妙な計画を立てているのだろうか。また他者を使って自分の手を汚さずに計画を遂行するのだろうか。昇が死んだのもすべては黒幕が仕組んだ計画だとすると、どのような動機で犯罪を繰り返すのか? 大崎のように人を殺すことで快感を得ているのであれば、際限なく事件は起き続ける可能性が高い。事件が深まるばかりで、混乱した状況を早く解決されてほしいと思っているにも関わらず、義高は、ケンジの役に立つまで事件は解決しないでほしいというわがままな葛藤があった。それは異性に恋をした感情とは別のケンジに対する好意である。尊敬する人に認めてほしい。無心である義高は亜紀の番号にコールした。今日は探偵事務所も休暇である。留守番電話サービスに繋がる直前で亜紀が出た。


「もしもし」


「義高君が電話してくるなんで珍しくない?」


「そうだね。でもなかなか出ないから今度にしようかと思ったよ」


「あれ、タメ語で話すのはじめてなんじゃない。てか、すぐに出ないのは常識よ」


「今暇かな?」


「暇だけどどうしたの?」


「ちょっと相談したいことがあるんだ。探偵事務所じゃ話づらいから外出できる?」


 亜紀は間を空けた。


「もしかして告白?」


「ちがうよ、恋愛相談でもないんだけどね」


「なーんだ〜」


 なぜ残念がるか突っ込んで聞いてみる根気はなかった。


「じゃあ、赤レンガの前で待ち合わせね」


 デートの約束など久し振りで、義高は緊張し、手には大量の汗をかいていた。好きな女の子でもないのに緊張してしまう性格を早くなおしたいなと思っていた。


 赤レンガの前で待っていると、時間通りにタクシーで亜紀は到着した。実は誠実な性格なのかもしれない。ボディーラインにぴったりのTシャツにホットパンツというファッションだ。


「おまたせ〜」


 亜紀の明るい声と笑顔を見ると、本当に恋人同士が待ち合わせしたと錯覚する程だ。


「ごめん、急で」


「丁度暇だったからいいよ」


 言葉を交わすと、オープンカフェでコーヒーを頼んだ。平日の昼下がりだけあって人気がない。


「海がきれい。ここに来ると日本て感じがしないんだよね」


 眩しい笑顔を振りまく亜紀に女の子としての演技はない。


「確かにいい景色だよ」


 コーヒーを啜ると、


「相談なんだけど」


 急に畏まった義高を見て亜紀も聞く体制になった。


「ケンジさんのこと、もう少し知りたくてね。ぼく、探偵のアルバイトとして半月がたったけど、何もしらなくてさ。ケンジさんも忙しい人だし、自分から過去の話とかしないし」


「義高君てそっち系? 確かにケンジはかっこいいけど」


「ちがうから」


 くい気味で義高が反論すると、亜紀はだよねと言って笑った。


「私もあまり知らないの。ケンジはあの探偵事務所を二十歳の時始めたらしいわ」


「二十歳であれば、十五年前ということか」


 自分の年齢と同じ時期に独立で事務所を立ち上げて、経営をしていたのだ。義高は大学でのんびりと、将来の夢もなく生きている日常が恥ずかしくなった。


「そうね。私は五年前にアシスタントとして入ったんだけど、今のように重い事件ばかりを扱ってはいなかった」


「亜紀さんはどうしてケンジさんと働こうと思ったの?」


「亜紀でいいよ。私は当時付き合っていた彼とうまくいってなくて、原因は浮気と私の貯金を盗むといった、ありきたりな話なんだけどね。弱かった私は口論したけど、まだ彼が好きで、嫌われないように証拠までは突き止められなかった。でもね、いつかはかわらないといけないって思ったんだ」


 そう言うと、亜紀は微笑んだ。


「それで探偵事務所に」


「うん。実際はケンジにすべて解決してもらったんだけどね。その後、彼と別れてから吹っ切れた」


「そうなんだ」


 もしかしたら、自分が突拍子もない理由で美辞麗句探偵事務所にアルバイトとして働かせてもらえるようになったのは、亜紀のおかげでかもしれない。弱者に自分の経験を重ねて同情していたとしても義高は悪い気はしなかった。


「まだ私も私情が入ってしまって、事件解決には役に立たない方が多いんだけどね」


「そうかな。大崎の逮捕現場に、おとりで乗り込んだのは相当な勇気がないとできないよ」


「ケンジのおかげかな。横にいてくれなかったら、私一人でなんて絶対できないもの」


 コーヒーを飲みほした亜紀は追加注文を頼んだ。


「ねえ、義高君で彼女とかいないの?」


 興味津々な顔で質問されると、義高は戸惑った。


「君はつけないでいいよ」


 亜紀は頷いた。次の言葉を待っていた。


「いないよ。菅野といつも一緒にいるからなんとなくはわかっていたでしょ?」


「ふーん。花の二十歳の大学生なのに勿体ないな」


 恋人がいないと聞いてがっかりした態度を見せられると、義高はなぜだか悲しかった。


「周りが言うように、そんないいものじゃない」


「わかってないな。時間がたって初めて気付くってこと多いけどさ」


 妙に老成した言葉を聞くと、苦労しているなと思った。同年代でも、早々に結婚し社会人となって働いている人と、大学生で遊びに夢中になっている人と比較し、雲泥の差を感じることがある。亜紀の年齢を聞きたいという衝動に駆られていた。


 追加のコーヒーが運ばれてきた。自家製で入れているので、注文から出てくるまで少々時間がかかる。


「義高には、好きな子が出来たとしたら、その子に溺れるまでいってほしいな」


「もしかして、ぼくの恋話聞きたいから?」


「聞きたい聞きたい」 


 苦手分野の話を振られると、二年前の半年だけ付き合った女の子との話をした。年上の女性のアドバイスは的確で、今は未練を断ち切っていたのに、あの時こうしておけばよかったのではと後悔するほどだ。同級性の男が、女と比較して何に対しても子供だと言われる所以は、恋愛に対しても言えることである。亜紀のように男に不自由しない外見をしている人でもそれは変わらない。


 あまり掘り下げられるとイメージが悪くなりそうなので、義高は話題を変えようとした。


「ケンジさんが探偵をやろうとしたきっかけって何だろう?」


「私も聞いたことないな。見た目からすれば、人気ホストかモデルをやっていても可笑しくないし、あっ、モデルは一時期アルバイトでやっていたって言っていた。お金がきつかったからとも言ってたけど、さりげない自慢かもね」


「モデルか。お似合いだよね。本業にはしなかったのかな?」


「性格的に、組織内で協調するのが厭だったんでしょ。探偵も昔から年上に平気でタメ語を使ってたし」


「ぼくは社会にでていないからあんまりわからないんだけど、言葉使いにしても結構厳しいからね」


「実力が認められてからそうなったわけでもないから、最初は人間関係で苦労はしたんじゃないかしら」


 義高のしていたアルバイトはサービス業だったから、女の子が正社員にタメ語を使っていても文句は言われていなかったが、男のアルバイトは必ず年上には敬語を使っていた。


「ケンジにも思い出したくない過去はあると思うよ。うまく言えないけど、接していてそう感じる」


「もてるのに硬派な感じもするしね」


 二人はケンジの実力を認めているが故に、あの時、こんなキザなセリフを言ったとか、当たり前のことを言葉にするだとかの話で盛り上がった。結局は、どうでもよい相手は話題にものぼらないのだ。


「ぼくもケンジさんの役に立ちたい気持ちがある。アルバイトこれからもがんばります」


「生意気ね〜。新人は与えられたことをこなしていればいいの」


 気持ちが楽になった。


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登場人物一覧は下記に載せていますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2001
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