表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢遊病  作者: 京理義高
30/38

30.犯人を操る

20


 まだまだ満たされないのだ。私の欲望には際限がない。ただ、殺すだけではもの足りなくなってきた。幻覚も日に日に激しさを増していた。相手を限定して殺せば気持ちよさが倍増するのではないか? 考えるよりも行動しよう。もう私に取っては殺しが日課となっているのだから。一人目はOLで女性。二人目は爽やかな筋肉男。次は、カップルなんかどうだろうか。普通のカップルであればありふれていてつまらない。どうせなら誰もが羨むような二人がいい。考えただけでも興奮してくる。恋人を失った相手の喪失感と、次の瞬間もう一人も死んでしまうのだ。


 だが、ターゲットが二人同時だとすると相当慎重な行動が強いられる。場所は人気のない公園にしよう。どんなに都会であっても深夜の公園は人気も少ないし、元々危険な人物が平然と歩いている。


 二刀流で二人を同時に刺すのがいい。ああ、私は天才だ。桜木町駅で降りた。目的は未だあった。午前一時に例のものを公園で取引する約束をしている。時間は午後十一時ではあるが、人数は少なくない。歩いて左程しないころ、山の上に公園を見つけた。外部からの視線は殆どなく、絶好の殺人スポットである。誰もが羨むような二人とあれば、顔を吟味する必要がある。しばらく待つとしよう。


「君が噂の」


 私の背後で声がした。迂闊だった。人気がないのに背後の気配に気がつかなかった。普通の男だった。というよりも感じがよい営業マンだった。


「驚くことはないよ。俺もその道のプロだからね」


「だ、だれだ?」


 私は臆していることを悟られない為に平然と質問した。


「それは言えないな」


 男はほほ笑んだ。殺意もなければ、私を捕まえるといった態度がない。何者なのか。


「強いて言えば、君に殺されたOLの婚約者だな」


 男の言っている言葉は本当なのか。


「ただ、連続殺人犯の君をどうするってことはしないよ。忠告だけはしておくけど」

 

 こいつは私のことも知っているし、すべてを知っている。それでいて友達と接する以上にリラックスしているのだ。


「私は連続殺人犯じゃない」


「わかったよ。忠告というのは、君犯罪が下手すぎるね。近いうちに捕まるよ」


「なんだと」


 いっそのことこの男からナイフで刺し殺してしまおうかと思った。


「やめておきなよ。俺はプロだよ。君の昨日今日で覚えたナイフの使い方では、帰り討ちになるからさ。それに俺は君のこと嫌いじゃないんだ」


 穿いていた迷彩のズボンから拳銃をちらつかせながら言った。私は動けなくなった。


「私のなにを知っているんだ?」


「知っているさ。全てね。これから殺人をしようとしていることもね。それより、捕まっ

たら俺の罪も被ってほしいんだけどいいかな」


 否定すれば殺されるかもしれない。


「どんな罪だというんだ?」


「君も話がわかるね。実はこの間二人の男女を撲殺したんだ。裸のままだったけど、二人の会話を少し聞いたらカップルじゃなかっただろうな。んで、それは中目黒で起こった事なんだけど、もうひとつあってさ」


 男が話はじめようとした瞬間、離れた所で携帯電話の着信音が聞こえて来た。


 耳元で男は、


「邪魔して悪かったね。今の話考えておいてね。後、君がもし捕まったとしても、俺の言ったことを実行し、それ以外は何も喋らなければ、どこへでもこれを届けてあげるからさ」


 そう言うと、銃の入っていないポケットから白い粉が見えた。


 と思うと、足早に立ち去って行った。何者なのだろうか? いつの間にか私の体は氷が解けたようになり、着信音の主はカップルだった。五十メートル離れたベンチに二人は腰を下ろした。私から見ると背後に位置していた。すべての出来事を忘れていた。目の前にターゲットがいるのだ。今さらどんなカップルだってかまわない。さっきの男が影から見ているかもしれない。かまわない、私のすごさをま近で見せてやろう。


 距離は三十メートル、二十メートル、カップルは話に夢中になっている。十メートル、もう私の足音に気付いているはずだ。五メートル、どうしてこうもみんな無防備なのだ。私は左右の手にナイフを握りしめ、二人の背中目がけて突き刺した。


 刺さる感触がなかった。刃先が頑丈な石に当たって反発した。


 なぜだ……? 幻覚なのか…… 感触を誤認した経験はないのに。


 金髪の男は黒のジャケットを着ていたが、衣類が破けている様子もなく、黒髪の女のジージャンは少し穴が空いただけだった。


 次の瞬間、金髪の男がベンチの上に立ったかと思うと、後ろ姿でバック転し、気がついたら、私は取り抑えられていた。両手のナイフは金髪の男がお手玉のようにして空中で弄んでいる。かなりの美男子である。


「本当に来るとはね」


 黒いジャケットを脱ぐと、金髪の男は振りかぶり、私に叩きつけた。鈍器のようなもので殴られた感触だ。鉄が混入している。私のナイフが役に立たなかったわけだ。


「マジで怖かったよケンジ」


 和風美人の女がそう言っているような気がしたが、私は気を失っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
登場人物一覧は下記に載せていますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2001
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ