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夢遊病  作者: 京理義高
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21.犯人の独白

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 私は人を好きになったことがない。


 人を物と同類項にカテゴリしたのはいつ頃だったのだろうか。わりと社会のシステムを理解し始めていた頃だと思う。


 異性がどうしても好きになれなかった。同性しか恋愛対象にならないといった類ではなく、純粋に誰かに引かれたことがないのだ。恋愛ドラマを見ていると、現実離れしたシチュエーションに虫唾がはしり、街で見かける恋人同士が仲よさ気に話をしていたり、歩いていたりすると、出来るだけ見ないようにしている。


ただ性欲はある。異性に対して体が反応することだってある。体の交わりを経験したこともあるし、嫌いではない。


 でも、心底から恋愛感情が芽生えてこないのである。


 どこか人間としての機能が低下、あるいは無機能状態であるのだろう。


 精神医学者なら簡潔にこう言うだろう。


「現代の若者に増えつつある傾向の精神病といってよい。幼年期からの人と接する習慣、あるいは必要性がなく、コミュニケーション不足という人格が通常に形成されて育ったから、対人関係には深く関わろうとしないことから生じるものだ。こういう若者は決まって関わることで傷付くのが怖かったり、傷付いたことに耐性がない」


 これは違うと思う。


 私は機械的な人間でもなく、私の内面を知らない人が私の事を形容した場合は割りと普通の人であると言う。


 対人関係の認識はごく自然だし、人と話すことがそれほど嫌いじゃない。ある時は刺激や影響も受ける。性格も大人しいといわれたことはなく、協調性が欠いているとも言えない。これはあくまで客観的なものだ。私自身が診断しただけでなく、誰かに言われた意見をまとめた結果、出した結論だ。


 心が曇っていると思えるのは、私の協調性は抑制でもあり、自我をそのままアウトプット出来ずに、皆に合わせてしまう事だ。集団行動の際、一人になるのがなによりも怖かった。いつも一人でいる人を見ているとそうでもないが、実際自分がそういう境遇に立たされると地獄を見ることになる。寂しさとは違い、一人ではやりたいことが何も出来ないのだ。


 また、誰かと話をしないと自分自身のエネルギーさえ損なわれる。本来楽しいはずの時間を、一人でいるという意識、あるいは自分だけ仲間がいないという疎外感から精神状態は鬱になってしまう。少し前まで私は生きている屍の様に弱った人間だったのだ。

 

 しかし、私は内面に持つ精神を、自分という人物そのものだけで飼いならし、殺人をカタルシスとして消化できるようになった。そうなると、孤独なんてつぶやくのはまだ自分に酔った段階で、気取っているとしか思えない。ビックスターだって見えない多数の人に支えられて孤独を気取るわけだし、引きこもりと呼ばれる人種さえ親や、社会保険等に支えられているのだ。


 精神的な孤独と言われ、周りに話が合う人が存在しないだの、自分と同じ考え方を持った人がいなくて喚いているのは、ただの魯鈍でしか思えない。自分の弱さを誰かのせいにしようとしているだけだ。


 何もかもが欺瞞に見えて仕方がない。私のすべての精神がリンクした時、またたどり着いた境地が殺人なのだ。


 今ではこういう人だけは絶対殺さない、殺したくないといったジンクスは皆無。殺してしまったことで、後悔しない自信がある。


 故に、私は殺しの素人ではあるが、殺人にためらいもない。この要素はどれだけ大切か、身に染みてわかった。人体にナイフを刺し、相手が絶命するまでの、一連動作を仕損じる可能性が著しく減少しているのだ。この感情を、誰かと共有したいとは思わない。私は私のみで十分だからだ。殺人という境地は誰にも止められない、否止めさせない。


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登場人物一覧は下記に載せていますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2001
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