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夢遊病  作者: 京理義高
1/38

1.幻想

自費出版した本文内容になります。


 1


 すべてが霧がかったようで、大げさでもなく世界観、若しくは感覚さえもはっきりとはしない。


 土砂降りの雨、空は重厚な雲で覆われている。


 辺り一面は広大な草原であり、遠くの方で、人が羊を連れて歩いている。どのような人種なのか定かではない。羊たちは雨を身体に受けて、ふわふわの体毛が肌に張り付いている状態でもお構いなしに、はしゃいでいるようである。


 視界の中央部には道が蛇行しながら、ある建物の門まで続いている。


 瞬間移動のように次のシーンに移った。

 門の中はギリシャ神話を髣髴させる宮殿があった。ただ、外壁は時間の流れと自然の摂理の相互作用により廃屋となり、石で構築された屋根は半分以上が破損している。長い年月放置されたために、カビの臭いが漂っている。


 時間が滞っている。否、実はものすごいスピードで時が進んでいるのに気付いてないのかもしれない。定かではない。


 過去の遺産となった建物の中央部には、この宮殿が建てられて、時が立ち、全体が健在であったころまで全体を支えていた柱であるかと錯覚したが、よく見ると少女なのか少年なのか、それとももっと大人なのかもわからない人間が立っている。人形のような姿だ。


 雨に濡れて、金髪の長い髪は顔にべったりと張り付き、顔色は透き通るような白さであり、黒い毛皮のコートは水分を吸いきれず、水滴が地面に落下している。それを拭おうともしない。


 ただ呆然と立ち尽くし、生きているのかさえ感じとれない、それがなぜか美しい顔であった。


「あっちの世界と、こっちの世界はどっちが楽しい?」

 

 目先の人物が言葉を発した。硬直している自分がいた。声は少女だった。


「わからない」


 やっと絞り出した声で伝わったのだろうか。心の中で思っているだけである可能性もある。自分の声が発信されているのか、心か判別できなくなっている。


 人形のような美しい顔に、テレビ撮影用照明があたっているように見える。そこには、今直ぐに目の前から消えていってしまうのではないかと思う程の幻想性がある。


「それなら一つの世界を生きて楽しまないとね」


 美しい少女は満面の笑みで言った。迷いは一切ない。


 すべてがどうでもよくなった。気分は高揚し、気持ちがよくなった。


 だが、爽快感は長くは続かなかった。意識は正常に戻りつつあり、本来の世間を呪った自分の心が蘇ってくる。


 朦朧とした意識の中、宮殿が日本式の部屋の一室に変わった。ここは自分の家の庭で、深夜だった。両親が寝ていたことに気が付いた時、救われた。


 現実に存在しているような世界の幻想、あるいは夢を見るとき、感情だけが曖昧模糊としていた。歩いている最中でもふと違った世界にいってしまう時があった。それは、予想が付かなかった。精神のバランスを保つ手段ならいくらでもある。罪悪感はない。精神安定剤や睡眠薬やアルコールの摂取、外界を排除したひきこもりや虐待いじめのトラウマをもった人のテレビ特集を傍観し、明日の食料を心配する難民及び戦争ですべてを失った人の自伝、余命のある体を持った人のエッセーを読書等。苦境に立たされている状況と比較する。人間は複雑にできているのだから。自分は時として偶然幻影を見る体で、自覚のないストレスから開放されているのだから。それは、日を増す事に収束してきたが、いつも違った形で現れたとしても。


 なのに、なぜ??

 

 いつも遠くを見つめている空ろな目、気持ちが入ってない会話のキャッチボール、眠そうであり生きているのかと心配される位の覇気。


 比率で言えば、半数以上の人が敬遠し、二十五パーセントの人が心配という感情を被った諦めた態度で接し、残りがあぶないと除外しようとする人間たち。自分はオタクでも特殊な薬物をやっているわけでもない。


 人は特別な力と英知を崇拝するくせに、人と違う感性若しくは情緒不安定さをもつ人を除外もする。矛盾だらけだ。学校での教育とは平等な人間を作り出すための、ある種厚生施設である。尖ったものがいれば更生し、有り余るエネルギーをもった尖ったものは学校の権力に抑えられ、のろまである、太っている、顔が不細工であるといった外見要因をもった人間に、暗い、オタクである、行動が挙動不審であるといった性格をはみ出しものと扱い遊び感覚でいじめを行う。こりごりだ。いじめている側の標的となった人間への陰口、いじめられている人間の精神的なトラウマ。どれをとっても生きていく希望がない。自分はニュートラルな人間であり、小さな争いを避けて必至であったけれど、今後生きていく上で、理不尽な圧力を、社会という世界に出て、大人という態度で劣っている誰かに危害を加えるために誰かに協調していくことも、劣っていると評価されて圧力に耐えることも、すべてを我慢して自分という人格を殺して生きていくこともすべて全うな人間の生きていく社会ではない。

 

 生きている世界が他人より多い分、自分の生命力は二分の一に軽減されているのだろう。結論は簡単だ。


 一つの世界に生きることが出来る手段を実行にうつせばいい。 

 

 思い通りにいかない世界よりも、空虚だが、常に幻想的な世界で生きるほうが正しい。


 早く楽になろう……


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登場人物一覧は下記に載せていますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2001
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