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前カノと今カノ 最終話

確かに俺は見舞いに来た。

ちょっとでも顔が見たくてバイクをかっ飛ばしてここまで来た。

でも、いいのか?


「ナミもう少ししたら起きると思うから。ごゆっくり〜。」


そう言ってナミちゃんのお母さんはドアを閉めた。

本当にいいのか?

ベッドで寝ている娘の部屋に、どこの馬の骨ともわからん男を上げて二人っきりにしてもっ?警戒心はないのか?!

俺は長髪だしピアスしてるしでとてもじゃないが好青年には見えない。

どう見たって女にすぐ手を出しそうな風体だろ?実際そうだし……

ナミちゃんもだけど母親もかなり抜けてんな……


俺の自制心がなるべく保たれるように、ベッドからは離れて腰を下ろした。




にしてもナミちゃんのこの部屋───────



今まで撮ったのであろう写真が、印画紙にプリントされて所狭しと飾られていた。

それは写真立てに入れられてたり、アルバムに収められてたり、壁に貼られたりしていたのだけれど……


壁の一番目立つところにデカデカと、グランプリを取った俺の写真が貼られていたのだ。

なんか…すっげえ恥ずい……アイドルかよ。



「う……ん…先輩……」


起きたのかと思いベッドにいるナミちゃんの顔を覗き込んだのだが、スヤスヤと眠っていた。

今のは寝言か?

夢の中にまで俺がいるってこと?

どんだけ俺のこと考えてんだよ。

嬉しいやら照れくさいやらで体が熱くなってきた。


ナミちゃんてくせっ毛なのかな…頭にアホ毛みたいな寝癖がいっぱい出来てる。

丸っこいネコのぬいぐるみを抱き枕にしながら寝ているナミちゃんは、フワフワとした小動物にしか見えなかった。


「ああもう…可愛い……」


我慢出来ずに寝ているナミちゃんにチュッてしてしまった。

ダメだ…俺の自制心どっかいった。

もう一度ナミちゃんにキスをしながらギュっと抱きしめた。

寝ぼけまなこのナミちゃんと至近距離で目が合った。

しまった…唇吸ったらさすがに起きるか。

これじゃあ寝込みを襲ったみたいだ。いや、実際襲ってるんだけど……



「なんで先輩?!えっ、えっ?!」

「ナミちゃん、俺のこと好き?」


「えっ?……き、嫌いです。」

布団に潜り込もうしたナミちゃんをガっと押さえ込んだ。


「ナミちゃんは嫌いな男の写真飾るの?」


壁に貼ってある俺の写真をチラリと見たナミちゃんは、一気に顔を真っ赤にした。



「グランプリおめでとう。」



俺が知っていたのが余程意外だったのか、ナミちゃんは目を真ん丸にして驚いた。

ナミちゃんが撮った俺がいた海。あれは、今年のGWに行った沖縄の海だった。

沖縄の宮城海岸はサーファーの聖地だ。

ナミちゃん…あの時あの場所にいたんだ……



「こ、これは家族旅行で偶然写り込んだんです!」

「へー。俺を狙って撮ったようにしか見えないけど?」


「へ…へーっ!この人先輩なんですか?わーっ偶然!世間て狭いんですねーっ!」



……なんでこんな見え透いたウソを付くんだ?

さっきは俺のこと嫌いとか言いやがるしっ。



「じゃあモデル料、今ここで体で払ってもらおうか。」

「ぎゃぁーっ!ごめんなさい先輩!ちゃんと正直に言いますからっ!」

パジャマのボタンを何個か外したら、ナミちゃんが慌てて喋り出した。



「旅行先で先輩に会ったのは本当に偶然なんです。先輩のことは入学当初から知ってました。カッコイイ先輩がいるって友達が騒いでたから。私はふ〜んって感じでその時は全然興味わかなかったんですけど……」


ナミちゃんは視線を上げ、壁に貼られた俺の写真を見つめた。


「サーフィンしてる先輩を見つけた時は目が釘付けになりました。眩しいくらいにキラキラと輝いてて…もう格好良すぎて、格好良すぎて。一枚撮る事に好きになってました。」


……これ…かなり照れるな。


「私に写真を教えてくれた叔父が、凄く良く撮れてるから応募してみればって勧めてくれたんです。グランプリを取れたのは先輩のおかげです。ありがとうございます!」




ナミちゃんの黒目がちな目から、急にポロポロと涙がいくつも零れた。



「でも…あの時撮らなきゃ良かったって後悔してます。恋がこんなにも苦しいだなんて思わなかったぁ……」

「ナミちゃん……?」



ナミちゃんが子供みたいにしゃくりあげながら泣くので、背中をさすって上げた。

そっか…俺とナミちゃん、まだ別れたままの状態だったんだ……

ナミちゃんの可愛すぎる寝顔を見てその辺の大事なことがぶっ飛んでしまっていた。


ナミちゃんはこの1週間、どれだけの量を一人で泣いていたのだろうか……

大好きだった写真を止めたいと思うほどに……


そう思わせたのは俺だ──────



「ごめんなナミちゃん…もう泣かなくていいから。」



俺はサイテイなクソ野郎だ。

名前も知らない顔も知らない子からの告白を、キスしてOKするような男なんだから……



「ナミちゃんさえ良ければ、また…俺と付き合って欲しい。」



最初は無理して好きになろうとしていたかも知れない。

でも、気付けばどんどん好きになっていた。




今ならわかる───────




俺にとってナミちゃんが………


どれだけかけがえのない存在なのか────






「大好きだよ。」







陽だまりのようなナミちゃんが、俺は大好きだ。






涙を流しながら俺のことをまっすぐに見つめるナミちゃんを、胸に引き寄せ抱きしめた。



もう絶対、この子を離したりなんかしない。








「……いいんですか?」

「なにが?」



「私なんかが先輩の彼女になっても……」

「ナミちゃんじゃなきゃ俺はイヤなの。」



「……いいんですか?」

「なにが?」



「今はイチャコラブータイムですよ?」

「……まずはそのイチャコラブーってのが、何なのかから教えてもらっても良い?」



ホント、ナミちゃんて独特過ぎて笑っちまう。

















「リア充なんて、クソ食らえじゃ───いっ!!」



チロがフェンスによじ登りながら太陽に向かって吠えている。

先週俺がナミちゃんに振られたって言ったらすっげえほくそ笑んでたもんな。

メシウマとか言いやがったし。ざまあみろだ。


「先輩…あの方?」

「無視していいよ。チロはテンション高いから。」



お昼休み、屋上でナミちゃんと二人でご飯を食べていたらチロとトオギとスズメちゃんがやって来た。

偶然〜なんて言ってたけど、冷やかし混じりに様子を見に来たに違いない。

心配してくれんのは有り難いけれど、おまえらがいたらナミちゃんとヤラシイこと出来ねえじゃん。



「イチ君がまた女癖悪くなるんじゃないかとすっげえ心配した。二兎食うものはなんちゃらにならなくて良かったな。」

おいっトオギ…それはナミちゃんの前で言うことじゃねえだろ?

それに二兎追うものは一兎も得ず、だ。

相変わらずバカだな。



「わあ。どうやったらそんなにオッパイが大きくなれるんですか?」


ナミちゃん……スズメちゃんになに聞いちゃってんの?

スズメちゃん……俺を殺し屋みたいな目で睨むの止めてくれない?






「にしても憎たらしいくらいにカッコええなあ。」


チロがナミちゃんが持っていた写真雑誌を見つけ、俺が載っているページを見ながらつぶやいた。

トオギとスズメちゃんも興味深そうに雑誌を覗き込む……


「ホントだカッコイイ。でもイチ君てサーフィンしてるとこカッコイイって言われるの嫌なんじゃなかったっけ?」


トオギが言った何気ない言葉に、ナミちゃんが食らいついた。

「私が言う格好良いを、そんじょそこらにある薄っぺらいカッコイイと一緒にしないで下さいっ!」


そう言って雑誌を取り上げ、三人に見せるようにページを手の平でバンと叩いた。



「いいですか?!まずこの鍛え上げられた肉体美!特にこの左腕のラインの美しさですよ!それと波に向かっていくこの表情!ただでさえ端正な顔立ちがさらに研ぎ澄まされていて最高にエモい!それがこのカールされた波の中に宝石のような水しぶきと相まり、波の光と先輩の影との対比が……」



俺が写っている写真をこれだけ力説されるとすっごい照れるのだが……




「ナミちゃんてイチ君の信者かなんか?」

熱弁するナミちゃんから逃げてきたスズメちゃんが、珍しく俺に微笑んだ。


「まあ…変わってる子ではあるかな……」



そこが俺的には良いんだけど。俺まで力説しだしたら単なるバカップルだよな……
















────恋愛になにを求めるのか────


そんなのは人それぞれだ。



チロの場合。


「俺は笑いやな。同じツボで笑える子がええわ。」

さすが大阪人のチロらしい答えだ。

欲を言えば、チロのボケに的確に突っ込んでくれる子が最高らしい。




トオギの場合。


「俺はスズメちゃん。スズメちゃんさえ居れば他は何も要らない。」

スズメちゃんにベタ惚れな単純バカなトオギらしい答えだ。

俺は無人島になにを持っていく?って聞いたんじゃねえぞ。




スズメちゃんの場合。


「私は…安らぎかな。」

トオギのことを見つめながら答えたスズメちゃん。

まあ、こんだけ全身から愛してますってオーラ出してる彼氏がそばにいたら落ち着くわな……




ナミちゃんの場合。


「イチャコラブーです!イチャコラブー出来る関係がヨシですねっ。」

だからそのイチャコラブーってなんだよ?

聞いてもイチャコラより上ですよってわけわかんねえ説明されたし……





中には金だの見栄だのと答える人もいるだろう。

別にそれが間違ってるとは言わない。

自分で胸張って言える答えならいいんじゃねえのって俺は思う。






えっ、俺?


俺の場合は────────
















週末、ナミちゃんと一緒に海に来た。

俺はサーフィン、ナミちゃんはカメラ。別々のことをしているけれど、それが俺達の週末の過ごし方になっていた。



「あれ、イチ君もう上がるの?」

「ええ。あいつ放っておくと迷子になるんで。」


写真に夢中になり過ぎるナミちゃんは、気付けば2キロ先の岸壁まで行ってたりする。

抜けてるというか危なっかしいというか…全く、世話のかかる彼女だな。


て言うのは建前で、ただナミちゃんといる時間が楽しいから早くそばに行きたいだけだったりする。



ナミちゃんを探して歩いていると、おじいちゃんと楽しそうにお喋りをしているところを見つけた。

一瞬ムッとしたのだが、あんなヨボヨボのじいさんにまで嫉妬すんのはさすがに子供じみてるよなと、思い留まった。

俺に気付いたナミちゃんが嬉しそうに走ってきた。



「道でも聞かれてたの?」

「いえ、お茶しに行こうって口説かれてました。」


はぁあ?あんのクソじじぃ!!色ボケてんじゃねえっ!

じじぃのいる方を睨みつけようとしたら、ナミちゃんに目隠しされてしまった。


「ダメですよ。お年寄りには優しくしないと。」

「ナミちゃんさあ、砂浜で俺がサーフィンしてるとこ撮ってたら良くね?」


それだったらいつでも俺の目の届くところに居られるのに。

だいたいグランプリを取った沖縄以来、一枚も俺がサーフィンしてる写真を撮らないってどういうことなの?

撮る価値無し?



「一枚撮る事に好きになるって言ったじゃないですか……」


ナミちゃんはカーっと赤くなる頬っぺを両手で隠しながら恥ずかしそうに言った。




「これ以上私に先輩のことを好きにさせてどうするつもりですか?」




かっ…可愛い。

これ………押し倒していい?











恋愛になにを求めるのか────




間違いだらけの恋愛をしてきた俺には、その答えがなんなのかがまだわからない。


でも、ナミちゃんといたら答えなんてすぐ見つかるだろう。

いや……答えなんてもう必要ないのかもしれない。







「ナミちゃん。これからホテル行こっか?」

「ま、またそうやって私のことからかう!」


「俺本気だけど?かなり我慢しててもう限界。」

「えっ…先輩の、はち切れそうなんですか?」


「いや…そこまで限界ではないけど……」

「爆発しちゃいます?」


「アレは爆発はしないから。」

「暴発とかイヤですよ?」


「……ナミちゃん…この話止めよっか。飯食いに行く?」

「もしパンパンブーになったら遠慮なく言って下さいね?」



パンパンブーってなんだよ……

新たな用語増やすなよ。




「その時は私も覚悟を決めますから。」

「ちょっと待て。覚悟ってそういう意味だよな?俺今、超絶にパンパンブーだわっ!」


「わわわっ。私もパンパンブーになってきました!」

あれ?女でもなるもんなの?

俺のアレがナニの状態なのかと思ってたんだけど……




「……やっぱりそのパンパンブーってのが、何なのかから教えてもらっても良い?」





ホント、ナミちゃんて独特過ぎて笑っちまう。














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