大湯温泉
書いている本人も現実に倦んできています……。
この話は実際に大湯温泉へ行った後、ワンページノベルにしてみました。
冬の魚沼市大湯温泉。ここは会津国境に近い山里である。
開湯から1300年を誇るというが、弱塩基性の温泉は美肌効果があるという。
送迎車に揺られて山中の大湯温泉郷に入る前に折立温泉という所があり、そこは尾瀬歩きで車に揺られるときも目印となる。
山の中なのでスタッドレスかチェーンか、という雪深さ。
東京で失恋した彼は寂しく大湯温泉の旅館『源泉湯の宿かいり』へ入る。
大湯温泉は温泉とタイアップした二次元アイドル『Spa GIRLS』のリストから漏れているが、奥只見湖を訪ねるにはよい所である。夏であればシルバーラインが閉鎖されていないので、車で行けるが、雪深い冬は閉鎖され、遊覧船など乗れるわけがない。
チェックインをした後、予約した部屋で浴衣に着替えて『かいり』と刺繍された湯手とバスタオルを持って大浴場へ入る。
弱塩基性のお湯は温めだが、雪で凍えた体には有り難い。
壺湯に入るのもいい気分だが、精神面では既に蛸壷の中である。
浴槽を梯子すると蛸壷の外が見えてきたような気がするようで、寝湯で横になると東京のハードワークを忘れられそうな気がした。
彼は孤独である。職場に仲の良い相手がいるわけでもなく、一緒に遠出する相手が居るわけでもない。
お湯にでも入ろうかと思って上越新幹線に乗り、浦佐まで揺られた。
昔恋した女性が現在、何処にいるのか知らず、『生きた消耗品』状態の大人数アイドルグループとも疎遠になって久しい。
湯船の中だけが天国である。くだを巻いたり、煙草を吸う相手と酒を飲んでも美味しいわけがなく、理解のない相手と遠出しても楽しいわけがなく……。
浴場を出てからは鮎とちりめんじゃこを食べた。酒は緑川だがそこまでは好まない。
旅館の中で新たな恋が始まるわけではなく、再度入浴してその夜は眠る。
翌朝は朝風呂に入ってから、朝食を摂る。味噌汁は申し分なさそうだが、肝心のご飯が魚沼かと思ってしまう。
魚沼産のコシヒカリといえば国内では随一のブランド米だった。それが『特A』から格落ちし、新品種『新之助』ができたことで話題性を持って行かれてしまった。その哀愁すら1杯のご飯から如実に表れている。
大湯温泉からの送迎車に乗り、山を下ると魚沼の盆地が拝める。
浦佐の駅に着くとスキーブームだった頃の名残であるびゅうプラザの抜け殻。ここも哀愁を誘う。
行きとは逆に上りの新幹線ホームへ行くと台車に雪を被った上越新幹線の列車が来た。
前書きの通り、書いている本人も現実に倦んできています。
実際に行ったときは夏でして……。比較的温い湯もあり、スベスベお肌になる湯もあり……。でした。