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邪竜だろうが邪神だろうが全攻撃回避してブン殴り続ければいつか殺せる。Q.E.D.

作者: 大場鳩太郎

「アドルフだな?」


ダンジョンの入口付近【大階段】ーー

いつものソロ探索を終え、地上に戻っている途中で声をかけられた。


獣人冒険者の四人組だ。

何だろう仲間に入れてくれるのかと期待したがどうやら違うようだ。


「落ちこぼれのアドルフだろ?」


まあ間違っちゃないけど。


「万年三流のアドルフ・スターリングで間違いないよな?」


「合ってるよ。合ってるからその変な二つ名は止めてくれ。事実でも正直傷つくぞ」


僕は冒険者の癖に【饅頭スライム】すら倒すことができず周囲からは落ちこぼれ扱いされていた。


それもこれも僕の右目のせいだ。

こいつは魔眼の一種だが、視覚系スキルが習得し易くなる代わりに、それ以外がてんで駄目になる。


おかげで僕はどれだけ努力しても剣撃スキルも攻撃呪文も使えず、仲間もできない三流止まりの冒険者だった。


このくそったれな呪われハズレ魔眼のせいで一体どれだけの苦労を背負わされる羽目になった事か。

話始めれば半日あっても足りないので省略するが、思い出すだけで泣けてきた。


「うちのウルフェンが世話になったそうだな」


「ウルフェン? ああもしかして酒場にいた馬鹿な狼耳人ワーウルフ?」


「ちっ……そいつだよ」


行きつけの冒険者酒場で駆け出しニューフェイスに絡んだ挙句、強引に連れ去ろうとした迷惑なヤツがいたのだ。


食事が不味くなるので注意したところ、暴れ出したので、衛兵に押し付けたのを覚えている。


「C級ランクのあいつを、圏外野郎がどうやって再起不能に追い込みやがった?」


「あらら再起不能になっちゃったか……お気の毒様」


「巫山戯てんのかてめえがやったんだろうが」


「ええっとこれってお礼参りってやつでいいのかな?」


獣人三人が返答する代わりに、各々剣を鞘から抜いた。


「素直に謝るなら半殺しで勘弁してやる、有り金置いてけ」


「断るって言ったら?」


「勿論全殺しだ」


「やあそいつは楽しみだな」


僕はニヤリと笑みを浮かべてそう告げた。


暴力沙汰は好きではないが、彼らは僅かにでも弱味を見せたら金銭も尊厳も、命すら根こそぎ毟り取っていくのが悪党。

つまりは僕の大好物である。


「後悔すんなよ……やっちまえ‼︎」


三人が襲いかかってきた。やはり言葉が通じる相手ではなさそうだ。


こうなったら何よりもまずすべきは決まっている。能力チェックだ。魔眼に力を込め、《鑑定》を行使する。


まずは所持スキルを把握。


羨ましい事に三人共、幾つかの剣撃スキル持ちだ。魔導具を数点所持しているのも厄介だな。ただ一人一人の総合的な強さはこの前のウルフェン以下。


問題は多対一の状況をどう捌くかだ。


「やつは攻撃スキルが使えない。三方向から囲んで逃すなよ」


「へえ良く調べているねえ」


どうやら逃げ道はないようだ。


取り敢えず三つのスキルを並列展開する。

《間合把握》《敵意感知》《攻撃予測》。どれも初歩的な回避系視覚補助スキルばかりだ。


僕はこれを編み込むようにしてひとつに構築ビルドする。


にわかにダンジョンの石造りが活気づいた。

タイル毎に色づき、次々に緑、黄、赤、緑と色彩を変えていくというありえない光景が広がっていく。


これらは僕にしか視えない光景だ。

僕は危険を意味する黄や赤を避け、安全を意味する緑だけを踏み鳴らす。

更に「↑」「↓」などの文字に従ってステップを刻んでいく。


「くっ‼︎」


「→」


「なっ⁉︎」


「←」


そうするだけで獣人たちの剣撃を易々と避け続けることができた。


これこそが複合構築スキルーー安全地帯を可視化できる《色めく世界ダンスフロア》だ。


「ただ踊ってるだけの癖に……くそっ《連続突き》が当たらん」


「なっ……おれの《鎌鼬斬り》が届かない……動きが読まれてるのか?」


「ありえねえありえねえありえねえ……《蟷螂流し》《蟷螂流し》《蟷螂流し》いいいいい」


「おやおや全然当たらないね。仲間の仇打たないのかな」


「くそっ……殺せ! 絶対に生かして帰すな!」


「落ちこぼれに舐められるなんて今どんな気持ちだ? なあ教えてくれよ?」


性格悪いって?

いや別に遊びでやってるわけではない。至って真剣だ。

こちらには基本反撃手段がなく、一歩選択を間違えれば斬り殺される状況だ。だから煽って煽ってミスを誘発させる当然の生存戦略なのだ。

そう決して楽しんでいるわけではない。


さて今回はどう料理しようか。

ウルフェン相手には挑発し続けてバテてきたところで反撃に出たのだが、三人相手だとこちらの体力が保たなそうだ。


そんな事を考えながら攻撃を避け続けていると雲ゆきが変わってくる。


「ぜえぜえ……ウルフェンの話は……本当だったのか……まあいい【紫電】さん、そろそろお願いしやす」


「?」


獣人たちが攻撃を止めぱっと散会した。

同時に異変ーー付近に攻撃者がいないにも関わらず、周辺のタイル全てが次々に黄から赤へと染まっていき逃げ場が激減し始める。


「何故?」


原因は奥に控えていた魔術師だった。その掌から何やら紫色の光を放とうとしていた。


「そっちが本命か」


「気づいても遅いぜ。焼き豚になっちまえよ」


三人は囮役。

魔術師が呪文行使するまでの時間を稼いでいたのだ。


鑑定で魔術師の掌をチェックーー

電撃の雨霰エルレキアデス》とある。

知識にない呪文だが、詳細に電撃系で中規模と表記がある。危険な代物には間違いない。


タイルを見渡す限り安全地帯は皆無。

直撃コースらしく赤だけではなく所々に最悪を意味する黒まで混じり始めており良くて再起不能、悪けりゃ即死の状況だ。


「兄さんに恨みはないけど金の為に死んでくれや」


「やれやれだね」


僕は仕方なく魔眼に力を込める。


魔術師の掌から電撃が解き放たれた瞬間、世界が音と色彩を失い白と黒だけに変容していく。

そして鏃のように尖った紫電が目の前に迫っていたが、鼻先のところで止まる。


「ふーっギリギリセーフ」


数瞬遅かったら死んでいたかも。

僕は首だけを動かして、ゆっくり通り過ぎていく電撃の槍を避けながら息をついた。


「……さて」


それから前へと進み出る。

目の前には百を越える数の電撃の矢や槍が埋め尽くしている。

けれど何も心配はない。勢いは非常にスローだ。慎重にひとつずつ見極めていけば、すべて躱せるはず。


泥沼に沈んでいるみたいに重くなる身体を、全力を振り絞って動かし、僅かな隙間を縫うようにして雷の嵐を慎重に避けていく。


時間の流れがゆっくりに見えるけど勿論、僕が素早くなったわけではない。


ただゆっくりに視える・・・だけの話だ。


これこそが《受け流し》系スキルである《見切り》《真剣白刃取り》の亜種強化版、動体視力を極限まで高める事で引き起こす現象ーー


僕の編み出した《灰色の時間クロノスタシス》だ。


「……さてゴールだね」


そして辿り着く事が出来た。

目の前に元凶の魔術師ーー【紫電】さんとやらがいる。


まさか全ての電撃を回避して、真っ直ぐ向かってくるとは夢にも思っていないのだろう。彼の唇は未だ勝利を確信したままの笑みで歪んでいる。


だがこちらを認識し、魔術師の顔がゆっくりと驚いた表情に変わっていくのがわかった。


「やあどうも」


ニッコリ微笑んでみるがそれは視認できなかっただろう。


何故なら彼の顔面に拳を打ちつけていた。それから鳩尾を二度三度。相手はこちらの動きについてくるどころか捉える事すらできていないまま更に四度五度。余裕があったので留めに回し蹴りを行う。


「さて、そろそろ時間かな。……まあ殺しはしないから大いに反省しなよ」


但し【弱点看破】で見抜いたツボを突いたので、半年ばかりは介護が必要な上、悶絶するような激痛が続くだろう。お気の毒様。


タイムアップ。有効期限の十秒間が終わり、世界に色と音を取り戻していき、そしてーー。


「ぐはあああっおげええええええええええええええ‼︎⁉︎ ぎゃんっ⁉︎ ……」


魔術師が盛大に吹き飛び、叫びながら床もぐるぐると転がった挙句、壁に激突し動かなくなった。


「ふへっ? ……は? ……【紫電】さん⁉︎」


「どっどうなってる……腐ってもB級ランカーだぞ……何で圏外野郎に倒されるんだ……」


「視覚系スキルしか使えないて話じゃなかったのかよ……どうなってるんだ」


獣人たちが驚愕している。まあ彼らからしてみれば電撃呪文で死んだはずの僕が無傷で現れ、あまつさえ魔術師をのしたのだから仕方がない。それにしてもそこまで慌てふためいてくれると驚かせた甲斐があったというものだ。


「おおっと君たち尻尾を巻いて逃げるなら迷惑料を置いていくんだ。全員分の財布と、それから【耐火の指輪】を貰おうか」


「そんなもんあるわけ」


「隠しても無駄だぞ。この魔眼は何でもお見通しだからな。そのまま逃げてもいいけど僕は何処までも追いかける」


「畜生おおおおおおおお」


「化け物おおおおおおお」


「覚えてやがれええええ」


【紫電】さんを担いで全力で逃げていく三人組。その後ろ姿を見送った後、僕は漸く人心地ついて溜息をついた。ああ死ぬかと思った。罵られるは斬りかかられるは殺されかけるは散々な目に遭った。


「やれやれ化け物って……僕はただ視えるだけなんだけどな」


「それ以外は何にもできないのにねー」


相棒ーー背中のリュックサックから顔を出して呆れたようにそう言ってくる。妖精ティンクはさっきまで昼寝をしていたらしくふぁあと欠伸をしていた。


「ったく御主人様がピンチな時に呑気なしもべだなあ」


「どーでも良いけど私お腹空いてきたわ」


「もう君、しもべの自覚とかないよね? まあいいか……地上に戻ったら何食べよう」


「わーい」


相棒と二人、冒険者酒場で何を注文するかの話に花を咲かせながら歩き出す。手に入れた財布と魔導具を売り払った金があれば、そこそこ美味しいものが食べれるはずだ。



妖精眼グラムサイト】、それが右眼に宿った魔眼の名前だった。見えないものを視えるようになる代わりに、攻撃スキルも呪文も使えなくなるチカラだ。


この物語はピーキーな魔眼を持つ僕がダンジョンの最下層踏破をソロで目指す

……というものでは全然なく迷宮都市でグルメに走ったりチンピラ冒険者を小突いて回ったりする珍道中である。

というわけでボツ作品の供養投稿でした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 敵意感知が視覚系?シックスセンス系な気がする 目で見てその攻撃をしっかり確認、つまり確認こぼれがなくなるみたいな感じの能力だと思えば納得できる [一言] さいごに、返信は不要です
[一言] いや普通に面白いですよコレ
[一言] 正統派って感じがして良いですね。普通に連載で読んでみたいです。
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