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ダンジョンマスターは現地で立ち尽くす  作者: 荒木空
世界(ダンジョン)創世記
9/19

発生


 それは唐突に起こった。

 突然、世界が震えたような錯覚がした。いや、たぶん、実際に震えたと思うから、錯覚じゃないと思う。


 【モンスター召喚】スキルと【宝作成】スキルが共にレベル3になって、更に色々試したりしてる内に更に1年が経っていた。そんな異世界5年目のある日に起こった。

 未だにダンジョンコアさんは拗ねてるけど、流石に今までに無かった変化だから、俺がわからないことを知っているであろうダンジョンコアさんに急いで話し掛けた。



「ダンジョンコアさん!!」


『……なんですかマスター』



 久し振りに聞いたダンジョンコアさんの声はとても平坦な物だったけど、何か嬉しそうな雰囲気がした。


 じゃなくて!



「今の震動原因は何!!?今、世界が揺れたよね?!地震とかじゃなくて、完全に大気が震えたよね!!」


『……久し振りの会話だというのに貴方はちっとも変わっていないんですね。


 えぇ世界が文字通り揺れましたね。それで?』


「それでって、いや、だから!その原因ッ!」


『昔にも言いましたが1度落ち着かれては如何ですか?私はマスターと魂と呼ばれる部分で繋がっているので、おおよそマスターが何を言いたいのかは把握していますが、だからと言って全てがわかるという訳ではないのですよ?


 ……まぁ、今回は仕方ありませんので話します。



 この世界に初めて魔物が発生しました』



 久し振りの会話は、やっぱりダンジョンコアさんの毒舌でかなり凹まされたけど、確かに今回は俺も慌ててたように思う。


 だから深呼吸をして、少し落ち着いてみた。

 それでもう1度ダンジョンコアさんに質問してみる。



 「それで、魔物が発生したってどういうこと?」


 『そのままの意味です。此処とダンジョン領域外との境界線、そのちょうど間辺りの魔力溜まりより1体の魔物がこの世界に生まれました。


 魔物の生まれ方にはいくつか種類があるのですが、今回の生まれ方は"発生"と呼ばれる生まれ方です』



 ダンジョンコアさんの話を信じるなら、このダンジョン領域内で魔物が生まれたらしい。

 オタクの友人から話を少しだけ聞いていたから、こういう場合は魔力溜まり?とかいうので魔物が生まれることは本当にあるらしい。オカルト好きの友人も強い霊力や念は質量を伴う事があるとか言ってたし、それと同じ原理なんだと思う。


 でも今は、そんな何故生まれたのかの理由を考えるよりも、何が生まれたか、生まれた何かは敵対意識があるのかを考えて、それに対処する方が大切。


 今回生まれた魔物は、要するに純粋なこの世界で1番最初の生物な訳だ。しかも、絶対強い部類。考えられるのはドラゴンや吸血鬼、悪魔とか狼とかが考えられる。

 なんでこの辺りなのかはもう勘。オタクの友人から聞いた話から考えると、あとなけなしの俺の知識から考えてもこの辺りが可能性が高い。


 でも現実はそんなに甘くないし、何より問題なのは、やっぱり俺やダンジョンコアさんに対して"敵対意識があるのかないのか"。これが重要になってくる。


 友好的な関係を築けるならそれに越したことはないし、何よりこの世界最初の生物とか、なんか響き的に格好良いから、是非とも仲良くしたい!

 でも逆に、その反対の敵対意識がある場合はかなり不味い事になると思う。


 敵対意識がある場合に考えられる相手の行動は、まず間違いなくアイツや他のゴブリン達を殺し、俺を殺し、最後にダンジョンコアさんを壊すか自分がダンジョンマスターになるかが考えられる。というか、十中八九俺が死ぬのは確定してる。俺が死ぬ事が確定しているのなら、俺を庇うためにアイツは絶対に俺の壁になるだろうから、アイツも死ぬ。


 うん。色々考えても、考え続けても、俺が死ぬのはほぼ確定してるみたいだ。


 え、マジでどうしよう……。



 とかなんとか、そんな事を考えていたら、もう1度世界が揺れた。今度の揺れも、さっきと同じ揺れだ。



『先程発生した地点から真逆の位置で、再び魔物が発生しました』



 2体目!!?



「2体目!!?」


《先に現れた方は我々が向かいます。マスターは今現れた方の対処をお願いいたします!》



 2体目の登場で俺の思考が追い付いていない間に、アイツが他のゴブリンキングを何体か連れていつの間にか最初の方と思われる方へ走り去って行った。

 そしてアイツの指示(お願い)を聞いた他のゴブリンや動物達も一斉に動き出す。

 やっぱりアイツがダンジョンマスターで良いんじゃないかな。



『何を呆けているのですかマスター。

 それに駄目です。私のマスターは貴方だけですので、例え部下がとても優秀でも貴方以外をマスターとは認めません。


 それよりもマスター、今は我々の方をどうにかしなければなりませんよ。戦力であるゴブリンキング達は早々にこの場を離れました。ですので残存戦力で2体目に発生した魔物をどうにかしなければなりません』


「どうにかって!どうすれば良いんだよ!!」


『知りません。ですのでその無い頭でしっかり考えてください。


 でなければ全滅も有り得ます』



 あぁ!もう!本当に!!本当にこういう時でもブレないなぁダンジョンコアさんは!!


 でもダンジョンコアさんの言うことも尤も!考えないと……。


 まず現在の状況。今はこの世界に初めて魔物……というか生物が生まれて、そのすぐ後にまた生物が生まれた。この内最初の方はアイツが他複数のゴブリンキング達を連れて様子見に行ってる。

 対して今此処に居る俺や他の動物やゴブリン達はアイツを含めたゴブリンキング達の足元にも及ばない程度の強さ。この戦力で2体目の魔物を相手しないと駄目、と……。


 いやいやいやいやいやいやいやいやいや、無理でしょ!!

 この戦力でこの世界の2番目なんて特別に勝てる訳無いでしょ!!

 なんでこんな、まだなんの準備も出来てない段階でこんなこと起こるの?!!


 そりゃ勿論、1体目や2体目が俺達と敵対するとは限らないよ?

 でもさぁ、でもだよ。こういう場合って、まず悪い方に傾くって俺知ってるからな!両親の離婚の時なんて正にそうだ!!俺が山田太郎になるとは思いもしなかったけど、それでも離婚に対してある程度の理解が出来る歳だったから、それがどういうことかもわかってたよ!そりゃ、父親の会社が倒産するとは思ってなかったし、父親が原因になるなんて考えもしない事だけどさ!それでも離婚の後に何が待ってるかなんて簡単に想像出来たよ!!でも、そうなって欲しくないって理想も有ったから、ソッチの可能性についても色々考えたけど、結局離婚したよ!!つまり世の中は悪い予感がすれば絶対悪い方に傾くように出来てるんだよ!!つまり今回もそれと一緒!!状況が違う?関係無い!!絶対悪い方に傾く!!





 俺が現実逃避という思考の海に潜っていると、次の瞬間、現実に無理矢理戻されるほど大きな爆音が近くで起こった。


 土煙が立ち、その爆風により動物やゴブリン達は紙のように飛んでいく。俺はなんとか、その場で空中浮遊して動かないダンジョンコアさんにしがみつく事で飛ばされる事はなかった。なかったけど、普通に漫画みたいにしがみつく為の腕以外が宙に浮いた。


 爆風が収まり土煙がその場に漂う。しかしそのあとすぐにそれを振り払うかのように、改めて爆風が起こる。


 土煙が爆風により彼方へと飛ばされる、そんな土煙のカーテンの中から姿を現せたのは1人の男だった。


 その男を一言で表すなら長身。勿論顔の整いとか服装だとか、そういった細事はその男を表すのに重要な役割を果たすだろうけど、それよりも目につくほどの高身長。技術は度外視するとして、まず間違いなく外国のバスケットボール選手として活躍出来そうなほど高い。

 肌の色は白く、髪はくすんだマゼンタ色のよう。服装はバトラー服みたいなやつで、それに外側が黒色が強い辛うじて灰色にだと認識出来るような色で、内側が綺麗な赤色のマントをしている。

 そして顔そのものだが、当然とでも云うかのように整っている。日本人よりのイギリス人とのハーフかクォーターみたいな顔だ。


 そんな男が、ダンジョンコアさんの側でへたり込んでいる俺に話し掛けてくる。



「貴様、俺に発言する権利を与えてやる。貴様が知っているこの世界の事を全て話せ」



 いきなり上から目線。いきなり高圧的な態度。そしてナルシストを連想させる俺様系の臭いがする言動。まず、やっぱりというべきか、友好関係が気付けそうな相手じゃない。


 というか、やっぱり生まれたばかりなんだな。最初に聞くのがこの世界の情報か……。いきなり情報を求める辺り、知能はかなり高い……のかな?



「そんなの、むしろ俺が聞きたい」



 途端、俺の左肩に痛みが走る。



「いつ俺が俺が聞きたい事以外の事に対する発言をすることを許した?それとも理解する知能が無いのか?


 敢えてもう一度言ってやろう。俺に貴様が知っているこの世界の事を全て話せ」



 うっわ、生まれたてでこんな奴居るんだ。

 うっわ、本当にこんな奴居るんだ。

 うっわ、ナルシストが服着て歩いてるみたいだ。


 そして何より、すぐ暴力ですか。そうですか。

 私こと山田太郎!久し振りにプッツーンと来ました!!

 今すぐこの目の前のナルシスト君に合わせて暴力でお話しさせていただきまーす!


 俺もね、まだね、まだ、まだただの高圧的な言動と行動が目立つナルシスト程度なら、まだ我慢して笑って流せます。ですが暴力はいけません。暴力を奮うのであれば、当然ながらそこに正統性はは生まれず、ただの原始的な物へと成り下がります。


 つまり目の前のナルシスト君はとても原始的な痛い人です。

 この世界がそもそも原始的とか、そういう話じゃないです。生まれたてだからどうとかではありません。

 身体に見合った知能と言動が出来るのに、その実ただの"言葉"が話せない痛い人です。


 元の世界で言うなら所謂中学生や高校生ヤンキー!話せばわかるけど、まずは恐喝脅迫暴力。ソコから生まれる会話があるといった人達。

 でも彼等は頭から血を流そうと、鼻が折れようと関係なしに殴ってくるけど、それでもちゃんと対話は出来ます。


 でも目の前のナルシスト君はその対話が出来ません!それしか方法を知らないのならまだ許容範囲ですが、それも現時点ではわかる筈もありません。

 それに素直に答えたのに、いきなり血を流すほどの攻撃をしました!これはもう、ギルティーでしょ。



 という訳で、私山田太郎は、久し振りにプッツンさせていただきまーす!


 覚悟しろや糞ナルシスト!!



「グヘェッ」


「おい、誰が動くことを許した?しかも俺を睨むだと?傲慢にもほどがある」



 ナルシスト君に向かって取り敢えず牽制がてら、持ってるナイフを投げようと睨んだら、いきなり腹を、たぶん蹴られた。


 それで俺は、遠くまで飛ばされていく。


 肉体による言語もしないとか、ソリストにもほどが有るだろ糞ナルシスト!!


 飛ばされながら、なんとか成長する武器を地面に突き刺して、ついでに足を地面に着ける事で摩擦を生んで、地面を抉りながら勢いを殺す。



「誰が止まって良いと言った」



 すると、いつの間にか吹っ飛んでる俺の目の前に糞ナルシスト君が現れて、また腹に何かされてブッ飛ばされる。


 フッざけんな!!俺はサッカーボールや野球ボールじゃねぇぞ!!ボールは友達。よし、お前今からボールな!じゃねぇよ!!マジで会話が成り立たないぞこの糞ナルシスト君!!


 てか、今更だけど、ドッチボールどころかマシンガンを一方的に撃たれてる状況だけど、それでも一応、会話が成立したな……。



 そんな事を考えながら、俺は飛ばされていく。


 飛ばされては勢いを殺し、腹を攻撃されてはまたブッ飛ばされる。あとついでに痛みを我慢しながらブッ飛ばされ続けていると、いつの間にか何かにぶつかる。


 ぶつかったところで吹っ飛ばされてる俺の勢いは止まったけど、それまでの勢いの事もあって、俺は容赦なく背中から激突して肺や腹の中の物。特に空気とか血とかを口から吐き出す。勿論物理的に。



 それで止まったから、また攻撃されるんだろうなぁ……とか、そんな事を考えながらこのあとどう切り抜けるか考えていると、いつまで経っても先程までの衝撃と痛みがこない。



「?」



 不思議に思って糞ナルシスト君へ視線を向けると、糞ナルシスト君はその場に腰を抜かしたように倒れていて、俺の方を見ていた。


 俺の方というか、俺の上の方。


 俺はその視線の先を確認するために、後ろに振り向いた。



 まず目に入ったのは白というには少しくすんでいて、逆に灰色と言われればそれにしてはあまりにも白い。銀色よりも白く輝いている壁が目に入った。

 元の世界でいう白銀が1番近い表現だと思う。


 次にその壁の周りを見てみる。周りはかなり大きな蛇や蜥蜴の鱗の1枚のような形状をした、大きな、学校のプールの大きさを正方形にしたような物だった。

 更に視線を他へ向けると、どうやらこの鱗みたいなのは俺のぶつかった物だけではなく、隣り合い、更に遠くまで続いているらしい。


 この辺で俺は嫌な予感がしつつ、でも確かめないといけないため、今度はその視線を徐々に上へと向けていく。

 そしてその全容を視界の中に納めてどうしてあの糞ナルシスト君があんな情けない格好をしているのかがわかった。うん。俺も察したよ。「あ、これ、俺、死んだわ」って。


 見たのは勿論初めて。当然だけど、それがなんなのかはサブカルチャーにあまり明るくない人でもわかるほど有名な物だからわかった。


 どうやら俺がぶつかったのはそれの尻尾らしい。尻尾の先らしい。尻尾の先でこれなんだから、もう、どれだけ大きいのかなんて、考えるのも馬鹿らしい。



 その姿は紛うことなき竜。中華系の駱駝の頭で蛇のような胴体、猛禽類のような手や足のある龍ではなく、西洋の方の竜。

 つまりファンタジーの醍醐味であり、日本人に限らず誰でも1度は耳にしたことのある存在。


 ドラゴン。


 その後ろ姿がそこにあった。


 糞ナルシスト君。つまり彼は、このドラゴンを見ただけでアレほど腰を抜かしてると……。


 本当になんというか、小物臭が凄いするナルシスト君だ……。



 でも、こんな風に考えてる暇はなかった。

 俺達の居るドラゴンの背中側とは反対の、ドラゴンの正面の方からナルシスト君が現れた時よりも遥かに大きい爆発音?爆撃音?とにかく凄く大きな音が響く。それと同時に、ダンジョンコアさんのような頭の中で聞こえる声みたいに可愛らしい声で、なのに昔からあるお爺さんの喋り方のような口調の声が頭の中に響く。



『なんじゃ!なんなのじゃお前達は!お主等、お主等がなんなのか、儂知ってるぞ!


 ゴブリンというやつじゃろ!ゴブリンとかいう、人とかいう猿にすら負ける下等劣等種族じゃろ!


 そんな下等劣等種族のお主等に何故儂の攻撃は全く効いておらず、何故逆にお主等の攻撃は儂に届くのじゃ!何より、何故儂の攻撃をお主1人で全ていなし儂に攻撃する余裕すら有るのじゃ!


 生まれたばかりの儂でもわかる!お主、絶対ゴブリンじゃないじゃろぉおおお!!!!』


《五月蠅い蜥蜴だ。私は一刻も早く貴殿を下し、すぐにでもマスターの許へ向かわねばならぬのだ。貴殿の疑問に答えている暇は無い。


 だがこれだけは答えよう。後ろの同胞は私が貴殿を下した後、貴殿の遺骸をマスターの許まで運ぶための者達だ》


『儂命の危機ィッ!!』



 ………………………なんというか、うわぁ……。うわぁ……。うわぁ……。うわぁ……。うわぁ……。


 アイツ、マジで、このドラゴンの言葉じゃないけど、マジでなんなの?マジでゴブリンなの?絶対アイツ、世界最強だろ。


 えぇ……。なんでアイツ、俺の従者なんかやってんの……。



《むっ、マスターが近くに居る…?》



 ………………うわぁ……。



 ………………………うん。ドン引きしてないで、現実を見よう。

 うん、此処は危ないね。ドラゴンさんが動いただけで俺、死んじゃいそう。まずは此処から離れないと。


 でもその前に、糞ナルシスト君を見てみる。

 すると、まぁ、なんというか、うん。取り敢えず成人男性が白目剥いて口からリアルに泡を吹きながら、股間を濡らしてるのなんて見たくなかった。


 普通にゲロっちゃいそうなほど気持ち悪い。



 そんな気持ち悪いのを視界に入れないようにしつつ、うん。俺はドラゴンさんから離れた。


 勿論だけど、俺の全力疾走なんて全長を把握することすら出来ないほど大きいドラゴンさんの身動ぎ1つで簡単に埋まる距離しか離せなくて、当然のように俺の周りにバッタンバッタンと尻尾が叩きつけられて、その度にクレーターが出来て地面の土が宙を舞う。

 その上今ドラゴンさんはアイツと戦ってて、しかもどうやらアイツに圧されているらしく、徐々に後退している。


 全力疾走で離れようとする度にその距離を呆気なく埋められ、むしろドンドンドラゴンさんの足下へと近付く。それを繰り返し、何度も「あ、俺、死んだわ」とか思いながら、それでもドラゴンさんから離れようと必死に足を動かした。


 でもやっぱり、俺が100メートルを走りきるよりドラゴンさんの一歩の方が圧倒的に時間を必要としないわけで、あっという間に俺はアイツとドラゴンさんの間に放り出されることとなった。



《マスター!!?》



 そしてとうとう、アイツの声が真横から聞こえる所まで来たらしい。アイツの驚いた声が聞こえたと思ったと同時に俺は誰かに抱えられるような感覚を覚えて、いつの間にかアイツが連れて行った他のゴブリンキング達の許へ移動させられていた。



《マスター、何故こんな所に?》



 先程の驚いた様子は何処へやら、アイツが落ち着いた様子で俺に問い掛けて来る。


 でも今はなんだかんだ戦闘中で、アイツは今、ドラゴンさんに背中を向けている訳で、ドラゴンさんもそんなアイツを放っておく訳がない。アイツの質問に答える暇無く、気付けば俺の視界はアイツとかなりの熱さを持つ赤色で埋め尽くされた。



《邪魔だ》



 しかしその視界も、アイツがドラゴンさんへ振り返るだけで一瞬にして無くなり、ついでにドラゴンさんが血を流してた。


 えぇ……。お前本当、なにしたの?



《それでマスター、本当に何故こんな所に?確かマスターと私は拠点にて別れたと思ったのですが……。


 いつの間にか私は、あの蜥蜴を拠点に近付けさせてしまっていたのですか?》



 アイツが不安そうにしながら俺に尋ねて来る。


 アイツのそんな表情(カオ)を見ていると、先程までの痛みやら恐さやらが一気に無くなり、自分でもわからないけど思わず笑ってしまった。



「大丈夫大丈夫。ただ俺が飛ばされ続けて此処に来てしまっただけだから。お前にはなんの落ち度も無いよ」



 俺が笑いながらそう言ってやると、アイツは目に見えてホッと息を吐き、アイツも笑顔を浮かべた。



《良かったです。

 ですがマスター、マスターの話ですと、マスターを此処まで飛ばした輩が居るということですよね?


 ……それ思うと私は其奴が許せない。我等がマスターに対してそのような事を行うなど万死に値します。


 ですのでマスター。申し訳ございませんが、少々此方で待っていただいてもよろしいでしょうか?今すぐ目の前の蜥蜴を始末し、すぐにでもマスターを此処まで飛ばした輩を始末して参ります!》



 アイツはそう言うと、俺の返事を待たずに俺の目の前から一瞬にして姿を消した。


 アイツが目の前から居なくなれば、自然とドラゴンさんが視界に入る。俺の視界に写ったそのドラゴンさんは、俺から見て左に倒れようとしていた。

そしてドラゴンさんの顔が有ったであろう位置から落ちているアイツの姿が目に入った。

 ドラゴンさんの顔をよく見ればドラゴンさんの左頬は凹んでいて、目に関しては白目を剥いていた。


 どうやらアイツが殴るか蹴るかの打撃をドラゴンさんの顔に入れたらしい。

 改めてアイツの非常識さを目の当たりにしたような気がした。


 そこから更に、倒れようとしていたドラゴンさんの身体が、いつの間にか、今度は反対の右側へ倒れようとしていた。そしてその右頬には左頬と同様凹んでいた。


 そこからの光景は、まるでプロボクサーによる殴打のように右へ左へドラゴンさんの身体が動いた。


 あまりにも現実離れしたその光景に、俺はしばらく放心していたけど、流石に慣れ始めたようで、ハッと現実に戻ってきた。



「おーーい!そのドラゴンさんとは会話が成立しそうだし、殺すなよーー!!」



 今更かもしれないけど、一応こう叫んでおく。


 この声が届いたのかはわからないけれど、まぁ、たぶん届いたんだと思う。右へ左へ身体が動いていたドラゴンさんは、次の瞬間にはその巨体を宙に浮かせていた。

 上を見ながら後ろに倒れる(さま)から察するに、顎下を殴るか蹴るかしてフィニッシュしたんだと思う。


 ドラゴンさんの身体が地面に沈むか沈まないかのタイミングでアイツは俺の目の前に、片膝ついて(かしず)いた姿で現れた。



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