モンスター作成で立ち尽くす
まさか世界の半分を領域にするまで放置されるとは思いもしなかった……。
いやまぁ、其処まで延びたのは拘束されてからの俺の行動も原因の1つなんだろうけどさ。
それでも、それでも誰が丸3日放置されると思うよ?
むしろぼぉーっとしてから丸3日、消化器官のある生物特有の生理現象に見舞われて、人としての尊厳を大きく傷付けられながらも3日間特に何もせずに空腹と咽の渇きと糞尿塗れで不快な下半身に我慢出来たと褒めて欲しいぐらいだよ。
流石に3日間放置されて危機感を覚えたり、暇過ぎて気が狂いそうになったから、体が動くようになってからって思ってやらなかった魔法スキルの練習をしようとした俺は悪くないと思うんだ。
拘束される原因となった時の俺には非があったかもしれないけどさ。
…………………うん。もう2度とこんな事にはなりたくないね、うん。
『すみません、マスター!まさか拘束した数分後には冷静になっていたとは知らず、"2年も"放置してしまって!!
本当に申し訳御座いません!!』
良いよダンジョンコアさん。おかげで俺も、もう2度とこんな想いしたくないって思ったし、なんか色々と悟りを拓けたように思うしさ。
それに仕方ないよ。確か鼻周り以外の空間ごとをかくぜつ?して俺を拘束してたんでしょ?それにダンジョンコアさんには五感は基本的に無いんだからわかる筈無いよ。
『4日目のマスターが魔法を使おうとした時点で問答無用で聞く耳を持たず放置せずに、口部分だけでも解放して話を聞いておけばこんなことには……。
何度謝っても許される事ではありませんが、本当に申し訳御座いません!!』
わからないから、配慮が出来なかったってのもまぁ納得出来るし、そもそも俺が原因でこんな事になったんだから自業自得な部分もあるよ。
でもダンジョンコアさんは気にしそうだから、此処はさ、喧嘩両成敗ってことで手打ちにした方が互いの為だと思うんだ。
うん。だからさ、だからねダンジョンコアさん?
「それ以上謝らないでダンジョンコアさん。俺、本気で泣くよ?」
これ以上、俺の尊厳とかプライドとか、傷口を抉らないで!!
『…………………すみませんでした…』
泣きそう。
ο──────────ο
「さて、じゃあこの空白の2年で出来なかった事をこれからやって行こうか。
それとダンジョンコアさん。領域の件だけど、取り敢えず世界の3分の2までは俺達の領域にする方向で。だからもう少し拡げておいて。
頭はしっかり冷えたけど、やっぱり領域が広い方が安全だと思うし、回収出来るLPもその分増えるだろうからさ。」
『…………承りました…。では世界の残り5割の内2割を領域にするため拡大しておきます。
それでマスター……、今から何を為さるおつもりなんですか?』
ダンジョンコアさんの腰が低い。
いや、ダンジョンコアさんに腰なんて無いし、別にダンジョンコアさんの物腰が低いのは俺が大泣きしたとかいう有りもしない事とは全く関係無いんだけど。
「魔法も試したいんだけどさ、まず先にモンスター作成のスキルでも使ってモンスターでも作ろうかなって」
『モンスター作成……ですか』
「そうそう、モンスター作成のスキル」
俺がそう言うと、申し訳なさそうな声色なんだけど、少しいつもの棘のある毒を吐きながらダンジョンコアさんが説明してくれた。
『ではマスター、現在のマスターの最低レベルでのモンスター作成で作成出来るモンスターが何か、マスターご自身は把握していらっしゃいますか?』
……えっ、モンスター作成って、現時点では作れないモンスターとか居るの?
ガッツリオリジナルモンスターを作って、それを俺の補佐役としてずっと一緒に居れるようにしようと思ったんだけど。え、無理なの?
『……その顔ですと私の説明をしっかりと聞いていらっしゃらなかったのですね。しかもとても厭らしい事も考えているようですね』
そ、そんなことねぇし!ダンジョンコアさんの勘違いだし!勘違いをするのは止めるし!
って、内心で思うだけにしておく。
これを口に出した日には、ダンジョンコアさんにまた拘束される可能性がある。
『思いっきり口から出てますよマスター。しかもなんですかそのヤンキー系ツンデレ娘が言い訳する時みたいな口調は。ハッキリ言って気持ち悪いですよ?』
「……………ダンジョンコアさんってエスパーなの?」
『……………もう一度申し上げます。思いっきり口から出てましたよマスター……』
なんてこった。お口を某兎の口みたいにバツにして心の中に隠してないと。
これ以上はまた話がややこしくなりそうだし、多少強引かもしれないけど、話題を変えないと!
「そんなことはどうでも良いんだよダンジョンコアさん!
大事なのは、今の俺達に何が出来るかって事なんだよダンジョンコアさん!!」
『それは誰かの受け売りか何かですか?それと全く話を反らせてないですよマスター。
……………まぁその件は追々しっかりと話すとして……、マスター。不要かもしれませんが、念のためもう一度問います。現在のマスターが作成出来るモンスターが何か、把握していらっしゃいますか?』
把握しているかどうかだって?そんなの答えは決まってる!
「把握しているわけないよね!」
『清々しいほどのカミングアウトをありがとうございますマスター。一周回って死んでください』
あ、ダンジョンコアさんに毒舌が戻った。
『ではマスター、マスターが現在作成出来るモンスターの名前をお教えします。
ゴブリンです』
「………………What's?」
『マスターの居た世界の言語である英語でしたか?何故英語なのですか?
現在マスターが実際に認知しているモンスターがゴブリンだけですので、マスターが現在作成出来るモンスターはゴブリンだけとなっております』
「Why?」
『だから何故英語なのですか。
マスターは元居た世界で様々なモンスターのイメージを持っていらっしゃるかと思いますが、それはあくまでイメージなのです。空想上の物なのです。
実際はどんなモンスターで、どのような動きやどのような攻撃をするなどは理論上知らないのです。
モンスター作成スキルのレベルが高ければそのイメージだけで作成も可能ですが、現在のマスターのモンスター作成スキルのレベルは1です。
スキル習得時にもご説明しましたが、レベル1では既存のモンスターしか作成出来ません。
この"既存のモンスター"というのが、実際に見聞きし倒したモンスターの事を言うのです。
ですので現在、マスターが作成出来るモンスターはゴブリンだけなのです』
「……………oh.my god.
あ、いや、神ってあの自称神の確信犯爺の事か。
死ね!糞自称神の確信犯爺!!」
『……………やはり私があの状態で2年も放置したばかりに……』
その話はそれまでだ!!
取り敢えずダンジョンコアさんの説明で俺が今作れるモンスターがゴブリンだけなのはわかった。
でもそれは、あくまで"今は"ということもわかった。
うん、じゃあ、もうやることは決まったよね。
「【モンスター作成】!」
スキルって、別にスキル名を口にしなくても発動出来るんだけど、気分的に口にしてみた。
俺がスキルを使うと、俺の中からスキルを使った時の何かが体の中から出て行く感覚がする。
たぶんこれが魔力とか気とかダンジョンマスター特有のエネルギーだと思う。
その何かが俺の目の前に移動するのがわかる。
その何かが俺の前に集まると、突然その何かが光輝く。
思わず目を瞑る。
そして光が収まった事を確認するために目を開けると、目の前にはゴブリンが居た。
《……………………》
「おぉ!」
この1年(拘束されてた2年間?そんなものは存在しないのです。)間、何度も見て、その都度殺し殺されの血みどろ生活を送ったゴブリン。それが目の前に居る訳なんだけど、そのゴブリンとはいえ自分のスキルで生まれたとなると、やっぱり感慨深いものがある。
というか普通に感動ものだ。
俺!スキルでモンスターを作ったぞ!!
《……………………》
…………あれ?普段のダンジョンコアさんが喚び出したゴブリンなら、俺を攻撃しに来ると思うんだけど…。なんでこのゴブリンは静かに俺の方を見るだけで微動だにしないんだ?
「……………………」
手に木のナイフを持って、その切っ先をゴブリンに向けてみる。
《……………………》
……おい、やめろよ…。なんでそんな、そんな悲しそうな何かを覚悟したような表情するんだよ…。てかゴブリンなんて普通、そんな表情しないだろ。しかも普通は抵抗するだろ。なんで無抵抗でただジッと俺を見詰めるんだよ……。
《……………………》
「……………………」
《……………………》
「……………………」
《……………………》
「……………………」
《……………………》
「………………………………」
殺れねぇええ!殺り辛ぇええ!!
なんでゴブリンに"アナタの全てとアナタからの全てを受け入れます"みたいな表情で見られなきゃならないんだよぉぉおおおおお!!なんでそんな表情するんだよぉぉおおおおお!!
「ダンジョンコアさん!!」
『……………どうやらマスターが作成したモンスターは、マスターに絶対服従のようです』
……………………………………………。
やり辛ぇぇえええええええ!!!!
ο────────ο
「…………………【モンスター作成】」
最初のゴブリン?アイツなら今頃、穴を掘ってくれてる筈だ。俺なんかの為に、この何も無い荒野の地面を一所懸命に召喚時に手に持っていた棍棒を犠牲に、穴を掘ってくれてる筈だ。
第2第3のゴブリン達もたぶん、アイツに協力して一緒に穴を掘ってくれてるんじゃないかな。
『……………マスター…』
「ダンジョンコアさん……。ゴブリンって、ゴブリンだけどそれはそれで良い所も有るんだな……。まるで人間みたいだ」
『…………………』
目の前には500を越えるゴブリンが居る。
内5匹は恐らく穴を掘ってくれていて、残りの495匹は最後の1匹になるまで戦ってもらっている。
最初はドラゴンとか吸血鬼とか、リッチとか妖狐とかを作って、それを幹部とする気だったけど、その方針は止めた。
まずはゴブリンキングかゴブリンエンペラーに進化してもらう。そしてそうなった個体には最後、アイツに倒されてもらって、アイツの糧になってもらう。
アイツこそ俺の、最初で最強のモンスターだ!!
同じ種族なら経験値の移行や技能やステータスの移行が可能なのは現在のフェーズになる前に実証済み!
さぁアイツ以外のゴブリン達!アイツの為に頑張って進化してくれ!!
『マスター…………』
「……………………………うん。冷静になるからその可哀想な奴に対して呟くような声で俺を呼ばないで。何気にそれが1番キツい」
『…………………………はい……』
また泣きそう。
………閑話休題。
……うん。最初のモンスター作成の後、結局あのゴブリンは殺せませんでした。むしろ無性に愛着が湧いて、大切にしようと思い到りました。
やっぱり何事も、初めてってのは特別なんだよ。うん。
で、今は最初のゴブリンを強化するために強い個体を用意しているところ。此処まで作成したゴブリンの数は、今のモンスター作成で1000体になった。
【スキル:モンスター作成Lv.1 が スキル:モンスター作成Lv.2 に成長しました】
あ、スキルが成長した。
最初のゴブリンを作成してから、更に9体作ってみて、ソイツ等を戦わせたのが事の始まり。
最初はゴブリンなんかに!って思って互いを殺し合わせる事で俺への憎しみを持ってもらい、その憎しみを俺に向けてもらってその個体を俺が殺す。って計画してたんだけど、最初のその方法で生き残ったのが最初のゴブリンで、しかも他9体の力を手に入れたのか知らないけど、なんか俺なんかじゃ勝てそうにないほど強くなってた。
しかも戦ってる最中、2体倒して疲弊していた個体を、まだ1体も倒していなかった別の個体が漁夫の利で倒すと、明らかに1体倒した時よりも強い個体となった。それはゲーム的な意味で言うとレベルとしてもそうだし、現実的に言うと戦闘技術としてもそうだった。
そういうのを繰り返して最後の1匹になった最初のゴブリンを見て、俺は思ってしまった訳だ。
コイツは大切にしよう。
そうして現在、目の前に広がる光景へと繋がる。
最初のゴブリンは現在、既にゴブリンキングへと進化していて、現状では他の普通のゴブリンを倒す程度では強くなったように感じなくなっていた。
ゴブリンキングより上は無いのかな?とか、思いはしたけど、単純にゲーム的に言う経験値の問題かもとも思って、【スキル:モンスター作成】のレベルアップを基準に、ゴブリンキングになった個体から俺やダンジョンコアさんが生活するための居住空間を作るという名目で穴を掘ってもらってる。
あ、また1匹ゴブリンキングに進化した個体が出来た。
「今進化した奴!お前は今から、先輩ゴブリンキング達の所に行って、指示に従って穴を掘ってくれ!他の奴等はソイツを狙うなよ!!」
うん。着々とゴブリンキングが増えてる。
最初の奴以外のゴブリンキング達には悪いけど、この場が片付いたら最初の奴に吸収されてくれ。
さて…、俺は俺で次に出来ることをやるか。
「ダンジョンコアさん、モンスター作成のスキルがレベル2になったよ。
だから、レベル2だとどのくらいの事が出来るのか教えてくれないかな?」
今の俺に出来ること。それはレベルアップした【スキル:モンスター作成Lv.2】で何が出来るかの確認!
『もうですか。……同じ種族だったとしても、1000体も作成すればレベルアップしてもおかしくないですね…。
わかりました。ではレベル2で何が出来るかの説明をさせていただきます』
「よっ!待ってました!!」
『茶化さないでください。
レベル2では【スキル:モンスター作成】スキル保持者が、レベル1で最も作成した種族の上位種族と、その種族と近しい種族をイメージだけで作る事が出来るようになります。
マスターの場合ですと当然ゴブリンですので、ゴブリンキングまでなら制限無く自由に。ゴブリンに近しい種族としてオーガ種やオーク種、果てには"人型"という括りで人型であるならば基本何でも作成出来るようになりました。その場合幾つかの制限がつきますが。
マスターがゴブリンに対し愛を覚えたというのは、誠に言葉に出来ない気持ち悪さが有りますが、凡そモンスター作成スキルのレベルアップとしては最も良い結果だったかと思います』
ダンジョンコアさんの言葉を聞いて思う。
流石ゴブリン。色々元の世界で言われてたけど、ダンジョン運営とかの視点から見ればめちゃくちゃ有能。
でも流石に愛を覚えたとか言葉に出来ない気持ち悪さってのは違うんじゃないの?
『冗談という本音を真に受けるマスターの知能は本当に愉快ですね』
今更だけど、俺、話してないんだけど!しかも冗談という本音って本音じゃん!!むしろそんな子供みたいな屁理屈ばっかり言って言いたい放題のダンジョンコアさん本当にガキだよね!!
『……………何やら私が"ガキ"だという電波を受信しました。
マスター、それはどういう意味でしょうか?しっかりご説明を願います』
「そんなことより!」
『そんなことより?マスターにとって私という存在は"そんなこと"程度の物なのですか?私がその程度ということはつまり』
あーーー!!もう!!
「んな事どうでも良いんだよ!それよりもダンジョンコアさんは仕事を、俺はダンジョンコアさんから聞いた事を元にダンジョンの発展の為に更なる精進をするだけの話じゃん!!いちいち要らない茶々は入れなくて良いんだよダンジョンコアさん!!
してほしいのは仕事をするときは仕事をするメリハリ!!」
『……………メリハリがついていない?この私が?』
「そうだろ!?毎回毎回話が脱線するような話をするんだからさ!そりゃ話の中にユーモアや面白味を持たせるのは大切だけどさ、ダンジョンコアさんは喋ってる時はいつもじゃん!それで俺が反応しなかったら怒ったり拗ねたりするじゃん!
説明するときはしっかりと説明してよ!正直その辺は迷惑!!」
言いたい事は言う。この2年で学んだ事だね。
取り敢えずこれでしっかりと説明してもらえるかな?
『…………………そうですか、迷惑ですか。わかりました。では2度とこのような事がないように努めさせていただきますねマスター』
ダンジョンコアさんはそう言うと黙り込んだ。
…………………あれ?
「……………ダンジョンコアさん?」
『……………………………』
あ、これ、拗ねた。
めんどくさいな!もう!!
これ以上、モンスター作成についてどうすれば良いかわからず、俺はしばらくあぁでもない、こうでもないと唸りながらその場で立ち尽くした。




