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ダンジョンマスターは現地で立ち尽くす  作者: 荒木空
世界(ダンジョン)創世記
3/19

ダンジョン製作で立ち尽くす


 何から手を付ければ良いかわからず、思わずその場で立ち尽くしてしまう。


 やることは一杯有るし、やらなければならないことも一杯有る。でも、何から手を付けるのが1番効率的なのかがわからない。



「……………ダンジョンコアさん、何から手を付ければ良いと思う?」


『そんなことも自分で考えられないのですか私のマスターは?ハッキリ言ってドン引きの失望です。細胞分裂からやり直して来てください。


では逆に聞きます。今マスターには何が出来ますか?』


「ホンット口悪いね君。


今出来ること?

まずこの領域内に俺の住む場所を作って安全な場所を作ること。でもこれには材料が無いし有っても時間が掛かるから今夜には間に合わない。


次にモンスターの召喚。これでダンジョンらしくない此所を少しでもダンジョンっぽくすることが出来る。でもこれには召喚したモンスターが俺を攻撃しないかって心配が有る。万が一襲われたら、俺には何も出来なくて死ぬ未来しか無い。


次にダンジョンコアとダンジョンマスターの力の確認と現在のLPの確認。これは追々出来ることだし、現在のLP量が確認さえ出来れば正直優先度は高くない。


取り敢えず現時点で思い付くのはこのぐらいかな」


『マスターはヘタレだったのですね』


「どの文脈からその結論に到ったんだろう、この生まれたてのベイビーさんは。むしろ死に急いでそうな勢いで敵を作ろうとしているのはダンジョンコアさんの方でしょ」


『ヘタレでないのであれば優柔不断です。案だけ出して実際は何もしない出来ない優柔不断人任せ糞野郎です』


「君の悪口に慣れてきたのか段々君の愛嬌のようにも思えて来たよダンジョンコアさん。


それじゃあダンジョンコアさん、俺のこの考えを聞いて、君的に何から手を付ければ良いと思うか教えてくれないかな?」


『マスターはドMと呼ばれる属性の方でもあったのですね。気持ち悪過ぎて鳥肌が立って来ましたよ。


わかりました。良いでしょう。ヘタレで優柔不断なマスターの為に、新世界の神である私の知恵を貸して差し上げましょう!』



 意気揚々と、今まで平坦な喋り方でまるでAIか何かのようなダンジョンコアさんの声が、確実にテンションが上がってるとわかるぐらいに興奮した声になる。


 あれ、もしかして選択間違えたかな?


 俺は一抹の不安を抱きながら、ダンジョンコアさんの話に耳を傾けた。



『良いですか?マスターの案だけを採用するなら、まずは宝物を設置してマスターがそれを開け、中から武器を手に入れる事が最優先です』


「武器?」


『はい、武器です。現在マスターは武器をお持ちではありません。それに加えその肉体は非常に貧相で、見てる此方が思わず肉を恵んでしまいそうなぐらい醜いものです』


「スルーするね。それで武器を手に入れたあとはどうしたら良いの?」


『芸人魂が泣きますよ?

武器を手に入れたあとは次にモンスターを召喚させます。そして召喚したモンスターを倒してください』


「俺は芸人じゃないよ!ただの学生だよ!!……ハッ!


……………それで?でもそれって危なくない?」



 もし狙ってあんなことを言ったならダンジョンコアさんって人を乗せるのが上手いかもしれない。 ツッコまないって言った直後にツッコミを入れてたら、確かに芸人って言われても仕方ない。


 ツッコミたくないのに反応しちゃう!



『何を考えているかは知りませんが、何故かこう言わないといけない気がしました。


気持ち悪いです。


(敢えて)言い忘れていましたが、マスターが私を守れば最悪マスターが何度死のうと何度も生き返ります。マスターの復活にはLPを使用しますが、それは私のマスターへの好感度で復活までの早さが変わってきます。好感度が高ければ高いほど、その分消費LP量が増えますが…。


ですので現時点でのマスターは、復活に時間は掛かりますが消費LP1と低コストでゾンビアタックが出来る事になります』


「本ッ当に初対面の俺に対して言いたい放題だよねダンジョンコアさん!!しかも俺を罵る時に声に張りが有るのがムカつくな!その癖俺の指示にはしっかりと従うし!


君は俺の事が好きなのか嫌いなのか、どっちなんだよ?!


………仮にそのゾンビアタックが成立したとするけど、え?普通に嫌なんですけど」


『…………………どちらかというと嫌いですよ?


……話を続けます。この作戦を行うのにはしっかりとした理由が有ります。この作戦の大きな目的は私のレベルアップが最大の目的です。


私がレベルアップ。つまり大きくなることでマスターと私の出来ることが増えます。現時点では本当に何も出来ないので、私をレベルアップさせるぐらいしか出来る事がありません。


現在のLPで出来ることは3つ。

宝箱を設置するか、モンスターを召喚するか、マスターに死に続けてもらうかしかありません」



 あぁぁ!もう!!なんなんだよ今の間は??!しかも曖昧な嫌いですよ?って何?!!

演技か?演技なのか!?それともガチなのか!!?


 ……今はそんなことどうでも良い。そういう事にしておこう。それよりも今は、さっきから俺を殺したがってる件についてダンジョンコアさんに言及することこそが最も重要だ。



「さっきから事ある毎にダンジョンコアさんは俺の事を殺そうとしてきてるけどさ、それなんでなの?


この際俺がヘタレでも優柔不断でも何でも良いからさ、なんでそんな俺を殺したがってるのか教えてよ」


『か、勘違いしないでください!別に私はマスターを殺したい訳ではありません!!


もしその気なら、そもそも武器を手に入れるなんて提案せずモンスターの部分だけ言っています!武器の入手方法なんて話しません!!それに、確かに死に続けていただくと言っていますが、死んで欲しいとは一言も言っていません!!


武器の入手方法を話しているのですから、私がマスターを殺したいなんていう勘違いをしないでください!!!!』



 …………………キャラ付けかな?それとも狙ってるのかな、このダンジョンコアさんは。どちらにせよこのダンジョンコアさんの事が少なからずわかったような気がする。



「…………ダンジョンコアさん気付いてる?ダンジョンコアさん、俺の事が少なからず好きだと思えるような発言をしていることに」


『…………………は?何を言っているのでしょうかこの糞マスターは。気持ち悪いの極みです。何処をどう曲解すればそんな怖気の走る発想が出来るのですか?

そんなありもしない妄想をする前に、現状の進展の為に私の話を聞くことに集中してください』


「……そうだね。わかったよ。ごめんなダンジョンコアさん。ダンジョンコア的に"気持ち悪い怖気の走る発想"をしてしまって。


説明を続けてもらえるかな?」



 なんだか、ダンジョンコアさんが可愛く思えてきた。



『……なんですかその物言いは。聞き分けも良いですし素直ですし…。本当に気持ちの悪いマスターです。

何ニヤニヤしているのですか!醜悪過ぎます!今すぐその顔をやめてください!!


……もう知りません。話も此処で終わりです』



 おっと、どうやら表情(かお)に出てたらしい。

 此処で説明を終わられると俺もダンジョンコアさんも困る。



「ごめんごめん。俺が全面的に悪かったから説明を続けてくれよダンジョンコアさん。俺の頭じゃダンジョンコアさんには敵わないし、俺にもダンジョンコアさんにも良いこと無いからさ」


『………なんですかその露骨な持ち上げは?不快ですよ?


……不快ですが、何故か悪い気はしません。それにマスターの言っている事は事実です。


…続きを話します。

私は何も、無意味な事を言っている訳ではないのです。マスターには現時点で出来るダンジョンや私やマスターに関する事を話させていただきましたが、正確に話していない部分も有ります。頭が普通以上に良い方なら気付く事なので省いたのですが、どうやらマスターは頭が良くないようなので改めてその都度説明させていただきます。


今回はダンジョンの大きくさせる方法の時にお話ししなかった事を用いた方法です』



 ダンジョンを大きくさせる方法?それって確か、



「LPを使用したりダンジョン内で生物が死ぬことで集まるLPが溜まる……ってヤツだっけ?」


『Exactly. その通りでございます。

ダンジョンが大きくなる方法は、マスターにわかりやすく言うとEXP(経験値)を溜めてレベルアップと同じ原理です。

この時の"ダンジョン内で生物が死ぬ"というのは、召喚されたモンスターやダンジョン領域に侵入して来た生物は勿論、ダンジョンマスターが生物なのであればダンジョンマスターですらEXPとして換算されます。


勿論EXPへの変換率は召喚したモンスターやダンジョン領域に侵入して来た生物、ダンジョンマスターへのダンジョンコアの好感度で大きく変わって来ますが、今回は変換率は無視してレベルアップさせる事だけを考えて頑張っていただきます』



 ……えっと、つまり今までの話を整理すると、俺か召喚したモンスター、どちらかが死ねば死ぬほどダンジョンが大きくなって出来ることが増える。

 俺が無手の状態で死ぬのはダンジョンコアさん的には許容出来ないから、まずは宝箱を設置して武器を手に入れろと……。


 こういう事で良いのかな?

 確認の為にダンジョンコアさんに確認してみる。



『納得出来ない解釈部分が有りますが、概ねExactly. その通りでございます』


「ちなみにこれ以外の方法は?具体的には俺が痛い思いや恐い思いをしなくて良さそうな方法」


『いくつかございますが、そのどれを選んでもまずマスターのその望みが叶えられる事は無いかと。


マスターもいつ殺されるのか、いつ私が破壊され本当に死んでしまうのかわからず、恐怖に震える日々をおくるのは嫌でしょう?』


「…………………そっか。」



 マジか…。マジか……。……マジかぁあああ!マジでそれ以外方法無いの!!?

 確かに嫌だよ!ビクビクしながら恐怖に震える日々を過ごすってのは、どんな存在でも続けられる訳がない!!


 でも!それでも!それでもその方法はしたくない!!だって、要するに命のやり取りって事でしょ?!!

 平凡で平和な日本の高校生してただけの俺が、いきなり異世界の生物と武器を持って命のやり取りをするなんて無理!!

 俺にはそんなこと、どう頑張っても無理!!!!




 ………………………でも、やらなきゃ殺られるしかないんだろうな…。

 別に俺は、オタクとか呼ばれてる奴等みたいにアニメや漫画を深く嗜んでる訳じゃない。友人との話を合わせる為に、ドラマや超有名なアニメ作品を観るぐらいしかソッチ系の娯楽に触れることもない。


 それでも、"やらなきゃ殺られる"っていう台詞は聞いた覚えがあって思い出したし、"やらなきゃ前には進めない"って言葉が俺の中から出て来た。


 ……………これが生存本能ってヤツなのかね?

 …………腹を括るしか、ないのか…。



『……………何を悩んでいるのかは、そのオークのような醜い顔を見ればわかります。


ですがあらかじめ言っておきます。

最終的に決めるのはマスターです。マスターが決定し、マスターが実行するんです。


私はマスターがスムーズに事を行えるように補助するための存在だとお考えください』



 毎回の悪口を言いながら、明らかに俺の事を想っての言葉だとわかる事を言ってくれる。

 使われた言葉はとても厳しいものだけど、そこには確かに俺の為に言ってくれていることがわかる何かが有る。


 ……………なんだっけ?学校の友達かヤンキー、教師か裁判所の人だったっけ?


 「極論だが生物の死は早いか遅いかの違いしか無い」


 だっけ?聞いた時はコイツは駄目な奴だなんて思ったけど、今の状況って要するにそういう状況だよな……。

 ……此処は俺の住んでた国でもなければ世界でもない。その上死が身近にある魔境だ。



 ……………………俺の中で覚悟が決まった。



「ダンジョンコアさん……?」


『……………なんでしょう、便秘顔マスター?』


「現在のLPと宝物設置に使うLPとモンスター召喚に必要なLP量を教えて」


『現在のLPが10000で宝物設置が300、現在出来るモンスター召喚が100です』


「……そっか。じゃあ宝物設置場所の指定って出来る?」


『出来ますがその場合更に200LPを消費することになります。

尚宝物から出てくる物は開けた者の幸運度(ラック値)次第です』



 ……つまり、あとは本当にやるだけって事か。

 覚悟が決まったとか言ったけど、やっぱり恐いものは恐い。いやでもやらないと今度はそれが日常になるし……。



『その便秘顔をさっさとやめてください汚ならしい。

そんなに優柔不断なのであれば良いです。わかりました。私がやらせていただきます』


「えっ?いや、ちょっ、えっ?!」



 俺が悩んでいる間に、焦れたであろうダンジョンコアさんがいつの間にか俺の前に宝物を設置していた。

 その瞬間、俺の中から何かが抜ける感覚がした。


 本当に使っちゃったんだな……。



『さぁマスター、あとはその箱をマスターが開けるだけです。


そして武器を手に入れ召喚したモンスターと戦ってください』


「…………………………………………………ハァー……。


わかった。わかったよ、ダンジョンコアさん。今度こそ腹を括る」



 肺の中に新鮮な空気を鼻の穴から吸収して一気に口から吐き出す。それを数回繰り返したあと、俺は目の前の宝箱を見つめた。


 形状はゲームとかあまり嗜まなかった俺ですらわかるザ・宝箱。無駄な装飾は一切されていない、別に中にはレアな物も入って無さそうな宝箱。

 これは普通に開くけど、錠前とかで閉めるような細工もされているから、もしかしたら今から錠前の着いた宝箱とも出会うかもしれない。


 そんな不安を胸に、俺は宝箱を開けた。



 不安を抱いて開けたのが悪かったのか、ただ単純に俺の運が悪かったのかはわからない。

 でも出て来た物は最悪な部類の物だった。



【その他:飲み掛けのペットボトル】



「………………………」


『………………………』



 出て来た物に、俺を罵るのが好きなダンジョンコアさんすらも黙ってしまった。


 どうやら俺の運はゴミ並みらしい。



『え、えっと、はい。えっと、それは確か、分類が【その他】に入るアイテムですね。確かマスターの住んでいた所には沢山あった【ぺっとぼとる】というヤツでしたか。


マスター良かったですね。故郷と縁のある物が手に入りましたよ……』



 痛い!さっきまで散々人の事を貶していたダンジョンコアさんが、必死に今の俺を慰めようとしてくれているその優しさが痛い!!

 いや、それよりなんでペットボトル?!100歩譲って新品のペットボトルや空のペットボトルだったらまだ良いよ?でもなんでよりによって飲み掛けなの!!?


 俺の運って……そんなにゴミなの?有用性すら無いゴミを宝箱から出すぐらいしか出来ないの…?


 流石に少し心が折れたぞ……。



「………………………ダンジョンコアさん、次お願い」


『え、あの、マスター?そ、その、よろしいのですか?』


「俺が武器を出さないと前には進まないでしょ?だったらやるしかないよ」


『でもマスター、別に今すぐやらなくても』


「ダンジョンコアさん」


『………はい…』


「やって」


『………………了解しました…』



 それから俺はLPが残り5000になるまで宝箱を開け続けた。


 5000で止めたのは俺が武器を宝箱から出せないと悟ったから。

 そしてその残り5000でモンスターと戦う事にした。武器を持っていないことでダンジョンコアが断固としてモンスター召喚を拒んだけど、やっての一言でやってくれた。


 俺は召喚されたモンスターを飲み掛けのペットボトルや、他に出たアイテムを投げたりそのアイテムで殴ったりしてダメージを与えて倒していった。

 途中お腹が空いて水分補給もしていなかったから、1度死んでみて本当に生き返るのか試してみた。


 実際にダンジョンコアさんの話は本当で、俺は無事にこの世界に召喚された時と変わらぬ姿で復活出来たんだけど、ダンジョンコアさんに泣いたような声で2度とやらないでくださいと言われた。


 それでもEXP稼ぎは良かったようで、俺の仕事はモンスターにLPが枯渇するまで死に続ける事になった。

 この時の俺はまるで亡者のようだったらしく、ダンジョンコアさんに提案された事を謝られ2度としないと誓わされた。


 俺からすれば、それがこの時の俺に出来る事だったから別に後悔は無いし何も思わない。




 ちなみに俺が引き当てたアイテムは次の10個だった。


【その他:飲み掛けのペットボトル】

【その他:汚いハンカチ】

【その他:使った後のティッシュ】

【その他:折れた爪楊枝】

【その他:ホコリで汚れた綿棒】

【その他:ペットボトルの蓋】

【その他:炭酸の抜けきったコーラ】(何故か未開封)

【その他:50センチほどで切れた縄】

【その他:割れたマグカップ】

【その他:女性物の下の下着】


 使えたのはペットボトルとコーラとマグカップだけだったから、マトモに戦ってた最初の内は大変だったよ。

 出て来たモンスターは、確かゴブリンとかいう醜い顔で緑色をした人型で、だいたい小学6年生ぐらいの大きさのヤツばっかりだったかな。



 俺はEXPを溜める為、モンスターに殺される為にその場で立ち尽くし続けた。



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