発生─2
《御命令通り、気絶するだけに留めました》
「あ、うん。ありがとう。
えっと、じゃあ、たぶんこの辺にスッゴく偉そうな背の高い男が居ると思うから、ソイツをやっちゃって?
ソイツ、めっちゃ上から目線で偉そうで、会話が成り立たない糞野郎だから、遠慮は要らないと思う。容赦なく攻撃されたし。
あ、でも、出来そうなら生け捕りにして。自然発生した魔物に興味有るから色々調べたいし」
若干戸惑いつつアイツに命令?と、糞ナルシスト君の情報を与えると、アイツは素人目でもわかるほど殺気立った。
顔は見えないけど、見るからに纏ってる雰囲気がドラゴンさんを相手してる時よりも剣呑だ。
《直ぐ様処分して参ります》
「確認だけど、出来そうならちゃんと生け捕りにしてね。
難しいなら無理しなくて良いし。お前の代わりは居ないし、お前を失う方が損失が大きいから、呉々(くれぐれ)も無理無茶だけはするなよ」
アイツが姿を消す前に、今度はちゃんと返答する事が出来た。
アイツは一言、「畏まりました」と言って、俺の周りに剣を突き刺した。
「これは?」
《これはマスターを守る為の結界を作るための刃だとお考えください。この結界内に居る間は、全方位からの如何なる悪意ある行動も害意ある行動も退けます》
「それは…また……、凄い能力だな」
《マスターの安全を想うが故の私の我が儘だとお考えください。
マスターを一時的にでもこの場に拘束してしまう事は大変心苦しいことではありますが、これもマスターの安全の為ですのでどうかご容赦を》
「あー、まぁ、俺の安全の為なら納得だし、むしろ感謝したいぐらいだから気にしなくて良いよ。
それでお前が安心してあの糞ナルシスト君をやれるなら、俺は喜んでこの場に居ることにするよ。
ただ、終わったらちゃんと戻って来てね?流石に問題が解決しても此処から動けないってのは嫌だから」
《私の我が儘を聞き入れていただき誠にありがとうございます。
では私は、マスターの仰る糞ナルシストを殺って参ります。
私が居ない間に後ろの蜥蜴が目覚めるやもしれませんが、その中であれば万一も有り得ませんので、安心してお待ちください。
おい、私は今からマスターの勅命を遂行する。お前達はマスターをお守りしろ》
《《《リョウカ、イ、シマシターー!!》》》
他のゴブリンキング達が立ち上がって命令したアイツに向かって敬礼する。
アイツはそれを一瞥すると、俺に向けて頭を下げた後、一瞬でその場から居なくなった。
いやぁー、ゴブリンって本当に凄いなー。彼処まで強くなるのかー。
………………………………。
思わず現実逃避してしまう。
いや、これは仕方ないことだと俺は思う。
だって、だって!だってゴブリンだよ?!!
ゴブリンがドラゴンを圧倒って!しかも一方的に、しかもしかも物理で殴打して気絶させるって!!
レベルを上げて物理で殴れって言葉が有るけど、最早アイツはその域という限界という域を越えてるよね!!?
しかもちゃっかり、他のゴブリンキング達も言葉覚えてるし!!
ねぇ日本のサブカルチャー好きの皆さん。ゴブリンって、本当に弱い魔物なんですか?絶対世界最強種族の1つでしょ。
……………アイツの謎は置いとくとして。
そろそろアイツをアイツと呼称するのが段々と申し訳なくなってきた……。名前、考えてみるか…。
ネーミングセンスに関しては自信無いけど、アイツの名前になるわけだし、しっかりと考えよう。
そんな事を考えつつ、それから俺はゴブリンキング達に警護されながら、ドラゴンさんが起きるか、アイツが戻って来るかするまで、その場でアイツの名前を考えながら待つことにした。
ο───────ο
体感30分ほどだろうか?アイツの名前を考えるのに集中し過ぎて正直時間の感覚が曖昧だけど、変化が訪れた。
ドラゴンさんが目を覚ましたのである。
『あー、あーー、頭がクラクラするのじゃ……。それに頬っぺたも顎も痛いのじゃ……。
というか儂生きてる!なんでじゃ?!どうしてなのじゃ!!?いや儂、生きてて嬉しいけど!それでも儂、死を覚悟したのじゃ!!
それなのに生きてるのじゃ!!
うわーん、なんなのじゃあのゴブリン!怖かったのじゃーー!!』
目を覚ましたドラゴンさんは唐突にそんな事を言って、目元に手を当てながらわんわんと大声で泣き始めた。
よっぽど怖かったのか、小刻みに震えるオマケ付きで。
……口調はアレだけど、精神はかなり幼いドラゴンさん……なのかな?
取り敢えず、泣き止むのを待ってみるか。
ドラゴンさんが泣き止んだ辺りで、ついでにアイツが片手に何かを掴んで帰ってきた。
《マスター、ただいま帰還いたしました》
『ヒッ!あのゴブリンなのじゃ!!また出たのじゃ!!また儂、苛められるのじゃ!!
誰か助けてなのじゃーー!!』
アイツが視界に入ったからまたドラゴンさんが騒ぎ出す。
ホント、ドラゴンを泣かせるゴブリンってどんなゴブリンだよ!いや、コイツだけどさ!!
当の本人?は、片手に持ってた何かを自分の足下にまで引っ張って、ソイツの上に乗っかって、たぶん首にあたる部分を掴みながら報告してきた。
《マスターの御命令通り、糞ナルシストとやらを生捕りにしました。
マスターの仰ったように、私を見るなり殺してしまいたくなるほど腹の立つ戯れ言を宣いましたが、その精神と肉体に問い掛けたところ、今は大人しく私の手中にあります》
アイツの言う通り、ソイツはアイツの手の中に居るけど、1つ。どうしても無視出来ない疑問がある。
「えっと、"ソレ"、本当にあの糞ナルシスト君なの?
なんというか……醜い肉の塊にしか見えないけど……」
そう、アイツの言う糞ナルシスト君は、今はただの醜い肉の塊にしか見えない何かになってるんだよね。手足と頭がしっかりしてる男性用トイレのマークを、手も足も体も頭も全部を可能な限り肥大化させたような肉の塊なんだよね。
アイツの口振りからその肉の塊が糞ナルシスト君ってのはだいたいわかるんだけど、それにしたって原型が無さ過ぎる……。
《コレを無力化する際、普通の刃では斬っても殴ってもダメージにならず、いつの間にか再生していたのです。
それにより大変手子摺りましたが、刺せば再生ではなく筋肉を膨張させるか打撃を喰らう度に尋常ではないほど腫れ上がるようになる刃をコレの心の臓に刺しました。
その結果がこのような醜悪な見た目という事です。
………他の方法で無力化した方がマスター的には宜しかったでしょうか?》
「心の臓に刺したって……え、生きてるの?」
《コレは心の臓を貫かれた程度では死ななかったので恐らく大丈夫かと。
仮に死んでいたとしても蘇らせますのでご安心ください》
遂にこのゴブリン、死も超越したのかよ!
それにしても、なるほど。そういう経緯ならなんとなく糞ナルシスト君のこの見た目にも納得だね。
「いや、手段はどうあれ、お前に任せたんだ。それにお前が応えてくれたんだから、兎や角言う気は無いよ。
むしろ俺が言った通り生捕りにしてくれてありがとうな」
《感謝など!私の存在意義はマスターに使われ、マスターにこの命尽きる時まで支える事です!私はあくまで当たり前、成して当然の事を成したまでです!!
マスターに礼を言われるような事は何も…!》
「ホント、なんでお前ってそんなに強いのに、謀反を起こそうとか考えてなさそうなほど俺に従ってくれんの?
俺、普通の人間だから、お前のその忠義に甘えて色々無理難題な事を命令したりしちゃうよ?お前、それで良いの?」
思わず質問してしまう。うん。普通の小心者の俺としては当然の疑問だよね。
傷付いたかな?まぁでも、やっぱり気になるし、聞いとかないとね。
《………………私など、まだまだでございます。
それに、私は何処まで行ってもゴブリンでございます。ダンジョンマスターという地位に居るマスターにとって、いくらでも替えの利く消耗品でございます。
私という存在は、そんな消耗品の中で、1番初めにマスターにお喚びしていただいただけの陳腐な存在でございます。そんな私がマスターに反旗を翻そうなど畏れ多いにもほどがございます》
「本心?」
《当然でございます》
アイツがそう言うと同時に、アイツの唇から血が、アイツの下の肉の塊が呻きを上げた。
んー、本心なのは本当だけど、自分が消耗品な事が悔しい……って感じかな?今の様子だと。
はぁー……。ホント、なんでこんな奴が生まれちゃったかな……。
よし、後ろでドラゴンさんが頭を抱えてガタガタ震えてたり、アイツの足下で苦しそうにしている肉の塊の事も有るし、今のアイツのニュアンス的に甘えても良さそうだし、アイツが俺を信用してくれてるように、俺もアイツを信用して一歩踏み出そう!
「よし!ならこれからもよろしくヘラスフォダラー!!」
《ヘラスフォ…ダラー……?ま、マスター、何を……?》
「ヘラスフォダラー。お前の名前。」
《私の……名前…………?》
「そ、お前の名前。いつまでも名前無しのままでお前とこれからも一緒に居るのは、流石に俺が嫌なんだよね。
言ったでしょ?お前の代わりは居ないって」
俺がそう言うと、アイツは俯き、肩を震わせ始めた。同時にポタポタと雫が落ちる。
《これ゛がらも!マスターに!ごれま゛で以上に!支え゛ざぜでい゛ただごうと思いまず!!》
「うん、これからもよろしくヘラスフォダラー」
【種族名ゴブリンキングの無限の可能性を備えた個体に名前が付きました
以降、彼のモンスターの名を〈ヘラスフォダラー〉とし、この世界最初のネームドモンスターとして、その名は世界に刻み込まれました】
ヘラスフォダラーが泣きながらヘラスフォダラーという名前を受け入れると、頭の中にそんな通知がされた。
世界に刻み込まれましたって…。んー、自分で考えた名前だけど、こんな名前を誰かに付けるって、日本に居た頃なら中二病って呼ばれそうだな……。
でもまぁ、日本に居た友人や知人がコッチに来るなんて有り得ないし、本人は泣いて喜んでくれてるし、俺も付けた名前を気に入ってもらえたようだし、良しとしよう。
さて、それじゃあ今から、当初の予定通り、ドラゴンさんや糞ナルシスト君の事を解決しようか。
「じゃあ早速、ヘラスフォダラー。その肉の塊を会話出来るようにして」
ヘラスフォダラーは糞ナルシスト君を掴んでいる方とは反対の手で目元を拭って力強く返事をしてくれた。
返事をすると共に、目元を拭った方の手にいつの間にかナイフを数本出して、それを糞ナルシスト君の後頭部と思われる場所、首と思われる場所、心臓と思われる場所、腰と思われる場所に1本ずつ突き刺していった。
すると膨らんでいた体はみるみる内に萎んで行き、あっという間に元の糞ナルシスト君になった。
服については今は無視する。
《起きろ》
ヘラスフォダラーがうつ伏せになってる糞ナルシスト君の顔のある方の地面を、小さなクレーターが出来るほど強く殴る。
殴ったことで飛び散った土の塊が糞ナルシスト君の顔に当たって、糞ナルシスト君の顔が歪む。でも起きる様子がない。
《起きろ》
ヘラスフォダラーが、今度は糞ナルシスト君の髪を掴んで持ち上げ、直ぐ様地面へ叩きつける。
流石にそれほどの衝撃があれば必然、気を失ってたり寝てるなら目が覚める訳で、糞ナルシスト君は目を覚ました。
「クソッ……なんだあのゴブリンは……。この俺を一方的に攻撃するなどあって良い訳が……」
《おい》
ヘラスフォダラーが喋ると、糞ナルシスト君の体がビクッとした。
それでゆっくりと後ろを振り返ってヘラスフォダラーの事を視界に捉える。
《私が、お前が、なんだって?》
「いえ!何でもございません!!サー!!」
おぉう、完全に小物な舎弟だな糞ナルシスト君。起きた直後の不遜な態度と言動は何処へやら、完全に降参してる。動物なら腹見せてるレベル。
《貴様は私より弱い。私より圧倒的弱者だ。貴様は私には一生敵わない。
わかるな?》
「と、当然でございます!サー!!」
おい、言い淀むなよ!完全に不服じゃん!もうちょっと隠そうよ!!
《そうか…。まだ自分の立場がわかっていないのか……。
本当は今すぐ貴様の性根を叩き直してマスターに支えるに相応しく造り上げたい…が、今そのマスターが貴様に用事があるようだ。
マスターと話せることを光栄に思いながら、素直に真摯にマスターの質問に答えろ。
さもなくば即刻殺す》
「さ、サー!イェッサー!!」
《お待たせいたしましたマスター。準備が整いました》
ヘラスフォダラーが糞ナルシスト君の髪を掴み上げ、俺に顔が見えるように持ち上げながら言う。
おぉう、ヘラスフォダラー、君、本当に有能で優秀だわ。
さて、じゃあヘラスフォダラーに感謝しつつ、糞ナルシスト君に色々聞いていくか。
「やぁ糞ナルシスト君。さっきはよくも一方的に甚振ってくれたね。かなり痛かったよ」
「……貴様は!」
糞ナルシスト君が俺を忌々しそうに睨みながら俺の事を呼ぶと、糞ナルシスト君の頭が地面に沈んだ。
まぁ、やったのはヘラスフォダラーなんだけど。
《"貴様"、ではない。貴様なんかよりも尊い私のマスターだ。敬意を払え》
「ヘラスフォダラー、たぶんキリがないから今は良いよ。今後俺を殺そうとしたり、俺を利用しようとしない限りは取り敢えず放置で良いから。」
《…………マスターがそう仰るなら……。
おい、マスターの寛大なるお心に感謝しながら、今度こそ素直に、真摯に答えろ》
「クソッ……」
うーん、コレ、ちゃんと会話が出来るのかな?
まぁ、取り敢えず質問していくしかないか。
「さて糞ナルシスト君。色々聞きたいけど、1度に聞いたら君も困ると思うから1つずつ聞いて行こうと思う。
君、最初からかなり上から目線で俺の言うことを聞き入れてくれなかったよね?なんで?」
「…………………」
「黙秘ってこと?それとも答えたくない?」
「死ねゴミ」
糞ナルシスト君が言うや否や、糞ナルシスト君の手足が宙を舞って、尚且つ後頭部に夥しいほどのナイフが突き刺さった……。
んー……。
「ヘラスフォダラー……」
《マスター、流石に今のは感化出来ません。それにこの汚染廃棄物はこの程度では死にません。首を胴体から切り離し、心の臓を貫いても生きているのでご心配は無用です》
汚染廃棄物とか、何処で覚えたのさヘラスフォダラー……。
にしても、なるほどね……。それならこのぐらいなら大丈夫なの…かな?
いや、それにしても、本当に話が出来ないなこの糞ナルシスト君。どうしよう?
…………先にドラゴンさんの方と話そうかな。
「ヘラスフォダラー、先にドラゴンさんと話して来るから、この結界解いて。
俺がドラゴンさんと話している間は、その糞ナルシスト君と会話が成り立つようにしといて」
《畏まりました》
ヘラスフォダラーが返事をすると同時に地面に突き刺さっていた剣はすうっと透明になって消えていく。そして完全に消えると、俺を覆っていた結界も綺麗に消えた。
「ありがとう。じゃあよろしくね」
《御意》
糞ナルシスト君の事はヘラスフォダラーに任せて、ドラゴンさんへ向けて歩き出す。歩き出すと同時に、今の今まで結界の周りで待機していたゴブリンキング達も、俺を囲うようにして歩き出した。
「あれ、お前達も来てくれるの?」
《ヘラ、スフォ、ダラーサマ、メイレイ》
「あ、うん。もしかして、嫌々?」
《ヘラ、スフォ、ダラーサマ、メイレイ》
《ヘラ、スフォ、ダラーサマ、メイレイ、ゼッタイ》
《ヘラ、スフォ、ダラーサマ、マスター、アンゼンカクホ、イノチヨリ、タイセツ》
「そっか。じゃあ、君達もよろしくね」
んー、どんどん俺の周りがゴブリンで固められていくな……。
いやまぁ、別にソレは良いんだけどさ。
とかなんとか、そんなことを話している内にドラゴンさんの目の前に着いた。
「ドラゴンさーん!俺と話しませんかーー!?
あなたが怖がっているゴブリンキングも!俺と話してくれたら、あなたに攻撃したりしなくなるかもしれませんよーー!!」
『ほ、本当か!!?本当なのか人間!!
話す!話すのじゃ!!だからあのゴブリンを儂に消しかけないでほしいのじゃ!!』
おぉっと、コッチは糞ナルシスト君とは比べ物にならないぐらい、素直に上手くいくな……。どんだけ怖かったんだろ……。
「えっとそれじゃあ!ドラゴンさんはさっきこの世界に生まれた訳ですがー!何かしたい事って有りますかーー!?」
顔までの距離が遠いから、必然的に叫ぶ形になってしまう。正直咽が痛い。
『したいこと?別に無いのじゃ。
強いて言うのなら、この世界に有るダンジョンのダンジョンマスターに会いたいのじゃ』
いきなり俺かよ!
……もし俺がダンジョンマスターって知られたらどうなるんだろ…。
わからないなら聞いてみよう。
「ダンジョンマスターさんに会ってー!どうしたいんですかーー!?」
『儂をダンジョンマスター殿の庇護下に置いてほしいのじゃ!』
俺の庇護下ぁー?
「なんで庇護下に入りたいんですかーー!?」
『そんなの決まっているのじゃ!ダンジョンマスター殿の庇護下に入って、あのゴブリンから儂を守ってもらうのじゃ!!
本当はダンジョンを攻略してダンジョンマスターを支配下に置いて、ダンジョンをわしの物にしたかったのじゃが、あのゴブリンのような強い存在がうじゃうじゃ居そうな世界に居るなど、怖過ぎるのじゃ!!
儂、生まれたところなのじゃから、すぐに死んだりはしたくないのじゃ!!
もっと生きたいのじゃ!!
その為にも!あのゴブリンが来たりしないようなダンジョンの奥。つまりダンジョンマスターの居る所に匿ってもらうのじゃ!!もう儂!ダンジョンの奥に引き籠もるのじゃ!!
わかったか人間?!わかったのなら早く儂をダンジョンマスターの許へと行かせてほしいのじゃ!!早くしないとまたあのゴブリンが儂を殺しに来るのじゃぁああ!!』
ドラゴンの威厳なんて無かった。
そう言わざる負えないほど、ドラゴンさんはヘラスフォダラーの事を怖がってた。
最初の目的は兎に角、今のドラゴンさんの目的なら俺やダンジョンに被害は無さそうだ。
ヘラスフォダラーさん、マジパネェっす。
よし!じゃあそういう理由なら、ドラゴンさんを早速引き入れよう!
ドラゴンさんが居れば、糞ナルシスト君も大人しくなるだろうし!!
「そんなにダンジョンマスターの庇護下に入りたいんですかーー!?」
『当たり前なのじゃ!
それより……本当にもう良いか?儂、本当にあのゴブリンが怖いのじゃ……。
ほら、今もお主等の後ろでお主と似た者を一方的に甚振っておるのじゃ……。怖いのじゃ……。緑の鬼が来るのじゃ……。儂を襲いに緑の鬼が来るのじゃ……。
儂、良い子にするから襲いに来ないでほしいのじゃーー!!』
そこまで言うと、ドラゴンさんは小さいく縮こまり(まぁ縮こまっても十分デカイけど)、頭を抱えてプルプルと震え始めた。
もう完ッ全にヘラスフォダラーがトラウマになってるな……。
これなら問題なくドラゴンさんを仲間に出来そうだね。
『マスター、ドラゴンを仲間にするのですか?』
おぉう!!ドラゴンさんの事を考えてたら、急にダンジョンコアさんが顔の真横に出て来たよビックリしたぁー!!
「ダンジョンコアさん!急に現れたら心臓に悪いよ!!」
『知りません。そんなこと、私には関係ありませんので。
それよりマスター、質問を繰り返しますが、ドラゴンを仲間にするのですか?』
相変わらずのドライっぷりは最早感心するな……。
「うん。ヘラスフォダラーが怖いみたいだし、ダンジョンマスターの庇護下に入りたいみたいだし、糞ナルシスト君への牽制にもなるしね」
『それならばドラゴンに顔をマスターの前に持って来るように言ってください。
そして顔がマスターの前に来たら、触れて魔力を流し、ドラゴンの魔力をマスターに流してもらってください。
それが終わったら、最後に、ドラゴンにダンジョンマスターの配下になると宣言させればドラゴンはマスターの配下となります。
それではマスター、私は私達が会った場所に戻りますので、後は頑張ってください』
「え、ダンジョンコアさん、一緒に居てくれるんじゃ」
言ってる間に、ダンジョンコアさんは言うべき事は言ったとばかりに現れた時と同じようにその場から姿を消した。
……久し振りに話したとはいえ、なんか、なんか違和感があるな…。どうしたんだろダンジョンコアさん?
ダンジョンコアさんの様子がおかしい事についてはこのあと戻ってから聞くとして、目の前で震えるドラゴンさんについて考えようか。
「ドラゴンさーーん!俺から1つ、提案が有るんですがー!聞いてくださいませんかーー!?」
『怖いのじゃ。緑の鬼が来るのじゃ。空から来るのじゃ。地から来るのじゃ。儂を殺そうと刃物を光らせてるのじゃ。その刃物で儂を斬り刻んで来るのじゃ。指が無くなったのじゃ。手が無くなったのじゃ。足が無くなったのじゃ。首を斬られ掛けたのじゃ。魔法で治した傍から斬られたのじゃ。攻撃の手が緩んでも関係ないのじゃ。緑の鬼が来るのじゃ。緑の鬼が来るのじゃ。緑の鬼が来るのじゃ。緑の鬼がぁぁあああああああ!!!!』
自分からドンドントラウマを掘り返してより一層震え上がるドラゴンさん。
俺の声ももう聞こえてないみたいだ。
ドラゴンさんをどうにかしないと駄目だけどこんなだし、糞ナルシスト君の方もどうにかしないと駄目だけどヘラスフォダラーがまだ報告に来てないって事はまだどうしようもないし、俺、どうしよう……。
出来る事が無くて、現在のこの場の状況に俺は立ち尽くすしかなかった。
ヘラスフォダラーの名前はドイツ語のヘラオスフォルダラー、日本語で挑む者から来てます。