フロンティアのゲートを開いた虫
食品の買い出しに、車で10分。
近いと言えば近いが、田舎暮らしはそれでもマイカーが必要だ。
そして、買い物に出ればだいたい寄ることになる、地元のテレビ塔。
某チャンネルの電波塔が立っているのでそんな呼び名だが、実際はただの山で、正しい山名はほぼ誰も知らない。(僕は43年生きて、そこである事件に出会って、それが初めて「大岳山」だと知った)
その麓に車を停め、運動がてらに30分ほどでいつも登りきる。
変わらない日常だ。
「あっ! 何だコイツ?」
いや。初夏という、文学にはなかなか魅力的な季節を迎えるにあたって、野山の虫はさざめき合うように木々の合間を飛び交っていた。
その、一匹が。
「目に入ってくるなよ、めんどくさいなあ・・・」
鬱陶しくひゅんひゅんと視線の前で踊っていた羽虫が、瞼を閉じた瞬間、死んでしまった。
ピチッ。
「・・・」
こいつ・・・瞬きで死んでしまうくらいなら、何で近寄って来るんだよ。
そんな思いが生まれたが、彼にも彼の願いがあるのだろう。
人間の涙袋に、卵でも産もうとしたのかもしれない。
どのみち洗顔でウォッシャブルされることになるのだが、そんなことは虫には関係ない。
あまり考えない男が美人とヤればあとはどうでもよくなるように、何しろすべての動物的命題は、「そこまで」にあるのだ。
そしてその時、あるゲームの記憶が頭をよぎったのだった・・・。
タイトルは確か、『フロンティア・ゲート』。
内容は、さほど人気を博したものではない。それでも一ヶ所だけ、強く印象に残るシーンがあったソフトである。
・・・さる開拓地に夢を求めてやって来た主人公は、その地で先に名を上げていた有能な闘士に、訊かれる。
「ーー君は、何を求めてここに来た?」
この質問に、主人公は答えられなかったのだ。
これが痛手だった。
ただ自分の力を試したかったのか。それとも、名誉や利益を求めていたのか。
とにかく、彼は現地の「ギルド」に紹介されたその男の手引きで、冒険を始める。
旅は厳しいものだった。
敵に簡単な相手はおらず、仲間を選りすぐって、少しずつクエストをこなしていく。
おそらく、プレイヤーに配慮してのことだろう。
主人公に個性はなかった。
感情移入しやすい代わりに、幾人かの人々が、その求心力のない旅から離れていった。
しかし彼は、いや「君」と呼ばれた男は、最後に辿り着いたのだ。
理想郷へ。そして、英雄がかつて辿った軌跡から、最悪の狂獣ーー ”アストラデウス”へと。
・・・それは、まさに逸話のままにしておかねばならない、冥府の底に棲む悪魔だった。
畏怖をおぼえる体躯、圧倒的な攻撃力、そしてパーティーを戦闘初期値に保つことすら困難な、死闘が永遠につづくような地獄の邂逅。
すべてを諦めかけるような魔獣の攻撃を受けながら、それでも数十時間を費やしてきた積年の思いを込め、君はやがて ”狂獣” を撃破する。
名もない戦士見習いに過ぎなかった男が、英雄になった瞬間だった。
ーーそして、この淡い魅力のソフトが、本当に輝き出すのが、エンディングでのことなのである!
・・・男はギルドに戻った。
英雄として。また、一介の戦士として。
けっして踏破されることのない地ーーあくなきフロンティアワールドは、いつだって挑戦者を求めている。
そこで、新たな夢を求めてやって来た若者に、今度はあなたが、微笑みかけることになるのだ。
「ーー君は、何を求めてここに来た」
そこで、エンドクレジットが・・・
ふいに思い出したけれど、素晴らしい構成のゲームでした。
面白さはまあ、中の上くらいなんですけど・・・
ちゃんと区切りをつけて、間延びしていないカタルシスを与えてくれる作品は、それほど多くないですもんね。
虫の話から逸れまくってしまいましたが・・・セリフ繋がりということで、ご容赦下さい。
では、本当に徒然になってしまいましたが・・・失礼いたします!