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Villain:Side  作者: 昼の星
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041,死出の森 scene2

 国防のために建てられている砦を守る、という側面だけを見れば、ハンターが参加を禁止されている戦争に加担しているようにも見える。実際、そういう側面はハンターたちの心情にもあるらしいことは、さきほど話しかけてきた恰幅のいいハンターの口振りからもわかった。


(どうも辺境伯が慕われているってのは本当らしいな)


 しかし、魔物の相手をするのはハンター、というのも一般的な感覚に間違いはなく、森に現れる魔物をハンターが排除する、という表面的な部分だけを見ればこの依頼には何らの問題も存在しない。もし何か口出しをしてくる者がいるとすれば、帝国側くらいのものか。それも、ただの言いがかりだと跳ね除けることは容易だろう。


(辺境伯だの王国だのに協力する義理はないが……)


 先日の騎士の姿を思い出す。偽装だとすれば大したものだが、その可能性を考える必要性はあまりないだろう。仮に何者かの仕業に見せかけるのなら、目撃者を残しておくほうが良い。それも、雇われの下っ端ハンターなどではなく、忠実な従者などを、だ。

 つまり、奴らは偽りなく王国の人間ということ。王国の人間に手を貸してやる気にはならない。

 もちろん辺境伯とて王国の人間ではあるが、どうも国王のおわす王都とは反りが合わないらしいと聞く。そうなると男も、俄然、辺境伯の肩を持ってもいい気になってくるというものだ。

 だが厳密に考えれば、肩を持つことそれ自体はともかく、北東の森に魔物を狩りに行くことは、王都への敵対行為に繋がるものではなく、どちらかと言えば帝国への敵対に協力するようなものだ。王国全体の利益に結びつくと考えると、男の口からは自然とため息が漏れた。


(あー、めんどくせ)


 気がつくと、男は北東の森の魔物退治の依頼を引き受けていた。

 受注の際に提示したのはラットとしての銅級証だ。受注要件が銀級以上だったとしたら、依頼は受けていなかっただろう。さすがに昨日の今日でマウスの生存を記録させるわけにはいくまい。

 これといった装備の不足もなく、ギルドを出た男は早々に宿を探した。一階が酒場にもなっている宿に宿泊を決め、部屋の片隅で男が影に同化するように食事をしていると、そこかしこから帝国の侵攻に関しての話が漏れ聴こえてきた。

 どうやら帝国側は第一皇子が攻め寄せているらしい。

 帝国は皇位継承権の順位などは厳密でなく、多くの手柄を立て、多くの臣下を従えた者が即位すべしという、いかにも内部分裂して他国につけいる隙を作ってくださいと言わんばかりの制度を採用している。そのため、帝国の第一皇子というのは、現皇帝の第一子という意味をはみ出さないものなのだが、どうも現代の第一皇子は跡目争いにおいても第一候補であるらしい。

 酒場で管を巻いている……と表現するにはいささか正気な様子のハンターたちは、辺境伯の実力は大陸でも随一の精強なものであり、たとえ王都の軍が相手でも引けは取らないとしながらも、これまでに何度か攻撃してきた際の第一皇子の率いる帝国戦力の練度の高さについて語っていた。

 負けはしない。希望的観測ではなく、贔屓目抜きでと、そのようなことを口にしたものがいた。そのハンターの口振りがどこまで信用できるものかは不明だが、漏れ聴こえてくる話を総合して、大方の見方がこれに合致するものらしいと知れた。

 それはつまり、両軍の実力がともに問題なく発揮され続ける限りは、という意味を孕んでいる。

 国力自体は王国が勝っており、辺境伯と国王の軋轢が致命的に深いものでもない限り、辺境伯側が形勢不利となれば援軍が送られてくるはずだ。対して帝国側は、身内で権力争いをしているお国柄、故にいくら第一皇子とはいえ援軍は期待できない可能性が高い。

 仮に現状で戦力が伯仲していようとも、辺境伯としては凌いでさえいれば相手が瓦解してくれることがわかっている状況ということ。

 北東の森の異変とは、そうした状況に突如として降って湧いた不安の芽といったところか。

 異常発生しているという魔物どもが森でおとなしくしていてくれればいいが、何かの拍子で辺境伯軍が襲撃された場合、伯仲していた戦力比が帝国有利へと傾いてしまう恐れがある。

 辺境伯が慕われているというのは、地元の連帯感からは一歩外に置かれることの多いハンターにも共通のようで、話しているハンターたちの中の何人かも、近く北東のフィリーズ森林へと魔物退治に赴くと息巻いていた。

 食事を終えた男は、そんなハンターたちを尻目にひっそりと部屋へ引き上げた。



 翌日。左腕もいよいよ全快した男は晴れやかな気持ちで宿を後にした。あこれやこれやと考える必要なく、存分に剣が振るえると思うと、足取りも自然と軽くなった。考えてみれば、依頼など関係無しに勝手に魔物の生息地にでも赴けばいいだけの話ではあるのだが、やはり背後関係が己の意図に合致していることが大きい。

 ただの一ハンターとして思う存分戦え、その結果が、自分を攻撃してきた王国の連中への嫌がらせに繋がる。

 懸念としては、本命の標的であるブレナスにとって有利に働くことなのか、不利に働くことなのかが判然としないことだ。王都の連中に襲撃されるということが、ブレナスが辺境伯に利する者だということならば、狩りの対象を変えなければならない。


(まぁ、そんなことまでわからんし、知らん)


 実際、どうせ男ひとりが動いたところで、大勢に影響など与えられるはずもない。考えるだけ無駄というもので、それならいっそ考えなしで気持ちいいほうがマシというものだ。

 大通りへ出て、町の出入り口近くにある馬車の係留所へ向かう。そこから現地近くまで行く馬車が用意されているためだ。

 ハンターが依頼で遠出をする場合、普通は移動手段は自前で用意する。男であれば基本は徒歩だ。しかし今回の依頼に関しては、背景事情が関係しているのか、依頼を受けるハンターを移送してくれるというのだ。あるものを利用しない手はない。

 同道するらしいほかのハンターが乗り込んだのを見て、男も荷台に足をかける。馬車は幌がついているもののそれほど大きなものではなく、中は乗客が向かい合うような形で腰掛ける段差が設えられている簡素なものだ。

 男は四隅の内、空いていた荷台後方の隅に腰掛けた。

 おそらくはギルドから委託されたであろう御者二人がほかの参加者を確認した後、馬車は町を出発した。

 荷台にいるのは、三人組みらしいまだ年若い男女混合パーティが一組と、男と年齢的には大差なさそうだが、体格が良くいかにも肉体派らしき男性ハンターが一人。男も含めて三組計五人のハンター。


(どいつもパッとしねぇな)


 おそらく男以外のハンターたちも、男を見て同じようなことを考えているだろう。もしかしたら、怪しげな奴だとでも思っているかもしれない。ハンター連中ならば、仮面をつけた人間くらいそれなりに見慣れてもいるだろうが。

 傍目から実力を測るのに、明確な指標はない。少なくとも男には。

 身のこなしだ立ち居振る舞いだ身に着けている装備品だと、様々理屈を見出せる要素は数あるが、実際に戦闘態勢に入っているところでも見ない限りははっきりしたことなどわからない。いや、戦闘でも本気を出しているのかどうかなどわからないし、結局、本当のところなんて早々わからない。だからこうしたパッと見での強そう弱そうなんてのは直感だ。きっと感覚は外見から拾える情報を総合して直感に結び付けているのだろうが、それをすべて仔細に検証する者はそういないだろう。だがそんな曖昧な感覚で見ていても、経験を積めばそれなりに精度は上がるのだから、人間の脳というものはよく出来ている。

 ついでに、二人の御者はただの町人だ。よほど巧妙に実力を隠していない限りは、だが。

 それからどれくらい時間が経ったか。

 パーティらしき若者たちが陣形について話し合ったり、いかにも戦士然としたハンターがわざわざ断りを入れてから座席に横になって眠ったり、男がぼうっと流れていく景色を眺めている間に日は暮れ始め、それからほどなく辺りの雰囲気が変わってきた。男が振り返って御者たちのその向こう、馬車の前方をうかがうと、遠くに聳え立つ城砦の姿を認めた。


(あれが国境警備用の砦か)


 王都を経てきた男にとっては王城の印象が強くてそれほど驚きはないが、それでも町のような建物の集合体としてではなく、単一の建造物としてはかなり巨大なものだ。

 若いハンターたちも直接に砦を目にするのは初めてだったらしく、興奮した様子で感想を伝え合っている。一人は御者台に顔を覗かせてなにやら話までしている始末だ。

 そして馬車は砦の近くで停車した。御者たちの話によると、砦を回りこんで北側にハンターたちが集まってそこを魔物退治の拠点として活動しているのだという。見れば、砦には軍属らしからぬ、ハンターらしき連中が出入りしている。砦の外壁を回りこむと、そこには軍の野営地さながらに大小様々な天幕が張られ、ざわざわと騒々しく多数のハンターが行きかっていた。ざっと見た限りでも、数十人は下らない。


「お、新入りか?」


 通りがかったハンターの一人が声をかけてくる。


「はい!」


 年若いハンターの一人が無駄に元気よく返事をする。男は密かにため息をつき、数多の天幕、その向こうに広がる深い森を見やった。茜色に照らされた濃い緑の彼方に、途方もない高さの山脈がかすんで見えた。


「ここではだれか指揮でも執っているのか?」


 通りがかりのハンターに、馬車では寝ていたハンターがおっくうそうに訊ねた。


「いや、なんとなくまとめてる奴はいるが、別に指揮を執ってるってわけじゃねえな」

「そうか」


 戦士然としたハンターはそっけなく言ってどこかへ歩いていった。やりとりを見ていた男も、何も言わずその場を離れた。ちらりと覗き見た背後では、通りがかったハンターが年少の連中をどこかへ案内していくところだった。

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