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Villain:Side  作者: 昼の星
30/55

030,Hunters Guild scene8

 ギルドを後にし、適当に町の外をうろついてから宿に戻った。すでに日は落ちかけていて、じきに夜になろうかという時間。


「あ、おかえりー」


 ラビはほとんど下着に近い格好でベッドに横になっていた。手元には見覚えのある――ような気がする――麻袋がある。男がじっとりとした視線を向けると、ラビはにやりと口角を吊り上げて胸元の布を引っ張り、麻袋を仕舞いこんだ。袋が持ち上げられたとき、じゃらり、と石くれが擦れ合うような音がした。


「そんなもん入れてたら痛いだろ」

「えー、わりと気持ちいいよこれ」


 ラビはごろごろとベッドの上を転がった。いくらラビが小柄だといっても所詮は安宿の狭いベッド。頻繁に行ったり来たりの繰り返しだ。

 仮に中身が宝石だとして、あまり乱雑に扱うと価値が落ちそうだが、そんなのは知ったことではない。

 挑発しているつもりなのかもしれないが、いまさらさほどの苛立ちは覚えない。宝石などとっくに諦めたものだし、数日後にはもうこのガキともおさらばできるのだ。そう思えばこの程度のことはなんでもない。


「そういえばいつ出発するとか決めてる?」

「あ?」


 一瞬、ブレナスの護衛の件が知られているのかと思ったが、そんなことはありえない。たんに、いつこの町を出るのかと聞いているのだろう。


「なんだ、もうこの町は飽きたってか」

「いやそんなことないけど。あんた流れもんでしょ? どうせすぐにまた別の町にいくんだろーなって」

「まぁそうだが……、お前、金あるんだから、嫌ならここで暮らせばいいだろ」

「だれも嫌なんて言ってないじゃん。ただの確認だから。ついていってあげるって言ってるでしょー?」


 ラビはベッドの上で仰向けになっていた。あばら骨の浮いた腹が露になっているが、元奴隷にしては健康的に見える。もともと、肉体労働で使い潰されそうな雰囲気でもなかったが。


「こんなうだつの上がらないハンターに嫌がらせして何が楽しいってんだ。ほかにもっとマシな趣味でも見つけろ」

「んー? んー……まぁ、たしかに。でも、そうは言ってもねぇ……」


 邪魔な分の装備を脱いでベッドに腰掛けた男が視線を向けると、ラビは仰向けのままでぼうっとしていた。瞼は閉じられておらず、天井に向けられている。が、なんとなく、天井のしみを数えているわけではなさそうだと思った。

 仲間なら。

 ここで「どうかしたのか?」なんて口にしたりするのかもしれない。

 当然、男はそんなことを口にするはずもなく、さっさとベッドに横になって眠った。



 翌朝。まだ暗いうちに寝床から這い出す。とくに気を遣っているわけではないが、せっかくの静謐な時間にあまりうるさく音を立てることもないと静かに身支度を整える。

 普段から最低限の荷物しか持たない男にとって、出かける準備が整うというのはそのまま旅にも出られることを意味する。

 暗闇に慣れた目でもまだうっすらと輪郭しかつかむことのできない室内で、ラビの姿はベッドの上にあった。薄布がゆっくりと膨らんでは萎んでを繰り返しているのがわかった。

 男がこうして早朝から行動していることは珍しくない。ラビにしても慣れたものなのだろう。ほとんど無警戒といってもいい有様だ。


(じゃあな)


 そうして男は音もなく宿を後にした。せめてもの情けとでも言うべきか。宿の支払いは済ませてある。手切れ金と思えば安いもの。とはいえ、それ以前にその何十倍、いや何百倍にもなろうかという大金に相当するものを持っていかれているのだが、それももう過去のことだ。

 男はまっすぐギルドへと向かった。まだ暗さの残る早朝だけあって、大通りでも人通りは疎らである。朝を過ごしている者と、まだ夜に取り残されている者が混在しているらしく、後者がゆらゆらと歩く様は幽鬼が未練たっぷりに彷徨い歩いているようだった。

 ギルドの朝は早い。

 すでに開かれた大扉の内側には、盛況とは言わないまでも、閑散としているとも言えないていどには人の姿があった。

 室内を照らす魔道具は、松明や焚き火の炎よりは安定した明るさがあるが、それでも太陽には程遠い。暗闇は部屋の隅のみならず、室内を歩き回る人々の全身に絡み付いていた。

 その中に、男は一人の人間の姿を見つけてしまった。

 禍々しい仮面の下で、小さく舌打ちする。

 そこにいたのは例の女。

 受付の脇でギルドの職員となにやら話をしている様子だった。受付には灯りが配置されているため、女の茶髪がよく見えた。

 暇を持て余した男がギルドの隅から眺めていると、茶髪の女はギルドの奥へと入っていき、姿が見えなくなった。

 邪魔者がいなくなったので、ギルドの受付に向かう。まだ少し眠そうな男性職員を前に男はどう伝えたものかとわずかに迷った後、「ブレナスの護衛の件で来た」と告げた。

 男性職員は一瞬、「ぶれな……?」と男の言葉をなぞったあと、はっと目を見開いてなにやら卓の向こうでごそごそとやりだした。


「ああ、えーっと、貴方様は?」

「マウスだ」

「ああ、はいっ。では等級証をお見せ願えますか?」


 乞われるままに男は銀級証を職員に渡してやった。職員は銀級証を手にギルドの奥へ向かい、やがて戻ってきた。「お返しいたします」と差し出された銀級証を、男は懐に仕舞いなおした。


「確認いたしました。ではこちらへお越しください」


 職員の案内で、ギルドの奥へと向かう。先日も通ったところだが、明るさのためかずいぶんと様子が違って見える。どことなく、戦を控えた砦の内部のような印象を受けた。


「こちらでお待ちください」


 そんな言葉とともに開かれた扉の向こうには先日、ディーゼラルドと話をしたときと同じような待合室だった。のはいいのだが、そこにはすでに先客の姿があった。


「お前……」


 そんなつぶやきとともに男を見上げてきたのは、さきほども目にした茶髪の女だ。ともにブレナスの護衛の任を勤めることになるのだから、遭遇することに不思議はないのかもしれない。が、いまいち腑に落ちない。


(こいつ、ブレナスについてなくていいのか?)


 何かの連絡に赴いていたのかと思いきや、どうもそうではなかったらしい。こうしてこの場にいるということは、男と同じように待機して、連絡がくれば駆りだされるということなのだろう。


「で、では私はこれで……」


 最後のほうはほとんど蚊の鳴くような声で言って、職員はそろそろと立ち去っていった。

 茶髪の女は、部屋の入り口から見て一番奥側の席で、今は折り目正しく座っている。今は。

 男が女の位置から一番離れた、入ってきた場所から近い席にどっかと座る。肘掛に立てた腕を頬杖にして茶髪の女に視線を向けると、女も男を睨みつけてきていた。


「ーーーっ!」


 女の顔にはどこか薄っすらと赤みが差して見えた。怒りのあまり茹蛸になってしまったのかもしれない、と男は思った。

 しかし、そんなある種の弛緩した空気は、すぐにどこかへ失せてしまった。基本的には密室だと思っていたが、思いのほか風通しが良かったのかもしない。

 代わりに充満してきたのは当然、恋人同士が漂わせるような甘ったるいものではない。


「…………」


 お互いに、相手を攻撃するとしたらどうするか。相手が攻撃してきたらどう迎え撃つか。という想定を脳内で繰り広げてながら睨み合う。もちろん、本当に茶髪の女もそうであるかは確かめるすべもなく、確かめる気もないことではある。もしかすると、さきほどのだらけた姿について悔やんでいるのかもしれない。


「……ふっ」


 思わず吹き出すと、部屋の反対側から発散される殺気がその勢いを増した。が、心配することはない。


(ディーゼラルドの言うとおりだったな)


 茶髪の女、エアデールは怒気を発散してはいるものの、実際に挑みかかる体勢は整えていない。あくまで威圧しているに過ぎない。

 それは男にしても同様。いくらなんでも、初日はおろか、まだ任務が始まってもいないうちから問題を起こすわけにはいかない。

 どれくらいそうして睨み合っていただろうか。

 お茶を用意してきたギルドの女性職員が扉を開けるなり息を呑んで立ち尽くしたり、それを見たエアデールが慌てて駆け寄ってお茶を保護したり、男にお茶を出すのを嫌って自分の前にカップを二つ並べていたり、やってきた銀級ハンターのひとりがそれを見て「え、あー、そんな急いで離れなくてもいんじゃねーの?」だの馬鹿なことを口にしたので二人して無言でブチギレてみたりしていたところ、使いの者が来て出発と相成った。

 ブレナスは従者を伴って滞在していた屋敷から馬車で門までやってくるという。男たち一般のハンターはそこで合流する。いつぞや同道した商人の若者のものとは比べ物にならない、立派な馬車が三台並んでいた。

 先頭を進み、ハンター連中が詰める馬車が一台。ブレナスと身の回りの世話のための従者、それと直接的な護衛につくディーゼラルドやエアデールが乗車する馬車が一台。さらにブレナスの部下にあたる職員や従者が乗車する馬車が一台の計三台での旅路となるようだ。男を含むハンター連中は、交代でブレナスの乗る馬車以外で警戒に当たることになった。


(なんでギルドで待機してたんだ、あいつ)


 ブレナスについて行動するのなら、最初から屋敷のほうにいれば良かったではないか。男は口に出さなかったが、ハンター連中と別れて、他のものよりも見栄えのする馬車に向かっていくエアデールの背を不可解な思いで見送った。

 出発に際し、男には最後尾につく従者用の馬車の護衛役が回ってきた。馬車に乗り込むわけではなく、後ろをついていく形で歩くことになる。当然、疲れはするが、半日もすれば交代になることを思えば、いつも一人で歩いてきたよりはずっと楽だ。

 暗闇は払われたものの、まだ朝の少し湿った空気が漂う中、町の出入り口の門を潜る。辺りは同じようにどこかへ出発していく者たちで雑然としていた。町の入り口が限られている関係で、そこから延びる道は多岐にわたる。少しの時間進んだだけで、人や馬車の密度はぐっと低くなる。

 ふと振り返ってみた町はまだまだ大きい。普段、野外で過ごすことの多い男は、建造物を目にするといつも、こんなものを人間が作ったとは思えないなと感じる。魔物から身を守るために作り上げたこの厚く、高い壁の向こうで、何千人という人間が息をしているのだ。


(気持ち悪い)


 なぜそう感じるのかはわからない。明確な理由はない。木の幹を割った瞬間、その中で蠢く無数の小虫の姿を想像するのと同じようなものだろうか。


(そんなこと、今はどうでもいいか)


 新たな面倒ごとに巻き込まれはしたものの、ひとつ、煩わしいものが失せたのだ。


「おいなにやってんだー。置いてかれっぞ」


 同じく最後尾での警戒を任ぜられたやかましい馬鹿の発言にも、いまは腹が立たない。

 結果を見れば、宝石を奪われ、面倒を見させられ、金を使わされ……。散々な有様だ。相手が相手なら、殺していたかもしれない。しかし、ラビを相手にだけは、それをしなかったことで痛み分けになる。


(それともやはり、いいように利用されただけか)


 どのみち、これでさよならだ。

 男は仮面の表面に朝日の温もりを感じながら、少し冷たい空気をマントで払って歩き出した。

ひとまずはここまでです。お付き合いいただき、ありがとうございました。

ある程度、書き溜められたら、また投稿する予定です。


キャラクターにしろなんにしろ、名前をつけるのが本当に苦手でいつも後悔するのですが、とくに今作の題名は急に決めたこともあってすごくもやもやしています。言うほど悪役してないよなーと。せいぜい冒頭くらいでしょうか。悪人には違いないと思うんですけどね。今後はもうちょっとそうした描写があれば良いかなーと考えています。考え無しに書いているのでわからないですけど。

では、失礼いたします。

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