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Villain:Side  作者: 昼の星
29/55

029,Hunters Guild scene7

 男の精一杯の虚勢。

 しかしそんなものはディーゼラルドにとって、気分を害するほどの価値もなかったらしい。大男は相変わらずたんたんと自分の調子で話しだした。


「ブレナスも言っていたが、ふだんは好きに行動してくれて構わない。だがギルドに赴いた際には銀級証を提示し、指名依頼がないかどうか確認してもらう。そして依頼があればそれを最優先に受けてもらう。これだけだ」


 好きに行動していい、などと言っているが、実際は次から次へと依頼をねじ込んでくるのではないか。そうした疑念がよぎる。だいたい、依頼の内容がどんなものになるのかがまったくわからない。


「そうか。わかった。じゃあもう行ってもいいか」


 反旗は翻す。翻すが、今すぐにというわけではない。勇気と無謀は似て非なるものだ。

 臆病さからただ言い訳をしているだけではないかという思いと、ディーゼラルドにははるかに実力が及ばないのだから現実的な判断じゃないかという思いが交錯する。思わず舌打ちしそうになるのを、歯をかみ締めて堪えた。


「いや、自由にしていいといった手前言いづらいんだが、さっそくマウスに依頼したいことがある」


 さっそく銀級ハンターとしての名前を口にするあたり、思ったよりも細やかな配慮のできる人間なのかもしれない。そんなどうでもいいことも頭の隅で考えながら、男はディーゼラルドの言葉を待った。


「ブレナスは今後、王都まで出向く予定なのだが、王国側の……不手際で、護衛の手が足りていない。そこでマウスにも同行を願いたいのだ」

「護衛、か……」


 男にも何度か護衛依頼を受けた経験はある。各地を流れていくハンターとしては、移動に際して多少なりとも収入が付いてくる依頼と考えるとなかなかに美味しい類いの依頼だ。何者かの襲撃がなければ、ほとんど働く必要がないことさえあるのだからなおさら。だが護衛対象との交流や、下位ハンターであれば複数人であたることも多い依頼であるため、人付き合いを好まない男のようなハンターにとっては敬遠したくなるような依頼でもあった。


「何か不都合があるか?」

「いや……、同行者がいるとしたらどうなる?」

「同行者……?」


 ディーゼラルドは少しだけ意外そうに目を見開いた。男にもその気持ちはよくわかる。我がことながら、こんな人間に同行者がいるとはにわかに信じ難い。


「それはどういった関係の人間だ?」

「……成り行き、というのが一番しっくりくる」

「成り行き……、事情に踏み込む気はないが、今後とも行動を共にしなければならない間柄なのか?」


 問われて男は思考する。もしかしてこれはラビの呪縛から逃れる好機なのではないか、と。相手にしているのはギルドの偉いさん。その願いを聞くためであれば、ギルド側に多少の便宜を図ってもらうことが可能なのではないか。たとえば、とあるハンターに連絡を取りたいという申し出を、いつまでも連絡が取れないと偽るようなことが。

 つまり、ラビの前から姿を消したとしても、セレネに連絡を取られる恐れがかなり低くなるということ。

 ギルドが仲介をしなければ、奴らに連絡を取り合うすべはない。街中で偶然に出くわす、なんてことがそう何度も起こることもないだろう。

 もしもラビがハンターだったのなら、いつかどこかで出会う可能性もあったかもしれない。だが、奴は所詮ただの逃亡奴隷でしかない。多少、身体能力に優れてはいるようだが、それだけだ。

「大丈夫だ。同行者とはこの町で別れる。その代わりと言ってはなんだが、頼みを聞いてもらえないか?」


「ふむ、こちらも急な頼みを聞いてもらう以上、可能な範囲で善処しよう」


 ディーゼラルドは思っていた以上に話せる。問答無用でブレナスの許へ連れて行かれたのが嘘のようだ。公平性を重視しているのか……。もしかすると、身内には甘いタイプなのかもしれない。


(俺は身内になどなったつもりはないがな)


 ギルドに所属するハンターという特殊な立場のようだが、ハンターには違いない。それらしく、たとえ新参者だとしても対等に接するべきだと思っているのかもしれない。

 どうであれ男にとっては好都合。

 ラビがギルドに依頼を出しにきた場合、受領した上で放置し、問い合わせには進展なしと偽って欲しい旨を伝える。


「言いたいことはわかった。が、伝達が面倒だ。あとで職員に紹介してやるから自分で伝えろ」

「わかった」

「では任務について説明しよう」


 そう言ってディーゼラルドは卓上に一枚の紙を広げた。ふだんは見慣れない男にもそれがなんなのかは一目で予想がつく。この町の周辺……いや、王国の地図だ。詳細な地形情報の流出を嫌ったものなのか、各町、山や森などの主要な地形の位置関係が把握できるだけのかなり大雑把なもの。


「俺たちはここ、シュペーダートを出発した後、西回りでいくつかの町を経由して王都へ向かう。その後は来た道を引き返すのではなく、帝国との境に近い北の進路を通ってギルド領まで帰還する」

「北へ回ることには何か意味が?」


 見たところ、帰りの進路だという北の道は、王都までの道のりよりも迂回するような形で遠回りに見える。王都だけが目的地であるのなら、北へ回り込まずに引き返すほうが良さそうに思える。


「この北の帝国との国境沿いには辺境伯がいるだろう」


 そう言ってディーゼラルドは王都から右へ指を滑らせ、帰還の進路上にある町を示した。男は難しい顔をしたままだ。


「知らないか? かなり有名な人物だぞ」


 現地に定住しているハンターであれば多少は違ってくるだろうが、一ハンターが国の上層の人間について知っていることなどほとんどない。せいぜいが国王の名前と領主の家名が言えるかどうか。

 だがこれはハンターのみならず、町に暮らすものたちもさほど変わらない。町によってかなり差はあるが、役職で言えれば十分、名前を知っていれば関係者か、でなければ詳しいねと感心されるほどだ。


「王国内であまりおおっぴらには言えないが、辺境伯はかなり力のある人物だ。帝国からの襲撃を幾度となく退けてきた実績があるし、領内外での人気も高い。だから……」


 ディーゼラルドは向かいの席から身を乗り出し、それまでよりもいっそう声をひそめた。


「暗愚と言われる王は、玉座を脅かされないかと気が気じゃないんだ」


 市井の人々と同様、頭がすげ変わることに何らの興味もない男でも、言われてみればどこかでそんな話は聞いたことがあるような気がした。

 広い背中をソファに預けながらディーゼラルドは息を吐く。


「で、話を戻すが、西回りで王都を目指すに当たっての懸念事項としては、連邦からの襲撃の可能性がある。といっても、ごくごくわずかなものだがな」


 言いながら、ディーゼラルドはごつい指で地図の南側を指し示す。


「そもそも王国に接している国は王国派だし、上層部とブレナスには親交がある。だが連邦は必ずしも一枚岩じゃないからな。連邦内を通って襲撃にくる反ブレナス派の人間がいてもおかしくない」


「……その反ブレナス派ってのはギルド内の別勢力ってことか?」

「いや、それもあるが、厳密にはそれだけじゃない。あいつは味方も多いが敵も多い。その中にはたしかにギルド内部の人間とか、元ギルド関係者もいるが、すでに内部にブレナスの権力を脅かす者はいない。あいつはじきにギルド長になるだろう」


 そんな人間が自分に護衛の一端を担わせるとは一体どういう了見なのか。正直、男にはよくわからない。


「昨夜ブレナスも言っていたが、本来なら警護には王国側の兵が同道するはずだった。それがこの間、急に兵は出せないと連絡してきやがった。置かれている兵を動かすことはできないとよ。大方、王都から……いや、王からのお達しだろうな。少しでも自分の守りが疎かになるのがお嫌らしい。はっきり言って心配しすぎだ。東を警戒しているんだろうが、それで南が手薄になるのも恐いってわけだ。そっちから攻めてくるやつなんざいないだろうに」


 東、という物言いは、帝国を差しつつ暗に辺境伯のことを言っているのだろう。


「で、だ。もしかするとこれは反ブレナス派の工作の可能性もある……って話らしい。詳しいことはわからんが、王に南の守りも固めたほうがいい、なんて思わせる何かを話してやれば、この状況はかんたんに作り出せる、とさ」


 つまり、環境的には襲撃の可能性は極めて低い。が、状況的には襲撃の可能性がないとは言い切れない。総じて、もしかすると襲撃があるかもしれない、ということか。


「ギルマス付きのエアデールも連れてきているが、さすがに手が足りない。今後、支部で現地のハンターも雇い入れて、ブレナスとその従者たちの護衛をする。お前には、現地の連中の一員として参加してもらいたい」


 エアデール、という名前にはさすがに聞き覚えがあった。ギルドで馬鹿げた殴り合いを演じた女ハンターのことだ。


「……エアデールのことなら気にするな。あいつは任務に忠実だ。お前が依頼で同行するのなら、問題は起こすまいと自重するだろう」


 顔に出てしまっていたらしい。いや、顔のみならず、全身に、かもしれない。

 ともあれ、しばらく同道するうえ、いわば上司と部下の関係になるのだから、いろいろと我慢する必要がある。


「依頼の内容はわかった。あのお……エアデール、のことも気をつける」


 何も難しいことはない。ただブレナスご一行様についていくだけのかんたんな仕事。襲撃の可能性がどうとか、そんなことは男にとってはどうでもいい話だ。仮に危険に過ぎると思っても、従うほかにないのだから、考えるだけ無駄というものである。ディーゼラルドはもちろん、あの女と協力して襲撃に備えるなどという気もさらさらない。


「では、よろしく頼む」


 その後、ディーゼラルドに職員を紹介してもらい、ラビの件……もとい、セレネの件を説明した。セレネは銀級。その存在はギルド側に把握されている。

 仮面を着けた怪しい男が、女性ハンターに連絡を取ろうとする少女に嘘をついて誤魔化してくれ、という願いだ。内容を把握した職員は険しい顔をしていた。ギルド内の力関係は知らないが、不服な命令を実行させられている、というのがよくわかる表情だった。

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