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Villain:Side  作者: 昼の星
26/55

026,Hunters Guild scene4

 何はともあれ宿を出てふらふらと歩き出した。それとなく視線を巡らせながら思考する。

 一日を費やすと言っても、時刻はすでに昼過ぎ。捜索できる時間はもう半日もない。

 実際のところ、そもそも本気で見つけようという気もないのだ。それはすでに諦めていて、セレネを迎えうつ覚悟を決めたというのが実情。ラビを探すなんてのは、見つからなかったという口実を得るための行動に過ぎない。

 だれに対しての口実なのか。自分自身で踏ん切りを突けるための、だ。

 これまでセレネという存在を恐れてラビからの様々な要求を飲み下してきた。しかし、それももうおしまいだ。

 自分がおしまいになる可能性からは意図的に目を背けて、男は息巻いた。

 探す、と一言で言っても実際どう行動するべきか。町は広い。とてもじゃないが、一日で見て回れはしない。そもそも一日という期限は男が勝手に定めたものなのだが、そんなことは知ったことじゃない。

 仕方がないので状況を整理する。

 ラビは町についた初日に宿から出てどこかへ行った。その際ラビは、わざわざ男に対して脅しをかけていった。これは自分の目的を果たすのに、時間がかかる可能性をあらかじめ想定していたと見ることができるのではないか。

 ちょっと離れるくらいのことは、これまでの道中でもあったことだ。薪を集めに行くだの、食料を調達してくるだの、ラビが休憩をして男がそばを離れるような機会はいくらでもあった。


(思い出すと腹が立ってきた)


 それをわざわざ声をかけていったのだ。言い換えれば、私の用事はちょっと時間がかかりそうだけど待っていてね、という意味に取れなくもない。もっとも、たんにきまぐれに釘を刺していっただけなのかもしれないが。

 では時間がかかりそうな目的とはなんだ。

 当然その目的とは、町でなければ果たせないことに違いない。

 野外にあって街中にあるもの。大雑把に言えば人間がいるかどうか。

 もちろん男も人間ではあるが、そういう意味ではなく、人間の築いた社会があるかどうか、ということ。

 ではラビが町のいったい何に用があるというのか。

 何かを買いに行ったというのはどうか。遭遇してしまった町でも無駄にひらひらとした服を買わされた記憶が男にはある。

 その場合、戻ってこないのは何らかのアクシデントに巻き込まれたと考えることになるか。さすがに何かを買い求めに出て二日も戻らないのはおかしい。時間がかかることを見越していたらしいという前提との矛盾もある。

 だいたい、ラビが持っているものといえば、魔物の骨と毛皮。それといくつかの宝石……。


(宝石か)


 ラビは貨幣を持っていない。街中に店を構えているような相手が、宝石と物々交換などに応じてくれないことはラビとてわかっているはずだ。だとすれば、先に換金を考えるだろう。しかし、ラビのような子供、それも怪しい格好をしたものが持ち込んだ宝石を買い取る商人がいるものだろうか。

 鑑定はできるだろうから真贋の問題はないはず。だが出所はかなり怪しく見えるだろう。事実、後ろ暗い経緯を辿った品である。ラビ自身はその経緯については知らないはずだが……。


(そういやなんだと思ってんだ)


 男がハンター生活の中で溜め込んだ資産だとでも思っているのか。仮にそうだったとしたら、「殺せ」と言われても殺していたかもしれない。

 あくまで買い物に出た前提ではあるが……、仮に換金できたのならばそれで買い物を済ませてすぐに戻ってきているはず。では換金できなかった場合はどうなるか。諦めてすぐに戻ってくるか、でなければ別の場所での換金を試みるか。

 男は別に推理をしているわけではない。探偵などではないのだから、ただ思いつくままに推測しているまでだ。

 おそらくラビはいわゆる裏の世界についてもある程度の知識がある。奴隷に落とされた経緯やそのさなかのことなど男には知るよしもないが、いろいろと目にする機会はあっただろう。


(そのくせ大人をなめてる節がありやがる)


 この前立ち寄った村でも大人たちを手玉に取ってなにやらやっていた。意味もなく嘘をつくタイプにも見えるが、出発に際していろいろ持たされていたあたり、実利も手にしている。

 男を脅して利用していることもそうだ。ラビは自分の裁量ひとつで世の中をうまく渡っていけるとでも思いこんでいるのではないか。

 そしてろくな考えもないまま、とにかく宝石を換金してくれる者を求めて裏の人間に接触し……。


(いや、それはない、か……?)


 小憎らしいことにラビは確かなしたたかさを備えている。考えなしに裏の人間に接触を持って、たとえば宝石だけを奪われて殺されたりする様子は、想像しがたい。

 では、なぜ戻ってこないのか。

 それがわからない。ラビの行動については推測できても、結局、戻ってこられなくなる事情というのが思いつかないのだ。それこそ、何者かに攫われて、殺されるなり監禁されるなりしているのでは、としか考えられない。

 であれば、考えるべきはラビの行動云々ではなく、何者がラビを戻れなくしているか、なのだろうか。

 まだ多少幼くはあるが、衆目を集める程度には整った顔形をしたラビだ。このあいだ目にした路地裏に連れ込まれていく女性よろしく、悪趣味な人間に攫われた可能性もないとは言えない。しかしラビは敏捷性はそれなりにある。そうかんたんに捕まったりするかどうかはやや疑問が残る。

 そして裏社会の人間に捕まった可能性。

 強欲な輩であればラビの口を割らせて男の滞在している宿にまで押しかけてきている可能性もありそうなものだが、とりあえずラビの身包みを剥いでついでにラビ自身も売り飛ばして……程度で事態が収束している線もあるだろう。

 段々考えることも煩わしく感じてきた男は、人通りの少ない路地へ、そして饐えた臭いの漂ってきそうな路地を探して踏み入っていく。

 途中、もはやお決まりのひったくりをテキトーに蹴り飛ばしつつ、いかにもなスラム街に入り込んだ。宝石の売買ができるようなものはこの辺りにはいないかもしれないが、つながりのある人間はいるはず。直接探し出すよりは聞いたほうが早いだろう。

 腰に安物のナイフを差した性質の悪そうな男どもに金を握らせ、宝石を売りたいのだと話を持ちかける。

 素直に案内するなら良し。力量差も見極められないような雑魚ならば半殺しにして情報を吐かせれば良し。今回は後者の展開と相成った。現物も提示できないこちらにも問題はある。ほんの少しだけ手加減しておいた。

 痛めつけた男のひとりを伴って街を案内させる。念のため、罠を張っていないか警戒しながらついていくと、周囲は次第に落ち着いた街並みへと変わっていった。

 やや日が傾きはじめたかと、長くなった影を見ながら歩いていると、ふいに前を歩かせていた男の足が止まった。


「おや、君は……」


 油断していた、と言わざるを得ない。

 それでもほとんど反射に近い速度で男は逃走体制に入る。が、足が地面から離れることはなかった。


「そう邪険にしなくてもいいじゃないか」


 動かなかったのではない。動けなかったのだ。

 全身から汗が噴き出るのを感じながら、前方を睨みつける。そこには建物から出てきたところらしい男の姿が三つほど。

 さきほどから男に向かって話しかけているのはそのうちの一つ。昨日ギルドで遭遇した大男だった。


「今日はいい日だな。君の事は気になっていたんだ」


 大男は傍らの身なりのいい男に微笑みかけた後、ゆっくりと男に向かって歩み寄ってくる。

 男が伴ってきた雑魚はもちろん、大男の隣に立っている男たちも事態を詳細に把握できるだけの力量は備えていないらしい。それでも異様な気配くらいは感じ取っているようで、浮かべていた笑顔は引き攣っている。


「ふむ、どうかな。強者に挑む気概はないと見るか、無駄な争いを避けて賢明と見るか……、君自身は自分をどう評価しているんだ?」


 ふっと大男の放つ圧力がおさまる。

 息苦しさが幾分やわらぎ、無意識のうちの止めていた呼吸を再開する。しかし、もうどうにもならない。目を付けられた時点から、それは何も変わっていなかった。


「俺は……ただの臆病者だ」

「それは前者ということか……」


 大男は腕を組んで自身の顎を撫でさすっている。威圧が止んだこともあり、一見して隙だらけのようにも見える。だがもし、大男がその気であれば、全力で逃げ出そうとしても一瞬で組み伏せられてしまうのだろう。


「いいぞ、気に入った」


 男の肩に大男の硬い手がぽんと置かれる。それだけでも、男にとっては断頭台に首を載せられたような心地だった。


(クソッ! なんて日だ!)


「少しつき合ってくれないか。なに、悪いようにはしない。まさか、賞金首というわけじゃないだろう?」


 男はうなだれたまま「ああ……」と力なく返事をした。


「そういえば、ここへは何か用があってきたのではないか?」


 男が案内のために痛めつけて連れてきた男チンピラをわざとらしく眺め回しながら大男が言う。

 男は仕方なく事情を説明した。もともとやけくそ気味に行動していたということもあり、もはや自暴自棄といっても過言ではない心境だった。それでも自然と宝石の件を伏せている自分に自嘲しながら。

 事情を聞いた大男はごく気軽な調子で見送りに出てきていたらしい男たちに怪しげな少女について知らないかを訊ねた。男たちはまったく心当たりがないと口をそろえる。ラビのような小物程度の件で、大男相手に嘘をつくというリスクを取るとも思われない。結局、男の推測はまったくの見当はずれだったということなのだろう。


「あてが外れたようだな。少女のことは気がかりだろうが、ひとまず私についてきてくれるか。そろそろ戻らねばならん」


 日が翳りだした街並みへ向けて歩き出す大男の背に、男はおとなしく追従した。

 いちかばちか逃げ出してみるという選択肢は常に頭に浮かんでいたが、いまのところ、大男が自分に危害を加えそうな気配は感じていなかった。腹芸がどこまでできるのか読みきれないので確かではないが、悪いようにはしない、という発言もおそらくは本心。

 男の心中とは裏腹に、少しずつ茜色にそまっていく空の下、喧騒が遠く聞こえ、思いのほかゆっくりとした時間が流れていく。

 歩く内、道がだんだんと広くなってきた。ひとつひとつの建物が大きくなり、間隔は疎らになっていく。

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