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この世界で生きる意味を僕に教えてください  作者: ヤマト〆
世界の行方
6/11

世界の尻尾

気付けばムサシは自分の部屋のベッドで寝ていたようだ。


どうやってここまで来たのかはよく覚えていない。


「おいおいおいおいゼツボウ! ムサシが目を覚ましたぜ! ユメに教えるか?」


「いや、ユメは会議中だから中に入ったら怒られるぞ」


すると、どこからかキボウとゼツボウの声が聞こえてきた。


ムサシが体を起こして周りを見ると、二人はベッドに頭を乗せてじろじろとムサシを見ていた。


「何だよ」


「おいムサシ! お前……幽霊じゃないよな?」


「はぁ? 幽霊?」


ムサシは素っ頓狂な声を上げた。


「何でそう思うんだよ?」


「だってよ。ムサシ風呂場で死んでたから。なぁゼツボウ?」


「正しくは倒れていただぞ」


この話を聞いて、ムサシは色々と納得した。


どうやらあの時、ムサシは銭湯で倒れたようだ。そして誰かがここに運んでくれたのだ。


「誰が運んでくれたんだ?」


「イカリのおじさん!」


「そっか」


確かにイカリなら、男一人なんて軽々とこの部屋に運ぶことが出来るだろう。


「イカリは今何してるんだ?」


「かいぎ!」


「会議?」


「エモーションのメンバーが集まって、色々な話し合いをするってカンシャが言ってたぞ」


会議の説明は、ゼツボウがしてくれた。だが、具体的に何の話をしているのかは知らないようだった。


「おーいムサシ起きとるかぁ?」


するとそこに、タイミング良くイカリが入って来た。


その瞬間、キボウとゼツボウがベッドの下にひょいと隠れた。


「大丈夫かムサシ?」


「うん。もう大丈夫。ありがとう」


「そうか。びっくりしたぞ。ムサシが銭湯で倒れた時は。てっきり死んだのかと」


どうやらキボウが言っていたムサシ死亡説は、イカリの早とちりで間違いなさそうだ。


「それで、今キボウから会議をやってるって聞いたんだけど、何やってるんだ?」


「いつものように、ユウキの夢見がちな話を聞かされて、外の世界の捜索の打ち合わせだよ」


「外の世界?」


その言葉に、ムサシの心は揺さぶられた。


「ひょっとしてムサシ、エモーションが一体何の集まりなのか知らないのか?」


「え……いや、ちょっとバタバタしててあんまり深くは聞いてないんだよ」


「そうだったのか。ならば教えてやろう」


イカリは特にムサシを怪しむ事なく、簡単に説明してくれた。


「ユウキはな、この世界の外側を探してるんだよ」


「この世界の外側?」


ムサシは首を傾げた。いまいち意味が分からなかったからだ。


「そうだ。この世界にはまだ続きがある。この世界はここで終わっていない。そんな事ばかり考えてる物好きな人間なんだ」


「世界の続き……」


それは現実味が帯びていないというか、ロマンチシズムが溢れているというか、何とも空想的な言葉だった。


「俺達はそういう不確かな物を追い求めているんだ。それがエモーションっていう組織さ」


「そう……だったのか」


ユウキが、そんな絵に描いた餅のような幻想を抱いていたなんて思いもしなかった。


「俺は昔鍛冶屋をやってたんだよ」


「え?」


イカリが唐突にそんな事を言って、ムサシは思わず聞き返してしまったが、イカリはそのまま話し続けた。


「でもこの平和な時代に剣なんて作っても、誰が使うんだってずっと思ってた。ただの兵士の腰飾りなんて作りたくもなかった。そんなある時、その鍛冶屋にあいつはやって来た」


イカリはあの時の情景を思い出していた。その日は、いつもより汗を掻いていた覚えがある。


「剣の整備に来たんだ。俺はその時、何で整備するのか聞いたんだ。そしたらあいつは、外から怪物がやって来た時困るだろうって言ったんだ」


イカリはその時のユウキの真剣な表情を思い出して、一人笑った。


「もちろん最初は意味が分からなかったさ。頭がおかしい奴だと思った。でも整備していく内に何となく気になってな。俺もどうやら焼きが回ってたらしい。気付いたら鍛冶屋を辞めてた」


「……何で気になったんだ?」


「何でだろうな。もしかすると俺は、この小さな世界に飽き飽きしてたんだろうな。もっと広い世界を見てみたいと思っちまったんだろうな」


イカリの話は何とも不思議な話に思えた。筋が通っているようで通っていないような、そんな話だった。


でも案外、人間ってそんなものなのかもしれないとも思った。


「へぇ。イカリのおじさんってそんな過去があったんだな」


「意外だぞ」


その瞬間、キボウとゼツボウの頭がベッドの下からぽこんと出てきた。


「お、お前等いたのか!?」


「会議の情報と、イカリの情報ばっちりと記憶したぞ」


ゼツボウが不敵な笑みを浮かべた。


「んまぁ、いずれお前等も聞く話だ。それが早くなっただけだ」


イカリはやれやれと言わんばかりにため息を吐くと、立ち上がった。


「ま、もっと詳しい話はユウキに聞け。もう会議も終わる頃だしな。おいお前等も行くぞ」


こうして三人は部屋を後にし、ムサシは一人きりになった。


ムサシはこの時、ある可能性を考えていた。


それは、もしかするとこの世界の外側には、ムサシが住んでいた世界が広がってるんじゃないかという事だった。


要は、この世界と日本はどこからか繋がりを持っているのではないかという事だ。


それで、ここはその繋がりから迷い込んでしまった人間たちが造りだした国なのではないかと。そうすれば、今までに起きた様々な出来事にも辻褄が合う気がする。


だがこれは悪魔でも仮定の話だ。真実が分かるまで、この仮定はそっとしまっておこうとムサシは思った。


その時、またタイミング良くユウキが部屋に入って来た。まるで狙ったようなタイミングだった。


「体調は大丈夫かいムサシ? 風呂場で倒れたって聞いたけど」


「あぁ大丈夫。会議は終わったのか?」


「何だ知ってるのかい?」


「さっき聞いた。内容とか色々」


するとユウキは照れ臭そうに笑って、傍にあった椅子に座った。


「そっか。なら僕の説明は省いても大丈夫かな」


「……なぁ、何でユウキはこの世界に続きがあると思うんだ?」


その言葉に、ユウキは少し困った顔をした。


「うーん。あると思うからある。それじゃダメかな?」


その答えは答えになっていなかった。


「普通人は世界の続きを探そうなんてしない。なのになんで探すんだよ」


するとユウキは観念したのかぽつりと呟いた。


「__夢を見たからだよ」


「夢? 一体どんな夢だよ?」


「そこには巨大な海があって、大陸があって、砂漠があって、沢山の乗り物があって、沢山の人達が住んでいるような世界。僕はそんな夢を見たんだ」


「それって__」


それはムサシのいた世界を表しているに違いなかった。それしか考えられなかった。


「その夢、いつ見たんだ?」


「それが良く分からないんだ。凄く昔に見たような、でも最近見たような……」


「何だよそれ……」


ユウキの話は要領を得なかった。


けれど、ムサシの仮定が少しずつ真実味を帯びてきた。それは大きな収穫だった。


「まぁこの話は忘れてくれ。それより今日はどうするつもりだい?」


「いや特に何も考えてないけど……」


「なら外に出ないか? ムサシ、まだこのアジト以外殆ど見たことないだろ?」


「__あ」


ムサシはそう言われて初めてそれに気が付いた。確かに、まだムサシは外の様子をちゃんと見た事が無かった。


見れば何かが掴めるかもしれないと、ムサシは思った。


「頼むわ」


「よし来た。早速出発しよう」


こうしてムサシは外の世界へと足を踏み入れる事となった。




***




この国の名前はコレクト。


このコレクトに夜は来ない。ずっと朝のままだ。


コレクトという国は、まるでウエディングケーキのような形をしている。


下から上にいく度に徐々に円の面積が狭くなり、最上階はかなり狭い仕様になっている。


その最上階には、とても立派で巨大な神殿が聳え立っている。それはまるでこの国の象徴のようだった。


そしてその円を取り囲むように、一段一段ホイップクリームのような白い石積みの壁が周りを覆っている。


そしてこのコレクトの内部には、東西南北で四つのエレベーターが存在しており、それぞれ一階、二階、三階と名前を付け、最上階である八階まで通じる仕様になっている。


そしてムサシとユウキがいたエモーションのアジトは、象徴とされる神殿の真下、要はコレクトの内部に作られていた。


「すげぇ……」


ムサシは驚嘆と感嘆が入り混じったような声を上げた。


今二人が居るのは、最上階の端っこである。そこから壁に身を乗り出して、その下に広がる絶景を見ていた。


綺麗に円形になっている下の階の住宅街や施設は、まるでこの神殿を崇め讃えているかのようだった。


だが、ムサシの驚きはもっと別の観点だった。


住宅街の様子や、施設の造り、そしてエレベーターという建設技術全てが、ムサシの世界と同じだった。これが最もムサシを驚かせた。


そしてムサシは、あの仮定を確信に変えた。


その時、ふと前を見ると、何やら不気味なものを発見した。


「あれ、何だ……?」


ムサシの指差した先には、まるであそこから先が無いような、見たこともない暗黒の世界が広がっていた。


「あれは黒のカーテンって言うんだ」


「黒のカーテン……」


まるで黒い絵の具で塗りつぶされたようなそれは余りに黒々しく、全く先が見通せない。真四角のブラックホールみたいだった。


「そしてあれが羅生門。イリーガルへと続く扉さ」


ユウキが指差した先には、楕円型の歪な扉がここが入り口だと言わんばかりに存在していた。


「イリーガルって?」


「イリーガルというのはあの扉の先にある国の名前だよ。コレクトみたいなものさ。まぁ、見たことは無いんだけどね」


「そうなのか?」


「うん。この話は昔からある昔話の受け売りだよ」


「へぇ……」


ムサシは生返事を返した。


あの扉の先に何があるのか興味はあるが、そこまででは無かった。


「因みにある魔法使いの昔話もあるんだ。これはどちらかというと神話に近いんだけど」


「魔法使い?」


誰もが一度は夢見た魔法使いというファンタジーな生き物を、まさかこんな所で耳にするとは思わなかった。


「そう。これは魔法使いが質素な家に住みながら、どんどん世界を創りあげてくお話なんだ」


「__は? 何それ?」


ムサシはこの時、妙な違和感を覚えた。


「一体どういう話なんだよ……?」


「確か、独りで寂しかった魔法使いが人間を創るんだ。それも簡単に。何せ、家の中で願うだけなんだから」


ユウキは丸っきり信じていない様子だった。だが、ムサシにとってそうはいかなかった。


「そ、その後どうなんだ!?」


想像以上に食いつくムサシに、ユウキは腰を引かせる。


「えっと確か、どんどん家を建て始めるんじゃ無かったかな?」


「造ったのか?」


「いや、それも願えば直ぐに建ったらしいよ。笑っちゃう話だよね」


ユウキは笑ったが、ムサシは全く笑わなかった。寧ろ顔が青ざめ始めた。


「それからその魔法使いはどうなったんだ……?」


「え、いやどうだったかなぁ……」


ユウキは顎に手を当てて考えているが、思い出しそうな気配は無い。


「あ、でも詳しそうな人なら知ってるよ」


「なに!? 本当か!? どこにいるんだ!!」


ムサシの異様とも言える食いつきに、ユウキは困惑した。そして何故そこまで神話に興味を持ったのか気になった。


「なら、案内するよ。占いの館にね」




***




それは五階の北エリアに存在していた。


因みに五階になったからといって景色や街の様相が変わった訳ではないので、ここに特筆することはない。


強いて挙げるなら、この占いの館の存在感が並大抵ではないという事くらいだ。


占いの館は鍋のような形をしていて、蓋を開ければシチューでも入ってそうだった。なのに鍋の色は紫という全く食事には合いそうに無かった。


因みに、この館は見方を変えればどこかの風俗店のようにも見えてしまう。


一体何を目指してこの館は造られたのか、考えれば考える程謎は深まるばかりだ。


「あれだよね。風情があるよね?」


「ねぇよ!」


それは風情に対して失礼な話だ。


もし風情の神が居るならば、雷を落とされるレベルである。


それと、この館の周りには人は殆ど居ない。この館を不気味がってこの辺りを通らないからだ。それが益々、この館の不気味さを引き上げている。


「じゃ、じゃあ僕が開けるよ」


少し及び腰のユウキを盾に、ムサシは隠れるようにして様子を伺う。


「ごめんくださーい」


ユウキはゆっくりとドアを開けていく。


中は真っ暗で何も見えない。そして何の音もしない。


「あれ、誰も居ないのかな?」


「んな訳ねぇだろ! 鍵掛かってなかったしよ!」


ムサシは完全にユウキの後ろに隠れて、何か起きた時すぐ逃げられる体勢を作っておいた。


その時、肩をトントンと叩かれた。


「うん……?」


ムサシは後ろを振り返った。


その瞬間、何かと目が合った。


「ぎゃぁあああああ!!!!!」


「うぎゃぁあああああああ!!!!!!」


「えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」


三つの悲鳴が占いの館に響き渡った時、明りがついた。


「何してるのおばあちゃん。ていうか電気はいつも付けなって言ってるでしょ」


その声は奥から響いてきた。


ムサシがゆっくりと顔を戻すと、そこにはピンクのロングスカートに赤紫のフリルを施した、少し奇抜な服を着た黒髪ロングヘアーの少女が立っていた。


だがムサシとユウキの姿を確認した途端、ドアの奥に引っ込み、頭だけ出す体勢になった。


「え、お客さん……?」


「そうだよ。フェッフェッフェ。いやこいつがあまりにも驚くもんだからさ。私も驚いちゃったよ」


彼女におばあちゃんと呼ばれたその女性は、よっこらせと言いながら二人の前にあった椅子に腰かけた。


椅子の前には丸いテーブルが置いてあり、紫色のテーブルクロスが掛けられている。


その上にポンと乗っかっているのはお馴染みの丸い水晶だった。


内装もまた凝っていて、奇妙な置物や何に使うか分からない占いグッズが所狭しと隅に陳列している。


そしてそこに拍車をかけるように、趣味の悪いカーテンが壁を覆っており、何だか陰気臭いバーのような雰囲気を醸し出している。


「私はマダム。ここで占い師をやってるよ」


マダムと名乗った彼女は、いきなりキセルを取り出すと、ぷかぷか吸い始めた。


マダムは、結構な年寄りだった。還暦はとうに超えているように見える。


皴が多く、例えるなら山姥のようだった。


「それより何だいあんた達? まさか私の体目当てかい?」


「いや違います」


ムサシは即否定した。


「ならあんた達はこの当たらずとも遠からず占いの客か。結構結構。フェッフェッフェ」


「いや凄いぶっちゃけた名前の占いだな! そんな名前で人来んのか!?」


「占いが百発百中当たる訳ないだろ。当たる時もあれば外れる時もある。分かりやすいだろう?」


「いやそうだけどそうじゃない気がする……」


まあ、人の仕事にとやかく言うものでもないし、話も進まないのでそこは一旦置いておこう。


「占いはぶっちゃけどうでも良くてですね」


「そりゃ本当にぶっちゃけたね」


マダムは目を見開いた。だが、そこに怒りは無いように見えた。


「なら何しに来たんだい?」


「ここに住むフアンに会いに来たんです」


「フアン……?」


そして三人の視線が未だに顔を覗かせているフアンに集中した。


「え、わ、私ですか!?」


フアンは恥ずかしそうに目線を下げて、顔を赤くした。どうやら人の視線が苦手らしい。


「やぁフアン。元気そうだね」


「あ……うん。ごめんね会議に出席しなくて」


「いいよ。参加は自由だからね。それより、ムサシが少し話があるみたいなんだけど、聞いて貰えるかな?」


「ムサシ?」


フアンは困惑した様子でムサシを見た。


「今日からエモーションに入ったムサシだ。宜しくな」


「あ……うん宜しくね。えっとそれで……用件は?」


「実はこの世界の神話についてちょっと聞きたい事があるんだ」


「神話……うんいいよ。私が知ってる範囲で良ければ……」


この間、ファンはずっと俯きながら喋っていた。余程人と顔を合わせるのが苦手なのだろう。


「おいフアン。どうせなら部屋に連れて行ってゆっくり話をしておやり。変な事したら__まぁ丁度良い機会だから頑張りな」


「本当にぶっちゃけた婆さんだな! 何もしねぇから安心してくれ!」


「私、早く孫が見たいんだ。年寄りの生きる醍醐味だからね」


「だからっていきなり突撃した男の子供なんて見たくねぇだろ!」


「フェッフェッフェ。まぁそうだね。ならさっさと話を聞いて帰りな。仕事の邪魔だ」


マダムはそう言ってるが、今この館にお客さんらしき人物はいない。そして、これから来そうな気配もない。


そう言ってやりたかったが、マダムが水晶で何やら怪しげな動きを始めたので、それを言う事もなく、取り敢えず三人はここを離れる事にした。


「ご、ごめんね。おばあちゃんってああいう性格だから変に誤解されやすいんだけど……良い人なんだよ?」


部屋に向かう途中、フアンは健気にマダムのフォローを入れていた。


「フアンって良い奴だな」


「そ、そんな事無いよ……おばあちゃんは私の唯一の母親だから」


フアンは照れたように笑ったが、すぐさま焦った表情に切り替わった。


「ご、ごめん……いきなり変な事言っちゃって……」


「いや、気にしてないよ」


そんな話をしていると、フアンの部屋に着いた。


「ここが私の部屋。ま、まだ入らないでね。変なのあったら困るし……」


最後の方をゴニョゴニョと言って、フアンは素早く部屋の中に入って行った。


その後ドタバタと音が響き、数分後ゆっくりと部屋のドアが開いた。


「どうぞ……」


出てきたフアンは汗びっしょりで、息も切らしていたので相当頑張って片づけたようだった。


部屋の中は一言で言えばファンタジーのようだった。


あるとあらゆる物がメルヘンチックで、主にピンク色があしらわれている物を使っている。


なので部屋に入った時、二人の目がチカチカした。


ムサシとユウキは取り敢えず中央にあるピンク色で真ん中にハートが埋め込まれた机の手前に座り込んだ。


それに向かい合うようにフアンは座り、話を切り出した。


「そ、それで……神話が知りたいんだっけ?」


「あ、あぁ。是非教えてくれないかな?」


「それは良いんだけど……何で知りたいの?」


その瞬間、ムサシは言葉に詰まらせた。そんな質問をされるとは思ってなかったからだ。


「え!? いや俺、神話とか結構好きなんだよ!」


「……本当?」


「本当だよ本当!」


ムサシが笑って誤魔化すが、疑り深いのかフアンは今だにジロジロとムサシの様子を伺っている。


「分かった。悪い事考えてる訳じゃなさそうだし……」


「え?」


「ううん何でもない。でもね、教えるに当たって一つ条件があるの」


「じょ、条件?」


ムサシは一体何を要求されるのかと心配になったが、それはとても簡単なものだった。


「ムサシの知ってる神話を教えて欲しいの。それが……条件」


フアンはそう言って頬を赤くさせ、丸まっていた体を更に丸め込ませた。その様子が、ムサシには可愛く見えた。


「いいよ。そのくらい」


「本当……!? 嬉しい」


フアンは本当に嬉しそうだった。まるで初めてクリスマスプレゼントを貰う子供のようだった。


その顔を見て、ムサシの心がチクリと痛んだ。


「じゃあ話すね。私の知ってる神話は__」


そこに一人の魔法使いがおりました。


その魔法使いは何もない大地に家を建てました。


家を建てた魔法使いは、日々を一人で過ごしていました。


その世界にはその家以外何もなかったのです。


そんなある日、魔法使いはある事を思い付きました。


無いならば創ってみよう人間を。


そう思い立った魔法使いは、人間を一人創りあげました。


そして魔法使いはその創った人間と共に日々を過ごしました。


ある日、魔法使いは言いました。


もっと人間を創り、世界そのものを創ろうと。


魔法使いは人間を沢山創りあげました。


来る日も来る日も創りあげ、やがて魔法使いの家は人間で一杯になりました。


それを見かねた魔法使いは、その家の隣にもう一つ家を創り、そこに人間達を住まわせました。


すると、その人間との間に子供が生まれました。魔法使いはそれをとても喜びました。


魔法使いはそれを機に次々と家を創り、人間を創り、見たこともない様々な建物を創りました。


世界はあっという間に活気付き、魔法使いを中心とした国が出来上がりました__。


「これが建国の神話……だよ」


話し終えたフアンは恥ずかしそうに目を逸らした。


「へぇ。こんな神話があったんだね。僕は知らなかったなぁ。どうだいムサシ? 面白かったかい?」


ユウキは感心しながらムサシを見た。


だがムサシはユウキの言葉に耳を傾ける様子もなく、石像のように固まっていた。


「どうしたんだいムサシ?」


「あ、いや……」


ムサシはユウキと目を合わそうとせず、目線を泳がせた。


「因みに……ね? これにはまだ続きというか、魔法使いの最期までを綴った神話もあるの。聞きたい?」


「へぇそうなのか? 是非聞いてみたいな」


ユウキは興味津々とばかりにそう答えると、フアンは嬉しそうに頰を緩めた。


「それはね__」


「やめろ」


それはドスのきいた声だった。


「ムサシ?」


ユウキはムサシの顔を見た。ムサシの顔は真っ青で、胸を苦しそうに抑えて苦痛の表情を浮かべていた。


「その話を……それ以上しないでくれ!」


その危機迫る様子に、ユウキもフアンも何も言えずにただ唖然とするばかりだった。


「悪ぃ。俺先に帰るわ」


ムサシは徐に立ち上がり、部屋を出ようとしたが、ユウキがそれを阻止した。


「おいどうしたんだよ急に! 何か__」


その瞬間、ムサシは振り払うように、はたまた逃げるようにその場を去って行った。


「お、おいムサシ!」


ユウキは手を伸ばすも、追いかける事が出来なかった。


「一体どうしたんだよムサシ……」


ユウキは手の甲に付いたそれを見つめていた。


この数粒の水滴に込められたムサシの気持ちはきっと本人しか分からない。


「一体……どうしたのかな?」


フアンは心配そうにユウキに声を掛けた。


「その後の話、聞かせてくれないかな?」


ユウキが徐にそう言った。


「え?」


「神話のことだよ。その魔法使いは最期どうなったんだい?」


ユウキはグッと拳を握り締め、フアンにそう聞いた。


「消えてしまったんです。その魔法使いは」


「消えた?」


「はい。誰に言うでもなく突然……」


「そうか。ありがとう。僕も帰るよ。ムサシが何をするか分からないしね」


ユウキは難しい表情でそう言った。何か、嫌な予感がする__ユウキはそう思った。


「あ、あの!」


その時、急にフアンが大声を出したのでユウキは肩をビクつかせた。


「ど、どうしたんだい急に……?」


「す……すいません。ムサシに言いたい事があって……」


「言いたい事?」


「はい。今度会った時……ちゃんとお礼をして……と」


フアンは顔が真っ赤だった。余程大声を出したのが恥ずかしかったのだろう。


それでも、フアンの思いはユウキに伝わった。


「あぁ。僕が必ず伝えるよ」

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