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この世界で生きる意味を僕に教えてください  作者: ヤマト〆
あちらとこちら
10/11

邂逅

またこうしてこの家を見るなんて、ムサシは思ってもみなかった。こうして見るとやはり、唯の平凡などこにでもある一軒家だ。


けれどこの家は”あの家”ではない。これはそれを模して造られたレプリカだ。


ムサシはそれを言い聞かせてドアの取ってに手を掛けた。その横に、キボウが緊張した面持ちで立っている。


ムサシは取っ手を捻り押し込む前に、キボウにこう言った。


「キボウはここで待っててくれないか。俺はあいつと二人で決着をつけたいんだ」


「……分かった」


キボウは駄々をこねることなく頷いた。


それを確認した後、ムサシは取っ手に力を込めた。キィィとドアが軋む音を立てて開いていく。


ムサシは恐る恐る中へと入って行った。


先ず見えたのが、フローリングの床だった。だが、家具らしい家具は一つもない。


そう思った時、その部屋の中央で一人の男が椅子に座って此方を見つめている事に気が付いた。


丁寧に整えられた黒い髪、そして気弱そうな顔で色白。頬は痩せこけていて栄養失調の患者のような体つきをした彼の名前はヤマダ=タロウだ。


名前を聞くまでもなく、ムサシはそう確信した。


ヤマダ=タロウは暫く此方を物色するように見入った後、口を開いた。


「ようやく貴方に会えましたね創造主。ご機嫌いかがかな?」


ヤマダ=タロウが軽口を叩くが、ムサシは反応しなかった。代わりに、対面にあった椅子に腰かけた。まるで対談するような位置取りになった。


「まぁ、その顔色を見るからにさぞお元気なのでしょう。良かった良かった」


ヤマダ=タロウは皮肉交じりにそんな事を言った。いや、本心でそう言ってるだけかもしれないが、それならそれで尚更質が悪い。


「もしや私の顔を覚えていませんか? それはそれで仕方ありませんが」


「知ってるよ。ヤマダ=タロウだろ」


「覚えてくれていましたか。それは大変嬉しい限りです」


「なぁ、お前はなんでコレクトを潰したんだ?」


「知ってどうするのですか?」


「お前を殺す」


「それは物騒ですね。でも、それも致し方ありませんね」


ヤマダ=タロウはそう言って楽し気に笑った。殺される事に特に思う所は無いようだった。


「コレクトを潰したのは簡単な話です。ただ羨ましく、その存在に怒りと恐怖を持ったからです」


「どういう事だ?」


「これをお話するには、昔話をしなければなりません。宜しいでしょうか?」


ムサシは何も答えなかった。それを肯定と受け取ったのか、彼はぽつりぽつりと語り始めた。


その内容はこうだ。







彼が気付いた時には、もうこの地に足を着けて立っていた。


まるで人生の終着点のような深い寂寥に包まれたこの世界は、あの楽園のような世界とは真逆の、腐りきった世界だった。


彼は何故自分がこの地に足を着けて立っているのか理解出来なかった。なので彼はその場に蹲り、その理由を必死に探していた。


やがて気付くのだ。創造主はきっと自分を見捨てたのだと。要らなくなったおもちゃのように、自分は捨てられてしまったのだと。


彼は怒りに打ち震え、その身に誓った。絶対に創造主に復讐してやると。


彼はそれを深く胸に刻み込み、先ずはこの世界を知るために歩き回った。


すると、この世界にはあの地で出会った人間達がわんさかここに集まっている事に気がついた。


地点はバラバラだったが、長い苦労の末に、彼は総勢128人の人間を集める事に成功した。


そして次に彼が考えたのが、国の建国だった。またあの時のように人々が和気藹々と暮らせる国を造りあげたかった。


最初は皆乗り気だった。だが、ここで直ぐ困難が襲った。


ここにはまともな資材が無いし、何より家を建てる事に関して無知だった。


だから作業は一向に進まなかった。彼は悔しい思いで一杯だった。


次に困らせたのは食料だった。


あの時は創造主のお陰で食べ物は行き渡っていたので考えてすら無かったが、これは大変な事だった。


人間達は皆必死になってこの荒廃した世界に食料を求めた。


食料は、確かに存在していた。だが、その数は乏しかった。


すると一気に争いが絶えなくなった。強奪略奪なんでもありのサバイバルになった。


もう建国どころでは無くなった。生きる事で必死になった。


人間はどんどん数を減らして二桁になった。詳しい数は覚えていない。


そこで彼は絶対的なリーダーを一人作ろうと考えた。そうすればあの時のように上手く行く筈だと。


だが、そうはならなかった。


何故なら皆創造主から創られた人間で、対等だ。そこに優劣なんて無く、この話はうやむやになった。


彼は幾度も幾度も考えた。一体どうすればこの世界は平和になるのだろう。


どうすれば争いが起きなくて済むのだろう。


そこでタロウは考えた。自分が創造主になれば良いと。


先ず、タロウは信頼のおける人間達を手元に置き、後は全員殺した。


そして彼は”自ら”ヤマダ=タロウと名乗るようになった。


そして七人であの欲有る家を造りあげた。それだけで何年も掛かった。


そしてそしてその頃魔女達は疑問に思うのだった。何故、自分達は老いないのかと。


生き残った人間はこの世界に来た時のまま維持されている。もうこの世界に来て何年も月日は流れているはずなのに全く容姿が変化しない。


そして考えた末、彼等はある結論を出した。


これはもしかすると不老かもしれない。


不死ではないことは、周りの死んだ人間達が証明している。


だから自分達は人間ではない事を悟った。


そして彼等は魔女と名乗った。


魔女達が最初にした事は、この世界を細部まで調べる事だった。


だから魔女達は徹底的にこの世界を調べた。


するとこの世界のずっと奥に、不思議な門があるのを見つけた。その門は何をどうしても開く事はなく、魔女達はそれを放置した。


そして魔女達はその近くに不思議な洞窟がある事を知った。何とその洞窟は、不思議な国へと通じる懸け橋のようなものになっている事に気が付いた。


しかもその国には自分達と同じ人間が住んでいたのだ。これには魔女全員がとても驚いた。


どうやらその国はコレクトという名前の国のようだった。なので魔女達もそれを真似して国自分達の国をイリーガルと名付けた。国といっても、あるのは一つの簡素な家だけである。


それとは反対に、コレクトは魔女達の理想像といえるほどの美しい街並みを造りあげていた。資源も、食料も、人口も、技術も、何もかもがイリーガルの比ではないし、人間達も楽しそうに生活をしていた。


それを知ったヤマダ=タロウは、魔女を刺客として次々にコレクトに送った。そして、期日毎に定期連絡を報せるように義務付けた。


すると、どうやらコレクトも人間達が一から建国したというのが分かった。しかもコレクトで暮らす人間達は年を取り、老衰や病気などで死ぬらしい。


ここでヤマダ=タロウはある仮説に辿り着いた。


もしかすると不老を持った人間はイリーガルに、それを持たない人間はコレクトに、それぞれ分別して創造主が捨てたのではないかということだ。


なぜ創造主がそんな事をしたのか、ヤマダ=タロウには見当もつかなかった。だから彼は怒る気分にもなれなかった。


それから幾ばくか時が流れた頃、ある不思議な少年に魔女達は出会った。その少年の名前はユウキというのだった。


どこが不思議なのかというと、ユウキは事あるごとに魔女と関わり、仲間に引き込んでいくのだ。それも彼は無自覚でのことだ。


だからエモーションという組織が設立されたのは、決して狙ったわけではない。気付けばそういう風になっていたのだ。これは偶然とは簡単に割り切れない事態だった。


そしてユウキにはもう一つ不思議なことがある。それは、彼の見た目が月日が流れても全く変化しないことだった。


これに関しては、会ってからまだ日が浅く、もしかしたら見た目が老けない体質なのかもしれないという見方も出来る。だが、それにしても変わらなさ過ぎるということだった。


更にユウキは、過去の話を全く語ろうとしない。一番初めにエモーションに加入し、長い付き合いであるユメでさえ、彼の過去はおろか、彼の家の場所すら知らないのだ。


この報告を受けて、ヤマダ=タロウはユウキという人間は魔女__イリーガルでいうところの__なのではないかと考えた。いや、考えもしなかった。ヤマダ=タロウはユウキを魔女だと断定した。


そしてヤマダ=タロウはこれまでにないほど憤慨した。


創造主にコケにされるのは、許せた。彼は神のような存在で敬うべき存在だと改めて認識していたからだ。


けれど、ユウキは違う。同じ人間で、しかも彼は魔女だ。それなのに彼はその人生を何不自由なく過ごせていた。それが憎くて憎くて堪らなかった。


どうして彼だけが幸せにならなければならないのか。ヤマダ=タロウはそればかり考えていた。


そして彼は決断したのだ。


あのコレクトを__いや、ユウキという存在を地獄に叩き落してやろうと。


それが、この物語の全てだった。







話を終えた後の雰囲気は、不気味なほど静かだった。


ヤマダ=タロウは全てを話し終えて満足したのか、その静寂に身を沈めていた。それはムサシも同様だった。


ムサシは気付けばヤマダ=タロウへの怒りを忘れていた。そして、彼もまた寂寥に包まれるこの空間に身を預けていた。


ムサシは天井を見つめながら、ユウキの事を考えていた。


一体、彼は何者なのだろうか。本当にただの魔女なのだろうか。類は友を呼ぶとはよくいうけれど、そこまでピンポイントに魔女だけを集められるのだろうか。


「創造主。一つ聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「あぁ」


「何故、私達を見捨てたのですか?」


「寂しかったんだ。羨ましかったんだ。憎らしかったんだ。だから俺はあの世界を消した」


ムサシはそう口にして、これではヤマダ=タロウと何も変わらないではないかと思った。彼もまた、同じ思いでコレクトを潰したのだろう。


「似た者同士ですね」


ヤマダ=タロウは心の内を覗き込んだようにそう言った。ムサシは何も答えなかった。


その時ふと、ムサシは思い出した。それはいまだに手に握り締めている木箱だった。彼はそっとその蓋を開けた。


その音に気付いたのか、ヤマダ=タロウはそっと目線をその木箱に移し、やがて笑顔になった。


「これはこれは、また随分昔のものをお持ちですね。どこにあったんですか?」


「コレクトの神殿に祀ってあったんだ。俺が持ってきても、罰は当たらないだろ」


「それは仰る通りですね」


木箱の中で眠っている古ぼけたゲーム機とゲームソフトは、この部屋を明るくさせたような気がした。


それを見つめていると、ふと何かが床に流れ落ちて、ムサシは視線を前に移した。


ヤマダ=タロウは泣いていた。涙を拭くこともせず、ただ黙って木箱を見入っていた。


「創造主。私はもう一度あの世界に戻りたい。そしてまた、貴方と共に世界を創っていきたい」


ヤマダ=タロウは涙ながらにそう言った。ムサシは黙って俯くことしか出来なかった。


「創造主。一つ変なことを言っても宜しいでしょうか?」


「変なこと?」


「はい。突拍子もないことで驚かれるかもしれませんが、私はちょっと不思議な力を持っているのです」


「ちょっと不思議な力って……」


ムサシはおかしくなって笑うが、ヤマダ=タロウは不思議そうに首を傾げていた。


「それは一体どういうものなんだ?」


「はい。それは、何でも一つ願いを叶えてくれるという力です」


「それはまた突拍子もない力だな」


ムサシは苦笑した。自分の持つちょっと不思議な力とは偉い違いだった。


「この力を使って、創造主の願いを叶えたいのです。どうか、願いを言って頂けないでしょうか?」


「いいのか? 一回しか使えないんだろその力」


「構いません。私は貴方のために使いたいのです」


「そう言われてもな……」


ムサシは困惑した。誰でも急にそんなことを言われたら戸惑うだろう。


「なぁ、なんでその力を使ってあの世界に戻ろうとしないんだ?」


するとヤマダ=タロウは悲しそうな顔をした。


「この力を使うと、私は消滅します」


「は、はぁ!? 消滅!?」


ムサシは無意識に椅子から立ち上がっていた。だが、座り直そうとはしなかった。


「お前それでいいのかよ!? 消滅ってことは要は死ぬんだろ!?」


「はい。ですが私はこの世界に長く留まり過ぎました。なので、死ぬことは怖くありません。寧ろ光栄に思っています。最後に創造主にお会いできたのですから」


「いやだけどよ! そんなのって……」


ムサシは脱力して椅子に深々と座りこんだ。ヤマダ=タロウの目は本気だった。


「なら、一ついいか?」


「もちろんです」


「俺も一緒に死なせてくれ」


「……分かりました」


ヤマダ=タロウは慌てることなく頷いた。もしかしたらこれは想定していたのかもしれない。そう思うと、何だか空しくなった。


「では、創造主の願いを教えて下さい」


「コレクトを、これまで通りの平和な世界に戻すこと。それが俺の願いだ」


「承知しました。では__」


「待ってくれ!!」


突然、やぶからにドアが開けられ、中に入ってきたのはユウキだった。その後ろにはユメやキボウ、ゼツボウの姿が見えた。


「おや……」


「ユウキ!」


ユウキはムサシの驚いた顔には目を向けず、部屋の中央まで移動すると、ゆっくりとヤマダ=タロウの顔を見た。


「君がヤマダ=タロウか」


「はい」


「一体これから何をするつもりだい?」


「コレクトを元に戻し、私達は消滅するのです」


ヤマダ=タロウは特に隠すことなく、明け透けに話した。


それをユウキは疑うことなく、そうかとぼやくように呟いて、ムサシの隣の床に腰かけた。


「僕も参加させてくれるかな?」


まるで球技大会に遅れて入って来た子供のように、ユウキは言った。ヤマダ=タロウは直ぐにそれを了承した。


なぜかこの場に、ユメやキボウ、ゼツボウは入ってこなかった。その理由はムサシには分からなかったが、もう今はどうでもよかった。


「なぁユウキ。お前の正体を教えてくれないか?」


「うん。僕はね、ムサシに一番初めに創られた人間なんだ。あの世界にいたのはほんの数日だったけどね」


「ほぉ」


反応したのはヤマダ=タロウだった。彼は驚いた様子で、ユウキをまじまじと見つめていた。


一方のムサシは軽い放心状態だった。何を言っているのか分からなかったからだ。


だが、段々とその言葉が脳にインプットされ、やがてアウトプットされていく。


「そうか……ユウキはあの……」


ムサシの中で記憶が蘇る。確かにあの時、ヤマダ=タロウを創る前に人間を創った覚えがある。確か直ぐに消してしまった筈だ。


そしてそれがユウキだとは思いもしなかった。


「ついさっき気づいたんだ。本当に驚きだよ。あの時の記憶は殆どないけど、僕には分かる」


「そっか」


「因みに言うと、不老を持つ人間はムサシが創ったオリジナル。寿命が在る人間は、そのオリジナルから生まれた子供だ」


「そうだったんですね。長年の疑問がようやく解けました」


ヤマダ=タロウは晴れた顔をしていた。そして三人は顔を合わせて笑った。


「不思議だな。それぞれ三人は違う人生を歩んで、こうしてこの家で顔を合わせてるんだからな」


「まぁ、家は家でもあの家のレプリカですけどね」


「それは関係ない。きっとこの家が俺達を導いたんだ」


「もしかすると__家族だからかもしれないね」


「家族って何か歯痒いな」


「ムサシ照れてるのかい?」


「んなわけねぇだろ。第一血が繋がってないだろ」


「そんなの関係ないよ。というか、血も何も、全身をムサシが生み出したんだから、案外血よりも強いんじゃないか?」


「確かに言えてますね」


「ていうか、俺が親か。何か信じられないな」


そこから三人共、沈黙した。けれど、嫌な沈黙ではなかった。


「それではそろそろ始めましょうか」


それが合図だった。


そこから先の話は、その行く末を見ていた三人の少年少女が目で確かめ、肌で感じ、全身で味わってくれることだろう。


だがそれを、ここで語ることはない。


平和な世界を長々と語れるほど、作者に文才は無いし、それに付き合ってくれる読者も少ない事だろう。


ただ言えるのは、この世界は結局何も起きていなかった。ただそれが、この物語の結末だ。











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