第1章:ラブコメ
第1章
「んっ?あれ?もう朝か。」プリムは背伸びをしながら体を起こす。
隣のベッドからは、まだ寝息が聞こえてる。
「ランド。朝だよ起き…」プリムの声が止まった。
ランドが寝ている隣にソフィアも寝ていた。
「うぅん、お兄ひゃん」ソフィアは、寝言を言いながらランドに抱きついた。
プリムは無言でソフィアの首を掴み、凄い力でベッドから引きずり出す。
「あれ?プリムさんおはようございます」と頭をペコリと下げ、またランドのベッドに戻ろうとするが、プリムはまた引きずり部屋の外に出す。
「ねぇソフィア…。貴方、森へ帰らないの?」
「プリムさんこそ、お城へ帰らないんですか?」
2人の顔は笑ってはいるが、明らかに中身は怒っている。
そんな殺伐とした空気の中、ランドが目を覚ます。
「はぁ〜今日も良い天気だなぁ」背伸びをしながら、起きて辺りを見渡す。
すると、ドアからプリムが部屋に入って来た。ソフィアも後ろから付いて入ってくる。
2人ともニコニコしていて、ランドには2人は"とても仲が良く"見えた。
「ランドおはよっ」とプリムは声をかける。
「お兄ちゃんおはよっ」とソフィアも声をかけた。
「プリムおはよっ…それから…えっと…?」ランドは、白髪の女の子の名前が出てこない。
「あらあら、貴方のお兄様は、貴方のお名前が分からないみたいですわよ!」とプリムは言う。
「お兄ちゃん!私はソフィアよ。そう言えば、まだ自己紹介してなかったよね?」とプリムを無視しながら言う。
「そっかソフィアか。良い名前だな」とランドは笑顔で答えた。
すると、ネズミがソフィアの足元をするりと抜けるが、ソフィアはそのネズミを素早く口で捕まえた。
そして頭からパクりと、ネズミを食べ始めた。
はっ!として、ランドを見た。まだ口からは、ネズミの下半身部分が飛び出しているが。
「お兄ひゃんうぉ、はへる?」と聞いてくる。
ランドは、ソフィアの口から出ているネズミを直接口にくわえた。
「ちょ…ちょっと!何をしてんのよ!」とプリムは叫ぶが、ランドは気にせずネズミの下半身を喰いちぎる。
はたから見ると、キスをしている様にも見える。
はっ!とランドはプリムを見た。
「ふいう、はへる?」と口から出ているネズミの内臓をプリムに向けた。
「いいいいいい!要らない!遠慮無く食べて!」とプリムは言うと、ランドはそのままペロりとネズミを平らげた。
ソフィアもネズミを平らげた。
「お兄ちゃん、ここのネズミって美味しいね!」とソフィアは言う。
「ネズミも美味しいけど、ゴブリンも最高だよな!脂が乗ってて」とランドは答えた。
「ゴブリンも大好き!ねぇ?赤ゴブリンを食べた事ある?」
「赤ゴブリンって毒があるやつだろ?」
「そうそう!アレね、毒消し茸って言う茸を食べさせると、赤ゴブリンの毒が無くなって食べれるの!赤ゴブリンもスゴい美味しいよ!」とソフィアは嬉しそうに言う。
「人間の会話じゃ無いわ…」とプリムは呟くが、2人は続けた。
「後、ヘルサイトって言うドラゴンモドキが居るんだけど、アイツの内臓は美味いぞ!」
「ヘルサイトって、超危険モンスター指定のドラゴンじゃないっ!お兄ちゃん、ソイツ食べた事あるの?」
「おぅっ!今度出たら、ソフィアも一緒に食べような!」
「やったー!お兄ちゃん大好き!」とソフィアはランドに抱きついた。
プリムは少し悔しかった。いや、だいぶ。
ランドとこんな会話を(当たり前だが)したことが無かった。
すると、ソフィアは何かに気付いた。
「あれ?ネズミの肉塊が付いてるよ!」と言い、ランドのホッペに付いてる肉塊を食べた。
「あああっもうっ!何してんのよ!このエロ狼!」とプリムは叫んだ。
「何ですか?エロ狼って?私達の世界じゃ、手なんか使わないで口をつかうんですよ」とソフィアは言った。
「まぁまぁ、ソフィアは元は狼なんだし良いじゃん!」とランドは言う。
プリムは思った。
私だって!私だって!そんなシチュエーションになりたいわよ!でも…
※妄想スタート
「あれ?ランド、ネズミの頭が口の横に付いてるよ?」
「あれ?本当だ」
「いーよいーよ取らなくて!」
そう言ってプリムは、ネズミの頭を…
無理だぁぁぁぁぁ!!そんなの無理!確かに理想のシチュエーションだけど、この人の食事にだけは付き合えない!
プリムは、ガクッと肩を落とし両手を床につけて落ち込む。
「プリム!?どうした?お腹でも減ったのか?」とランドは、プリムの元に駆け寄ろうとしたが、ソフィアがくっついて居るので、声だけ駆け寄った。
「お兄ちゃん!私、この町をあんまり知らないから、今日案内をして!」とソフィアはランドにダダをこねる。
「そうだな。ヨシッ!プリム、案内してあげようぜ!」とランドは落ち込むプリムに話しかけた。
ソフィアはランドに見えない所で露骨に嫌な顔をしてたが、プリムは見てみぬ振りををして頷いた。
町に着くと、入口の所に老人が立っていた。
しかし、3人はその前を通り過ぎた。
しかし、プリムの機嫌は悪かった。
ソフィアはずっとランドと腕を組んで歩いているからだ。
商店街に入り、店の人やお客が冷やかしてくる。
それでも、ランドは何を冷やかしてるのかさえも分からない感じに、会釈をしていた。
そして、いつもの様にいつものBARに入る。
「ここは、いつも俺が飯を食ってたりプリムと話してたりするBAR。向こうにいるのが、この店のマスター」と言ってマスターの方に歩み寄る。
マスターはランドに気付くと声をかけてきた。
「ランド!お前、意識が戻ったんだな!無事で良かったよ!」と叫んだ。
「マスター、心配かけて悪かった!ついでに、この子なんだけど俺の…」妹です。って言おうとしたが、ソフィアが先に口を出した。
「彼女です!名前は、ソフィアって言います!」
「へっ?彼女?へぇ〜、ランド可愛い彼…」彼女だなぁ。と言いかけて、口を閉じた。
ランドの後ろには、怖い恐怖の塊が立っていたからである。
「ねぇソフィア、誰が誰の彼女だって?」とプリムはソフィアに聞いた。
「あら。聞こえなかったのですか?もう、歳なんじゃ無いですか?」とソフィアは答えた。
「歳って!私はまだピチピチの19歳よ!」プリムの頭に怒りマークが出てきた。
「私より3コも上って事は、もうオバサンじゃないですか!」ソフィアも叫ぶ。
「おばっ…!」その言葉にプリムの頭の中で何かが音を立てて切れた。
「知ってますか?犬の年齢って、人間の3倍らしいわよ!って言う事は、ソフィアちゃんは今、愛しのお兄様よりずっとずっと年上ね!」
「何度言ったら分かるんですか?私は犬じゃなくて狼です!」
「あら?ゴメンね。犬と狼の違いが分からなくって!昨日、寝る前に電柱にオシッコしてたから犬かと…」プリムは、はっ!とした。
ソフィアの目からは大粒の涙が流れている。
「私…私、犬じゃなくて狼だし…電柱でオシッコなんて…」とソフィアは泣き出してしまった。
プリムは言い過ぎた!と思ったが時既に遅し。
店中に重い空気が流れた。
「ご…ごめんね。ソフィアちゃん!飴あげるから泣かないで!」とプリムは一生懸命になだめようとするが、一行に泣きやまない。
ランドは泣き出す妹の頭の上に手を置き撫でた。
「良いじゃん!犬でも。お兄ちゃんはね…」とランドは獣人化を始めた。
サラサラと流れる金色の毛が現れた。
「俺は、人間と狼を足して2で割ったような姿をしている。化け物だぜ?」とランドは両手を広げた。
「狼にも成れないし、人間にも成れない中途半端な化け物だ。それに比べて、ソフィアは人間にも成れるし狼にも成れる。
犬って言われても良いじゃん!頑張って、いつか立派な狼になって、周りのみんなからも、狼って言われる様に頑張ろう!」
ウルフは笑顔で、ソフィアを撫でた。
ソフィアは泣くのをやめた。そして、プリムを見た。
「プリムさん…オバサンって言ってゴメンなさい!」と頭を下げた。
プリムは
「ヤラれた!」と思った。
先に謝る事で、完全に悪者にされたプリム。
プリムはウルフの方を見た。
ウルフはプリムと目が合うと笑顔で答えた。
逆にその笑顔が怖くて、目をそらす。
「プリム!」とウルフは呼んだ。
「はいっ!な…何ですか?」と固くなに返事をする。
ウルフは獣人化を解いた。いつもの馴染みの顔が出てくる。
完璧に怒ってる!妹を泣かした悪者だもん…私。
「プリム…アリガトウな!」ランドは意外にも礼をした。
「はいっ!こっちが悪かったのに…えっ?」プリムは驚いた。
「いつもって言うか、昨日からだけど、ソフィアの相手をしてくれて。俺、兄貴なのに何をするでも無いのに、プリムは積極的に話してたりしてくれて…だから俺も、何か分かってきた様な気がするよ。だから、アリガトウな」とランドはプリムの頭を笑顔で撫でた。
ランドの後ろで、ソフィアが怒っているがあえて無視をするプリム。
マスターは思った。多分その場に居た全員が思っているだろう。
何でこの状況を見て、そう言う風に見える!と…
でも、コレが彼の良い所なんだけどね。とプリムは思った。