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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第三章 動乱の帝国//第零階層世界編
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第六十二話 魔女の妹

 お久しぶりです。

 一ヶ月近く更新を開けてしまい、申し訳ございません。

 言い訳は見苦しいので控えておきます、はい。


 なお、久しぶりに視点が菜月に戻ってきます。

 ですが、今回は短めです。



 だからデートじゃない、では女の子と二人っきりでカフェでお茶するのはデートではないと先輩は言い張るのですか、いやそもそも男の子も居たし、まさか子連れですかそうですか殺してきます、ちょちょちょ待て待て待て俺まだ童貞だし、つまり相手方の連れ子という事ですね殺してきます、だぁあああッ何でそうなるんだぁぁぁああああああああッッッ‼ ……などなど、一向に解決しない不毛な会話を繰り返しながら、つきゆうは帝国城まで徒歩で帰還した。

 エミアリスが手を回してくれていたためか、門前で見張りをしていた騎士にも最低限のチェックだけで城内へ通された。インベントリーに武器類を収納していたのも理由の一つだろうが、ただの冒険者風情がそれだけで普通に通されてしまうとは、皇女様の権威は菜月が思っているよりも凄いのかも知れない。

 と、騎士様やら高位貴族やら、庶民の菜月では到底お目に掛かれない存在がそこらに見かけられる城内にも関わらず、(周囲から見れば)痴話喧嘩を繰り広げている菜月と優莉。そんな二人の前に、ちょうど見知った人間が現れた。


「おやおや……耳障りな鳴き声が聞こえると思ったら、姫殿下の玩具おもちゃではないか」


 一人はこんぱつちゃがんの美青年。細身の肉体と日に全く焼けていない真っ白な肌が際立っている、この国の宰相位に就く男――ドウェンドだ。円卓会議で騎士団長や魔道士団長と言い争いをしていた人物である。

 そしてもう一人、彼の横に並ぶのは、恐らく直前まで言い争いをしていたのであろう騎士団長殿。忌々しげな目をドウェンドに向けていた彼は、菜月と優莉に気付くと、ドウェンドと似たような表情を浮かべた。――(しも)(じも)へのあざけりが多分に含まれた、嫌らしい笑みを。


「ほう? 平民風情に神聖なる帝国城を我が物顔で歩かせるなど、第一皇女様はよほど下界の毒に侵されてしまったらしいな。けがらわしい、皇女としての自覚が無いと見える」


 今の彼の発言がエミアリスに聞かれたら確実に不敬に当たるだろう事は、政治や貴族社会に詳しくない菜月にも分かる。けれどそれを声量を抑える事もなく堂々と言い放つ辺り、勢力やら権力やら色々ややこしい事になっているようだ。


「…………」


 良好な関係を築いている人物が悪く言われれば当然頭にくるものがあるが、しかし相手は騎士団長に宰相。爵位以上の権力を有している者達に吹けば飛ぶド平民の菜月が歯向かえる訳がない。

 が、聞き流せるかといえばそうでもなく。せめてもの反抗として僅かに目を細める菜月。言い返さない事に気をよくしたか――あるいはくちごたえしないのが当たり前だと思っているのか、ドウェンドとアルバンは第一皇女への侮辱が多分に含まれた雑談を続ける。


「姫殿下はつい先日まで修行の旅とやらに出ていたノダ。しゃべる猿と群れて、知能が同レベルまで落ちてしまったのだろう」


「クハッ! 平民程度の知能しか持たぬ輩と()()同じ血が流れているなど、ガディアス様が不憫でならんな」


 ガディアス――確か、第二皇子の名だったか。話しりからすると、二人は第二皇子の派閥に属しているのかも知れない。……どんな派閥があるのかは知らないが、とにかくエミアリスの味方でない事は確実だろう。


(しっかし……なんだこいつらは? わざわざエミアリスの悪口を俺達に聞かせて、どうするつもりなんだ?)


 そう首を捻っている菜月に、気付かぬうちにピタリと体をくっつけていた優莉が、アルバン達にバレない程度の声量で耳打ちしてくる。


「(恐らく奴らは、わたし達がエミアリス……第一皇女の派閥だと思っているんでしょう。で、奴らは敵対派閥……恐らく第二皇子派に属しているから、わたし達が目障り、と)」


「(なるほど……って待て待て。別に俺達は派閥に属してなんかいないだろ?)」


「(エミアリスの権力で登城しているんです。確実に第一皇女派でしょう)」


「(うっそぉ……)」


 知らないうちに厄介事に巻き込まれていたらしい。実に迷惑な話である……が、エミアリスの力で城に入れて貰わなければ菜月はイアミントとの戦闘後に死んでいたかも知れないので、あまり文句は言えない。

 というかそもそも、平民で無名の冒険者である菜月達がエミアリスの派閥に属していたとしても、大した事はできないと思うのだが……。まぁ、考えても仕方がないだろう。敵対派閥の人物だから嫌味をぶつけて遊んでいるだけかも知れないのだし。……それはそれでイラつくが。

 と、菜月と優莉が小声で現状理解をしている間にも、彼らの陰口大会は続いていたようだ。


「ハハッ……やはりアレと同じ血が流れているようだ。帝国に不利益な事しかもたらさない毒の姫……アレが即死の猛毒だとしたら、こちらは遅効性の神経毒といったところか」


「脳筋の貴様にしてはよく頭が回る」


「脳筋は余計だモヤシ。だが、事実だろう? ()()()()は、()()と同じく不幸を齎す。まったく、悪魔の子ってのは本当に厄介だな」


「――魔女、だと?」


 菜月にとって最も忌むべき存在の名が話題に上がり、思わず零していた。

 その小さな呟きをみみざとく拾った騎士団長は、にやりと下卑た笑みを浮かべ、あざけったような調子で答えてみせる。


「あぁ、魔女だ。悪魔の目を持つ、けがらわしいばい。今は亡きオリアナ第一王妃様が遺した、帝国最大の汚点だ」


「……オイ貴様、その話は――」


 明らかに言い過ぎなアルバンをいさめようとするドウェンド。しかし騎士団長殿はうっとうしそうに払い退ける。


「どうせ皆知っている事だろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――本来の第一皇女は魔女だと、確かに彼は言った。

 エミアリスではなく、本物の第一皇女が別にいる。そしてそれは、魔女と呼ばれる存在である――。

 と、その時。


「――何をしているの?」


 ドウェンドとアルバンの背後から現れたのは、赤髪(きん)(どう)の美しき姫――渦中の人物である、エミアリス。

 ()()第一皇女である彼女の声に、いち早く反応したのはドウェンドであった。


「これはこれは姫殿下、ご機嫌(うるわ)しゅう」


 宰相殿の素早い変わり身でキメた華麗な礼を、しかしエミアリスは無視。頭を下げたままの宰相と明らかに手抜きな礼を取る騎士団長の間を強引に割って通った彼女は、菜月と優莉の目の前まで来ると、何も言わずに二人の腕を掴んだ。そしてそのまま彼女が来た方向へと引き連れていく。


「お、おい?」


「…………」


 菜月の呼びかけにも反応せず、ただひたすら廊下を進むエミアリス。強引に手を引きがす訳にもいかず、引っ張られるままに足を動かした。

 ――やがて、五分ほど歩いた頃だろうか。

 アルバンとドウェンドの姿はとうに見えず、数日しか滞在していない菜月達では現在地が把握できないほどの場所まで来たところで、ついに手が放された。

 ……いや、正確には優莉が無理矢理放させた、が正しいか。

 ともあれ、二人の腕が解放されたと気づくと、エミアリスはようやっと立ち止まった。


「……どうしたんだ? いきなり連れ出すなんて事して」


 振り向かないままのエミアリスの背中に、菜月は問いをぶつける。

 すると表情の見えない皇女様は、いつも通りの感情の読み取り難い声で、


「……訊かないの?」


「何が?」


「…………魔女の、こと」


 ――薄々(かん)()いてはいた。彼女が魔女の話題を気にして、菜月と優莉を強引にアルバン達から引き離したのだと。タイミング的に考えて、そう答えを出すのが自然だろう。

 けれど――。


「訊かねぇよ」


 本当は、訊きたい。宿敵に関わる事なのだから、是が非でも訊き出したい。

 でも、


「お前が話したい訳じゃなけりゃ、無理に訊こうとは思わない。誰だって一つや二つ、言いたくない事くらいあるだろうしな」


「…………」


 自分の欲を優先して目の前の少女が傷つくなど、菜月は許容できない。辛い思いをさせるくらいなら、欲しくてたまらない情報でも相手が自ら話すまで決して訊き出さないようにする。――東雲しののめ菜月は、そういう人間なのだ。

 魔女イアミントへの憎しみが弱いという訳ではない。ほんの少しだけ、エミアリスの口から『まさか』で留まっている事を『事実』に変えてしまう言葉を聞きたくないという心の弱さはあるかも知れないが、できるならば魔女の情報は集めておきたいという想いはある。

 それでも、菜月は訊かない。


「……そっか」


 いつもの、感情の読めない声。

 けれど今だけは、安堵のような色が滲んでいた。

 しかし振り返る事はない。決して表情を見せず、けれどどこか嬉しそうな雰囲気をかもし出した皇女様は、続けてこう忠告した。


「アルバン騎士団長の家――カカファト伯爵家は、代々騎士団長を引き継いでいる一家。軍事方面で手が広く、今じゃ侯爵家……下手をすれば公爵家と同レベルの権力を有している。で、当主があの通り性格最悪だから、何してくるか分かったもんじゃない。相手が皇帝でない限り、基本的に揉み消せるから」


「――――」


「……それと」


 少し言い辛いのか、不自然な間が開く。けれど菜月は催促したりせず、続きの言葉を待った。


「……厄介な事に巻き込んでしまって、ごめん。でも、貴方を助けるためには、城の特別な治療室に頼るしかなかった」


「それはエミアリスが謝る事じゃない。というか、俺が礼を言うべき事だろう」


「……でも、そので貴方達は、面倒な事に巻き込まれてしまった」


「命を救ってもらったんだ。そのくらい、安いさ」


 そう。命と厄介事を天秤に掛けたら、確実に命の方が重い。だから感謝こそすれ、恨む筋合いはないのだ。

 菜月の本心からの言葉を受け、エミアリスはまた沈黙する。けれどすぐに、――今度は少しだけうつむき加減で、言った。


「……ありがと」


 ささやくようにそう零した彼女の表情は見えない。けれど後ろからでも見える耳は、かすかに赤く染まっている気がした。



 エミアリスがチョロい? ……え、いや、そんなはずは……ない……といいなぁ。

 少なくとも、ミーフィルほどチョロくはないです。


 因みに、セルデセン帝国で『魔女』という単語は、蔑称ではありません。セルデセン帝国(当時は王国)の初代女王が魔女だったので、誉め言葉的な意味合いが強いです。

 アルバンが口にした『魔女』は、悪()の子である妙齢の()性……縮めて魔女、といった感じです。

 初代女王や皇族に対して敬いの気持ちを持っているならば『魔女』を蔑称として使う事は決してないのですが、アルバンはそこら辺が薄いので平気で蔑称として用いています。

 なお、魔女を称えるような風習が残っている(とも言い難いほど忘れられかけていますが)のはセルデセン帝国だけです。


 次回も宜しくお願いします。

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