間話三 ある魔術師の批評
短いです。
あと、今回は間話二の時と同様に一人称風に書いてあります。
偽幻獣。
彼ら彼女らはあの化け物を一言にそう表しますが、その実体は単純なものではありません。
例えばその外形。
鬼の角を頭部からにょきりと生やした凶悪な奴もいれば、逆にふさふさの毛を靡かせるお洒落さんもいる。牙が極太で鉄をも噛み千切られる暴食魔だっていますし、『本物』であるグリフォン風の奴も、下半身がスライム状の気色の悪い奴も、体は毒疣だらけなのに角だけ神聖味に溢れたヘンテコな奴もいます。逆に人間と見分けがつかない奴は魔人と呼ばれますが、それは置いておくとして。
その奇怪な肉体の理由は、材料と、魔法にありました。
液状生命体、緑小鬼、豚鬼、一つ眼鬼、火炎猪――そういった魔物達や、人間が主な材料となります。
『二月の魔女』の名を冠するイアミント=レン=ヴァーレンティア=セルデセンという魔道士は、材料達にオリジナルの魔法【魔性天幻化法式】(同人物によるオリジナルの魔法【魔性進化法式】を進化させたもの。効果、及び術式から考えるに、魔法ではなく既に魔術レベルだと思われます)を施す事により、その霊格を高次元のモノへと強引に昇格させました。
しかし適当な器で耐えられるはずもなく、殆どの魔物や人間は不完全で半端に強力な肉体を持つ獣――偽幻獣となってしまいます。この時の不完全さが原因で、歪な形に変質するのでしょう。
では、そもそも霊格を上昇させて、『二月の魔女』は何を作りたかったのか。
まず成功例の一つ、ミシア=エンフェイトが変質したもの――『本物』で考えてみましょう。
ミシア=エンフェイトには第二位星界の半神半人の一族、天道三大家と呼ばれる者達の魔力、及び血が流れており、器としての素質はかなり高位だったと推測されます。これはバチカンにて行われた『反霊樹の王』計画において集められた天上を掴む者にも匹敵するレベルでしょう。
十分に『資格』のある存在、その霊格を上昇させる――即ち神理の解明による存在の書き換えとは別の方法で神の座に近付くという事であり、その成功率は極めて低い。けれど、『反霊樹の王』計画よりは幾分か可能性がありました。
……一度他の実験の事は置いておきましょう。
霊格の上昇、それに伴う存在の書き換え。一番目の神理に抵触する魔法、いえこのレベルは既に魔術でしょうか。禁忌に触れる魔術で以って、『二月の魔女』はミシア=エンフェイトを『人間』という底辺存在より高位の存在へと昇格させようと考えました。
前提条件として、人間の霊格は底辺に位置します。妖精種や小人種という『原初の種族』に比較的近い種族ならば多少は上ですが、しかし『三位の星者』や『双星種』には遠く及びません。さもありなん、彼らは星界が生み出した神と同次元に在る存在なのですから。
ですが霊格が自由に弄れるようになれば、その格差も埋められるやも知れない――そう考えたからこそ、『二月の魔女』は魔法を、魔術を研究したのでしょう。
まだ彼女はそれが魔術だと気づいていないようでしたが……まぁできない事もないでしょう。あの人の一族なのですから、魔術に関しては天才的な素質があるはずですし。
では具体的にどこまで霊格を引き上げるのか。高すぎても器が耐えられませんし、何よりそんな魔術を発動させる代償はどこから持ってくるのか、そもそもそんな高難度の術が果たして使えるのか――問題点は山積みです。
ならば少しの上昇に留めれば良い。具体的には一、二段上位――『幻獣』と呼ばれる存在まで。
これが、彼女の人工幻獣量産計画の根となる魔術です。
なお、『魔人薬』と呼ばれる人間の潜在能力を爆発的に向上させ脳及び霊器のリミッターを外す魔道薬品は、これを成功させる過程で生み出された副産物だと推測されます。効果は強力なので、副作用を軽減させられるようになれば強化薬品として世に出せるものになるでしょう。
最後に、元・魔術学会登録魔術師第三団・神門として、此度の魔術を評価致しますわ。
着眼点はなかなかに素晴らしいですわ。生物の霊格に干渉し、現在より高位のものへ変質させるという発想は、常人が考えられるものではないでしょう。
けれど、言わせてもらうならば。
きちんと自身の力量を弁えましょう。歴代の『二月の魔女』と比べて底辺を這うレベルである貴女如きが扱えるものではありませんし、そも正式な魔術を学んでいない一般人に毛が生えた程度の見習い魔女(笑)なのですから、背伸びして応用に手を出すのではなくまずは入門編の簡単な呪いから始めてみてはどうでしょうか。藁人形とかオススメですわ(それ東洋の呪いだから魔女関係ないし、とかいうツッコミは受け付けておりません)。
海を隔てて西にあるカリストロ大陸では、神魔大戦時に活躍した魔術師達の子孫が昼夜魔術を研究していると聞くので、弟子入りしてみるのも良いでしょう。彼の有名な『煉獄の魔女』も五、六百年ほど前にそちらへ渡ったという記録もありますし、貴女にとっては良い刺激になると思いますわ。
『魔術批評・霊格上昇魔術について 著:カノン』より一部抜粋
※この著者名は恐らく偽名かと思われる
因みに口調がリリアーナっぽくなっていますが、彼女ではありません。
次回も宜しくお願いします。




