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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第三章 動乱の帝国//第零階層世界編
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第五十七話 デート・イン・スミスショップ

 シリアス……というか暗い雰囲気の話が続いていたので、後半は明るくなります。息抜き的に。

 あれですね、つかの間の……ってやつ(←オイ)。



「大体こんな感じですね。後は、先輩も起きていたから知っていると思います」


 話し始めは十二の刻の鐘が鳴ってからそれほど経っていない頃だったが、今はもう十三の刻の鐘が鳴り、更に一刻ほど経った。立ちっぱなしのテニーが辛くなってもう床でも良いかーと座り出したり、真剣な表情で真面目な話をしているゆうが同じベッドに腰掛けるつきにピタッとくっついたりと些細な変化はあったが、おおむね皆、約一時間半前と体勢を変えずに優莉の話を聞いていた。


「そんな事が……ってちょっと待て。という事は、シャルちゃんは目覚めてからずっとあの調子だったって事か?」


「ええ、そうです。一応、カウンセリングなんて大仰な事ができる訳でもないでしょうが、歳の近いリリアーナがほぼ二十四時間付きっ切りでていますけど……」


「あんな事リリィも初めてだから、あんまり成果は出てない。時間が解決するのに期待するのはちょっと思うところがあるけど、今はそれしかないと思う」


 優莉が皇女を呼び捨てにした事はスルーして、エミアリスが補足した。

「そうか……」と呟き、菜月は軽く顎に手を当て思考する。まだ何かシャルロッテに対してできる事があるのではないか、もっと良くしてやれるのではないか、と――。

 けれど出てきた答えは、『何もできない』という不甲斐ないもの。


(力不足……いや、それ以前に――)


 菜月にはシャルロッテに対して負い目がある。

 依頼への同行を許可した以上きっちり守らなければならないというのに、誘拐されてしまった。約束したのに、ミシアを生きて連れて帰る事ができなかった――。

 一部は優莉にも責任があるけれど、それがなんだ。約束した菜月が守れなかったのだから、責を負うのは菜月である。

 そんな思いが付いて回る以上、菜月がシャルロッテに対してできる事はない。


「……今は、リリアーナさんに任せるしかない、か」


 結局、そこに行き付く。そんな現状が酷く悔しくて、菜月は無意識のうちに拳を握り締めていた。

 そんな苦しげな想い人の横顔を見て、優莉は僅かばかり視線を落とす。今彼女の中で渦巻く感情は、菜月にこんな顔をされるほど大切に想われる者への殺意か、自分でもシャルロッテに対し負い目を感じているのか、菜月の役に立てない自分への苛立ちか――。

 ともあれ、ずっとこうしている訳にもいかない。

 先に静寂を破ったのは、優莉だった。


「……さて。それじゃ、先輩。まずは、お昼ご飯でも食べに行きませんか?」


「……そっか、もうそんな時間か」


 既にピークは過ぎているが、一応十三の刻は地球時間で午後一時なのでお昼時。まだ昼食を取っていないので、そろそろ食べる準備をした方が良いだろう。――もっとも、そんな気分ではないのだが。

 けれど食べないのは健康に悪いし、後々腹がくのも避けたい。そう判断し、菜月は頷く。


「そうだな……昼飯って、部屋に用意してくれるんだっけ?」


 エミアリスに話を向けると、彼女は長い真紅の前髪を弄りながら、


「残念だけど、時間切れ。事前に言っておかないと、とっておいてくれてないかも」


「マジか」


 だがまぁ普通はそうだろう。一応、菜月たちはエミアリスの客プラス重要参考人という立場で城に滞在しているが、この滅茶苦茶厄介な状況のただなかで、碌な地位もない一般庶民に気を遣っていられるほど余裕はないはずだ。


「となると、どっかに食べに行くか……?」


「そうですね…………、――っ! 行きましょう先輩! 今すぐ、さぁ!」


「え、ど、どうした優莉、いきなりそんなやる気出して?」


 突如目をキラキラさせてくし立てる優莉。菜月は若干引き気味だが、優莉の勢いは止まらない。先ほどまで場に漂っていた真剣な雰囲気は完全に霧散していた。


「デートです、デート! 若い男女が昼食を食べに行くって、それはつまりデートですよね!」


「あぁそーゆー事ね、うん。なんか一気に気が抜けたよ……」


 というかよくこんな状況でテンション上げられるなこいつ、と菜月は思うが、基本的に菜月さえ居れば後はどうでも良い優莉はこんなものだろう。彼女にシリアスを継続させたいのなら、菜月がちょっと深刻な状況に陥らねばならないが、それはそれで周りの被害がとんでもない事になりそうなので遠慮しておきたい。

 諦めてデートという事にするのが無難だろう。無理に訂正しても意味はないし、それに菜月にとっては(妹や幼馴染との買い物は除いて)人生初デートである。相手は恋人ではないが、吹けば飛ぶモブ系一般男子(菜月曰く)である菜月では会話する機会など本来巡ってくるはずがない絶世の美少女なので、降って湧いたチャンスを有り難く頂戴しておくのが童貞男子のあるべき姿だろう。

 沈む気分を強引にでも上方修正した菜月が頷くと、優莉は万人が思わずドキッとしてしまうほどの笑顔を見せて、


「有難う御座います、先輩♪ 大好きです!」


 不覚にも菜月の顔が赤くなったのは言うまでもない。


   ◆ ◆ ◆


 昼食はエミアリスのオススメだというちょっとお値段高めの飲食店で取った後、すぐ帰るのはデート(仮)としてどうなんだという事になり、しばらく二人は帝都リアードをぶらついていた。ちなみにエミアリスはリリアーナと一緒に取っておいてもらったらしい城の昼食を食べ、テニーは一緒に食べに行くかと誘ったが「ユーリさんに殺されるので遠慮します」と言って一人で帝都に食べに行ってしまった。

 この街はつい最近〝終焉教〟に襲撃されたというのに、他の街では考えられないほどに復興が進んでいる。とはいえ全て綺麗に元通りになるにはまだまだ時間が掛かるようで、応急処置を施した程度だった。それでも日常生活を送るのには支障が無いまでに回復している辺り、国家の対応の早さやこの街の住人のたくましさが窺える。

 兵士や依頼を受けた冒険者、多くの魔道士(ウィザード)が瓦礫の撤去に臨み、崩壊部位の修復をしている。所々で建物や地面に仕込まれた魔法陣を修正している場面を見ると、やはり魔法大国なのだなと菜月は見回しながら思った。


「……そういえば、あの廃研究所に入った時に、優莉の剣を買いに行こうって話してたっけか」


 ふと、思い出したように呟く菜月。

 その後の戦いやら気絶やら目覚めてからの円卓会議やらですっかり忘れていたが、優莉は帝都襲撃事件の折に二本の長剣を失っている。いざとなれば吸血鬼種(ヴァンパイア)のスキル血器術(ブラッドオーダー)があるが、人間種でないとバレる力は無闇に使わない方が良いので、この期に買っておいた方が良いだろう。

 そういう事で、二人は近くにあった鍛冶屋に入ってみる事にする。『レジェンドスミスショップ・クニキダ』という大層な名前の割に商品は残念そうな地雷店だったが、まぁ適当に眺める分には面白いかも知れない。

 扉を開くと、カランカラン、と喫茶店にあるようなベルが鳴る。この世界の鍛冶屋ってこんななの? と疑問に思いつつ、想像していたより清潔な店内へと踏み入れると――。



「いらっしゃいませーご主人様☆」


 フリフリのメイド服を着て頭部に二本の角をやした()()()()()()()()が、媚びたようなスマイルをこちらへ向けてきた。



「…………」


「…………」


 ……即行で菜月は身を翻し、扉に手を掛ける。


「ああ待って待って帰らないでくれ! 悪かった、ちょっと今メイドさんごっこにハマってただけなんだ! だからそんな一世紀分の糞尿が溜まったヘドロレベルで気持ち悪いものを見たような眼のまま店を出ようとしないでくれぇぇえええ!」


 もの凄い形相でフリフリにデコレーションされた改造メイド服を着こんだ店員(男)が、菜月の肩を掴んでくる。

 菜月はがくがくと前後に揺らされながら、


「ちょ、うぇ、吐く、昼ご飯が出てくるっ!」


「それはあれか、オレが気持ち悪いからか⁉ えな分かってんだよ似合わないって事ぐらい! でもあいつら着てくれないんだもん、自分で着るしかないんだもん!」


「ちっげーよ揺らすのやめろって言ってんだよ、つか男が『もん』とか言うなよ余計に気持ち悪いな‼」


 最終的に鳩尾みぞおちを殴って無理矢理メイド服の男を振り払った菜月は、膝に手をついてぜーはーと荒い呼吸を繰り返す。因みに優莉は、フリフリメイド服を着たオレンジ髪に紫の瞳、そして二本の角を持つゴツイ印象のイケメンがバリトンボイスで「いらっしゃいませーご主人様☆」などと笑顔でのたまうという殺人級の衝撃に硬直してしまっていた。さもありなん、普通にトラウマレベルである。

 急所を殴打されて悶え苦しんでいたフリフリメイド服の男は、その鍛えられた肉体からいだく印象の通り丈夫なのかすぐさま復活し、


「いらっしゃい。オレが店主のデルタだ。で、何の用だ?」


「いやまず着替えて来いよ」


 しれっと何事も無かったかのように渋いキメ顔で仕切り直すが、この男、フリフリメイド服のままである。というかこいつ、店主だったのか。こんな変態が運営していて、この店は大丈夫なのだろうか、と心配する菜月であった。


「ぐ……別に良いだろ? この後見せる奴がいるんだ、その時また着替えるのは面倒臭いから、このままにさせてくれ」


「フリフリメイド服のゴツイ男に接客される客の気持ちにもなれよ……つか見せる奴いるのかよ、どんな罰ゲームだ」


「先輩、撤収しましょう。変態と同じ空間に居ると汚染されてしまいます」


「されねぇよオレは病原菌かッ!」


 ドン引きしている優莉にツッコミを入れるデルタと名乗った男(フリフリメイド服装備)。優莉の言う通りさっさと出て別の店に行くのが正しい気がする菜月であった。

 しかしせっかくの客を逃すまいと、フリフリメイド服の店主はまるで友人に接するような気軽さで菜月の肩に手を乗せて、しかし眼だけは笑わずに言う。


「見ていくよなー? スミスショップに入ったんだもん、武器防具見るよなー? お前さん冒険者だろ? 当然、剣とか見ていくよなー?」


「あ、いや……俺、魔道士(ウィザード)なんだけど」


「…………………………見ていくよなー? ほら、敵に接近されたら困るよなー? 短剣とかオススメだぜ?」


 なんか肩に置かれた手の力が強まった。地味に痛い。


「あぁもう分かった、分かりましたから……優莉、ごめん。ちょっとここで見ていこう」


 買うとは言っていないが。


「……分かりました」


 すまなそうな表情の菜月に、優莉は少し拗ねたように唇を尖らせる。変態店主の店でデートする事になり、せっかくの綺麗な思い出がけがされて不快に感じているのだろう。しかしこのフリフリメイド服の店主は見かけの変態性はともかく力は鍛冶師らしく強いため、逃げるのは容易ではないので我慢してほしい。


「よし、決まりだな! で、どんな武器を探してやがる? それとも防具か?」


「あ、えっと……こいつの武器を探しているんだが……」


「なんだ、女の子の方か。……つかリア充かよ爆ぜろ」


 何事かぼそりと呟かれたが、小さかったので菜月には聞き取れなかった。


「え、なんて?」


「いいやなんでも。で、武器の種類は?」


 ここで優莉にバトンタッチ。流石に他人の武器について菜月が詳しく注文する訳にはいかないので。


「長剣です。二本欲しいんですけど……」


「わお二刀流。カッケーなオイ! スターバーストストr」


「重さは特に指定しませんが、長さは八十センチから九十センチくらいで、刀身は細めが良いです。……あれ、今何か言いかけましたか?」


「……なんでもないっす」


 言いかけた言葉を途中でぶった切られてテンションダウンした店主は、どんよりしながら店の中を徘徊し、二本の長剣を持ってくる。恰好はともかく、仕事はきちんとしているようだ。


「ほらよ。二刀流ならこいつらがオススメだな。性能的にも、見た目の組み合わせ的にも」


 店主が見せてきたのは、青みがかった白の刀身と銀の柄を持つ長剣と、漆黒の刀身と黒紫の柄を持つ正反対の長剣。どちらも水晶のように透き通った刀身が眼を引き付け、まるで芸術品のような美しさを醸し出している。


「白い方が〈ヴァイス〉。レアリティ(シックス)で、魔法付与(エンチャント)効果は血弾き、聖属性付与、切断力補正A、鉄壁の四つだ。黒い方が〈シュヴァルツ〉で、レアリティ(シックス)魔法付与(エンチャント)効果は血弾き、闇属性付与、切断力補正A、魔力切断。どうだ、良い武器だろ?」


 この世界に来てから武器を物色したのはまだたったの二回目だったので、魔法付与(エンチャント)効果をずらずらと言われても菜月はピンとこない。ただし、レアリティの方は勉強していたので、この武器がどれほど珍しいものなのかは分かる。


「レアリティ(シックス)って、マスター級の職人が作った剣じゃん……っ!」


「おうよ! オレの腕なら(シックス)とか(セブン)とかなら余裕だぜ! ……まぁこの二本はノリで作ったやつなんだけど」


 菜月の驚愕の声に、ドヤ顔で自慢する店主。最後にぼそりと呟かれた言葉は、幸いにも菜月や優莉には聞こえなかった。

 レアリティとは、(ワン)から(ナイン)まである、アイテムの希少レア度のようなものだ。一般的な物は(ワン)から(ファイブ)止まりで、(シックス)(セブン)はマスター級だと生産ギルドから認められた職人などが製作した伝説の逸品、(エイト)(ナイン)は『天霊樹の迷宮』などの高難度ダンジョンで入手できる神魔造具(アーティファクト)が主流となる。(セブン)(エイト)(ナイン)辺りは国宝級になる品で、(シックス)も物によっては城の宝物庫行きになるほどだ。

 (シックス)以上の物はそう簡単に手に入らないし、ましてや菜月がエミルフィアでそれなりのお値段(金貨二枚、日本円で約十万円)で購入した緋色の杖でさえ、レアリティ(フォー)なのである。

 それが(シックス)。そんな高レアリティの武器を作れるこの店主は、実はかなり凄い人なのではなかろうか。変態性はともかくとして。


「んで、どうだ? 安くしとくぜ?」


 ずいっと顔を寄せてくる店主。優莉は生理的に嫌なのか菜月の後ろに素早く隠れた。

 盾にされた菜月は、どんどん顔を近づけてくるフリフリメイド服のイケメンに冷や汗を垂らしつつ、


「いや、安くしとくって言われても……レアリティ(シックス)の武器二本なんて、流石に金が払えないというか……」


 確かにモノは良い。ここでしか手に入らない逸品かも知れない。が、そんなものが買えるほど、菜月はお金持ちではない。――いや。


「あ……そういえば先輩、レギオンモンキーを倒した時に貰ったお金が……」


「はっ! そ、そういえばそうだった!」


 確か依頼報酬で金貨三十枚、換金で金貨四枚に銀貨四枚を手に入れていた。優莉に言われて思い出した菜月は、腰のポーチから取り出す――フリをして、本当はインベントリーから財布を取り出す。

 じゃらり、と明らかに大量に入っている音が鳴る。金のコインが大量に入った袋は、確かな重みがあった。


「ほう、金有るじゃねぇか」


「あ、あははは……」


 すっかり忘れていたので苦笑いの菜月。金を手に入れた時はシャルロッテが攫われて焦っていたので喜ぶ余裕はなかったが、今考えるとこんな大金よく手に入れられたなと思う。実際、やった事はレギオンモンキーの虐殺であったが。

 因みに正確なレートは分からないが、金貨三十四枚は日本円で約百七十万円相当である。一回の依頼でそれほどの大金を手に入れられる冒険者などほんの一握りなので、受付嬢や協会内に居た冒険者たちはかなり驚いていた。……菜月も優莉も覚えていないが。

 ともあれ、金は有る。問題は、優莉が買いたいと思うかだが――。


「……お金が足りるなら、買いたいですけど……でも、流石にカモフラージュなのに大金を使う訳には……」


「いや、良いだろ。カモフラージュって言っても、血器術あれを使わない時はメイン武器として使うんだ。少しでも良いやつを買った方が良い。……それに、多分だけど、これ以上に良い武器は、それこそ『天霊樹の迷宮』で手に入れられるものくらいだろうし」


 あまり武器をじっくりと眺めた事はないし、そもそも菜月のメイン武器は杖だから剣のしなど分からないが、しかしレアリティ(シックス)の武器が売られている鍛冶屋など滅多にないという事は分かる。こんな機会に巡り合える事などそうそうないだろうから、チャンスを逃さず購入した方が良いだろう。

 そう伝えると、優莉は少し悩むようなそぶりを見せてから、


「……はい。分かりました。それなら、有り難く購入させてもらいます」


 ふわりと、嬉しそうに微笑んだ。

 ほんのりと朱の差した頬に柔らかに細められた双眸、その万人をとす微笑みが不意に向けられ、菜月は不覚にも顔に熱がのぼるのを感じる。


(ちょ、なんだ今日のこいつは、なんでこんなに可愛く見える⁉ ……いや普段から可愛いのは知っているが……まさかこれが伝説のデート効果⁉)


 どんな伝説なのか意味不明である。照れで混乱が最高潮に達しているのだ。

 そんな二人を見て、ふっと真顔になった店主は、


「(……くそう目の前でいちゃつきやがって。何なんだこいつら。つか女の子の方可愛すぎだろ。男もげろ)」


「……? なにか?」


「えーオレ、なんも言ってないよー。あ、もしかしたら心の声でも漏れちゃったかも知れないけどー」


 ぶつぶつと声が聞こえて、怪訝な表情で問い掛けた菜月に、あからさまに誤魔化してくる店主。というか最後に言った事が事実なのではなかろうか。

 首を捻る菜月に、何故か店主はイライラした態度で、


「で、買うのか買わんのか? あ、因みに一本金貨百枚な。男買えんのか? オラオラ払ってみろよ。払えないとカッコ悪いなーダサイなー彼女に嫌われちゃうなー」


「え、なにそのイライラするチョイ悪役的なテンション。つぅか高ッ! 法外じゃね⁉」


 日本円にして約五百万円。二本で一千万円とか、買える訳がない。普通に車が買える値段である。レアリティ(シックス)な事を考えても、長剣に付ける値段にしては高すぎる。レアリティ(エイト)なら分からない話でもないのだが。

 しかし菜月の苦言も意に介さず、店主は嫌味な表情を浮かべたまま、


「けっ、払えねぇのか? ダッセーなー、そんなだと女が逃げちまうぜ? つか別れろ。リア充なんざ爆散しときゃ良いんだよ!」


「なんだこの人、ただの嫉妬かいっ! つか俺ら付き合ってる訳じゃないんだが……」


「ふふふ、大丈夫です先輩。わたし、先輩がヒモでも愛してますから」


「あれ、なんか面倒な方向に舵を取られた気がする」


「ちっくしょぉぉおおおおおおおお――ッ‼ 見せつけんじゃねぇよ千年間非リア民のオレを殺す気かよぉぉぉおおおおおおお――ッ‼」


 なんか店主が血を吐く勢いで絶叫していた。内容は良く分からなかったが。

 それから店主はメイド服のヒラヒラを振り乱して暴れていたが、暫くして落ち着いたのか疲れたのか、ようやっと我に返る。


「……スマン、取り乱した」


「あ、ハイ」


「それで、金貨百枚は無理だったな? まぁそもそも元の値段設定、金貨十枚だったんだけど」


「ゑ」


 十倍でけるとか、この店主ちょっとやり過ぎではなかろうか。

 ジト目を向ける菜月と優莉に、店主は特に可愛くもないのに……と言うかむしろ気持ち悪いのだが、拗ねたように唇を尖らせる。


「だってリア充なんだもん。吹っ掛けたくなるじゃん、不幸願いたくなるじゃん、破局させたくなるじゃん」


「最低だこの人……こんなのが店主やってて大丈夫なのかこの鍛冶屋」


「ま、それはともかく」


 菜月の罵倒を無視して、店主は話を続ける。


「二本で金貨十八枚でどうだ? 特別に、通常より二枚お得だぜ」


「え……良いのか?」


 十倍で吹っ掛けてきた人とは思えないサービスに、思わず疑ってしまう菜月。しかし店主はニカッと笑い、


「ま、十数年ぶりにこの街に戻ってきて、最初の客だからな。サービスくらいしてやるさ。……あ、でも一つだけ頼んで良いか?」


 何だろうか、と首を傾げる菜月達に、店主はこれ以上ないほどに真剣な表情を浮かべて、言い放った。


「〈シュヴァルツ〉を右手に装備し、左手に〈ヴァイス〉を装備してくれ」


「…………、何故?」


 どうしてそんな指定をされるのか良く分からない菜月は首を捻るが、しかし店主は真剣な表情を崩さず、至って真面目に話す。


「いやお前、二刀流は右手に黒い剣、左手に青っぽい剣を装備するのがロマンだろ。……いや〈ヴァイス〉はほとんど白だけど、微妙に青っぽいじゃん」


 ……どこの黒の剣士だ、とツッコミを入れる菜月だった。



 フリフリメイド服の鍛冶師……一体どこのデルタなんだ……(棒)。


 因みに、ヴァイスとシュヴァルツの値段はかなり安いです。本当は、一本で金貨二十枚とか三十枚とかが適正です。(日本円で百万~百五十万円相当。需要と供給量の関係で値段は低めに思えても、実際この世界の常識だと稼ぎの良い冒険者でも手が届き難い逸品です。つまり鍛冶師の頭はともかく、品はめっちゃ良いという事)

 次回も宜しくお願いします。

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