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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第三章 動乱の帝国//第零階層世界編
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第五十六話 夢を見る少女Ⅱ



 シャルロッテが目覚めたという知らせがゆうのもとに届いたのは、次の日の事だった。

 エミアリスの権限で泊めさせて貰っている部屋で運ばれてきた朝食を終えて、テニーとエミアリス、そしてエミアリスに付いてきたリリアーナと合流すると、優莉はシャルロッテが治療を受けている部屋へと向かう。

 本当は朝起きて一番につきの傍へ飛んでいきたいのだが、こちらをないがしろにする訳にもいかない。なにせシャルロッテは今回の事件でかなり深い所まで関わっていたのだ、情報を得るには最適である。

 意識があった最後の様子を見て考えるに、テニーのように魔法で忘れさせられている可能性も低く、また呪殺された司教のように呪で口封じされる事もないだろう。何故なら、シャルロッテが使った力――『銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』には、そういった使い手に害をなす魔術や魔法を喰らってしまう効果があるのだから。


(……しかし、『銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』ですか)


 自らと同じ力を持つ少女。――それは、有り得ない筈の存在だ。

 けれど、この目で見てしまった。そして、感じた力は、間違いなどではなかった。


(大分弱まっていましたが……でも、あれは間違いありません。確かに、『血』の力でした)


 となると、それはどういう事なのか。

 考えられる可能性としては、いちじょう家と同じルートで力を得るに至ったか、魔術・魔法で再現したか、そういう特殊能力スキル天の恩恵(ギフト)なのか。しかしどれも現実味は薄い。


(……もしや、この世界に来た一条の者がいて、その血縁者……とか?)


 有り得ない事ではない。――そして、心当たりがない訳でもなかった。


(そう、ですか。()()()が、この世界に)


 まだそうと決まった訳ではないが、しかし優莉は半ば確信めいたものを感じていた。

 と、そこでようやくいっこうは治療室に到着する。

 部屋の前で控えていた使用人がエミアリスに何事か耳打ちし、その言葉に皇女様が頷く。吸血鬼の力を引き出せば聞こえない事もなかったが、わざわざ帝国側の隠し事を聞く必要もないのでそのままにしておいた。

 使用人がまた先ほどまでの位置に戻ったのを確認すると、エミアリスを先頭に治療室へと突入する。

 ――そこは、清涼感溢れた空間だった。

 部屋の目的を考えれば当たり前の事だが、清潔に配慮された空間。優しく鎮静作用のある色合いで統制された壁紙や器具が配置され、天道三大家に属していた優莉であっても読み解けない魔術で室温を調節されている。酷く居心地の良い、患者に優しい最良の病室だと言えるだろう。

 だが、優莉は違和感を覚えた。

 この世界の文明レベルを地球の歴史に当てめて考えたら、おかしな事だらけだ。十二、三世紀の中世ヨーロッパはここまで清潔さに配慮してなどいないし、視覚が脳へ与える作用を考えた部屋設計も現代と同レベルに至っていたとは考え辛い。同じ歴史を辿っている訳ではないのだから必ずしも有り得ないとは言えないが、しかし城内を見回してからこの部屋を見ると、どうにもちぐはぐさを感じた。

 というか、まずおかしいだろう。この世界の魔道技術は、地球のそれよりずいぶん遅れている。魔術に至っては、優莉が確認した限りほぼ()()()()()筈なのだ。

 それなのに、優莉では理解できない魔術式が使われていた。

 魔法ではなく魔術というところも、天道三大家という地球において三大組織の一つを誇る所の魔道技術を持っていた優莉が理解できないところもおかしい。


(……神魔大戦時の遺物、とかでしょうか?)


 神魔造具(アーティファクト)などと言われている物は、約千年前の神魔大戦時に神やその眷属となった人間達の手によって作成された魔道遺産だ。いや、神だけではない。悪魔種(デモニア)天使種(アルフ)真祖吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)古霊妖精種(エルダーエルフ)――そういった、今では絶滅、あるいは数を著しく減らした超越種族たちが心血(そそ)いで作り上げた逸品である。それならば、優莉が魔術式を解読し切れなくても納得できる。

 だがまぁ、今はその事はどうでも良い。


「調子はどうですか、シャルちゃん?」


「あ……ユーリさん。えと、えとえと……はい、大丈夫です」


 白く柔らかなシーツが敷かれたベッドに横たわる半妖精種(ハーフエルフ)の少女に近づき、優莉は思考の海にひたっていた頭を切り替えて声をかける。

 彼女の言う通り、顔色は悪くない。多少魔力の枯渇は見られるし、魔力回路が切れたり詰まったりして若干の問題点はあるが、自然治癒でも十分回復可能な程度だ。肉体的な傷もかなり消えているので、この調子でいけば、肌に傷を残さずに済むだろう。あれほどの傷を負っていたというのにそれだけで済んでいるのは、生まれつきなのか種族的特性なのか、それとも『血』の恩恵なのか――。

 ともあれ、無事ならば一安心だ。見たところイアミントの置き土産みやげがあるようにも感じないし、シャルロッテが覚えている限りの情報を引き出す事は可能だろう。

 そう判断し、さっそく優莉は質問を始める――のに先んじて、後ろのテニー達が割り込んできた。


「ふえー、あんなにボロボロだったのに一日で目を覚ますまでに至るって、やっぱり帝国の技術力って凄いんですね!」


「この部屋は初代女皇帝……ん、あの頃は女王だった。その人が自身の持つ魔道技術をぎ込んで造った部屋だから、死者以外は大抵治る……らしい」


「えええ⁉ なんですかそのとぎばなしに出てくる魔法みたいな部屋! というかそれ国家機密とかじゃないですよね知りたくなかったー!」


「病室では静かにして下さらないかしら。まったく、常識がなっておりませんわ。それとお姉様に気軽に話しかけて良いのはわたくしだけなんです! はーなーれーてーくーだーさーいーまーしー!」


「……えとえと、あの愉快なお姉ちゃんたちは、誰?」


 つい先ほどまで意識が無かった患者の前だというのに(そう)(ぞう)しいメンツに困り顔を作るシャルロッテ。なかなか自分の用事が済ませられない事に優莉は苛立ちながらも、とりあえずざっと紹介しておく。


「あの赤髪(きん)(どう)の、いつもぼーっとしてそうな人がエミアリス。同じく赤髪金瞳でキーキーやかましいシスコンがリリアーナ。そして無駄にいのがテニーさん。全員、貴女を助けた人ですね……一応」


「僕の紹介が雑すぎですし、皇女様たちに至っては喧嘩売ってません⁉ というか一応って何ですか一応って!」


「黙ってください五月蠅いですよ」


 イラっと来たので殺気をぶつけてやると、テニーは大人しくなった。代わりに、優莉曰くいつもぼーっとしてそうな皇女様が前に出る。そして彼女の腕に抱き着いていたシスコン第二皇女も愛すべきお姉様の横に並んだ。


「初めまして。わたしはエミアリス。一応、この国の第一皇女。よろしく、シャルちゃん」


「ふえ⁉ こ、皇女様⁉ は、はははははいぃぃ! しゃ、シャルロッテ=エンフェイトです! げ、下賤な身で皇女様のお目に掛かるなどあってはならない低俗な存在ですが、よ、よ、よろしくお願いします!」


 テンパって異常に自身を卑下するシャルロッテに、エミアリスは苦笑する。ガクガクとヘビメタの如く頭を上下させて必死にお辞儀する怪我人に、落ち着くようエミアリスは促すが、効果はあまりなかった。

 傷口が開いても良くないので、素早く動いたリリアーナがシャルロッテの体を優しく押さえて止める。それから心を落ち着かせる柔らかい声で、


「わたくしはリリアーナですわ。シャルちゃん……は、愛称ですわよね? わたくしもシャルちゃんと呼ばせて貰ってよろしいかしら?」


「ふぇぇえ⁉ そ、そそそそれは何と言いますか恐れ多いです! あああでも断ったら不敬だし、えと、えとえとえと! はっ、はいその呼び方でお願いします!」


 落ち着かせようとしたリリアーナの行動は逆効果だったようだ。シャルロッテにとって皇女という雲の上の存在からの愛称呼びは、恐れ多くて意識を飛ばしそうになるほどの事態らしい。それもそうだろう、普通に過ごしていればそんな経験はまず有り得ないのだから。

 あたふたあわあわするシャルロッテにリリアーナはクスリと上品に笑う。その表情は柔らかく、まるで妹に向けるもののようであった。……シスコンは、上だけでなく下にも発揮されるようである。実妹ではないが。

 そして最後に、殺気を当てられてガクブルしていたテニーがやっと復帰する。


「僕はテニー。よろしくね、シャルちゃん」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「あれえ⁉ 何でか僕だけ普通⁉」


 前の二人に比べれば凡人のテニーに緊張する要素は皆無なので、そんなものだろう。

 反応の差に打ちひしがれるテニーは置いておき、もう良いだろうと優莉は用事を済ませる為に質問を始めた。


「それで、シャルちゃん。どの程度、今の状況を理解できていますか?」


 まずはそこを確認しておかなければ、上手く情報も引き出せまい。

 リリアーナに落ち着かせられた――逆効果だったが――流れからそのまま優しく頭を撫でられている半妖精種(ハーフエルフ)の少女は、しばし悩むように思考した後、こう答えた。


「えとえと、治療師さんから聞いた話だと……ナツキさんとユーリさんと、あとテニーさんがあの……研究所? そこから助けてくれて、それから皇女様の計らいでこの部屋に運ばれて、一日寝てたって聞きました」


「……なるほど」


 主な流れは把握しているらしい。これならスムーズに聞き出せそうだ。

 今まで余計な時間を取らされた分、ここからは効率良く行けそうだ……と、そう思った時だった。

 少女の口から、その言葉が吐き出されたのは。



「あ! そういえば、ユーリさん達があの怖い魔女のところから助けてくれたんですよね! 本当に、ありがとうございました!」



「――――」


 チリッ、と。針が首筋を浅く刺すような不快感。

 礼を口にするシャルロッテの笑顔が、酷く歪に感じた。


(何でしょう、この違和感……)


 スッと目を細くして、優莉は違和感の正体を探ろうとシャルロッテを観察する。

 外見に異常はない。精神面、そこに『何か』がある。

銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』を使った反動? 確かに副作用はあるが、これはそういうものでもなさそうだ。魔法・魔術による干渉でもなく、催眠誘導でもなく。薬物でもなく、これは――。


「色んな所から連れて来られた人達が、あ、あの魔女に弄られて……凄く、怖かったです。わっ、わたし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど……で、でも、ユーリさんやナツキさんやテニーさんが来てくれて、嬉しかったです」


「――――」


「そういえば、ユーリさん達が来たら安心しちゃって、わたし、気を失っちゃいましたけど、どうやってあの魔女を倒したんですか? 確か魔女の傍には、おっかない怪物もいましたよね? ()()()()()()()()()()()()()、ユーリさん達が来る直前に魔女の手で改造された、凄く強い怪物だったんですが……」


「……そういう、事ですか」


 に落ちた。

 これは、至って簡単な事だ。


(……記憶のかいざん


 魔法とか薬物とかそういった外的要因で狂った訳ではなく、自我の防衛のために脳が勝手にやったのだ。

 シャルロッテ=エンフェイトはまだよわい十二ほどの少女。旅先でカルト集団に攫われて、魔女に実験動物のように扱われて、あげの果てに母親を恐ろしい化け物へと変えられた。そんな衝撃的な出来事に連続して襲われ、精神の許容範囲などとうの昔に超えている。記憶を弄って悲劇を『無かった事』にしなければ、彼女の心は壊れてしまうだろう。


(……困りましたね。これだと、まともな情報は得られそうにありません)


 こんな状態の彼女が持っている情報は、とても正確とは言い難いだろう。

 それに、不安定な彼女から無理矢理情報を引き出すのは悪手だ。なにせ彼女は『銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』の力を有している。それを暴走させられたら、幾ら優莉と言えども制圧するのに無傷とはいかないし、隣の部屋で治療中の菜月にも危険が及んでしまう。それはまずい。


「……、シャルちゃん。わたし達があの研究所に着いた時、貴女は魔女と戦っていました。それは覚えていますか?」


「え? わ、わたし、戦うなんて無理でしたよ。魔女はすっごく強かったですし、魔女に反抗した人もすぐに負けちゃいましたし……」


「反抗した人、ですか? それはどなたか、覚えていますか?」


「えと、えとえと……すみません、覚えてません。あ、あの、ユーリさん達が来た時に戦っていた人なんですけど……」


「…………」


 それは貴女の事でしょうが、と口にしたい衝動を抑えて優莉は口をつぐむ。

 暫しの思考。後ろで何か余計な事を言いそうになっていたテニーに殺気をぶつけて黙らせ、皇女様たちを手で制しておく。

 重要な情報源の一人であるため、エミアリス達には前もってシャルロッテの現状を優莉の知る限り話してある。だから、シャルロッテの異常は三人も気づいているだろう。だがこの中で一番シャルロッテと付き合いが長いのは優莉なので、皆(しぶ)(しぶ)でも対応を任せてくれているようだ。


「……ではシャルちゃん。変な事を訊くようですが、貴女の母親は今、どこに居ますか?」


「――――」


 ――ほんの一瞬、刹那の間。シャルロッテのシアン色の瞳から、光が消えたように幻視した。

 けれど、すぐにいつものあどけない笑みに戻って、有り得ない妄想を口にする。


「え……と、母さまは、エミルフィアでわたしの帰りを待っています」


「それは……ッ!」


「リリアーナ」


 有り得る筈がない事を口にしたシャルロッテに声を上げかけたリリアーナを、エミアリスが手で口を覆って無理矢理黙らせる。テニーもリリアーナと同じく何事か言おうとしたようだが、今度は優莉から殺気をぶつけられる前に口を噤んだ。


(……なるほど)


 今の問答で、大体分かった。


(シャルちゃんの母親……『ミシア=エンフェイトが化け物に改造された事』、いやそれ以前に『ミシアがあの場に居た事』を改竄しているようですね。それに付随して『自分がイアミントと戦った事』も『知らない人が戦っていた事』に置き換えられています……恐らく、『ミシアが化け物に改造された』という前提が変わった事で、戦う理由がなくなったからでしょうね)


 都合よく書き換えられている部分は、そんなところだろう。小さな改竄までは流石に分からないが、殆どが『ミシアの怪物化、そして死』に関する事だ。それが彼女にとって一番の悲劇だったのだろう。


(……なるべく情報を集めておきたかったんですけど……仕方ありませんね)


 シャルロッテに見咎められないように小さく溜息を零す。

 最近、全くついていない。拷問して情報を引き出そうとした奴は呪殺されるし、敵の干渉が無くかなり深い所の情報が得られると思っていた少女は自身で記憶を改竄。そして最悪な事に、愛する先輩は意識がない。本当に、運が悪い。


(……何も得られないっていうのも嫌ですし、ちょっと苦手なんですけど、とりあえずきますか)


 菜月が目覚めるまでに、情報を集めておく。全ては、愛する先輩と送る薔薇色の異世界ライフのために。

 まずはシャルロッテが覚えている範囲の情報を、改竄されている箇所に注意しながら引き出せるだけ引き出そう。後は、あの呪殺された司教以外に捕らえた〝終焉教〟達を拷問して回って、情報を持っていそうな城勤めの人達に聞き込みをする。本心はずっと菜月の傍に居たいのだが、幸せな生活を送る為にはしっかりとした準備が必要だ。我慢しよう。


 ――それから優莉は、〝終焉教〟やこの国の危険分子の情報を集める事に全力で取り組み、それでもなお目覚めない菜月の傍に寄り添う時間を忘れず、帝国城暮らしを満喫(?)した。

 そして。

 東雲しののめ菜月が目覚めたのは、彼が倒れてから五日後の事だった。



 次回も宜しくお願いします。

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