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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第三章 動乱の帝国//第零階層世界編
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第五十二話 円卓会議

 遅くなりました。申し訳ありません。


 今回は長い上に説明回っぽくなってしまいました。

 キャラが一気に増えますので、覚えてもらえるように、なるべく役職と名前を合わせて書くようにしています。……ちょっとしつこいかな? どうなのでしょうか。


 では、第三章本編、始動です。



 ――どうして自分はこんな所に居るのだろう、と東雲しののめ菜月なつきは頬を引き攣らせていた。


「霊石は反逆者どもに持っていかれた」


 円卓の上座でそう口にしたのは、真っ赤な髪と同色の髭を撫でる金瞳の男。身に纏う衣服は豪華絢爛、それに見劣りしない豪奢な椅子に立て掛けられた杖は魔法大国と呼ばれるこの国でも一、二を争う武具だろう。それを持つだけの実力と権力を持っているこの男の纏う威圧感は凄まじく、菜月のような一般男子高校生では同じ部屋に居るだけで委縮してしまう。というか正直今すぐ逃げ出したいほどであった。

 だが彼が雰囲気に呑まれるのも仕方ない。何せここにいる威圧を纏う人物はこの男だけではなく、菜月と何故か一緒にいるテニーを除く全員がその絶対的強者の雰囲気を宿しているのだから。


「ですからワタクシは進言(いた)しましたノダ! 皇女殿下にお持ち頂くのではなく、もっと強固な金庫に隠すべきですと!」


 円卓をバンッ! と叩いて声を張り上げたのは、紺の髪に茶色の瞳の細身の男。その身を包む衣服の装飾は先の男ほど華美ではないが、質素ながらも品の良い高級なものばかりだ。一つでももぎ取って売り払えば、平民ならば一ヶ月は食に困らないだろう。

 ドウェンド=ブルドルーク。侯爵家出身で、この国の宰相位に就く実力者だ。そして、皇帝に次ぐ帝国有数の権力者と言っても過言ではない。

 三十代に差し掛かっているが怜悧な美貌は衰えず、むしろ色気が増して色々危ない人物。妻帯者で愛妻家らしいが、それでも夜会に出れば貴婦人が群れると言われている。……少々口調がおかしいが、そこに目を瞑っても魅力的らしい。菜月は心の中で「イケメン死すべし」と呪詛を唱えておく。

 二者の地位を考えればドウェンドは先ほどの発言で首が吹き飛んでも文句は言えないのだが、しかし赤い髭の男は低く唸るだけ。代わりに、ドウェンドと向かいに座る大柄な男が勢いよく立ち上がり声を荒げた。


「口を慎め無礼者ッ! 貴様如きの意見など、陛下の至高なる意思を前に塵芥ちりあくたにすぎぬ! 貴様唯一の存在価値であるその頭で良く考えてから発言せよッ!」


 噛み付く勢いで唾を飛ばしたのは、荒々しく刈られた橙の髪と常時威嚇している鋭い赤の瞳の大男だ。宰相のドウェンドとは対照的に筋骨隆々(りゅうりゅう)の彼は円卓に座る人間の中で唯一帯剣しており、白金の鎧の胸部に刻まれた紋章とマントの刺繍から、彼が帝国騎士団の団長だという事が分かる。……当然の如く菜月はエミアリスに説明されるまで分からなかったが。

 彼はアルバン=カカファト。伯爵位だが、その実力と実家の発言力からドウェンドには少々劣るがかなりの権力を有する男だ。その為、彼とドウェンドは仲が悪いらしい。……一方的にアルバンが敵視しているだけな気もするが。

 ちなみにこちらも俗に言うイケメンである。大獅子を思わせる攻撃的な容貌が格好良いとかなんとか。やはり菜月は心中で平凡男子高校生お得意の呪詛『イケメン死すべし』を唱えていた。

 怒鳴りつけてきた騎士団長に対し、ドウェンドはまるでわざと相手の神経を逆撫でるかのように鼻で笑う。


「ふんっ! 貴様こそ口を慎め。魔法もろくに使えない脳筋肉達磨(ダルマ)は、黙って帝国の頭脳であるワタクシ達の指示に従っていれば良いノダ。それともなんだ、野獣が飼育員に逆らうとでも?」


「黙れ色白いろじろモヤシが! 我ら騎士団がいなければ碌に街も歩けぬくせして偉そうにッ! 貴様ら、次の視察でスラムに置き去りにしてやろうか⁉」


「出来るものならやってみるノダ。ただしその時、貴様はもうこの国には居られなくなっているがな。国の優秀な頭脳を無駄にした愚かな騎士団長殿?」


「なにィ……ッ!」


 円卓の対角線で醜い言い争いを続ける二人。馬が合わないのは、前線に立つ者と後方から国を支える者の宿命か。

 しかし今の会話で、菜月が雰囲気に飲まれながらも咄嗟に思ってしまったのは、「この世界にもモヤシって有ったのか……」というものだった。今度野菜炒めに入れて食べよう、とも考える。シャキシャキの触感が楽しみだった。

 そんな菜月のどうでも良い考えはともかく、円卓会議は遅々として進まない。主に先ほどから止まらぬ罵詈雑言ばりぞうごんを互いに叩き付ける宰相と騎士団長の所為せいで。

 その様子を特に気にもせずに、菜月の隣に座っていつもの無表情を浮かべながら珈琲コーヒーを啜るのは、エミアリスだ。ただし、普段と変わらない態度とは裏腹に、今の彼女の装いはまるで物語のお姫様のようである。

 事実その通りで、彼女の本名はエミアリス=ウェン=ウィーゼルハイト=セルデセンという無駄に長ったらしいものだ。セルデセンの名が入る通り、彼女はこの帝国の皇族――それも、第一皇女という位置づけらしい。まごかたなきお姫様だ。

 そんな彼女が何故エミルフィアに冒険者として居たのかは説明してもらっていないので不明だが、しれっとした態度でこの場に居る事から、別に家出とか勘当されたとかいう訳でもなさそうだ。

 謎の第一皇女様は思いのほか珈琲が苦かったのか顔を若干(しか)めつつ、


「いつも二人はこんな感じ。廊下でばったり会った時は仕事が詰まっていてもののしり合い、会議は二人の罵倒対決。大体時間が危なくなるまで、皆珈琲飲んだり書類に目を通したりして二人が疲れて黙るまで待ってる。もしくは――」


 その次の言葉を繋げるより早く、エミアリスの言おうとした現象が起こった。


「黙れ馬鹿ども。延々(えんえん)と貴様らの汚泥にまみれた言葉を聞かされていると、私達の耳がけがれてしまう。イチャイチャしたいのならこの場からとっとと失せろ」


 罵り合いをイチャイチャの一言で片づけた勇者は、騎士団長の隣に座する軍服(のようなもの)の上に蒼のマントを羽織った麗人だった。

 一つにくくられた艶やかな空色の髪と、深い紫の瞳を持つ女性。おおよそ『可愛い』よりも『格好良い』が似合う彼女は、その切れ長の双眸でわずらわしい二人を睨み付けている。

 アルテミシア=マルファドール。セルデセン帝国宮廷魔道士団団長を務める、帝国最強の魔道士ウィザードである。

 その椅子に立て掛ける杖は、赤い髭の男の持つ杖よりも飾らない実用性重視の冴えないものだが、秘められた力は赤い髭の男の杖にも劣らない強力な魔杖だ。彼女自身の実力も、男尊女卑の時代にありながら高地位に就いている事からも分かる通りである。

 一応、公爵令嬢である彼女だが、その装いも立ち振る舞いも男のもの。これは女性でありながら権力を持つにあたって周囲に強要されたものではなく、本人の趣味らしい。男の菜月でも滅茶苦茶格好良いと思ってしまうほどなので、貴婦人方からは相当人気なようだ。今日何度目かも分からない『イケメン死すべし』コールを送っておく。相手は女性だが、慈悲はない。

 犬猿の仲である二人の関係を屈辱的な言葉で纏められ、更に怒りを燃え上がらせた騎士団長アルバンは顔を真っ赤にして唾を飛ばす。


「なんだとッ! 撤回せぬか、マルファドールッ‼ 我とひょろながモヤシがイ、イチャイチャだと……ッ!」


「間違っていないだろう? 図星で恥ずかしいのは分かっているから口を閉じろ獣が。腹黒で色白(モノクロ)モヤシも愛人を可愛がりたいのは知ってるから今は黙れ。姫様が穢れてしまったらどうしてくれる」


 最大限に貶した表現で二人を(実は無意識に)挑発し、それから何故かエミアリスを庇うように抱き締めるアルテミシア。いつもの事なのか、「はぁはぁ可愛い姫様マジプリティー」という声が聞こえてきてもエミアリスは半眼でスルーしていた。……周りは若干引いていたが。

 彼女の言葉で数秒間全員時が止まったかのように固まっていたが、怒りが積もりに積もっているドウェンドとアルバンは、アルテミシアの変態台詞を聞かなかった事にして口を開いた。


「だ、誰が図星だとォ……ッ! 貴様……我が剣の錆になりたいかッ!」


「ふんッ! 此奴こやつが愛人などと気持ち悪い戯言ざれごとを。今すぐ魔道士団長の座から降ろしてやろうか、アルテミシア=マルファドールッ‼」


「はっ。薄っぺらい脅しだな、騎士団長と宰相の名が泣くぞ。あと野獣、貴様は私に勝った事など無いだろうに、私を斬るなどと見栄を張るとは笑わせてくれる」


「ぐッ、黙れ小娘ッ! 今迄いままでなど関係ない、今度こそ貴様の魔法を切って捨ててやる‼」


 遠距離から延々と魔法を喰らわせて仕留める魔道士ウィザードと接近しなければどうしようもない騎士では、圧倒的に魔道士ウィザードの方が有利だ。付け加えれば、アルテミシアはそこそこ近接戦でも動ける為、逃げに徹しつつ魔法を詠唱するスタイルで戦えば、アルバンに手も足も出させず圧勝する事が出来る。

 が、実はアルバンも魔法切りなんぞを実践してみせる化け物だ。流石に第三位階以上の魔法は不可能らしいが、第一、第二位階程度であれば魔力を宿した長剣で斬り裂いてしまうらしい。凄まじい、というか周囲から見れば頭のおかしい技術である。

 元々宮廷魔道士団と帝国騎士団は仲が悪いのだが、トップ二人が常に技術を磨いて争っている為、その副次効果的に二つの団体は戦闘能力を競い合っているらしい。今の技術に胡坐あぐらをかいて相手を見下し貶すのではなく、ライバル視して技術を磨いているのだから良い事なのだろうが、ギスギスした雰囲気は頭の痛い問題になりつつあったりする。


「そうか、まぁ頑張ってくれ。あとモヤシの方は、侯爵位の貴様ではマルファドール公爵家の私を降ろすなど不可能だろう。少しは頭を働かせろ、宰相なのだからな。それとも何か、私より強い魔道士ウィザードでも推薦するか?」


「こ、小娘如きが粋がってェ……ッ! いつか絶対貴様を地を這わせてやるノダ……ッ!」


 ドウェンドは宰相なので権力的にはアルテミシアの方が弱いのだが、アルテミシアは公爵位な事に加え、熱狂的なファンが大量にいるのでたちが悪い。下手に彼女を貶めれば、ファン――その殆どが貴婦人方――と、彼女らに泣き付かれた夫達が敵に回るだろう。そうなれば、ドウェンドはどこへ行っても冷遇され、精神的にも仕事的にも大変な事態に陥ってしまう。男尊女卑の風習が広まっていようとも、女性が恐ろしい事に変わりはないのだ。

 アルテミシアは、歯軋はぎしりしつつ呻くドウェンドを鼻で笑う。


「まぁ、必死に足掻あがいてくれ。貴様には無理だと思うがな」


「クソがァッ‼」


 完全に喧嘩を売ってるアルテミシア。所作が挑発的というか、神経を逆撫でているのはわざとかと思うほど自然だ。中々良い性格をしている。

 醜い罵倒合戦に一人追加された現状を眺めて、赤髪金瞳の青年が溜息を吐いた。


「何でこんなに帝国ウチの重役達は仲が悪いのか……腹の読み合いと他人を蹴落とす事が大好きな貴族達でも、表面上は仲良くしているんだけどなぁ」


「ふん、まったくだ。お父様と俺が許してやってるから息を吸えてるってーのに、ピーピー騒ぎやがって。……おい、貴様も俺がまだ許してるからそこに座ってられんだ。愚図どもがじゃれてんのを嘆いてねーで、黙ってお父様と俺の話を聞くように言ってこい」


 疲れたように零した愚痴に反応したのは、赤い髭の男を挟んで隣に座る同じく赤髪金瞳の青年だった。ただし、先ほどの青年が細身なのに対して、こちらは騎士団長のアルバンほどではないが筋肉質だ。そして口もかなり悪い。


「……相変わらずな弟だ。こういう無駄に偉そうで暴力的な奴の事を、ジャイなんとかって言うんだっけ? 前にアルテミシアが言ってた気がするなぁ」


 煩わしい弟に半眼を向けて呟く赤髪の青年。エミアリスと同じ色を持つ彼の名は、アースドル=ラフ=リアエリナ=セルデセン――何を隠そう、この帝国の第一皇子様だ。

 対してその兄に敬意を払わず横暴な態度で振舞う弟の名は、ガディアス=リーマ=オリビエール=セルデセン。威圧的な顔立ちは父である皇帝陛下とそっくりで、実は第一皇子より帝国貴族達の支持が厚いと言われている。……単に、おだてておけば扱い易いから、というだけな気もするが。

 最初にアースドルが言った通り、やはりこの国の重役が仲が悪いというのは本当のようだ。兄弟仲は今菜月が一目見ただけでも最悪である事が分かる。


「この国、これで大丈夫なのか……?」


 ぽつりと、火花を散らしている当人達には聞こえないように呟いた菜月の声に、隣で当然のように雰囲気に呑まれず座っていた優莉ゆうりが答えを返した。


「大丈夫も何も、大体どこもこんなものでしょう。天道三大家の会議なんか、当然の如く銃弾と剣戟が舞っていましたから、まだこれでもマシな方だと思いますが。去年、京都で開かれた時なんて、死傷者が大量に出ましたし」


「え、日本って案外物騒な国だったんだな⁉ つか銃刀法違反な上に殺人だろそれ⁉」


「天道三大家に逆らえる者など少なくとも日本にはいないので、多少死人が出ても無問題ですよ。というか天道三大家の人間(わたしたち)の周りには日常的に暗殺者が動き回っていたんですから、武装くらいしていて当然でした」


「マジか、こわッ! よくそんな家で生き残ってたなお前⁉」


「心配してくれるんですか菜月先輩!」


「うおおッ⁉ こんな所で抱き着こうとすんな!」


 突如抱き着こうとしてくる優莉の額を押さえて退ける菜月。相変わらずな二人だが、この大多数がいがみ合っている部屋においてハートを散らせるのはこのペアくらいだろう。……いや、エミアリスを抱き締めているアルテミシアも、ドウェンドとアルバンを罵るとき以外はハートを撒き散らしていたか。

 カオスな円卓会議場。帝国の重役――それも本当に重要な役職のトップと皇族のみ――ばかりが集まる会議に、何故菜月と優莉、そしてテニーは参加しているのか。

 原因は、半分はエミアリスの所為、もう半分は不運にも巻き込まれてしまった自分達の所為だったりする。

 先日――菜月が寝込んでいた期間を入れると七日前、〝終焉教〟と呼ばれる頭のおかしい狂信者達がセルデセン帝国を襲撃した。その際、帝国の最重要機密であり最高のエネルギー源である『賢者の霊石』という超高魔力圧縮宝珠が何者かに盗まれてしまった。

 犯人は恐らく――というか確実に〝終焉教〟だろう。

 そしてその組織の幹部に相当する大司教の『二月の魔女』イアミントと直接戦ったのが菜月達だった為、重要参考人的立場でこの場に呼ばれたらしい。

 菜月も優莉もテニーも身元のはっきりしない冒険者なので、本来であれば騎士達に事情聴取されて終了だった筈なのだが、そこをエミアリスが「わたしの友人」と言って無理やりこの場に引っ張ってきてしまったのだ。

 滅多に出来ない体験ではあるが、正直遠慮願いたい。というかもう帰りたい。宿も何も取っていないので、帰る場所は無いが。

 そもそも帝国城に居たのが悪かったのだ。いや、そのお陰で菜月は無事に完治したのだが、その後すぐに出ていけばよかった。

 菜月はイアミントとの戦いで――全く記憶に残っていないのだが――気を失った後、皇女としての権力を使ったエミアリスの命令によって帝国城の医務室に運ばれた。そこで治療を施され、五日間ほど清潔な客室で寝かされていたらしい。

 目が覚めてすぐに城を出ようとしたが、エミアリスの反対にあって二日間ほど客室で療養。その間、外に出ずずっと引き籠っていたのだが、完治が確認された――その回復力が異常だった為、宮廷医師が驚愕に目を見開いていた――後すぐに、会議をするから参加しろとエミアリスに引っ張り出されて今に至る。

 ほぼほぼエミアリスの所為な気もする。が、本人に文句を零しても今更状況はくつがえらないので、諦めて円卓の下座で小さくなっているしかないのだが。


(……つか、そもそも俺らって、居ても居なくても変わんなくね?)


 ここに来てから一度も喋っていない重要参考人・東雲菜月は心の中で呟きつつ溜息を零す。

 愚痴の一つ二つでも漏らしたいが、流石にこの国家権力の集まりで無用な発言が出来るほど菜月の肝はわっていない。

 ちらりと、優莉を挟んで隣に座るテニーを見ると、彼も菜月と同じように飛び交う威圧と暴言に委縮しているようだった。優莉やエミアリスはこういった場に慣れているようで堂々としているが、そんな真似は一生かかっても菜月とテニーは出来そうにない。

 ひっそり後輩と皇女様を尊敬しつつ、菜月はこの部屋に居る人間をもう一度眺め直した。

 部屋の端で微動だにしない――いや、一部狼狽(うろた)えたり震えたりして立っているのは、珈琲や紅茶、その他諸々の準備・片付けをする使用人や、乱闘騒ぎやもしも(・・・)の時の為に備える騎士達だ。一般貴族をまじえた平時の会議ならもっと人数が増えるらしいが、今回は内容が機密中の機密な為、ごく少数しかいない。そんな会議に菜月達が参加しているのは何かの間違いだと、何度でも言いたくなる。

 まぁ、言っても仕方ないのでそれはともかく、次は円卓に座る者達だ。

 まず、殆ど役を果たしていない重要参考人・東雲菜月、その隣に同じく重要参考人・一条いちじょう優莉、そしてそのまた隣にテニーが続く。このような会議には普通参加しない――というか出来ない――者達だ。まぁ現在、空気と化しているが。因みに、菜月の右隣が第一皇女・エミアリスである。完全に円卓の席順を無視しているが、菜月のサポートという事らしい。ただ単に、皇族達と並びたくなかっただけな気もするが。

 次に、最も騒がしい三人は先ほど説明した通り、宰相ドウェンド=ブルドルーク、帝国騎士団団長アルバン=カカファト、宮廷魔道士団団長アルテミシア=マルファドールだ。国を動かす重要機関のトップ達なので、当然この会議に所属している。

 そして上座側、まさにトップに相応しい席の周辺に座っているのは、第一皇子アースドル、第二皇子ガディアス、つまり皇族達だ。因みに第二皇女・リリアーナはいない。そもそもこういった場に女性は参加しないのがこの国、ひいてはこの世界の常識だ。圧倒的な実力と宮廷魔道士団団長という地位を持つアルテミシアや、今回の事件に深く関わっているエミアリスや優莉が例外なだけである。事件に深く関わっていると言われたらリリアーナもそうなのだが、彼女はどうやら別にやる事が有るらしく、先に事情だけ話して会議は欠席しているようだ。

 そして最後の一人。最も豪奢な席に座り、皆を悠然と見渡す赤い髭の男が――。



「――しずまれ」



 セルデセン帝国皇帝――レオポルト=ジアーテ=カルデリシア=セルデセンその人の声が響くと同時、騒がしかった会議場から一瞬で音が消えた。

 無意識のうちに平伏しそうになる覇者の声音。重々しく発せられたソレが、体の芯まで震わせる。

 ほんの数秒前までとは比べ物にならない痛いほどの沈黙が降りるこの場で、最初に口を開く事が可能だったのは、やはりレオポルトだけだった。


「じゃれ合いはそこまでにしておけ。ただでさえ時間は無い。今論ずべき事は、霊石の事であろう」


「――はっ。その通りで御座います、皇帝陛下」


 臣下の礼を取り、先ほどまでの騒ぎに一切関与していなかったとでも言わんばかりの口調で述べるドウェンド。流石化かし合いにけた宰相殿、見事な変わり身である。

 そんな感想を懐きながら、他の者達も臣下の礼を取った。菜月、優莉、テニーは帝国の作法を知らないので、頭だけ下げておく。……優莉が菜月以外の人間に服従の意を含んだ態度を向けるは嫌そうだったが、咎められたら非常に拙いので無理やり菜月が頭を押さえて下げさせた。スキンシップが嬉しそうだったのは軽くスルー。

 その体勢がしばらく続き――ややあって、レオポルトの荘厳な声が響く。


「皆、おもてを上げよ」


『はっ』


 円卓メンバーの声が重なり、揃った動作で顔を前に向けた。続けてレオポルトが「会議を続ける」と言うと、全員が席に座り直す。

 雰囲気が切り替わり、やっと本当の会議が始まるようだ。


「先も言ったが、我が国の秘宝、『賢者の霊石』が盗まれた」


「ですからワタクシは申したのです。第二皇女殿下にお持ち頂くのではなく、国の金庫に保管するべきだと」


 やはり最初と同じ流れ。だが流石にここで先ほどの二の舞になる気は無いようで、アルバンは厳しい表情でドウェンドを睨み付けながらも口をつぐんでいるようだ。

 その代わりに、機嫌悪そうにガディアスが口を挟む。


「そりゃ出来ねーよ馬鹿が。代々アレは皇女に持たせるモン、つまりリリアーナに持たせんのが伝統なんだよ。テメェ宰相だろ? ちったぁ考えろよカス。つかお父様に逆らってんじゃねーよ愚図が」


 口汚く罵る第二皇子に苛立ちを覚えながらも、ドウェンドは顔に出さないようにしているようだ。流石の忍耐力である。貴族は短気ではやってられないというのが良く分かる場面だった。……先ほどまで散々暴言を吐いていたが、そこはスルーである。

 ともあれ、黙ってしまったドウェンドに代わり、アルテミシアが進言した。


「とおっしゃいましても、盗まれてしまってはその伝統も無意味。むしろ、その伝統とやらがあだとなったのでは、と愚考致しますが?」


 下手をすれば皇族を貶したとして斬り捨てられても文句の言えない台詞だ。事実、その言葉にガディアスは苛立ちのままに怒鳴りつけようとした――が、その前に皇帝レオポルトが口を開いた。



「つまり貴様は、我らの中に裏切り者がいると申すのか?」



「――――」


 ――そう。彼女の言葉は、その事を意味するのだ。

 そもそも、『賢者の霊石』を代々皇女が身に着けるという伝統を知っているのは、皇族と本当に上層部の人間だけだ。その他の臣下や民達は宝物庫に入っていると思っているし、事実宝物庫にはおとりである偽物がさも大切そうに保管されている。それがあだとなった、という事は、その情報を敵に漏らした裏切り者が上層部、もしくは皇族にいるという事だ。

 それは、有り得ない筈の事だ。が、事実、『賢者の霊石』を髪飾りに偽装して身に着けていたリリアーナは、ピンポイントに狙われた。


「……そもそも、盗られたとおっしゃいましても、実際にその場を見た者はいたのですか?」


 重苦しい圧を切り払って発言したのは、ドウェンドだ。

 リリアーナは襲撃されたが、『賢者の霊石』が直接盗まれたとは証言していない。襲撃された時に無くした、とだけ言っている。

 つまり、ただ落としてしまっただけという可能性も有るが――それを否定する言葉が、第一皇子の口からもたらされた。


「盗まれたところを見た人はいない。――けれど、霊石との経路パスは途切れてしまっている」


「――――」


 その言葉が意味する事実を知る者は、皆息を呑んだ。

 だが一部分からない者――外部者である菜月達、そして脳筋のアルバン――への説明と他のメンバーへの確認の意を含めて、アースドルは続ける。


「『賢者の霊石』は、例えどこかに(・・・・・・)落としたとしても(・・・・・・・・)所有権が(・・・・)皇女にある限り(・・・・・・・)城の地下にある魔力大水晶ストア・クリスタル経路パスが繋がり、魔力大水晶ストア・クリスタルに、そして帝国全土に魔力が供給され続ける。――その経路パスが途切れるのは、皇女以外の人間に所有権が移った場合のみ」


 つまり――既に誰かが『賢者の霊石』を手にしてしまったという事だ。

 偶然拾った、という可能性は除外される。そんな事、経路パスが切れたと気づいた瞬間に真っ先に調べているのだから。


「表も裏も、大きな魔法石が売りに出されたという情報は無かった。探索魔法も使ったけれど、妨害されている。……これは確実に、計画性のある組織的犯行だね」


 それらの情報から考えるに、帝都襲撃を実行した〝終焉教〟が『賢者の霊石』を盗んだ犯人でほぼ確定だろう。


「……つまり、あれだけの被害が出た帝都襲撃事件も、ただの陽動だったという事か……」


 憎々し気にその端正な顔を歪め、ぽつりと呟くアルテミシア。

 彼女の宮廷魔道士団は、先日の襲撃事件で甚大な被害をこうむった。実に三割もの宮廷魔道士が命を散らし、四割ほどの人員が重傷を負っている。立て直すまでに数年、下手をすれば数十年を要するだろう。

 同じく多大な被害が出た帝国騎士団の団長であるアルバンも苦渋に満ちた表情を浮かべている。軍事面以外においても相当な痛手をこうむっているのは確かな為、宰相のドウェンドも顔を顰めていた。

 暫しの沈黙が降りる。それが、酷く心に痛い。

 やがて、再び口火を切ったのは皇帝レオポルトだった。


「……。ともかく、最優先事項は霊石の奪還だ」


「反逆者どもの殲滅は宜しいのですか?」


 部下の仇を討ちたいアルバンが目をギラつかせて問いを口にしたが、レオポルトは否定の意を示す。


「霊石が無ければ話にならん。身の程知らずどもを八つ裂きにするのは後でも出来るのだ、まずは何としても霊石を取り返す」


 当然だ。『賢者の霊石』が無ければ、霊石の生み出す魔力に頼っていたこの国は衰退を免れないのだから。

 そして、もしその力が敵に利用された場合、この国は地図上から消える運命にあるだろう。『賢者の霊石』にはそれだけの力があり、また、それだけの恨みを敵は懐いているのだから。


 それから数時間、円卓会議は続いた。

 だが解決方法は中々見つからず、ただ時間だけが過ぎていく。

 帝国を支えていた魔力の貯蔵は多くない。既に一部を切り捨てているのだが、それでもこのままのペースで消費し続ければ、近いうちに魔力大水晶ストア・クリスタルに溜めていた魔力は底を尽きてしまう。そうすればセルデセン帝国は、魔法大国の名を捨てざるを得なくなり、一気に弱小国家に成り果てるだろう。

 それも恐らく、〝終焉教〟の狙いの一つだ。それが分かっているからこそ会議は焦りと苛立ちにまみれ、冷静な思考を奪われて更に状況を悪くしていく。


 ――円卓会議の開始から四時間後。ちょうど十二の刻を迎えた時、朝から続いた会議は、何の解決策も出ないうちにお開きとなった。



 申し訳ありませんが、プロットの気になる点で悩んだり、他作品との並列連載の影響で、暫く亀スピード更新が続きそうです。

 なるべく早く更新出来るよう心掛けたいと思います。目標は週一くらい、かな?


 次回も宜しくお願いします。

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