表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第二章 平和な時の終焉//第零階層世界編
61/84

番外五   ある放課後の告白を阻止する為に Ⅲ

 二葉ふたば美咲みさきによる、番外編、前回までのあらすじ!


美咲「なっつんに届いたラブレターの正体を探る為に西へ東へ奔走するかなかなは、集団リンチスポットであり告白スポットでもある体育館裏で二階堂三兄弟とエンカウント! 脳筋次男の俊也しゅんやをぶっころ☆したかなかなは、とっとこ……じゃなくて、とっととなっつんのところへ行く為に、かなかなと同じ暗器使いである三男の和馬かずまとバトルスタートだ!」


菜月なつき「え……そんな話だったっけ? つかお前、ノリ軽くねぇか?」


美咲「ぶっちゃけ他人事だしね。面白いから付き合うけど☆」


菜月「最低だこいつッ!!」



 右手の短剣で和馬かずまの胸を狙い、奏渚かんなはその勢いのまま繋げて右脚撃を繰り出す。ズバンッと空気を破裂させる威力で放った脚撃はしかし、和馬の魔力で強化された左腕に叩き落され、短剣も指で挟むように刃を掴まれて止められてしまう。

 膂力は和馬の方が強いらしい。奏渚はビクともしない短剣をすぐさま放して、その右手のまま研ぎ澄ませた鋭い手刀を顔面へ叩き込んだ。和馬はそれを顔を捻る事で躱して見せ、次いで奏渚が連続して繰り出した左手の短剣による突きを、彼は奏渚から奪った短剣で綺麗に捌き切る。

 神経を裂く金属音が響き渡り、息を詰まらせるような鈍い打撃音が連鎖する。両者が武器や体に纏わせた魔力がスパークを起こし、激突するたびに色鮮やかな火花と衝撃を撒き散らした。


「――改変錬金(Alchemy-C)沼化(bog)


 足を一度打ち鳴らすようにしてから奏渚は跳躍で後退し、同時に素早く術式を構築。発動した魔術によって先ほど足を鳴ら(マーキング)した場所が局所的に沼地と化す。


「っ、」


 後退した奏渚を追いかけようと足を踏み出した和馬は突然緩くなった地面に足を取られ、一瞬動きが止まってしまう。

 その隙を突いて奏渚は短剣を投擲。放たれた二本の刃は和馬の首と左胸を確実に狙って飛翔するが、すぐに沼に対して足を慣らした和馬は体勢を整えてその短剣を手に持つ武器で弾いた。

 しかしそこで奏渚の攻撃はやまない。短剣を放った時点でからになった両手に全自動フルオート拳銃を握り、火薬を撒き散らしながら弾丸を和馬の全身へ撃ち放った。

 ダンッ! ガンッ! バンッ! と暴力的な銃声が耳朶を叩く。やむ間も無く連続して撃ち出された鉛玉は、明確な殺意のもと、和馬の命を消し飛ばそうと亜音速で空気を穿った。

 ――しかし。


「甘いんですよ!」


 獰猛に吠え、和馬は刹那の間に短剣を空中に走らせた。

 銀の軌跡は縦横無尽に空間を彩り――そして、人間の感覚で捉えられない筈の速度で迫る銃弾を、一つ残らず斬り裂いた。

 人体で可能な行動からかけ離れた動作を、魔力で強化された体で引き起こす。それは魔術師であれば誰でも出来る事、という訳ではない。

 だが天道三大家に仕える魔術師である以上、この程度はざらに要求されるレベルの事。

 だから奏渚の顔に驚きは無い。

 そもそも奏渚は、この攻撃で和馬を仕留める気だった訳ではないのだ。


改変錬金(Alchemy-C)液化(Liquid)


 事前に仕込んでいた魔術が、その呪文で起動する。

 次の瞬間、銃口から撃ち出された勢いを和らげながらも空中を泳いでいた真っ二つの銃弾が、そのギルディング・メタルに覆われた鉛部分を液体と化して和馬の体に降り注いだ。

 魔術によって引き起こされた超常の現象であれば、常識的な理屈など通じない。だから溶鉱炉の高熱も無しに卑金属が融解し、空気に触れてなお固化しないのだ。

 だが、魔術によって書き換えられた理法から元の理法に戻れば、歪められた現実はそれに辻褄を合わせるべく変化する。


「な――あぁあアアああッ!?」


 温度は、後からついてくる。

 現実の理屈にこじつける為、本来の鉛の融点である三百二十七・四六度に強引に引き上げられた液体は、和馬の肉体を容赦なく灼いた。

 肌を溶かし神経を執拗に焙るその熱は耐えがたい苦痛を和馬に与え、しかし逃さないとばかりに肉体にへばりつく。液体金属は空気に触れて冷却されていき、音を立てて和馬の肉体を中へ取り込むように固まっていった。

 それは想像を絶する痛み。火焙りより熱く、斬首刑より絶望を与えるそれは、気絶して楽になる事も許さず彼を嬲った。


「あああああああああああああッ!! がぎッ!? ぐああッ! アああああああああああああッ!!」


 だが彼も、数々の戦いを経験してきた魔術師である。

 相手がどんな魔術を使う者であろうと、対応策は用意しているものだ。

 痛みに喘ぎ、隙を最小限に収めるよう体の動きを精一杯速くして、彼は胸元から一本の短剣を取り出した。

 それは赤塗りの短剣。血のような不吉に彩られたそれを、和馬は何の躊躇もなく自身の脚に刺し込んだ。


「……なにを」


 和馬の奇行に思わず追撃しようとしていた手を止め、怪訝な表情で呟く奏渚。

 しかし一瞬後、彼女は手を止めずとどめを刺せば良かったと自身を責める事になる。


対価は(My blood)( is )が血、(the cost. )降りし器(The sword)( is )赤き剣(material.)! 其の契(You must)約は絶( appear)( as )である(contract.)! 故に(I hope. )、我が身(Extinguish)( the )降り掛(devious)かる( vice )魔を喰(poured on )らえ(my body.)!」


 和馬がその呪文を唱えた瞬間。

 ぞわり、と。奏渚の全身に怖気が走った。


「これ、は……ッ」


 ずぞゾゾぞゾ、と和馬の脚に突き立った赤い短剣へと、溢れ出した鮮血が這い寄るように吸い込まれていく。蠢き、脈動するその命の液体は、それ自体が生き物のように見えた。

 だが恐怖を懐かせたのは、その光景ではない。

 短剣――和馬が依り代と指定したその『器』に、血という代償を差し出して、ソレが降りた。


「――悪魔」


 肉眼では捉えられない。だが精神体エーテルで感じる。

 霊魔世界から血を餌に呼ばれた負の概念存在は、契約者である和馬の要望の通り、彼に降りかかる魔――すなわち超高熱の液体鉛を喰らい始めた。

 まるでコーヒーを啜るように液体金属は短剣に吸い込まれていく。血と混ざり、固まった金属と同化してしまった皮膚も纏めて剥がして吸収していく為、更に鮮血が飛んで和馬は痛みに呻き声を漏らした。

 そして――数秒ののち、悪魔の宿るその短剣が全て鉛を食らい尽すと、彼は魔術で簡易的な治療を施して中身まで見えるエグイ傷口を塞いだ。

 そのさまを眺めていた奏渚は、気味の悪いものを見たように表情を歪ませながら言う。


「悪魔契約なんて、随分と古い術を使うんだね」


 悪魔契約――自分の体の一部や他人の命などを代償に悪魔と契約し、その力を借りるといった、古くから伝わる魔術の一つだ。

 和馬が何を代償に契約しているのかは知らないが、碌なものではないだろう。軽い対価では悪魔は動かないのだから、恐らく人体欠損などの外傷の見当たらない和馬の場合、臓器か他人を犠牲にした可能性が高い。

 この術が人道的でなく、更に効率も悪いのは広く知られた事実だ。なにせ近代魔術では、悪魔は崇拝するモノでも嫌悪するモノでもなく、従わせるものなのだから。

 少量の嘲笑が混ぜられた奏渚の言葉に、和馬は脚に刺した短剣を抜いて魔術で止血をしつつ、


「いえいえ、まだ現役です。霊格の高いモノから力を借りる業は、古来より人間の心の拠り所でもありますし」


 神や天使、精霊や妖精などと契約する術もこれと同じだ。何かを差し出す代わりに、人間では持つ事の許されない超常の力を振るってもらう。まだ科学技術が発展していなかった頃から現在まで続く、最も身近な神秘オカルトだろう。祈りを捧げて神の加護を得る、定期的に祭って守護霊に護ってもらう――そういったものは、術と意識せずとも人間は日常で行っている事なのだから。

 しかし振るわれる力の差はあれど、最もたちの悪いものを要求されるのが悪魔との契約だ。まあ、人間の負の概念を象徴とする存在なのだから当然と言えば当然だが。

 今回、和馬は体に付着した液体鉛を消す為に大量の血を贄にしなければならなかった。傷はある程度魔術で治せるといっても、失った血を戻すのは魔術でも容易ではない。神や天使などの力を借りれば代償は後日の貢物で済んだであろうが――しかし最も契約が容易で自由がきき易いのが悪魔なので、和馬はこの契約を選んだのだろう。

 何はともあれ、


「日本じゃ呪いとかの方が主流だと思うけど」


「まぁこの国はそうですね。それに近代魔術だと、力を借りるより理法を騙し力でねじ伏せる方が好きですし。最近だと『教会』の奴らは反霊樹クリフォトにまで手を出して、魔王どもを従わせようとした事も有りますからね」


 一時期、騒がれた話だった。

 もっとも、その事件とやらが起きた時は奏渚も和馬もそこまで魔術師の世界の事情に詳しい年齢ではなかった為、細かい事は知らないのだが。


「それも契約というより支配だった筈だよね。君みたいな対価を差し出して力を借りる契約は、かなり珍しいんじゃないかな」


「そうかもしれません。でもまぁ、珍しい方が切り札としては有効ですから」


 そう言って、火傷の消えた体を軽く動かすと、和馬は短剣を構え直した。

 体力は奪えただろうが、状況はまたイーブンに戻ってしまった。いや、拳銃の残弾や所持している短剣の本数を考えると、悪くなっていると判断するべきか。


(……ここは)


 そも、わざわざ戦って倒す必要もない。

 奏渚の目的は、優莉ゆうりの告白を阻止する事――そして、先んじて菜月なつきに告白する事だ。

 つまりは、


(逃げるに限る、かな)


 決断と同時、奏渚は背中に隠していたナイフを一本取り出した。

 それは魔法陣が描かれ、術式が刻まれた簡易的な霊装れいそう。魔力を流す事で魔術的効果を及ぼす事の出来るその小さな刃を、奏渚は和馬の顔面へと投げ放った。

 今までの短剣の投げ方と同じだった事から、得物が小さい物へ変わっても特に警戒していなかったのだろう。和馬は手に持つ短剣で、今までと同じように軽く弾いた。


 ――瞬間。

 カッ!! と、網膜を焼き潰す峻烈な閃光が、爆発的に広がった。


「が――ッ!?」


 最も被害を被ったのは、弾いたばかりのナイフが文字通り目の前にあった和馬だろう。

 車のヘッドライトを目の前に居るのにハイビームで照らされたとか、カメラ二十台くらい並べてフラッシュを一斉連打されたとか、そんな生温なまぬるい話ではなく、熱量すら持った雷光の如き暴力的な光は、一瞬で和馬を飲み込み周囲を白で染め上げた。

 それは【光】の魔術。一之瀬いちのせの血筋に遺伝する魔術性質だ。

 ナイフの刃の金属を起点にして稲妻に匹敵する閃光を周囲に撒き散らし、目眩ましに使用するのがこのナイフ型霊装の用途だ。要は魔術で作られた閃光弾みたいなものである。

 あわよくば失明させる気でお手軽な霊装を使った奏渚は、閃光が撒き散らされる直前、校舎内に飛び込んでいた。近くまで移動していた事がこの行動に踏み切った理由の一つである。

 壁に遮られて閃光の入ってこない廊下を一気に走り抜け、階段を跳ぶように駆け上がる。菜月に追い付く事が最優先事項だが、しかし彼の通ったルートまでは流石に分からない。とりあえず最速の道順を選ぶしかないので、奏渚の知る限りのショートカットポイント――一部、一般人には出来ないような行動もあったが――を駆使して屋上を目指した。

 校舎内には、どういう訳か人がいない。それどころか気配すら感じなかった。障害物が無くて急いでいる今は好都合だが、しかし違和感を懐かずにはいられない。


(人払いの魔術かな……? でも、わざわざ校舎内までする必要は無いよね)


 二階堂三兄弟が戦闘を一般生徒に見られない為に人払いを施していたのは気づいていた。しかしそれは体育館裏での話で、ここまで人を完全にいなくさせる必要は無い。

 放課後なのだから校舎内に人がいなくても別段おかしくはない。だが、この東棟の空き教室は文科系部活動が占拠していた筈だ。果たしてどこの部活動もこの時間から揃って解散しているなど有り得るだろうか――。

 と、そんな事を考えていた時。

 ピリッと、首筋の辺りで何か弾けたような気がした。


(――殺気)


 そう、一瞬だけ感じたそれは、殺気だ。

 生まれてからずっと鍛えてきた戦闘感覚に任せて、奏渚は体を横に転がした。

 そして――刹那の間をおいて、先ほどまで奏渚の居た場所に、二本のナイフが突き刺さった。


(追い付かれたっ!)


 一秒にも満たない間でナイフが飛来した後方へと視線を向けた奏渚は、和馬が追い付いてきた事を理解し、舌打ちを一つ零して素早く床を蹴った。その時に、きちんと追跡者に向けて拳銃の火を噴かせる事を忘れていない。足止め程度にしかならないが、無いよりマシだ。

 廊下に銃声が響き渡るが、しかし悲鳴は無かった。やはりこの校舎に人はいないのだろうか、それとも銃声をただの物音の一つとしか感じていないのか。分からないが、目に見える範囲に居ないのであれば二次被害を気にする必要はないだろう。

 オレンジに差し掛かった太陽光が廊下を照らす中、一之瀬奏渚はひたすらに駆ける。

 良く見れば節々に黒ずみがある廊下も、疾駆する奏渚の視界にはただの白にしか映らない。もっとも、普段から廊下の端に付いた汚れをじっくりと見る者など少数派だろうが、なんとなく汚れているなーなどと考える余裕すら今の彼女には無かった。


「――……」


 家業の為に訓練で鍛えた効果か、大分速度を上げて走り続けても中々切れない息を更に抑え、無言のままちらりと後ろへ振り返る。

 きらり、と。視界の端で、一瞬だけ眩い陽光が反射した。


「ふッ!」


 一呼吸にも及ばない短い気合いを発した奏渚が、左脚の太股の辺りに隠していた短剣を素早く抜き放ち、飛んできたナイフを打ち落とす。からん、からんと白い廊下に落ちては刃の部分が掠って傷をつけ、見慣れたリノリウム素材に非現実感を刻み込んだ。


「――はぁ、また躱したんですか。やめて下さいよね。投げたナイフ回収するのも僕なんですから、手間をはぶく為にきちんと刺さってから持って来て下さいよ」


 そんな無茶な事を言いながら、和馬はくるくるとその右掌でナイフを弄んでいる。その方が彼にとって投げやすいのか、それとも余裕を見せる事で相手の精神を煽る事が目的なのかは知らないが、随分と慣れた手付きだ。まるで長年遊び慣れた玩具のよう――と思ったが、実際そうなのだろう。奏渚自身もそうなのだから。

 奏渚は彼の言葉に返事をせず、更に振り向かないまま一ダースの銃弾を銃口からプレゼントし、簡易的な閃光の術式を組んだナイフ霊装を置き土産にして階段を三角跳びに上がる。忍者の如き行動だがそのアクロバティックな動作を褒める暇もなく短剣が奏渚の左肩を掠め、丁寧に術式を解呪されたナイフが頬を掠めるように返された。

 投げ返されたナイフを指で挟むようにキャッチし、奏渚は再び術式を編み直して投げ放つ。どうやら同じ魔術は二度も効かないようで先ほどは閃光も発生しなかったので、今度の術式はダミーも含めた違う形式のものだ。【錬金】の『事象』も混ぜておいたのでそう簡単には解呪出来ないだろう。

 奏渚にとってはちょっとした遊び心的やり取りだが、実際のところ和馬は必死だった。そもそも先ほどのナイフに刻まれていた術式も一度見たものだったから理解が速くて解呪出来ただけで、ダミーを混ぜたとかメインの他に『事象』を織り込んで術式を刻むとか、即興で理解出来るのは、奏渚と同じ『事象』を専門にしている魔術師だけだろう。少なくとも、別のものを研究している和馬には無理だった。

 だが、解呪するだけが対処法ではない。


対価は(The od of)我が( my two )二千(thousand)の魔( is the)力、( cost. )器は(My right)我が( hand is)右手。( material.)其の契( You must)約は絶( appear)( as )である(contract.)故に、(I hope. )我の害と成(Extinguish)る魔( my )を飲み込め(obstacle.)!」


 呪文を唱えた瞬間――ズドォンッッッ!! という轟音と共に、リノリウム素材の床がごっそりと抉れた。


 術式の構築が始まった段階で反射的に前へ転がるように飛んでいた奏渚に傷は無い。だが、年季が入っている為に擦れたり歪んだりと平和的な傷が所々にあったとしても全体的に見れば綺麗だった廊下は、まるで巨人に齧られたかのように歯形をつけて大きく抉れていた。


「まったく、悪魔の力は加減が利かなくて困ります」


 軽い声色で愚痴る和馬は、ぐるぐると調子を確かめるように右手を回している。

 先ほどの魔術で、右手で何らかの動作を行ったのだろう。まるで口の形に裂けたのかと思わせるような痛々しい裂傷が掌に刻まれていた。

 いや、本当に食らったのだろう。悪魔が降りたその右手で、ナイフの周辺を丸ごと全て。


「無茶苦茶な使い方……だね」


 大盤振る舞いというか、豪快な使い方というか、随分と効率の悪い魔術だ。

 本来であれば、大規模魔術の攻撃を防ぐ為の力であり、こういった細かい戦闘には向いていないのだろう。


「暗器使いだから、てっきり魔術も細かいものだと思ったんだけど、随分と派手だね」


悪魔契約これは暗殺用ではなく、対魔術戦闘用です。まぁ、奏渚様みたいな細かい魔術というより、一柳いちやぎ家が好む大規模な戦略魔術の方ですけどね」


 やっぱり、と声を返す代わりに、奏渚は素早く拳銃の引き金を引いた。

 真正面から堂々と撃ち放たれた銃弾を、やはり和馬はナイフで斬り落とす。幾つか魔術を施したものも混ぜていたが、どうやら今回使ったナイフは霊装だったらしく、簡素なものしか用意していなかった為にどれも術式を霧散させられてしまった。前回の反省をすぐに生かしている点、彼のこれからの成長が大いに期待されるが、現状、奏渚にとっては厄介な敵でしかない。

 最初に予想していた通り、やはり暗器使い同士ではやり難いようだ。斬り合いや魔術の応酬、搦め手や騙し合いよりも不意打ちが得意な暗殺者達は、正面戦闘ではどうにも突破力が弱い。和馬は契約した悪魔の力があるが、それも燃費が悪くおいそれと連発出来る代物ではないので、やはり状況を動かすには足りないようだ。

 だが、このまま膠着状態でいる訳にもいかない。すぐにでも屋上に向かわなければ、菜月が――。


 そう、考えていた時だった。

 ズドンッッッ!! と。大陸を割るが如き轟音が廊下を揺らした。


「あぐッ!?」


 潰れたような鈍い和馬の悲鳴。いつの間にか壁に罅を入れてめり込んでいた彼は、胃酸が混ざって濁った血塊を吐き出し、あらぬ方向に曲がった右腕をもう片方の腕で支えていた。

 どうやら先ほどの轟音の正体は、彼が壁に叩きつけられた音だったようだ。

 だが、何故――そう考える奏渚の思考を遮るように、破壊の撒き散らされた非現実的な廊下に、新たな声が響いた。


「乙女達の恋路を邪魔するとか、流石に悪役すぎねーか?」


 モテないぞ――などと余計な事を付け足して笑いながら現れたのは、黒塗りのハルバードを肩に担いだ少年だった。

 彼は毛先だけ赤く染めた栗色の髪を片手で払い、切れ長の眼で広樹を睨む。その横顔に、奏渚は見覚えがある気がして――。

 奏渚の視線に気づいた少年がこちらへ振り向き、にかっと笑みを浮かべた事で、奏渚は思い出した。


「――石崎いしざき冬悟とうご先輩?」


 菜月の親友――石崎冬悟が、ハルバードを肩でガチャリと鳴らし、「おうよっ!」と言って笑みを深めた。



 石崎冬悟は、第二話に名前だけ出ていたりします。DVDとか漫画とか貸してた――のくだりの奴です。

 次回も読んで頂けると有り難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ