第四十三話 狂愛の結果
「――……は?」
テニーの言葉の意味が分からず、菜月は呆けたように声を漏らした。
彼は「僕のユーリさんの為に、死んでください」と言った。ユーリ――優莉の為に菜月に死んでもらうと、そう言ったのだ。
訳が分からない。彼の思考が理解出来ない。言葉の意図が全くもって見えない。
しかし菜月が理解しようとしなかろうと、振るわれた斬撃は止まらない。
「ッ、ナツキ!」
呆けた顔のまま動かない――否、動けなくなっていた菜月を、横からエミアリスが突き飛ばす。倒れる視界の上を刃が通り、ヒュンッという風切り音が耳元を掠めた。斬り裂かれた茶毛の髪が宙を舞い、そのすれすれの斬撃に背筋に冷たいものが走る。
「あっぶな!」
「死ねっ、死ねっ、死ねぇ!!」
流水の如くとめどなく紡がれる斬撃が、菜月の命を奪おうと執拗に迫ってくる。その悉くが速く鋭く、テニーの職業である剣舞闘師の長所が全面に現れていた。
即ち、圧倒的な速度で繰り出される攻撃の嵐。
戦場を自身のステージに変え、敵を翻弄する美しき剣舞。
それが剣を愛し剣と一体となった彼らの戦い方。
テニーは最近剣舞闘師になったばかりでそれほど剣舞の腕は高くないのだが、十数年の人生で培った戦闘経験は闘争とは無縁に過ごした菜月とは比べ物にならない。『ラグナスヘイム』に来てからも後方戦闘派である魔道士だった菜月は近接戦闘の経験はほぼ皆無と言って良いので、全力の肉体と身体能力の強化を施して集中力を総動員させても、せいぜい刃に当たらないようにするのが精一杯だ。それすら上手くこなせず斬撃が肩を掠め、反射的に防御に出た杖を持つ手を浅く削られ、バランスを崩した隙を縫って放たれた刃が頬を斬って鮮血を散らした。
「痛ぅっ」
頬に引かれた紅線からどろどろと液体が溢れ、ジワリと広がる痛みに顔を顰めながら菜月はバックステップでテニーの次撃を回避。次いで繰り出される長剣の突きをなんとか体を捻って躱し、その次も、次の次も、ひたすら菜月は剣を目で追いながらそれらを食らわぬよう体を操った。
「な、何で攻撃してくるんだテニーさん!? 危ない、ってか普通に死ぬぞこの攻撃!?」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅いッ! お前のような奴が天使様の近くにいるなんて駄目ナンだ! だから、だカラ僕が、殺シテヤるッ!」
菜月の呼びかけを聞きたくないと癇癪を起こしたように振り払い、テニーは長剣を菜月に叩きつける。激情を乗せて叫ぶごとに、声質に異様なズレが見られるごとに、普段使わない口調に変化していくごとに、その攻撃はより苛烈なものへと変化していく。八つ当たりなどという可愛らしいものではなく、これは憎しみ、怒り、妬みといった負の感情をもとに、殺意を持って放たれる怨念の刃だった。
しかし菜月は反撃出来ない。何故なら彼が人間であるからだ。
先ほど殺した化け物は良い。あれは人ではなく、人を殺す化け物なのだから。
だが彼は駄目だ。例え殺意を持って殺しに来たとしても、正真正銘間違いなく人間で、そして一言二言だとしても言葉を交わした間柄なのだから。
「て、天使だぁ……?」
「そウだ! 天使様……ユーリさんハ、お前なンカが手にしてイイものじゃナイ! ダカラ僕が、僕ガユーリさンヲ助けルンだ!!」
無茶苦茶だ。テニーの言っている事が菜月には全く理解出来ない。もっともそれは、エミアリスやリリアーナも同じだろう。
「あ、頭おかしいの、この人?」
狂った思考で意味不明な言葉を喚き散らすテニーを前に、リリアーナを守るように杖を構え魔法を待機させていたエミアリスが顔を引き攣らせて呟いた。
その呟きを耳に挟んでいたリリアーナは菜月やテニーの人間関係を知らない為、エミアリスに言葉を返せず、ただ殺し合い――と言っても殺意が有るのは片方だけだが――を青褪めた顔で見守る事しか出来ない。
当事者たる菜月はテニーの攻撃をひたすらに躱していた――が、しかし身体能力と魔力による身体や武器の強化だけでいつまでも乗り切れる訳がない。
「アアあ、ッヤア!」
テニーの剣――恐らく魔道具なのだろう、刃に刻まれた魔法式が彼の流した魔力に反応して赤い魔式文字を浮かび上がらせ、施されている魔法付与の効果を発動。魔力と魔法効果を示すような赤い光に覆われて刀身が薄く輝き、先ほどまでの何倍も速く強烈な一撃が菜月目掛けて振るわれる。
みすみす食らうつもりもないが、さりとて回避出来るような間合いでも剣速でもない事は一瞬で理解出来た。防衛本能に応じて即座に杖を迫る凶刃を阻むように掲げ、体内を巡る魔力を杖に集中させる。
直後、ガギィィインッッッ!! とおおよそ木製物質と金属がぶつかる音とは思えない衝撃音が甲高く上がり、踏ん張り切れなかった菜月は余剰威力のまま後方へと大きく吹き飛ばされた。弾かれても決して放さなかったが、杖を持つ手は痺れが酷い。大して体勢も直せぬうちに土が面前に迫り、菜月は体を強く打ち付けたのちゴロゴロと転がった。
「っつぁぁ、全身が、痛ぇ……っ」
斬られ打ち付けられ削られ、傷だらけの全身が訴える痛みに絶え絶えの息で唸る。その痛みが完全に消える訳ではないが、同時に魔法式を構築して【治癒法式】を発動させ、傷を徐々にだが治していく。
先ほどのガードで、菜月は杖に魔力を全力で流していた。拙い魔力操作とはいえ絶対量の異常な多さからかなりの量を杖に注ぎ込む事に成功していたが、武器のスペックの差か、こちらの防御が劣っていたようだ。更に杖から一瞬みしっという音が零れていたから、恐らく限界を超えた魔力量に器が悲鳴を上げたのだろう。二度、三度と同じことを繰り返せば、間違いなく緋色の杖は崩壊してしまう。
テニーの長剣に掛けられた魔法付与の効果は、恐らく『重量増加』や『威力上昇』の類だろう。菜月の異常に魔力で強化された杖を弾くほどの威力なのだから、中々に侮れない。
――いや、それだけではないか。
「あア、アアアあア」
低く唸り声を上げるテニーの姿に、菜月は既視感のようなものを感じた。
この世ならざる者の声。しかし狂っても思考は残っていて会話も可能。そして異常なまでの身体能力――。
どこかで見たような、それも直接戦った事が有るような気がして、菜月は眉を顰めた。
まさか――いや、と纏まらない思考がぐるぐると回る。
「殺ス、殺シテヤルゥ……ッ!」
しかし菜月の思考など関係なく、再び動きが止まった菜月目掛けてテニーが地を蹴り、爆発的な加速を利用して威力を高めた剣を胸を薙ぐように振るおうとして――だが、テニーが菜月をリーチ内に捉えるより早くエミアリスが魔法を発動。【電鞭法式】で生み出された雷電の鞭がテニーの体に絡みつき、その電流を無慈悲に流し込んだ。
「アアアアアアアアアア――ッ! ガアアア、アア、アアァァアアアアァアアアア――ッ!!」
神経を蹂躙される痛みにテニーは絶叫を上げ、剣を滅茶苦茶に振り回しのたうち回る。全身の血が沸騰し蒸発するほどの高電圧は、普通の人間であれば一瞬で内側から殺されていた事だろう。
「え、エミアリスッ!?」
即死の攻撃。明らかに彼女はテニーを殺す気で魔法を使った。
確かにエミアリスが魔法を放たなければ、あのまま菜月はなす術もなく斬られていた可能性はあった。仮にあの一撃を躱したとしても、それからの攻撃の全てを回避し尽くし、更にテニーを無力化する程度に抑えた攻撃で倒す事など不可能に近い。
しかしそんな状況であっても、菜月は人を殺せない。覚悟が決められない――そもそも、その選択肢が彼にはない。
人だから。彼は人間だから殺せない。
その人間であるテニーを殺そうと雷電の鞭を使うエミアリスに、自分を守ってくれているとしても菜月は攻撃をやめてくれと言おうとして――しかし。
「ガァァァアアアアアアアッ!」
どうやら彼は普通ではないらしい。
即死級の電流を体内の魔力を噴出して弾き出し、筋肉が膨張した腕を振るって雷電の鞭を霧散させた。
「なっ……」
驚きの声を上げたのはエミアリスだった。
無理やりに魔法を搔き消された赤髪の魔道士は、テニーのあまりに強引なやり方に戦慄を覚えていた。彼女の三つある適正属性のうち一つである雷属性の魔法は基本的に実体を持たない攻撃だ。あまりの高電圧に肉体に巻き付いて拘束するなどの物理的現象を引き起こす事は可能だったが、本来は実体無きものなのでこのような無理やり引き千切るなどという荒業は不可能だ。せめて一定以上の量の魔力を宿した肉体であれば可能だろうが、筋肉が膨張しただけの肉体で雷電の鞭を霧散させる事は出来ない。
――だが。
それは一般人の話であって。
「アア、アアアアッ、足リナイ、モット、モットチカラヲ……ッ!」
怪物の話では、ない。
「――ッ、あれは……!」
見覚えのあるものを視界に捉え、菜月は息を詰まらせた。
その反応を尻目にテニーは懐から取り出した瓶の蓋を捩じ切るように開け、中に入っていた錠剤を三粒取り出し、躊躇いなく口へ放り込んだ。
それは、とある薬。
かつてエルドという冒険者が大量に服用し、怪物と化したあの薬。
口腔へ投げ入れた悪魔の錠剤を喉の奥へと流し込み、にたりとこれから手に入る力に凄絶な笑みを浮かべながら飲み込み――そして。
「あぁあぁァあ、亜あア、あああAあアああアああアあああアあアああ亜ああ亜あアあ亜ああアああAあアアァあ、亜あア、あァあ、亜あア、ああァあ、亜あア、あああAあアああアああアあああアあアああ亜ああ亜あアあ、亜ああアああAあアアあああAアあああアああA亜ああああ亜アあアあアあAあ亜あああアAアああ亜アああアああアAア亜あ亜あアアああ亜あアあ――ッッッ!!」
低音なのか、高音なのか、それすらも判断のつかない音で怪物が絶叫する。
赤茶の髪を搔き毟り、充血して真っ赤の眼を見開き、脳みそをシェイクするように振り乱す。耐えがたい衝動を地面にぶちまけ、上手く握れなくなった長剣が地面に落ちるが、それを拾うという気が回らないほどに荒ぶ彼の思考は混沌を極めていた。
「チカラガ、チカラガ溢レテクル……ッ! ハ、ハハハハ、ハハハハハハハハハハハ――ッ! コレナラ、コレガ有レバ、ユーリサンノ隣リニ居ラレル!」
際限なく溢れ出す力に酔ったように嗤い、絶大な力の快楽に溺れるテニーの瞳は暗い闇を灯している。
何を思ったのか、突如テニーは拳を地面に叩きつけた。
直後、ッズゥン! と圧縮され凄絶な威力を秘めた拳撃が地を叩き、半径五メートルもの範囲を陥没させた。帝国有数の魔法結界によって防護されている筈の城壁にも余波で亀裂を入れ、破裂したように広がった空気が木々を激しく揺さぶる。
「な、なに……何なの?」
薬を服用し、素手で地面を陥没させるほどの力を得たテニーに、エミアリスは恐怖の感情を隠せぬままぽつりと呟いた。
「バケ、モノ……」
続いてリリアーナがそう彼の事を評する。
だがそれは違う。菜月とエミアリスが斃したあの化け物は言葉を話さなかったし、何よりテニーの造形は多少不釣り合いに盛り上がる筋肉が蠢いているものの人間のものだ。角は無し、翼も無し、尻尾も無し。ただただ有り得ないほどの力を持つだけの、ただの――。
「……にん、げん」
そもそも、薬を服用する前は人間である。
異世界ライフ初日、エミルフィアの空き倉庫でも似たような事があったか。
効果不明の怪しい薬を明らかに体に悪そうなほど服用し、体を化け物のそれへと変化させた戦闘士の男。紫に変色する肌と異常発達した筋肉を手に入れ、左腕は硬質化した骨の剣へと変化し、右腕は毛に覆われた肉のハンマーとなっていた。流石に服用した量が違うからか、骨の剣や肉ハンマーは出来ていないが、テニーとエルドの症状は似ている。
エルドは狂暴化し、異常な攻撃力や俊敏さを以って菜月を殺しにかかってきたが、しかし最後には仲間を菜月の【炎獄災禍法式】から守った事から、彼には人間の心が残っていた事が分かる。
そして今回は服用量が少ない為か、それとも薬が新たに改良されたものなのか、奇妙な肉体変化が起こる事なく絶大な力を手に入れているようだ。
それは――菜月にとってこれ以上なく厄介な敵だった。
化け物と評されるほどの力を持ち、自分を殺しに迫ってくる人間――菜月は殺せず、しかし相手は確実にこちらを殺そうと狙っているという状況がすでに拙いのだ。そこに圧倒的な戦力差が加われば、もはや菜月の生存は絶望的である。
「……ナツキ、逃げよう」
凄絶な現象に目を見開き息を詰まらせていた菜月に、冷静に判断を下したエミアリスが提案する。リリアーナはすぐさまこくこくと頷いて肯定を示し、あとは菜月が首を縦に振れば一斉に駆け出した事だろう。
――だが菜月が自分の意思を示すよりも早く、
「死ンデモラウゾ、ナツキィィイ!!」
その声が届いた時にはすでに、菜月の目の前には刃があった。
『長剣術』スキルの武技能力を発動させたテニーが、大振りに長剣を振りかざして菜月を叩き斬ろうとしていると理解したのは、数瞬後の『死』が揺るぎないものとして確定したと感じたからだ。
否、感じたとか曖昧な事を言わずとも、本当に確定だろう。今からどう足掻こうと目の前の刃が防げる訳でもなし、一発逆転の魔法が発動出来る訳でもなし。ならばもう避けられない事など決まったようなものなのだ。
ああ、これで終わった――と、最後にそう呟こうかと考えて。
――だが。
「――させません」
誰かの声が、聞こえた。
鈴の音のような涼やかな色を持つ声。されど凛とした芯の通る音は聴く者の心へ浸透し、一生消えぬよう中に沁み込んでいくようだった。
そして――ふわり、と銀光煌めく紫のツインテールを靡かせて、天使が降り立つ。
その両手には血の長剣。紅い光を引くその刃は見ているだけで引き込まれるような『魔』が秘められている。
しかしそれ以上に目を引かれるのは、その少女自身だ。
意識を強く持たなければ溺れてしまいそうなほど魅力的な絶世の美少女。あらゆる者の眼を惹き付け引き込んでいくその『魔』は危険なほどに酷く強力で、普段から彼女を見慣れていなければ菜月も間違いなく溺れていた事だろう。
――一条優莉。彼女は吸血鬼種としての力を引き出す為に『銀虐魔王の血脈』を少々解放しているようだ。この異常なまでの魅了効果の原因は本人の持つ魅力もあるだろうが、この『血』の力が強力すぎるせいだろう。
優莉は何かを払うようにその長剣を軽く振るうと、呆然とする菜月に振り返って微笑んだ。
「危なかったですね、菜月先輩」
カラン、とその言葉に被さるように何かが地面に落ちる音が鳴った。
目を向ければ、そこには半ばから奇麗に切断された長剣の刃があった。それは間違いなく先ほど菜月を切り裂こうと迫っていた筈の長剣のもので、つまり菜月に迫る凶刃を斬り裂いたのは彼女という事だろうと推測できる。
「あ、ありがとう……優莉」
何故ここに、とか、どうやってテニーの剣を切り裂いたのか、とか、聞きたい事はあったが、しかし今は質問などしていられる状況ではない。
優莉のお陰で助かったのは事実だが、逆に彼女がいる事でテニーがどんな行動に出るのか分からなくなってしまった。
「アア、アアア、アアアアア……天使様、ユーリサンッ!」
歓喜か、狂愛か、熱情か、異質な表情をその顔に浮かべたテニーが、震える声で言った。
「僕ハ貴女ヲ助ケニ来マシタ! 至高ノ貴女ヲ下賤ナ輩カラ守ル為ニ、魔女ト契約シテ、コノ魔人ノチカラヲ手ニシ――」
「……? 五月蠅いですね。菜月先輩に仇なす貴方はあとできちんと殺してあげますから、今は静かにしててください。せっかくの菜月先輩との語らいの時間なんですから」
「――テ……エ? ユーリ、サン?」
言われた意味が理解出来ず、聞き間違いかと訊き返すテニー。
しかしその忠告を無視した態度は優莉にとって不快でしかない。
「黙ってください。貴方のような知らない人と話している暇なんてないですし、する気もありませんから」
「…………、エ?」
知らない人――二度も会って話した事のある人に向けて、優莉は面と向かってそう言った。
それは即ち、『お前の事なんて覚える気もないし、覚えておく必要もない』という意味を表していて――。
拒絶――否、それどころか無関心。
そこまで理解してしまったテニーは、
「アア、ア、ア……? ア、ア、ア、ガァ……アアアア、アアアアアアアアアアア」
ぼろぼろ、がらがらと、彼の中で何かが音を立てて崩れていく。
最後の理性の留めどころで、彼がギリギリ人間性を保っていられたストッパーが、ズタボロになって壊れていく。
狂う。狂う。狂う。
思考が、想いが、精神が。
元々他人の手で歪められていたソレが、更に歪に曲がっていく。
ぽろぽろ、ぽたぽたと、両瞼から零れ落ちるのは水滴。
その雫と一緒に、『何か』も零れて行ってしまって――。
「アアア、アアアアア、イヤ、ダ……」
拙い、と菜月は唇だけ動かした。
低い、重い、悲哀の声。聞き手の心を否応なく沈めていく、痛いほどに悲惨な失恋に対する悲しみがあった。
だが悲哀であっても、憎しみではない。そこに彼の人間性が見えた気がした。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ア、ア、ァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
何かを求めるように、何かを拒絶するように、叫んで、叫んで、叫んで――なお、叫んで。
テニーは、腰に差していた予備の長剣を振り抜くと、地面を抉るほどの威力で地を蹴り加速した。
「死にたいんですか――」
その剣先は菜月。勿論それに気づいた優莉は、右の手に握る血器長剣で受け止めようとして――しかし、その間に菜月が割り込んだ。
「なっ、先輩ッ!?」
「うお、おおぉオオオオッ!」
テニーに負けない勢いをつける為に雄叫びを上げ、緋色の杖に全力の魔力を宿してテニーの剣を迎え打つ。
考えている猶予はなかった。だから衝動的にとった行動だった。
しかしこれが正しいと、直勘や第六感のような何かで閃いて、気づいた時には杖を構えて優莉とテニーの間に割り込んでいた。
迫る、剣先が迫る。怪物の膂力で打ち出される絶対的な威力の剣撃が、菜月の身を斬り裂こうとやってくる。
だが引かない。杖を構え、押し返すと意気込んで――そして。
失恋に嘆く怪物の振るう刃と、不本意にも愛を勝ち取った魔道士の杖が衝突し――周囲に激震と火花を撒き散らした。
友人から「『ヤンデレ後輩』に出てくるキャラって、変な奴ばっかりだね」と言われました。
よくよく考えると、まともな人ってエミアリスくらいですね。
次回も読んで頂けると有り難いです。




