第三十五話 再び馬車に乗って
メ、メリークリスマス……! (← 二日遅れ)
魔道士ギルドエミルフィア支部〝純白百合花〟。その地下にある書庫で見つけた一冊の魔道書を、菜月はあるページを開いてテーブルの上に置いた。
「これが探索魔法……【探索妖精法式】だ。これがあれば、シャルちゃんの場所が分かる」
「でもナツキ。【探索妖精法式】で人を探すには、その人の私物が無いと探索不可能。何か持ってる?」
菜月と反対側から魔道書を覗き込むエミアリスが、そのページに書かれた注意事項を読んで現れた問題を投げかけてくる。
いつも通りと言うべきか、魔道士ギルドの支部でありA級クラン〝純白百合花〟の拠点であるこの小屋に居たクランメンバーはエミアリスだけだった。そして彼女に軽くだがラムル村であった事を説明してから探索魔法が記された魔道書を探すのを手伝ってもらい、今に至る。
菜月はエミアリスの問いに少しの間思案顔を浮かべたが、やがて思い出したように憂莉を見る。
「そういや憂莉、お前シャルちゃんの荷物回収してたよな? 出してくれ」
「回収……ああ、してましたね。何が良いですか?」
空中に空間映像を出現させて所有物の欄を開き、憂莉はどれを出すのかと訊いてくる。別にどれでも良いのだが、なるべく小さいものの方が都合が良かったのでそう伝えると、憂莉はインベントリーから翡翠の宝石が付いた髪飾りを取り出し、魔道書の横に広げた地図の上に置いた。地図も探索魔法で必要となるものだ。
本来であれば、マジックバッグなどの大量収納が可能な魔道具を使ってインベントリーを偽装すべきだろうが、その手の魔道具はかなり高価なので手に入れておらず、不可能だ。しかし今取り出した髪飾りはポケットに入る程度のサイズだった為、憂莉はあたかもポケットから取り出したように見せかけつつインベントリーから出したのだ。
「これは……シャルちゃんが頭に付けてたやつか」
「寝る前でしたから、外してたんでしょうね。その時以外一度も外したところを見ていませんし、探索魔法とも相性が良いんじゃないでしょうか」
「ん、確かに」
【探索妖精法式】は、探し人の私物に残った魔力をもとに探す為、常時身に着けていたものが最も適している。残っている魔力の量や質が高ければ高いほど広範囲でも発見が可能となり、更に細かく居場所を特定する事が出来るのだ。体内に魔力を持つ生物は常時微量だが魔力を放出しているので、シャルロッテが寝る時以外いつも身に着けていた髪飾りは良く彼女の魔力が染みついており適していると言えるだろう。
「あ、でもシャルちゃんって魔力持ってたっけか?」
当然だが、魔力を持つ者でなければこの探索魔法で見つける事は出来ない。
どうだっただろうかと首を捻る菜月に、憂莉が地図の上の髪飾りに触れながら答える。
「大丈夫ですよ、この髪飾りにはきちんと魔力が宿ってます。それに、シャルちゃんは精霊魔術……いえ、精霊術が使えると言ってましたし。妖精種の血が混じっているので、普通の人間種よりは多いと思いますよ」
「なるほど、まぁ確かにそうだな」
「うん? ……もしかして、菜月が探してる子は半妖精種なの?」
納得した菜月と反対に疑問が生じたエミアリスが首を傾げた。
「あれ、言って無かったっけ。……やべぇ」
説明の時にすっかり言ったつもりだったが、そうではなかったらしい。菜月は言わない方が良かったかなと思いつつも、しかしここまで言っておいてきちんと説明しないのもどうかと思い、エミアリスに向き直る。
「そうだ。シャルちゃん……シャルロッテは半妖精種の女の子だよ」
半妖精種がこの世界で良い印象を持たれていないのかどうかは、まだきちんと確認していなかったので正直分かっていない。
だが初めて菜月達がシャルロッテと出会った時、彼女は半妖精種である自身を卑下していた。その時は菜月の事を貴族だと勘違いしていた事もあっただろうが、しかしその時の「わたしごとき低俗の半妖精種が」という言葉は、半妖精種が悪い印象を持たれていると受け取れる。
だから信頼出来る人であったとしても、本人の許可無くその事を話して良い筈がない。だがそれでも手伝ってもらう以上、そして気付かれてしまったのなら、中途半端にせずきちんと説明した方が良いと思い、菜月は口にした。
もしエミアリスが半妖精種に対して嫌悪感を懐いているのなら、それも仕方が無いのだろう。悲しいし、やるせない気持ちにもなるだろうが、人でも世界でも一度根付いてしまった思想はそう簡単に変えられるものではないのだから。
だが、覚悟して話した菜月に、エミアリスはいつも通りの表情の薄い顔で一つ頷くと、
「なるほど、それなら魔力の心配はない。どこまで連れていかれているのかは分からないけど、少なくとも禁忌の森を越えていなければ見付けられる筈」
「え……」
貶すでもなく、嫌がるでもなく、ただ納得したように言うエミアリスに、身構えていた菜月は拍子抜けして声を漏らした。その様子を逆に不思議に思ったエミアリスが首を傾げ、
「どうしたの、ナツキ? そんな鳥が【圧縮弾法式】食らったような顔して」
「あ、いや……」
そこは豆鉄砲じゃないのか、【圧縮弾法式】だと鳥は潰れるのではないのか、などのツッコミどころに反応する事も出来ず、菜月は呆然としてしまう。
エミアリスは半妖精種に対して嫌悪感を懐いていないのか。それともシャルロッテが卑下する必要も無く、半妖精種は忌むべき存在ではないのか。そのどちらなのか、菜月には分からない。
すると菜月が困惑する理由を自分なりに察したのか、エミアリスは無表情だった顔を少しだけ笑みに変えて口を開く。
「確かに世間では混血は忌まれているけど、別にわたしは気にしてない。半妖精種でも半小人種でも半妖精半小人種でも、同じ人類である事に変わりはないのだから。――ナツキもそうでしょ?」
「……ああ、そうだな」
問われ、菜月は深く頷き返した。
種族が違おうと混血だろうと関係ない。その通りだと菜月も思う。
しかしやはり、世間ではハーフは忌むべき存在という認識らしい。そんな中でエミアリスは周囲の思想に染まらずにいられたのだから、彼女は本当に優しく良い人なのだろう。
シャルロッテを嫌悪されなかった安心からかエミアリスの人柄に触れる事が出来たからか、ふっと菜月の頬が緩む。
と、タイミングを窺っていたのか、ちょうど会話が途切れたところで憂莉が声を挟んできた。
「で、そろそろ魔法を使った方が良いのでは? 菜月先輩、時間が無いって事は先輩が一番分かっていますよね?」
やや不満げなのは自分だけ中々会話に入れなかったからだろう。それでも無理やり中断しなかったところを見ると、少しエミアリスにも遠慮が出来たのだろうか。本当のところは分からないが、これ以上時間を使うのも良くない事は分かっているので、「悪い」と短く謝罪の言葉を口にしてから再び魔道書に目を向けた。
必要なものは全て揃っている。【探索妖精法式】の魔法式や魔法陣が記された魔道書、探索対象の魔力が残った私物、場所を示す為のシュルフィード地方の地図、そして魔法を使用する魔道士。これらがあれば、攫われたシャルロッテの居場所が分かるのだ。
菜月はシャルロッテの髪飾りを手にし、一度心を落ち着かせる為に深呼吸をする。
それから魔道書に目を移し、そこに記された魔法式を再度完璧に理解する。抜かり無く、完全に覚え込むように。いつも新たな魔法を覚える時と同じく、脳に染み付くまで魔法を自分に取り込んでいくのだ。
一分、そして十分。周囲の音も光景も振動も何も感じないほどに没頭し、魔法を完全に自分のものにすると、菜月は視線を地図に移した。
戦闘ではないのだから杖はいらないし、無詠唱にする必要も無い。確実に、そして正確な場所を示すよう、菜月は慎重に呪文を紡ぎ始める。
「我、願うは彼の持つ光。我、欲するは彼の踏む地。指し示したまえ、彼を愛する妖精達よ――!」
第三位階聖属性魔法【探索妖精法式】。
菜月の手に握られていたシャルロッテの髪飾りが魔法に呼応して淡く発光し、そこから光から分離するように現れた薄黄色の光玉が、ゆっくり焦らすようにふらふらと地図の上を泳ぐ。それは花畑に舞う蝶のようであり、幻想郷で踊る妖精のようにも見えた。
やがて眩い燐光を散らしつつ地図上を一周した光玉の妖精は、だんだんと範囲を狭めるように浮遊し――最後にはある一点に止まってから、弾けるようにして光は消えた。
「ここは……」
つい先程まで光玉が示していた場所を見詰めて、エミアリスが声を漏らす。
シフォリール聖王国領の中ではない。更に北、シュルフィード地方最大の国土を持つ魔法大国、セルデセン帝国領の中――。
「――セルデセン帝国帝都、リアード」
これで、正確に目的地が決まった。
◆ ◆ ◆
――セルデセン帝国。
シフォリール聖王国領の中心近くに位置するエミルフィアから見て北に広がる国だ。未開地域を除いてシュルフィード地方において最大の国土面積を持っており、また優れた魔法技術によって絶大な軍事力や生産力を保持している。常に『天霊樹の迷宮』から古代魔法や魔道具、『神魔造具』などの強力な物資が手に入るシフォリール聖王国ほどではないが新しい魔法や魔道具の研究も進んでおり、言わば最強最大の国なのだ。
七つの州に分けてそれぞれの太守が統治しており、その太守を纏める皇帝レオポルト=ジアーテ=カルデリシア=セルデセンのお膝元である帝都リアードは、他の都市よりも高水準の魔法技術を取り入れた最新鋭の街並みを持つ。街灯は火ではなく、魔法によって通常の光明石よりより明るく照らす事が可能になった魔加工光明石が使われている為、陽光の無い夜でも真っ暗になるような事はない。また一般人の魔法習得率は七割を超えており、同時に識字率も他都市や他国とかなりの差を付けて高い値を維持している。
正に『魔法の国』の代名詞に相応しいのがセルデセン帝国なのだ。
そこにシャルロッテが――〝終焉教〟に攫われた人達が居る。
その情報を手に入れてすぐにセルデセン帝国へ向かう準備を始めた菜月と憂莉だったが、まず一段階目で躓いてしまった。
「いやぁ、すみませんねぇ。今ちょぉっと北には出せないんですよぉ」
急いでいた為に魔道書や地図の片付けをエミアリスに押しつけてから、ラムル村に行った時の御者モルテンを雇った所と同じ商業ギルドに行き、帝都リアードへ行く馬車を出して貰おうとしたのだが、へらへらとした笑みでそう商人に断られてしまった。
勿論そう言われても簡単に引けない事情がある菜月は食い下がる。
「そこをなんとか出来ませんか? どうしてもすぐにリアードに行かなきゃならないんですよ」
「いやぁ、そんな事言われましてもねぇ。間が悪いと言いますかぁ」
へらへらへらへらと変わらず心中の読めない笑みを浮かべる商人。その顔を見るたびに段々と苛立ちが募っていくのだが、しかし爆発する訳にもいかないので何とか荒げそうな声を静めて菜月は訊く。
「間が悪い、というのはどういう事ですか?」
「えぇと、何と言いますかぁ。リアード……というより、今はセルデセン帝国に馬車が出せない状態なんですよぉ」
「…………」
セルデセン帝国に馬車が出せない――それはつまり、セルデセン帝国に問題があるという事だろうか。しかしシフォリール聖王国とセルデセン帝国はそこまで仲が悪い訳でもないので、商業ギルドの紹介で出す馬車であれば簡単に通れる筈だ。そして現在帝都であるリアードには〝終焉教〟が潜んでいる可能性が高い。タイミングが良すぎる事を考えると、理由は決まったようなものか。情報が早過ぎる気もするが、そこは商人の情報網、菜月が考えているよりもずっと広く素早いものなのだろう。
しかし理由が分かったとしても、諦める事は出来ない。
リアードまで馬車で片道九日もかかるのだ。徒歩で行くなど以っての外、馬車を出して貰わねば例え肉体と身体能力を強化して急いでリアードに辿り着いたとしても、その後負担をかけ過ぎた肉体が動かなくなるか、そもそも九日より短い日数で辿り着けずに途中で倒れてしまうだろう。少なくとも普通の人間種には不可能だ。一応菜月は人間種ではなく天魔種なのだが、その種族の事は良く分かっておらず、規格外の肉体強化をしても耐えられるのか全く分からないので無理だろう。吸血鬼種である憂莉は出来るかも知れないが。
「ぐ……何とかなりませんか? 絶対に行かなきゃならないんです」
「ううーむ、そう言われましてもぉ……二十日くらい待って問題が片付いてたら大丈夫なんですけどねぇ」
「二十日って……そんなに待てません! 一刻も早くリアードに行かなきゃならないんですよ!」
「出来ないものは出来ないんですよねぇ。すみませんねぇ、お引き取り下さいな」
「くそっ、もういいっ!」
何と言われようと馬車は出せないと言う商人に、菜月は遂に苛立ちを隠しきれず乱暴な口調で吐き捨て、蹴るように身を翻した。その場から去ってゆく菜月の後に憂莉が続き、彼らの後ろ姿に商人が商売人の礼儀として「また何かありましたらお尋ねくださいなぁ」と一礼するが、一瞥する事無く二人は足を進めた。
それからどのくらいの時間が掛かったか、結局エミルフィアにある商業ギルド全てに向かってみたが、先程と同じように馬車は出せない、また出せたとしても条件の良いものは無く、移動手段を用意する事は出来なかった。
いっそ馬車で行くのを諦めようか――と言い出しそうになった頃。北門辺りで溜息を零して歩いていた菜月に、ふと声が掛かった。
「ナツキ、ユーリ、待ってた。早く乗って。全力でリアードまでかっ飛ばすから」
「――えっ」
驚いて振り向くと、そこには至る所に幾何学文様の魔法陣が描かれた馬車の前で堂々と仁王立ちする林檎のような赤髪の少女が居た。
「エミ、アリス?」
呆然とした様子で呟くように赤髪の少女の名を口にする菜月。
その横に並ぶ憂莉も何故エミアリスがここで自分達の事を待っていたのか分からず怪訝な表情を浮かべていたが、エミアリスはそんな二人の疑問を晴らす時間も惜しいとでも言うようにやや強引に二人の手を引っ張り、強制的に馬車に乗せてしまった。
前回乗った馬車のものよりずっとふかふかな座席に座らされ、呆ける間も無く三人を乗せる馬車は発進した。どうやら御者はエミアリスではなく、きちんと他の人がいるらしい。
「え、ちょっ、どうして……何でエミアリスが俺達をリアードまで乗せてってくれんだよ? つかこの馬車はどこで手配したんだ? しかも何かふかふかだし揺れも殆どないし、何だこの馬車は?」
北門で番をしていた兵士からのチェックを終えて暫くしてから、落ち付いた菜月がやっとの事で疑問を晴らすべく質問を重ねた。
すると憂莉と並んで座る菜月の反対側に座るエミアリスは、立てば腰まで届く赤髪を手でくるくると弄りながら、「一気に訊かないで」と言ってから続ける。
「まず最初の疑問、どうしてわたしが貴方達をリアードまで送るかだけど、それはただわたしもリアードに用が出来たってだけだから、言ってしまえばただのついで。それから、馬車は元々わたしの物。座席がふかふかで揺れも殆どないのは、そういう技術が使われた馬車だから。以上」
訊かれた順番に一つ一つ答えたエミアリスは、「これで理解出来た?」と確認を取ってくる。
その答えで全て綺麗に納得出来た訳ではないが、とりあえず大体理解出来た菜月はこくりと頷き返した。憂莉はまだ怪訝な表情を浮かべたままだったが、ひとまず乗せてもらえる事に不満は無いらしい。大人しく菜月に密着して座っている。
ともあれ、移動手段が手に入った事は幸運だった。それも揺れるわ尻は痛いわ疲れるわの前の馬車より快適ならば、スピードもかなり速いようなので文句は無い。
良かったと安堵の溜息を漏らす菜月に、しかしエミアリスは「ただ」と付け加える。
「ちょっと途中、休憩がてらに寄る町があるけど、そこは我慢して」
「……それって、どのくらいかかるんだ?」
あまり長いようならば、そこで別行動になる可能性も考えなければならない。
菜月の問いにエミアリスは僅かに思案し、口を開く。
「そんなにかからない。半日程度、かな。そもそも馬の大休憩が必要だから、どちらにせよ避けられないけど」
「なるほど」
それならば仕方が無いだろう。馬に潰れられては、余計に時間を食ってしまうだけなのだから。
「了解した。でも、出来るだけ急いでくれよ」
「ん、分かってる。……あ、そうだ」
と、そこで何か思い出したように声を出すと、エミアリスは魔法使いが着るような黒いローブのポケットからある物を取り出し、菜月に投げ渡してきた。
それを両手で危なげなくキャッチしてから、手の中の物を広げて何を渡されたのかを確認すると、それは翡翠の宝石が付いた髪飾り――シャルロッテの髪飾りだった。
「それ、ギルドに置きっぱなしだった」
「あー、忘れてた。ありがとうな」
「ん、どういたしまして」
魔道書や地図の片付けを全て任せた――というか押しつけた――時に見つけてくれたのだろう。菜月も憂莉も――憂莉はもしかしたらわざとかも知れないが――すっかり忘れていたので、きちんとエミアリスが届けてくれて安堵する。
菜月は憂莉が出した時と同じように、今度はポケットに仕舞う振りをしつつ髪飾りをインベントリーに収納する。スムーズに出来たかどうかは微妙だが、不自然ではなかった筈だ。が、その髪飾りを仕舞った菜月の右手をじーっとエミアリスは見詰めていた。
「えっと……どうかしたか?」
「……いや、ちょっとその髪飾りが」
インベントリーなどという恐らく女神から貰った特殊な能力が使える事がばれたのかと冷や汗を垂らしながら菜月は訊いたのだが、しかしエミアリスの注意が惹かれたのはインベントリーではなく、髪飾りだったようだ。
シャルロッテの髪飾りがどうかしたのかと菜月が訊くと、しかしエミアリスははぐらかすように「何でも無い」と首を振る。
「そうか……?」
どうにも腑に落ちないが、本人が口にしないのなら無理に訊ねるのは良くない。菜月はそれ以上訊く事は無く、ただ今はエミルフィアから離れてゆく風景を馬車に揺られながら眺めている事にした。
「……その髪飾りの宝石に刻まれた紋章は、エンフェイト家のもの……どういう事? まさか、『翡翠の精霊使い』の子孫……?」
――そのエミアリスの呟きは小さく、菜月の耳に届く事は無い。
だが人間種よりも遥かに強化された五感を持つ吸血鬼種の憂莉の耳には届いていた。
「…………」
しかし憂莉は何も返さず、ただその赤紫の眼を細めつつ思案に耽るだけであった。
三人を乗せた馬車は、北方、セルデセン帝国領を目指し、二頭の馬に引かれてガラガラゴトゴトと進んで行く。
やっと第二章の舞台に向けて出発しました。……え、遅い? 本当にすみません……。
次回も読んで頂けると有り難いです。




