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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第二章 平和な時の終焉//第零階層世界編
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第三十三話 大軍猿は練習台


 菜月なつき憂莉ゆうりとの会話で決意を固めた後、二人がミアレラ樹海に入ったのは昼過ぎだった。


「態々攫ったという事は、何かに利用するという事でしょう。ならばまだ殺されていない筈です」


 その憂莉の言葉から一度落ち着きを取り戻した菜月だったが、それでもすぐに焦りは戻ってくる。攫われた人が連れていかれた先で何をされるのか分かったものではないのだから、すぐに殺されないとしても安心するのは早すぎるのだ。奴隷にされるか、人体実験に使われるか、はたまたどこぞの誰かとの取引にでも使うのか、推測は幾らでも出来るが、彼ら〝終焉教〟の本当の目的は分からない。

 しかし同時に、どこに連れていかれたのかも分からない。

 その解決方法は菜月が持っていた。


「探索魔法だ。魔道士ウィザードギルドの地下書庫に保存されていた魔道書に、人を探す魔法があった筈なんだ。それを使おう」


 そう言って、すぐにエミルフィアに戻ろうとした菜月を止めたのは、またもや憂莉。彼女は先に当初の目的であるレギオンモンキーの討伐を終えてから帰るべきだと主張して譲らなかった。

 その理由は二つ。一つは、帰りの馬車は元々払ってあるのでともかく、この依頼を達成しないとシャルロッテの場所が分かっても探しに行く際の移動に使う馬車の金が無い事。そしてもう一つは、菜月の戦闘訓練の為であった。


「菜月先輩は、まだ魔法での戦闘に慣れていません。それは、襲撃者と戦って分かった事でしょう。ですので、レギオンモンキー相手に魔力の練り方を上手くしたり魔法式の組み立て速度の向上を行ったり、色々戦って学ぶべきです」


 との事から、二人は当初の目的であったレギオンモンキーの討伐の為にミアレラ樹海を探索していたのだ。反対しようにも憂莉の言う事は事実なので、菜月は大人しく従っている。

 鬱蒼と生い茂る木々が三つの太陽の日差しを遮り、暗く足場の悪い獣道を歩き続ける。

 この世界に来た時に目覚めた場所も森だったが、広さ的にはこちらの方が広いらしい。シャルロッテと出会ったセルハマ大森林はシフォリール聖王国領の南、アルバトリア王国領との国境沿いに広がる大きな森だが、ミアレラ樹海は軽くその倍はある。

 だがシフォリール聖王国領の北東部からセルデセン帝国領に大きく食い込み、両国の木材源となるその森は、比較的浅い範囲では果実や食用になる動物などの多い良好な狩場だが、ひとたび奥に踏み込めばレコード2000ptを超える魔物が跋扈する死の森だ。よほど優秀な冒険者でもない限り奥に挑もうとする者はいない。菜月達も今回は強力な魔物がいるような場所にはいかず、比較的浅い範囲を探索していた。

 しかし、そういったレコード2000pt台の強力な魔物から追い出されたレコード1500pt程度の魔物が、近隣の村の住人達が資材を採りに行く浅い範囲に時折下りてきてしまい、人肉の味を覚えて村を襲う事がある。今回のレギオンモンキーは正にこの通りだった。

 二十体以上の討伐で依頼達成と見做すとされていたが、実際の数は少なく見積もっても三倍以上は多く、『大軍レギオン』の名に恥じないものだろう。樹海の中に集落を作っているという情報が依頼書にも記されていたのだから、余計にだ。

 さて、そのレギオンモンキーだが、の大軍猿は基本的に一匹で行動する事はまず無い。大抵三匹~十匹、多い時は二十匹、三十匹も群れて行動する。例え些細な事であっても、だ。これは個々の能力が低くても高レコードの強大な魔物達から生き残る過程で培った、生存本能に基づいた習性なのだ。故に、自ら孤独を望む事はあり得ない。独りでいた場合は、多くがその個体に何か問題があって群れから捨てられたか、何か別のものに襲われてはぐれてしまったか、だろう。冒険者にとっても他の魔物にとっても、恰好の獲物だ。

 そして幸運な事に、菜月が遭遇した一匹目のレギオンモンキーは独りだった。


「ぼっち……」


 しょんぼりとしながら木の幹に寄り掛かる猿の姿に、憐みの視線を送る菜月。何となく可哀想だと思ってしまうのは仕方が無いだろう。彼の目の前で項垂うなだれる大軍猿改めぼっち猿は、周囲が暗く淀むほどに気分が沈んでいるようなのだから。

 と、その菜月の声に反応したかどうかは定かではないが、近付いてくる菜月と憂莉に気付いたぼっちのレギオンモンキーは、近くに置いておいた鉄の穂が付いた木の槍を手にすると、慣れた動作で自分が寄り掛かっていた木を登り始める。


「さて」


 片手に槍を持ちながらも残る手足を巧みに使って登ってゆく猿の流石とも言うべき姿を眺めつつ、憂莉が左腰の双剣を抜いた。菜月は元々杖を手にしているので用意するものは無いが、彼女の言葉を聞きながら密かに緋色の杖を握り直す。


「いよいよ初戦です。どうやら相手は大軍と言う割に一匹のようですが、仲間が近くに隠れているかもしれないので警戒は緩めないようにしましょう」


「ああ、分かってる」


 注意を促す言葉に頷き、菜月が前に進み出た。

 動作に黒いコートの裾が靡き、魔法付与エンチャントの効果を発動させる為に常時大気から吸収している魔力が弾けて僅かに鱗粉のような光を零す。菜月が戦闘態勢に入り、体内に巡る魔力を操り始めたからだ。まだ未熟な菜月の操作から外れて体外へ漏れ出た反則級に濃密で膨大な魔力が大気を揺らし、陽炎かげろうのように景色を歪める。

 魔法の行使にあたって、体内を巡る魔力を操作する必要があるのだが、これは何度も練習しなければ無駄に魔力を外に出してしまい、ロスとなる。未熟な証拠なのだが、こればかりは回数をこなさなければ巧くはならないだろう。魔力消費の効率を良くして魔法を使いたいのなら、練習あるのみである。


「キキィッ!」


 菜月から溢れだした魔力に警戒の色を強めたのか、木に登り終えたレギオンモンキーが威嚇の声を上げた。赤く充血したような目を光らせ、槍を掲げて穂先を菜月に向けてくる。

 レギオンモンキーの基本的な戦術は、木の上から多勢で獲物を翻弄するというものだ。時に槍を投げ、時に瑞々しい木の実を目眩ましに使い、林立する木々を二又の尻尾も使って自由に跳び回りながら反撃を躱し、そして武器を手に一斉に跳びかかって獲物を仕留める。数が多いと本当に厄介な魔物なのだ。

 しかし今目の前に居るのは一匹だけ。近くに潜んでいるかもしれないが、そちらの警戒は憂莉に任せている。今回の依頼では、無理が無い限り多くの魔物を菜月が斃す事になっていた。言わずもがな、菜月の戦闘訓練の為だ。

 早くシャルロッテを助けに行きたいのなら、のんびりしている暇は無い。だが焦って戦っても未熟な菜月では殺されてしまう。だから、慣れるまで菜月は慎重に行くつもりだ。どうせなら少しでも強くなって、救出が成功する可能性も上げた方が良いのだから。

 両手で緋色の杖を固く握り締めつつも、しかし魔力の操作は肩の力を抜いて柔らかく丁寧に。流れに逆らわず魔力を杖の先端に嵌め込まれた宝石へ集めて、魔法式の構築を始める。それでも眼だけは逸らさず終始レギオンモンキーに向けたままだ。


「【水槍法式ウォータースピア】っ!」


 合図は、菜月の放った魔法だった。

 水飛沫を撒き散らして放射された水の長槍は、レギオンモンキーが足場としている太い木の枝を引き千切るようにして吹き飛ばす。勢い余ってその後ろの木の幹に風穴を穿つほどの威力だったが、レギオンモンキーはそれを躱して隣の木に跳び移っていた。

 杖の向きを変えて新たに菜月は魔法を放とうとするが、しかしレギオンモンキーはそれを許さない。木にっていた林檎のような味のする黄色い果物、リゴンを三つほど毟り取ると、躊躇なく菜月へ投擲してきた。


「ちょ、食べ物をっ」


 粗末にするなっ、と説教したい衝動に駆られる菜月だったが、受け止める気は無いので回避する。レギオンモンキーは個々は弱いなどと言われていても、腐っても魔物。その長い腕から投げ放たれる硬い果物なんぞに当たっていては、下手をすれば骨折でもしてしまうだろう。スキルで魔力を流し肉体を強化すれば当たっても弾けるが、当たらないに越した事は無い。……因みに一つは憂莉に飛んでいったが、彼女は表情一つ変えずにキャッチしていた。態々長剣を鞘に戻すくらいの余裕まであったらしい。恐ろしい事である。

 それはともかく、リゴンの対処によって魔法の発動を邪魔された菜月は、杖を構えて魔法式の構築を再開させるも、またもやレギオンモンキーの邪魔が入る。こうやって攻撃をさせず、されても躱し、苛立ちを募らせて行くのがレギオンモンキーの十八番おはこだ。

 苛立てば苛立つほどに攻撃は雑になり、狙いが散漫になって一向に当たらず、逆転の一発を放とうとするが当然の如く躱され、そしてそれはやがて隙となる。

 そんな事は馬車旅中にモルテンから聞いた話で分かっている菜月は、幾度か魔法を躱された後に一度深呼吸を挟んで心を落ち付けると、今度は無闇に魔法を放たず、受けの構えをとった。


「キキッ!」


 攻撃の手が止まったところを好機と見たか、戦闘中はずっと木の上に居たレギオンモンキーが遂に地上に居る菜月に向かって槍を構えて跳んできた。その槍の穂は鉄製、恐らく元々は冒険者や村人の持ち物だったが、群れて襲った時にでも奪って自分の物にしたのだろう。

 力強い脚力で以って跳びかかる猿の槍の穂先が無防備な菜月に迫り――しかし貫く直前、ギィィィンッという金属の刃で金属を叩いたような音と共にレギオンモンキーは後方へ弾かれた。


「キ、ギッ?」


 何によって自身の攻撃を防がれたのか分からないレギオンモンキーは怪訝そうに首を捻るも、その隙を逃さず放った菜月の【風刃法式ウィンドカッター】の魔法によって体を滅多切りにされてしまう。謎の答えを見つける前に命を散らした猿は、全身に刻まれた鋭利な切り傷から血を噴き出しながら仰向あおむけに倒れた。やがてその体は、遂に大軍の名を持ちながらも独りだけで戦って負け、魔石を残して消えてしまった。

 その新品の消しゴム大の魔石を拾い上げながら、菜月は張り詰めていた緊張をほぐしつつ安堵の溜息を吐いた。


「良かった……ぶっつけ本番で成功して」


 先程レギオンモンキーの槍を防いて体を弾いたのは、第二位階風属性魔法、【空気障壁法式エアシールド】だ。

 発動者の指定した所へ、物質、非物質を問わず攻撃を防ぐ空気の障壁を作り出す魔法。防いだ直後に魔力を多く込めれば、ある程度の威力しか出ないが衝撃を生み出し弾き返す事が出来る。ただし、この魔法は物質攻撃系にやや弱い傾向があった。魔力で補強したものだとしても元は空気だという事に変わりはないのだから、炎や雷はともかく物質は防ぎにくいのだ。

 だが物質にも非物質にもかなり耐性の強い【土壁法式ソイルウォール】より発動速度の速い【空気障壁法式エアシールド】はその分使い勝手が良く、更に込める魔力を増やせばこのようにレギオンモンキーの槍の一撃も弾き返す事が出来るのだ。空気障壁の設置場所もある程度は発動者の自由に出来るようなので、便利だしこれから良く使おうと密かに思う菜月であった。


「これで一匹目、ですね」


 菜月から受け取った魔石を魔石収納ポーチに入れながら、憂莉はにこりと笑って言った。因みに二人はインベントリーがあれば魔石収納ポーチなど必要無いのだが、普通の人はインベントリーなど使えないので擬態として使っている。買う金がもったいなかったので菜月は持っていないが、常時二人でパーティーを組んでいるのだから問題無いだろう。


「あと最低でも十九匹、か。んでも、集落作られてんだったら、それも壊滅させた方が良いよな」


 二十匹レギオンモンキーを狩ったところで、彼らの集落を壊滅させて数を大きく減らさない限り周辺の危険は去らないだろう。依頼の数以上に戦う事になるが、それでも半分は減らしておきたい。

 だが先程の戦いでは、大軍という長所を潰された一体だったというのに菜月はスムーズに斃す事が出来なかった。結果的には無傷で狩れたのだから良いのかも知れないが、しかしその程度の実力では到底〝終焉教〟には太刀打ち出来ない。数日程度の戦闘訓練で強くなるにも限度はあるが、少なくとも今のままでは駄目だろう。


「それでは、集落を探しに参りましょうか」


「おう」


 短く返事をし、再び菜月は憂莉と並んで歩き出す。

 集落の場所は分からないのでひたすら樹海を探索するしかない。最悪、今日中には見つからないかも知れないが、その時は暗くなる前に村へ帰るか、ここで野宿だろう。だが村へ帰っても、あの状況で宿屋が冒険者を泊める余裕があるとは思えない。野宿道具はインベントリーに入っているのでそちらを頼る事になるだろう。魔物が跋扈する森で一夜を過ごすのは、とてもではないが休めた気にはなれないのだが。

 しかしその心配は杞憂に終わった。

 一匹目のレギオンモンキーを討伐してから約一時間後。ずっと歩き続けていたが、腰を下ろせそうな倒木を見つけたので小休憩でも取ろうかと提案しようとした時、菜月の視界に火が映った。


「火……明かり?」


 何故樹海の中に明かりの火が灯っているのか気になり、菜月は暗い森の闇を払うように燃える火に近づいて行く。魔法を放ったような気配はなく、また魔物が戦闘時に放ったものであれば周囲にも燃え広がっている筈だが、しかしこれは規則正しく置かれていた。非戦闘員のいる筈のない魔物が跋扈するような場所での明かりとなれば、これは通りかかった冒険者が設置した人工物、あるいは――


「魔物の集落――ッ!」


 そう、確信した時だった。


「だ、誰か、誰かっ! た、助けてぇ、助けて下さいぃ!」


 目の前に広がる集落から、悲鳴が響いてきた。

 迫りくる絶望を前に、切羽詰まった恐怖の声。助けを求める叫びはなおも続いている。


「拙いっ」


 口に出した時には、菜月は既に走り出していた。

 魔物の集落に何の策も無く突撃するのは危険すぎるのだが、人命が掛かっているのなら躊躇している場合ではない。緋色の杖を握り締め、戦闘態勢として魔力を循環させつつ、魔法式を組み上げ始める。

 一番手前に設置された火の近くまで跳び出ると、鬱蒼とした木々に阻まれて暗く塞がれ気味だった視界は一気に広がった。いきなり明るくなって追い付かなくなった眼を思わず瞑ってしまうが、すぐに開けて周囲の状況を読み取ろうと眼球を動かす。


「くそっ、やっぱりレギオンモンキーの集落か……っ!」


 集落の中央、広場のような場所。特別大きな火を囲んで何やら食事でも取ろうとしている猿達の姿を視界に捉え、舌打ち混じりに菜月は吐き捨てる。そしてそのレギオンモンキーに囲まれた火の近くに、縄に体を拘束されて悲鳴を上げる赤茶色髪の少年の姿が目に入った。


「今助けるっ!」


 少年に助けに来たと伝える為に叫ぶと同時、菜月は【水槍法式ウォータースピア】を通常より槍の本数を多くする為に、欲しい数だけ重ねて同じ魔法を発動させた。多重詠唱は増やした数だけ魔力を多く消費するし、魔法の発動も遅延するが、第一位階の魔法では通常とそれほど変わらないので問題無い。何より『千重詠唱サウザンドキャスト』スキルがある菜月にはこの程度は簡単である。

 ズシャァッ! と高圧洗浄機の水の如く勢いで水飛沫を立てて放射された合計七本の水槍は、菜月の照準の通り火と少年を囲むレギオンモンキー達の体を撃ち抜いてゆく。風穴を空けられ、血を大量に撒き散らして倒れる猿は五体。二体には躱されてしまったが、とっさに狙ったにしては良い攻撃だったと言っても良いだろう。

 しかしそこで喜んではいられない。すぐに菜月は次の魔法を発動する準備を始める。

 その間に菜月の横をすり抜けて行った憂莉が双剣を抜き放ち、菜月を狙うレギオンモンキー達の首を次々と斬り落としていく。まるで踊るように、可憐で美しく、誰の目も引きつける剣舞で命を刈り取っていく彼女の姿は、危ないまでの魅力を秘めた美麗な死神だった。

 だがいかんせんここは彼らの集落だ。憂莉が右剣の一振りで三体の猿を殺しても、左剣を振る頃には五体増えている。

 ちまちま殺しても埒が明かないと判断した菜月は、インベントリーから魔道書を取り出した後、構築途中の魔法式を中断してすぐに別の魔法を選択した。記されている魔法式を読み解き、組み上げると同時に膨大な魔力を練り上げ、緋色の杖の先端に填め込まれた紅玉ルビーの宝石に集めてゆく。その魔力量は、相手が人間ではなく手加減する必要が無い為に【炎獄災禍法式インフェルノ】の時よりも多いだろう。


「憂莉、捕まってる少年を連れて戻ってくれっ!」


 魔法の準備が完了し、すぐに発動出来る状態まできた菜月は、火の近くで横たわる少年の救出を憂莉に指示した。

 最初の魔法で彼の近くに居たレギオンモンキー達の殆ど斃していたお陰で、憂莉は誰にも邪魔されず少年を抱えて菜月の横まで戻ってくる。そして救出完了と判断するなりすぐに手を放して少年を下ろした。というより、落したに近いが。

 地面に顔面から突っ込み鈍い呻き声を上げる少年を一瞥し、無事だという事を確認できた菜月は、一度安堵の溜息を零した後に緋色の杖を強く握り直した。

 そして餌に逃げられた事に気付いたレギオンモンキー達がこちらを見たところで――待機させていた魔法を、発動させる。


「【雷電暴嵐法式テンペスト】――ッ!」


 瞬間。

 神の怒りが、愚かな大軍猿達に降り注いだ。


「「「――、――ッ! ッッッ!!」」」


 音は全て荒れ狂う雷撃に封殺され、矮小な猿達の悲鳴は隣に居る同胞にさえ届かない。

 誰も彼もが暴虐の限りを尽くす稲妻に肉体を蹂躙されており、痛みと恐怖だけを感じる事しか許されない。

 小さな魔物の集落に雷撃という形で顕現された神の怒りによって、憐れなレギオンモンキー達は皮膚が焼かれ、筋肉を灼かれ、骨を砕かれ、神経を千切られ、臓器を潰され、脳を破裂させてゆく――。

 やがて。

 菜月を中心に半径百メートルほどの範囲内に居たレギオンモンキー達が魔石と幾つかの素材のみを残して消え失せると、樹海全体を一瞬で焦土に変えるが如き威力を秘めた雷電の嵐が去った。

 そして、幾秒、幾分かの時を経過したのち。その場に居るだけで意識を吹っ飛ばされるような轟音によって一時的に潰れていた聴覚が戻る。


「…………」


 だが菜月は誰からも声を掛けられる事無く、そして自分からも誰にも声をかけず、無言のまま緋色の杖を下ろした。続いて第四位階雷属性に属する広域殲滅魔法が記されていたページを閉じ、魔道書をインベントリーへと戻す。

 それからほぼ焦土と化した周辺をゆっくりと眺め、菜月は一つ頷いた。

 その様子を眺めていた憂莉は、あまりの菜月の圧倒的な力にうっとりとしながらも同じく頷き、そして言った。


「……次は加減を覚えましょうね、菜月先輩」


 しかし諭すような憂莉の声は、助けられたにも拘らず菜月の放った魔法を見て恐怖した赤茶色髪の少年の絶叫によって掻き消されてしまった。



 久々のチート感……が出ているのかが分からなくなってきた今日この頃です。

 因みに【雷電暴嵐法式テンペスト】は菜月が開いていた魔道書のページの通り、第四位階雷属性の広域殲滅魔法です。つまりは同じ位階の広域殲滅魔法である【炎獄災禍法式インフェルノ】でも同じレベルの殺戮が起こせるという訳ですね。そう考えると、菜月が手加減しなければエルド達は確実に死んでいたでしょうね……骨も残らずに。


 次回も読んで頂けると有り難いです。


 2016年12月23日:赤髪の少年の髪色を赤茶色に修正。間違えてました、すみません。

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