第二十七話 不本意な同行者
憂莉視線です。
主人公視線が三話しか続かなかった……だと……ッ! (一応、憂莉は第二主人公的立ち位置ですが)
がらがら、ゴトゴトと、四輪馬車が荒い土の上を走る。
碌に整備されていない、通行者達が踏み固めた事で出来た剥き出しの土の小道。それは雑草で埋め尽くされた見渡す限り緑のみの平原を走るよりはマシであるが、取り除かれていない石や魔物とでも戦ったのか凸凹とした土を車輪が踏むとその度に馬車が揺れ、技術不足でサスペンションが付いていない為に衝撃が直に体に伝わってくるので臀部がとても痛くなる。
長時間の馬車での移動は、予想以上に体に負担をかけるようだ。
日に当たり続けて色褪せたボロ布のカーテンを捲って外を見る菜月の横に座りながら、憂莉は視線を反対側の菜月の隣りに座る飛び入りの同行者に向けた。
肩をくすぐるラインで整えられた若草色の髪が、馬車の揺れに合わせてふわりと森の爽やかな緑の匂いを香らせる。慣れない馬車で疲れたのかとろんとした眠気眼の瞳色は、鮮やかなシアン。微妙に隠し切れていない――隠す気があるかは知らないが――尖った耳が時折見え隠れしていた。
体も小さく、まだ十二歳の幼い半妖精種の少女――シャルロッテ=エンフェイトだ。
シャルロッテは少ない体力が馬車旅で無くなってしまい、こっくりこっくりと舟を漕いでいる。当然だろう、途中で休憩を挿んだとはいえ、かれこれもう六時間近くも馬車に揺られているのだ。普段から乗り慣れていなければ、幼い少女が疲れない訳が無い。
その今にも眠りに落ちてしまいそうな少女の顔を眺めながら、憂莉はそっと溜息をついた。
(どうして、こうなったんでしょうか……)
計画――と言いながら、殆どそれらしいものを時間をかけて立てた覚えも無いが――通りであれば、今頃憂莉は、菜月と二人きりの馬車で愛を育んでいた筈だった。
それがいざ馬車の手配をして町を出てみれば、余計な半妖精種が混ざっているではないか。
そんな事、勿論憂莉が望んだ訳が無い。むしろ否定も否定、大否定である。正直、存在を抹消してでも彼女を此度の依頼に同行させるのは嫌だった。
何せ、自分以外の女がいれば、菜月の視線を独り占めする事が出来ないのだから。
何せ、自分以外の女がいれば、菜月の声が自分以外にも向けられる事になるのだから。
何せ、自分以外の女がいれば、菜月がその女に好意を寄せてしまうかもしれないのだから。
そんな事は、絶対に認められない。
――だが、彼女を強引に排除する事が、憂莉には出来なかった。
「……はぁ」
もう一度、今度は自分の気持ちをリセットする為に溜息を吐く。
何故シャルロッテの同行を許したのか。それは自分が一番良く分かっている。
ただ、気になったから。――それだけだ。
憂莉は三度目の溜息を吐きながら、目を閉じて、視界を眩しく照らす菜月がカーテンを開けた窓から差し込む陽光を黒く塗り潰す。
光を遮断し、意識を深く思考の海に沈ませ、憂莉はこれまでの経緯に想いを馳せた。
◆ ◆ ◆
今から半日ほど前の事である。
無事、レギオンモンキーの討伐依頼を受注した憂莉と菜月は、始めに足の用意に取り掛かった。
依頼の場所であるミアレラ樹海は、エミルフィアの北東にある。シフォリール王国領内だが馬車で三日ほどかかる距離なので、徒歩だと四日から五日はかかってしまう。スキルや魔法による肉体の強化を施せばその限りではないが、休み無しで肉体最大強化という最短時間の強行軍でも二日はかかる距離なので、ゆっくり平和なハネムーン……もとい、旅をしたいと思っていた憂莉は、迷い無く馬車での移動を提案した。
勿論それには菜月も賛成で、冒険者協会からの紹介もあり、すぐに馬車の手配が出来る商業ギルドに向かった。……別に菜月はハネムーン目的ではなく、ただ単に徒歩だと疲労が半端無い事になると分かっていたからと、馬車に一度乗ってみたいなーと思っていたからであるのだが、憂莉はその辺を自身に都合よく解釈している。簡単に言うと、「菜月先輩もわたしと二人きりの旅をしたかったんですね! じゃ、じゃあ、馬車の中であれこれごにょごにょ……」という感じである。完全に御者の存在が忘れられているが、最後まで気付いていない憂莉であった。
そして、馬車の手配自体はすぐに終わった。
金は女神から貰った分が、密かに町の外に出て魔物を狩る事で貯めていた憂莉の分を合わせなくても菜月の分だけでまだ金貨五枚分は残っていたので、出来るだけ安いものを吟味しながらもそこそこ信頼出来そうなものを選んだ。初めての馬車旅で御者に裏切られでもしたら金銭的にも体力的にも痛いどころか酷く落ち込む上にこれから馬車を利用するのがトラウマになるかもしれないので、ここは安くてもきちんとしたものを選んである。
馬車の手配は終了したが、馬車自体はすぐに出せるけれど一応チェックが必要なので、それまでに憂莉達も準備を整えておいてくれと商業ギルドの人に言われ、その待ち時間の間に二人は旅荷物の準備をする事にした。
女神からのプレゼントとして最初からインベントリーに入っていたミネラルウォーターやカ○リーメイトは半分消費してしまったものの残っているが、そちらは非常食だ。インベントリー内に保管しておけば時間が経過しないという事は食材などで実験して確認済みだが、短時間、更に少量で栄養が補給できるカ○リーメイトは非常に便利なので取っておく事にしている。半分消費してしまったのは、憂莉の方は密かに町の外に出ていた時に金の消費を避けたかった為に元々持っていた物を食べたからであるが、菜月の場合は地下書庫で本を読みながら小腹が空いた時に摘まんでいたからである。勿論、後悔した。貴重な故郷の食物でもあるのだから、余計に。
それはともかく、ミネラルウォーター数本だけでは心許無いと憂莉は最初は思ったが、菜月が第一位階水属性魔法【水製法式】で自由に幾らでも綺麗な水が出せる事に気付いたので、自分の分だけ予備の水筒を揃える事にして、あとは食糧の問題である。
ミアレラ樹海でレギオンモンキーの討伐に専念する数日は近くに村が在るのでそこで食事を摂るから良いとして、中央区で売っていた安いパンを馬車旅の行き帰り合わせて六日分購入し、それだけだと流石に足りないので肉や野菜類も購入した。因みに肉は、時間凍結で永久保存可能のインベントリーがあるので長く保存が出来るとか関係ないのに、干し肉を選択した。それは菜月が冒険者で旅をする時の食事として干し肉が一番合っていると主張したからである。憂莉も別に反論は無かったのですんなり干し肉に決まり、逆に菜月が「え、本当に良いの?」と不安になるという事もあったが、食糧調達自体はすぐに終わった。
次は、装備の準備である。
旅装備としては、冒険者や商人が町の外を移動する際に良く羽織る外套があるというので、それを焦げ茶色の物を二人お揃いで購入した。値段は銀貨六枚とそこそこ高価だったので素材はそれなりに良く、また内側にポケットがあったり短剣などのすぐに取り出せる武器を仕込めるように作られていたりと中々に便利だったので、憂莉は特に満足していた。菜月とお揃い、という事もかなり影響していたが。
また、目立つ制服はすぐに着替えるべきであった為、実は異世界ライフ二日目が始まって即行で衣類を整えていた。菜月は一日目の時点で購入してあったので憂莉の分だけだったが、二時間の奮闘の末に上質な素材のものを数着揃えた。この時、菜月の顔は既に死んでいた。女子の買い物が長くて飽きた、というやつである。憂莉としては、もう一時間悩んだ末に菜月にも数着選んで欲しかったのだが、流石に菜月の表情の死に具合と金銭的に諦めた。また今度、金が貯まった時には選んでもらおうと、固く心に決めて。
そして、一番重要となる戦闘装備は、エミルフィアに滞在していた八日の間にある程度揃えていたので、最終チェックのみである。
エミルフィアは『天霊樹の迷宮』を目的として冒険者が――恐らく大陸でも一番多く――集まる『前線都市』である為、最も活気ある中央区に並ぶ武具店に揃えられた品は、かなり質が良い。値が張るのは仕方ないとしても、『天霊樹の迷宮』で発見された魔道具や高レコードの魔物の素材で作られた武具など、他の町では中々手に入らない商品が辺り前のように並ぶので、ここ以外で装備を整える事は考えられなかった。
毎日色々な冒険者が通う為か品の流通が激しく、一点物で何日も同じ品を見かける事は殆ど無い。しかしそこへまた新たな品が入る為、何日か掛けて良い物が入るまで憂莉と菜月はじっくり待ったのだ。
まず防具だが、素早い戦闘を主とする憂莉としては重い金属性のものは邪魔にしかならない為、革製のチェストプレートを付ける事にした。素材は『天霊樹の迷宮』で出現する高レコードを持つ魔物のものでかなり丈夫なので、防御力に心配は無い。同じ魔物の素材で作ったブーツも履き、それだけで憂莉の防具は全てである。機動性を確保する為にどうしても重さを減らしたかったので防具が少ないのは仕方ないが、別に吸血鬼種は人間種より体の作りが丈夫なので、憂莉はそんなに心配していない。
そして菜月の防具は、憂莉と同様に革製のチェストプレートと革製のブーツだけで、その上に魔法使いっぽい黒いコートを羽織る格好だ。後方での魔法による戦闘を主とする魔道士は、防具は最低限で良いのである。
実は黒いコートは中央区の路地裏に在るとある店で発見した掘り出し物で、売りに出した人が強い魔道士だったのか『天霊樹の迷宮』などのダンジョンから持ち帰ったのかは分からないが、特殊な魔法付与が掛かっていた。
効果は、『被属性攻撃少量軽減』である。
つまりは、魔物が火を吹いたとしても、ある程度は無視出来るという事である。
限度はあるが、【炎球法式】程度の威力であれば、ちょっと暑いかな、程度にしか感じないだろう。勿論、コート以外の場所に当たれば魔法付与の恩恵など関係なく燃えてしまうが。
武器については、憂莉は一日目である程度揃えていたので、その後も手入れ用の道具を購入したり珍しい魔道具があったら試してみたりと、その程度で留めている。そもそも憂莉は『血器術』があれば武器はあまり必要なく、あくまでカモフラージュと血――と、その血に変換する魔力――の消費を軽減する為に使用しているだけなので、そこまで深く悩んでまで選んではいない。
菜月は菜月で魔法が武器の魔道士なので、敵に接近された際に已む無く使用する短剣程度しか用意する気は無かった。魔力は測定不能なほど多く、戦闘中に無くなる心配が殆ど無いのも理由の一つである。
しかし以前菜月がエミアリスに聞いた話では、魔道士の主武器は杖だそうだ。それがあれば魔法を使い易かったり魔力の消費効率が良かったりするらしく、中には魔法付与の効果で魔法の威力が上がる物もあるそうなので、時間があるうちに少しだけ露店を眺める事にしたのだが、思いの外杖が便利だという事に気づいた菜月がハイテンションのまま気に入った一本を購入していた。
これまでの準備でかなり金を使ってしまい、今回の依頼を失敗する訳にはいかなくなってしまった。
しかし冒険者とは元より失敗が高確率で死に繋がる危険を孕む職なので、依頼失敗などする気は毛頭無い。更にこの討伐依頼はミアレラ樹海の近隣の村の安全を確保するものである為、憂莉達の失敗は近隣の村の危険に繋がるのだ。憂莉は割とどうでも良いと思っているが、菜月はそうではないだろう。悲しむ菜月の顔など見たくないので、憂莉は此度の依頼に本気で臨むつもりだった。
――が、全ての準備が整い、馬車の準備が終わる予定の時間にもなったので、用意されている場所に向かおうとした時の事だった。
人通りの多い中央区の露店街。妖精種の少ないこの町では珍しい長い耳が良く目立っている半妖精種の少女が、憂莉と菜月を偶然にも見つけてしまい、そして声を掛けてきたのだ。
「あ……! な、ナツキさん、ユーリさん!」
ぱぁっと花を咲かせた笑顔で跳ねるようにシャルロッテは二人に向かって走って来る。
その瞬間に憂莉の顔から一切の表情が消え失せたところを菜月が見てしまい動きが凍り付いていたが、そんな事は気にせず、憂莉の頭の中ですぐさまこの目の前まで来た少女をどうやって処分しようかと考え始めていた。
そんな物騒な事を考えているとは露ほども知らないシャルロッテは、以前森で会った頃からの相変わらずのどもり具合であったが、明るい口調で話しかけてくる。
「お、お久し振りです! その、えっと、お、お元気だったでしょうか?」
「お、おう、久し振り、シャルちゃん。書庫に引き籠りっぱなしで腰が痛い時はあったけど、元気だったぞ」
「わたしは今しがた機嫌メーターが逆に振り切れましたので、有り余る元気を貴女の血飛沫で発散したいところなのですが、準備は宜しいでしょうか?」
「非常に物騒だなお前は!? もっと普通に挨拶出来ないの!? 平和な挨拶からしか良好な関係は築けないんだぞ!」
「コレと良好な関係を築く気は無いので、問題無いかと」
しれっといつもの調子で返す憂莉。
冷たい瞳を向けられるシャルロッテは非常に怯えた様子で、菜月は思わずといった調子で頭を抱えている。最近、この動作が彼の癖になってきている気がするなぁと余計な事を考えながら、今度は憂莉が話の口火を切る。
「それで、何の用でしょうか、シャルちゃん? これからわたし達はハネムーン……もとい、二人きりで馬車旅をするんです。どうでも良い話題でわたしと菜月先輩との大切な時間を消費したら、その耳、切り落としますよ?」
「本当にいちいち物騒だな、お前。……というか、一回ハネムーンって言ったよな。しかも目的変わってるぞオイ」
憂莉のシャルロッテへの態度を改めさせる事に諦め始めたのか、溜息を吐きつつツッコむ菜月の言葉には覇気が無い。
憂莉は敢えてそれを褒め言葉として受け取り、にっこりと笑うと、その表情から何か恐ろしいものを感じたのか、シャルロッテが更に恐怖で体を震わせる。脅えて口が上手く動かないのか、中々憂莉の質問に答えられないようだ。
しかし憂莉が早く答えろとばかりに目を細めて眼光を鋭くすると、一度びくんと体を震わせたシャルロッテは、恐る恐るといった調子で震える唇を動かす。その眼尻に涙が浮かんでいたが、その事に憂莉は塵ほどの罪悪感すら覚えていない。それでも、彼女はいたって平常運転なのである。
「え、えと……その。……め、迷惑なのは承知していますが、あの……わたしも、冒険者の仕事に、つ、連れて行ってくれませんか?」
――は? と。
ぽかんとした調子で漏らしたのは、憂莉だったか、菜月だったか。
一瞬、困惑でシャルロッテの言葉が理解出来なくなった憂莉だったが、何とか再開した思考で先程の言葉を反芻する。
「……つまり、わたし達のハネムーンに付いて来たいと?」
目的が変わっているが、ツッコミは入らなかった。別に狙ってもいないので憂莉は気にしていないが。
「はね、むーん……というのは分からないですけど、ええと、その……冒険者のお二人について行きたいんです」
駄目でしょうか? と訊いてくるシャルロッテ。その表情は不安げで、上目遣いの瞳は揺れている。
いつもだったらすぐに却下する憂莉だったが、今は困惑の方が勝っていたのか即座に拒否が出来ず、その間に菜月が口を開いた。
「んー、……まず、何でシャルちゃんは俺達に付いて来たいんだ? 今から俺達が取り掛かる依頼はレギオンモンキーの討伐で、正直自分の事で手一杯だから、シャルちゃんを守る余裕なんてないぞ?」
そもそも菜月は自分が生き残れるかも不安なのである。そんな所に幼い非力な少女を連れて行く事など、出来る訳が無い。
その事は分かっているのか、シャルロッテは少し俯いて言葉を考えるような素振りを見せる。そして幾秒かの後に顔を上げると、菜月の目を真っ直ぐ見て答えた。その目に菜月は、戸惑いながらも固く決めた彼女の意思が見えた気がした。
「わ、わたしも、つい最近ですが、一応冒険者協会に登録した冒険者の一人なんです。で、ですから、他の冒険者の仕事に付いて行って、どのように立ち回るのか、どのように戦うのかなど、直接見て体験したいんです。い、今まではわたしには冒険者の知り合いなんていなかったので出来ませんでしたが……で、でも、お二人なら話した事があるので、な、何とか頼めない……かと……思って……」
言葉尻になるにつれて声が小さくなりハッキリしなくなっていたが、言いたい事は何とか分かった菜月は、わしゃわしゃと茶髪を無造作に掻きながら唸る。
「……うーん。俺達もまだ冒険者になったばっかりの素人なんだが……」
「そ、それでも良いんです! な、ナツキさんは魔法が使えますし、その……お、お、お強いですから!」
そう言うシャルロッテの頬が少し赤くなっていたのを憂莉は見逃さなかった。
(ぐ……邪魔な虫が、余計に邪魔になってる……ッ)
シャルロッテが自覚しているかは定かではないが、彼女が菜月に好意を抱き始めているのは憂莉の思い違いではないだろう。そもそも獣に襲われかけたところを助けてもらうという出会い方からしてシャルロッテにとっては運命的な出会い方だったのだから、落ちるのも当然だろうか。まだ幼く恋に憧れる年頃なのだから、余計に。
菜月が同行を認めるかはさて置き、このままシャルロッテを連れて行くのは駄目だと判断した憂莉は、彼女の頼みをバッサリ切り捨てようと口を開きかけたが――間が悪く、先んじてシャルロッテが言葉を放った。
「そ、それに、わたしも少しは精霊術で戦えますので、自分の身は自分で守ります! だ、だから、わたしの事は気にせず、お二人がどのように依頼をこなすのかを見せて頂ければ――」
「ちょっと待って下さい」
そこまで言ったシャルロッテの言葉を遮ったのは、憂莉だった。
いつになく真剣な顔をして憂莉はシャルロッテに詰め寄り、その目をじっと覗き込む。ラズベリーからいつの間にか変色させて真紅になった憂莉の瞳とシャルロッテの青緑色の瞳が重なり、暫く静寂が流れた。
そして、ふっと一度眼を開閉して瞳の色を元の赤紫色に戻すと、憂莉は質問を口にする。
「シャルちゃん。貴女――精霊魔術が使えるんですか? それに、その『血』……いえ、魂? どこか、見覚えが……」
後半はシャルロッテに対する質問というよりは、疑問を口にして思考するような形だったが、訊かれたシャルロッテは頭上に疑問符を浮かべながらも、何とか一つ一つ答えを返す。
「えと、わたしが使えるのは精霊術ですが……その、そう言えばお祖母様は精霊魔術と言っていたような……い、いえ、多分ですけど。あ、あと、魂はちょっと分かんないですけど……血は、エンフェイトの血でしょうか……? 確か、れ、レンリ地方ではそこそこ知られているってかあ様は言ってましたけど……」
憂莉の質問に良く分からない事が多く、眉を寄せて言うシャルロッテ。
その答えに、憂莉は暫くの間一人で黙って思考に耽った。菜月がどうかしたのかと聞いてきたようだが、普段であればすぐに微笑んで返事をするそれに、今だけは生返事しか出来ない。それほど、憂莉にとってシャルロッテの答えは衝撃的だったのだ。
ややあって、憂莉は独りでに続けていた思考を区切ると、不安そうな顔つきのシャルロッテに対し、いつもの憂莉からは考えられない答えを返した。
「――分かりました。良いでしょう、わたしは貴女の同行を認めます」
「「……え」」
本人だけでなく、菜月までもが驚いていた。
それはそうだ。憂莉が菜月と二人きりになる事を望んだハネムーン……ではなく、馬車旅で、態々他人を同行させるなど、天地が翻ってもあり得ないのだと二人とも憂莉との会話で知っていたのだから。
それを覆し、憂莉が肯定を示した。
「……槍が降るか、隕石が落ちるか」
とんでも無く失礼な事を言っている気がするが、憂莉は菜月の言葉を笑って受け流す。憂莉は菜月に対しては天よりも果てしなく寛容なので。……憂莉だけを愛してくれるのなら、という条件付きではあるが。
とにもかくにも、こうして二人の初めての馬車旅に、シャルロッテの同行が決まったのだった。
シャルちゃん が なかま に なった!
次回も読んで頂けると有り難いです。




