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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第一章 始まりの異世界ライフ//第零階層世界編
3/84

第一話  さあ、異世界ですよ先輩

 更新は不定期です。すみません。

 あと、誠に勝手ながら憂莉の髪型をサイドテールからツインテールに変更させて頂きました。サイドテールが好きだった方、本当にごめんなさい。

 それでは、異世界へどーぞ。



 ――そして二度目に東雲しののめ菜月なつきが目を覚ました時、目の前に広がっていたのはイカレ女神が居たただ白一色だけの空間ではなく、世界を照らす三つの太陽が浮かぶ蒼穹だった。

 肌に当たる感触は少しくすぐったい。心が洗われるような緑の香りから、肌を撫でるこの感触は草だろう。合わせて香る土臭さからも菜月が仰向けに寝ているここが草原だと結論付けられる。


(……草原?)


 日本の八重里という街に住んでいた菜月の近所に気持ちのいい緑の香りが風に吹かれる草原など無い。大体が自動車やバイクなどのガスが混じり、芝生も薬が撒かれ健康に良いとは言い難いものだ。ということは、少なくともここは菜月の知る場所ではないだろう。

 ――というかそもそも、太陽が複数ある時点で確実に菜月の生まれ過ごした世界ではない。複数の太陽って、地動説どーした? 公転する時どう回んだよ。衝突すんじゃねえの?


「……つか、三つ?」


 まず言わせてもらおう。

 太陽は一つで十分だ、と。

 異世界ものあるあるで太陽が二つあったりもするが、別段そんなのなくても太陽は優秀だから一つあれば全然役目は果たせている。そもそも、二つあったら地球は温暖化なんてどころの話じゃない。生き物が過ごせるかも怪しいだろう。

 それが三つ? よし決めた、俺ちょっと眼科行ってきます。


「ですね。ちょっと変わってますよね」


 と、菜月が本気で医者に相談する時の言葉を考え始めた辺りで、横から少女の声で返答が返ってきた。

 もうそろそろ確かめる必要も無くなってきた気がするが、当然のごとくその声の主は一条いちじょう憂莉ゆうりである。

 菜月はもう驚く気も確かめる気も薄くなっていたが、体を起こし視線を声の方へ向けた。同時に置き上がり視線が合ったのはやはり憂莉である。

 憂莉は草がついてしまった髪や背中を払いながら、視線を空へ向けていた。つられて菜月も見上げ、不覚にも上げた先で直接太陽を見てしまい「目が、目があああ!」と、どこぞの天空の城でいかづちをぶっ放して高笑いしたことで有名な大佐風に唸る羽目になる。

 しばらく目を閉じ深呼吸を繰り返した後、心配そうに菜月を見つめている憂莉に大丈夫だと言うと、今度は右手を眉の辺りに翳して直視しないように気を付けながら空を見上げた。


「……ちょっとどころかかなり変わっているが……三つ、か。異世界の太陽って二つじゃなかったんだな」


 しみじみと呟く菜月。そこでやっと自分が本当に異世界に転生したのだと悟った。


(あの女神、一応本物だったんだな……)


 それを口に出さないのはどこかに別の場所――というか次元?――に居るであろうあの女神に何らかの方法で聞かれるかもしれないというものよりも、憂莉に訊かれてナイフを取り出されても困ると思ったからである。女神と会話した真っ白な世界で憂莉が双短剣を取り出した時の事を思い出し、菜月は僅かに身震いした。


「確かに異世界ものでは複数太陽があることってありますよね。実際に体験すると、あまり元の世界と変わらない気がしますけど」


「変わっても大変だがな。空見る度に『目があああ!』は勘弁だ」


 さっきはそうでなくてもやってたけど、と内心で付け足す。すると憂莉は口元に手を当てくすりと笑った。その様子に思わず見とれてしまうが、視線が合う瞬間雷光の速さで目を逸らす。


(分かってたけど、やっぱこいつ滅茶苦茶可愛いよな……)


 何もない所からナイフを取り出して斬りかかろうとしたり、一緒に死んでくれと言ったりしなければ、女子との接触経験の少ない菜月は平常に接していることはできなかったと思う。緊張して会話が出来ないとか恐れ多くて直視できないとかそういう事ではなく、ただ単に会話内容が浮かばないとかどういう反応を返せばいいか分からない、とかいう事である。その点、この少女の知らなかった……訂正、知りたくもなかった性格のお陰できちんと会話が出来てはいた。『成立していた』かは別として。


(まあ、こんな性格じゃなければ今頃こんな所にいなかっただろうけどな)


 菜月は苦笑いを浮かべる。脳裏に再生されるのはあの放課後の屋上の事だ。いきなりの告白に気を動転させずにすんなり断るとか即行逃げ出すとかしておけばこんな事にはならなかったかもしれないが、もしこの世界で生きていくのもいいと思えたのなら、あの出来事にも少しは感謝できるかもしれない。

 ……いや、その前に告白を断っていたとしても、憂莉はどこからかナイフを取り出し菜月を殺しにかかって来ていたかもしれないし、逃げ出しても投擲されたナイフを躱す自信は正直微妙だ。やれないことも無いかもしれないが、絶対やりたくない。結局のところ、菜月は憂莉に殺されていたのだろうと背筋が冷える思いをする。


「……と、そういやここ、どこなんだ?」


 過去の回想をするのは一旦止め、菜月はまず目先の状況を整理しようと思考を切り替える。

 ここが異世界なのはもう間違いない、でいいだろう。太陽が突然変異で三つになりました、とガチボイスで各国の首脳が世界中に表明してくれるなら地球かもしれないと検討してもいいが、無理だろう。まず、この場にテレビもラジオもないから聞きようがないし。


(あ、スマホとか持ってねぇのかな)


 ふと思い立ち、菜月はズボンのポケットに手を突っ込みを探る。しかしポケットには今朝突っ込んだ紺色のハンカチとポケットティッシュ一つしかなく、スマホはおろか財布すら携帯していなかった。

 菜月が軽く絶望の表情を浮かべると、その行動から悟ったのか憂莉も自分のポケットを探る。だが案の定というべきかスマホは見つからず、菜月同様ハンカチやティッシュ、予備のリボンやヘアゴムといったまずこの状況で役に立ちそうなものは全くなかった。いや、使いようによっては役に立つのかもしれないが、異世界に飛ばされて――転生してからまだ数分、場所も分からずこの世界の文明もよく分かっていないこの状況下で、鼻をかむとか髪を纏めるとかが正しい使い方のアイテムを使ってエジソンもビックリの偉業を為す程菜月の思考回路は突飛ではない。いや、偉業というほどの事をしなくてもいいのだが、とりあえず、


「人里は見つけないと、な」


 そう、まずはそれが先決であった。何をするにも情報は必要だし、それを得るためにも人がいるところに行く必要がある。


「そうですね。そうすれば情報収集できますし、……ホテルとかあるかもしれませんし」


 最後のはスルー。いつまでもここに留まっているわけにもいかないので、菜月は立ち上がり手始めに高い視線から辺りを見回す。

 視界いっぱいに広がるのは、マイナスイオン溢れる木々。風に揺れさわさわと音を鳴らす緑葉は三つ並びの太陽からたっぷりと陽光を受け、時折零れれば背の低い草や花に恩恵を分け与えている。

 視線を右回りに回していく。だが、そこは正面と変わらず木々が生い茂る森となっており、どうやら二人が寝ていた場所が円形にくり抜かれたように木々が無かっただけのようだ。街道――というより獣道けものみちのような草の薄い土が表に出ているものはあったが、そのどちらに進めば人に接触できるのか流石に分からない。看板でもあればなぁ、と残念そうに呟くが、無いものは仕方がない。


「……くそう。異世界もの定番パターンだと、このあとどうやって人里に下りるんだっけ?」


「作品にもよりますが、大体適当に歩いてヒロインと遭遇しますよね。先輩の場合はもう詰んでますが」


 それは「私がヒロインです」ということだろうか、それとも「女と出会ったら殺すので詰んでる」ということなのだろうか。……まだ前者の方が良いな、うん。


「いや、待て。異世界もの定番と言ったら、まずスキル確認だ――あ、言語以外貰って無いんだ」


 自分で思いついて自分で完結。何の解決にもならない上に滅茶苦茶泣きたい気分になる。唯一貰った言語の方も、未だ同郷と日本語でしか会話してないから実感無いし。


「……つか、そもそもスキル確認ってどうやるんだろ」


 ステータスウィンドウが自動で出てくれればいいのになーと特に期待せずに思っていた菜月。だがピロリンというどこか聞き覚えのある交換音が響くと、菜月の目の前に透明な横長の長方形の空間映像ホログラフが浮かび上がった。

 ――それは、あの真っ白な空間で女神がタブレットのように操作していた、ウィンドウである。


「うおっ!? なんだなんだついに俺にも新の力が目覚め、」


「ウィンドウですね。女神が使ってたやつです。これがあればスキルの確認も……って、どうしたんですか、先輩?」


「……うん、何でもない……何でもないし……」


 ファンタジー系らしい現象にちょっとテンションがハイになっていた言葉をぶった切られ、菜月はしゅんと肩を落とす。……別にいいじゃん夢見てたんだし、こういうの、という誰に向けて言っているのか不明な愚痴は、心の中だけに押しとどめておいた。


「うん……うん、よし! 気を取り直して、と」


 無理やり口に出して地まで落ちた気分を三秒ルールで拾い上げると、菜月は嬉々としてウィンドウに目を向けた。そしてステータス、インベントリーの二つの項目から迷わずステータスをタップする。ピロン、と軽い電子音が鳴り、ウィンドウが少し大きいものに切り替わった。

 そこに映っていたのは、自分の名前、種族、性別、年齢、レコード、基礎体力値、基礎筋力値、基礎魔力値、そして最後に所有スキルだった。

 レコードが何のことかは分からないが、基礎体力は恐らくHP的なものに関係し、基礎筋力が攻撃力で基礎魔力はそのままの意味だろう。……それで正しいのか、確かめるすべは無いのだが。


「うおぉ……すげえ、ゲームみたいなウィンドウだな。ちょっと能力値の項目が少ないけど」


「先輩はどんなステータスになっていますか?」


 横から、同じくウィンドウを呼びだした憂莉が菜月のウィンドウを覗いてくる。別に隠すつもりもなかったし、基準もよく分からないので二人で見進めることにする。

 ――が、記されていた内容に、菜月の頬が盛大に引き攣った。


◆―……―◆

 氏名    東雲 菜月

 種族    人間種(ヒューマ)/天魔種

 性別    男

 年齢    十八歳

 レコード  0000pt (評価E)

 基礎体力値 9288pt

 基礎筋力値 7631pt

 基礎魔力値 ///(コード・)XXXX(インフィニティ)pt


 スキル   『???(条件封印中)』『永劫魔力』『天魔術』『魔法制作』『魔法解除(ディスペル)』『無詠唱』『千重詠唱サウザンドキャスト』『魅了C』『魔法・全EX』『阻害(デバフ)系無効』『対魔力A』『魔力回復S+』『ラグナスヘイム語』『女神の祝福』『女神の嫌み』

◆―……―◆


「…………」


「…………これは、また」


「…………」


 とりあえず、いくつかツッコませてもらおう。

 では、最初から順番に。


人間種(ヒューマ)/天魔種ってなんだそりゃ!? 天魔種ってなに!? つか俺人間じゃないんかいッ!!」


「わたしは先輩が獣人オオカミでも亜人(オーガやオーク)でも()に受け入れられますよ? さあさあわたしを思う存分強引に痛めつけて貪り尽くして下さいっ!」


「やんねーよッ!! なんでお前はそっち系に走るんだよッ!?」


 というか別に強引にしたいわけじゃねえし! と弁明しようとする菜月の言葉に耳を傾けることも無く憂莉は眼尻をうっとりと垂らして自分の世界に浸っていた。「ああん、強引ですぅ」とか「んぅ、せんぱぁいっ」とか妙に色っぽい声が憂莉の口から洩れており、その外見の可憐さに潜む艶やかさや表情が相まってかなりまずい事になっている。菜月はその声で自分の事を呼ばれ、ぞっとし思わず後退あとすさってしまった。


「き、気を取り直して二つ目!」


 無理やり状況を両断し、菜月は引き攣った笑みでステータスウィンドウの基礎魔力値の項目を指さした。


///(コード・)XXXX(インフィニティ)ってなんだそりゃ!? 基礎体力値と基礎筋力値は基準が分からないから何とも言えないけど、確実にこれはおかしいから!」


 半ギレ気味で叫ぶと、ようやく自分の世界から帰って来た憂莉が――顔を赤らめさせたままだが――菜月のウィンドウを覗きこみ、先程までの甘ったるい声ではなく普通の声で言う。普通といっても、鈴の音ように澄んでいて、聞く者を落ち着かせるような心地よい声なのだが。


「そうですね。普通は数字が出るはずですしね。事実、基礎体力値と基礎筋力値は出てますし」


 9288ptと7631ptが具体的にどのくらいのものなのかは想像がつかないが、Xで表記するのは流石におかしいだろう。これがゲームだったら「バグった!? 運営顔出せ!!」と怒りのメールを送り付けるところだが、生憎あいにく運営的役割であろう女神と連絡する手段はない。もしそのうち連絡が取れる方法があったら、たとえ時空を超えてでも菜月は一発あの女神を殴り飛ばすだろう。何でちゃんと説明しないで転生させてんだよっ! と。


「これだと高いのか低いのかわかんねぇじゃん。最悪、ゼロってことも視野に入れなきゃいけねぇし……」


「うーん、それは大丈夫なんじゃないですか?」


 肩を落とす菜月に、憂莉は少し悩みながらも続ける。


XXXX(インフィニティ)……無限(infinity)、ってことですよね。もしかしたら、スキルの方にある『永劫魔力』と関係あるのかもしれませんし」


 というか、確実に関係あると思いますけど、と付け足す憂莉の言葉に菜月は気を取り戻すと、また次の問題点を提示する。


「『???(条件封印中)』……謎だ」


「条件で封印されているって事は、何かしら達成すれば解除されるって事でしょうか」


「そうなのかなぁ……分からん」


 謎過ぎてどうにもならない。これは放っておき、次の問題に取り掛かる事にする。


「じゃあ次は、『魔法・全EX』だな。エクストラってどうしたし」


「多分そのままの意味だと思いますよ? 規定外エクストラ、と」


「わーお、これチートだわチートだよ女神いらねぇじゃん」


 言語以外のスキルを与えてくれなかった使えない女神を思い出し、菜月は呆れて溜息をつきながら次の問題点へウィンドウに視線をよこす。次に止まったのは、『女神の祝福』と『女神の嫌み』であった。


「いやさぁ……祝福は分かるよ? でも、嫌みってなんだ嫌みって。恨みでもあんのかアイツ」


「チッ、なんで先輩のスキルにあの女神クソビッチのものが入ってるんですか。……死にたいんでしょうか?」


「怖い怖い。とりあえずナイフをしまってくれ……」


 次元の壁なんぞ関係なく刃が届かせられそうな気がして、菜月は引き攣った笑みで一歩後ろに下がった。するとそれに気づいた憂莉が何で離れるのかと距離を詰めてくる。結果的に先程よりも近くなってしまい、余計に緊張する羽目になる菜月であった。



 チート度は高すぎるとまずいと思うんですよ。

 ちなみに自分的には『永劫魔力』がヤバいと思うんですが、どうでしょうか。

 次回も読んで頂けると有り難いです。


◆ 2017年 7月31日:ステータス及びスキル表記を変更

Before

『氏名    東雲 菜月

 種族    人間種≒天魔種

 性別    男

 年齢    十八歳

 レコード  0000pt

 基礎体力値 9288pt

 基礎筋力値 7631pt

 基礎魔力値 ///(コード・)XXXX(インフィニティ)pt


 スキル   「全属性魔法/Lv:Over」「精霊術/Lv:MAX」「天魔術」「魔力超回復」「阻害デバフ系無効」「魔法解除ディスペル」「無詠唱」「魔法制作」「千重詠唱サウザンドキャスト」「永劫魔力」「ラグナスヘイム語」「女神の祝福」「女神の嫌み」』


After

◆―……―◆

 氏名    東雲 菜月

 種族    人間種(ヒューマ)/天魔種

 性別    男

 年齢    十八歳

 レコード  0000pt (評価E)

 基礎体力値 9288pt

 基礎筋力値 7631pt

 基礎魔力値 ///(コード・)XXXX(インフィニティ)pt


 スキル   『???(条件封印中)』『永劫魔力』『天魔術』『魔法制作』『魔法解除(ディスペル)』『無詠唱』『千重詠唱サウザンドキャスト』『魅了C』『魔法・全EX』『阻害(デバフ)系無効』『対魔力A』『魔力回復S+』『ラグナスヘイム語』『女神の祝福』『女神の嫌み』

◆―……―◆

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