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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第一章 始まりの異世界ライフ//第零階層世界編
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第十八話 呼び出し

 少々更新が遅れました。すみません。

「――だぁー、疲れた……」


 読み終えた古びた辞書のように厚い魔道書を閉じ、菜月なつき背凭せもたれ代わりの書物の山に体重を預けた。

 魔道士ウィザードギルドの地下書庫に籠り始めてから何時間経っただろうか。概ね元の世界と同じように動く三つ子太陽を窓から眺める事が出来なければ、更に時計も置かれていないこの部屋では、やることが読書しか無いことも重なって、時間の感覚が酷く曖昧になる。

 一冊の平均が五百ページを超える魔道書は今日だけで三冊読み、そこに記載されていた魔法の大体を記憶した。歴史書は軽く流し読む程度に留め、文学書や算術の教科書のようなものも重要部分だけを抜粋して頭に入れた。今日取れる時間が少ない為に重要部分だけにしたが、いずれ必要になる知識だろうから、また時間が長く取れる機会に読み込む事に決めた。

 そうして一心不乱に本を漁った訳で、慣れない仕事をした菜月は肩が凝り、その肩を軽く揉んでほぐしながら更に疲れた目を細めてそっと溜息を吐く。


「はあぁ……ったく、こんだけの量を一週間で読み切るのは、魔力で肉体と身体能力を強化しても無理だっつーの」


 まだ一日目だが、既に諦めの色を滲ませながら愚痴る。

 実際、肉体強化と身体能力強化によって通常時より読むスピードと理解速度は上がったが、それに比例して疲労度の溜まり方が凄まじい。部屋が地下の為かあまり明るくないここでは、更に目の疲れ具合にも歯車が掛かり、拷問でも味わっているかのようだと途中何度もぼやいたものである。

 一度中断すると続ける気を一気に失ってしまい、菜月は新たな本の表紙はめくらず、積んだ山に戻して立ち上がった。軽く伸びをし、こきこきと首を鳴らしてから疲れた眼で部屋を見渡す。

 相変わらずの広い空間を埋め尽くす書棚と、余す事なく並べられた書物達。菜月が一度ぐるりと回って所々から抜き出した為に今は幾つか空白が見られるが、それでも全体から見れば一割にも一厘にも満たない。ここに連れてこられて一番にエミアリスから「一週間もあれば読み終わると思うから」等と言われたのだが、どう考えても不可能だろう。泊まり込みでも厳しいだろうし、並行して生活費を稼ぐとしたら、日中は冒険者協会の依頼等を受けて狩りに出なければならないので、疲労で余計に身が入らない事は容易に想像できる。

 しかし、ここの書物から得る情報には非常に有用なものが沢山あった。

 魔道書から得る新たな魔法の知識は勿論の事、歴史書から知る国の特色や背景等を知る事で国ごとで良い立ち回りをする事が可能になり、また魔物の生態が乗る本では有効な戦い方や危険な個所等を知る事が出来た。種族ごとの特色や古いダンジョンの事等もあったが、一番興味深かったのは、星界の事についてだろうか。まだ理解出来ない点が多かったが、しかし異世界の事を知っていく時間は非常に楽しかった。

 知識は矛であり身を守る盾だ。足りなくて大変な思いをする事はあっても、多くて困ることは無い。しばらくの間はこの地下書庫に通って知識を得る事に専念しようと菜月は決めた。


「……大分時間経ったし、そろそろ宿を探さないとまずいかな」


 腹も減ってきたし、と付け足しながら、菜月は山積みにしていた本達を元の場所に戻す作業を開始する。かなりの量を取り出した為に戻すのには時間が掛かったが、しかし本は種類ごとに本棚で纏められていたので、お陰でどこに何の種類が置いてあるのかを大体把握する事が出来た。次に本を選ぶ時の参考にしようと決め、菜月は最後の本を本棚に戻し終えると、不意に地下書庫の扉が開いた。

 確認の為に菜月が扉へ視線を向けると、彼の予想通り、そこにはエミアリスが居た。

 エミアリスは出入り口から少し離れた本棚の前に居る菜月を見付けると、相変わらずの無表情で声を掛けて来た。


「お疲れ様、ナツキ。もうそろそろ十九の刻になるけど、ここに泊まる?」


「遠慮しておく。このままここに籠って本に埋もれてたら、発狂しちまいそうだよ」


 疲労を滲ませた視線をエミアリスに向けると、彼女は「そう」と少し残念そうに言った。やはり表情の変化は乏しいが、どこか寂しそうに感じたのは気のせいだろうか。

 しかし十九の刻――元居た世界の感覚で概ね十九時になったのなら、早くここを出て宿を探さねば、今夜眠る場所が確保出来なくなってしまう。


「んじゃ、俺はそろそろ去るよ。また明日来る予定だから宜しくな」


 そう告げて部屋から立ち去ろうとした菜月を、エミアリスが「待って」と引き止めた。

 何事かと思って振り向けば、エミアリスは書庫に置いてあったものではない一冊の魔道書を菜月に差し出していた。


「これ、あげる。あなたなら、有効に使えると思うから」


「これって……魔道書だよな?」


 受けとり、ページをぱらぱらと捲ったが、特に不思議な点は見当たらない、普通の魔道書だ。標準より太めで後半はほとんど空白のページだったが、特筆すべき点は無い。

 しかしエミアリスは首を横に振り、目次を良く読んでと言う。言われた通りに菜月は目次の欄をじっくりと読むと――この魔道書が他の魔道書と違う点を一つ見つけた。


「もしかして、これ……自分で作った魔法を記録するのか?」


 菜月が気付いた内容を口にすると、エミアリスは肯定するように頷いた。


「正確には、一度発動した新たな魔法を、自動で魔法式、魔法陣、呪文として記録してくれる。便利だけど、その効果は魔道書を手に持っている時しか出ないから注意して」


「なるほど。……でも、どうしてこれを俺に?」


 そんな効果が付属している魔道書は、この地下書庫に一冊も無かった。つまりその魔道書が珍しい物なのだろうという事は想像に難くない。

 そのような物を、何故ギルドに入ったばかりの新米魔道士ウィザードに渡すのか、菜月には分からなかった。

 だが菜月の疑問に対し、エミアリスははっきりとした声で以って答えた。


「あなたは、『魔法制作』のスキルがあったはず。なら、この魔道書を有用に役立たせる事が出来るでしょ? 『魔法制作』スキルが無い普通の魔道士ウィザードは何年も研究を重ねて、まず魔法式からじっくり作り上げていくものだから、発動を前提に記録するこれは酷く扱い辛いの。だから、有用に使えるあなたが持つべき」


『魔法制作』は、直観とその場のひらめきで魔法を思い描き、自分のオリジナルの魔法を作り上げるスキルだ。そこに長い年月を消費するような研究は殆ど存在せず、大体はその場限りの魔法を作るのだ。だから記録する者が少ないのだが、そこを補うための便利道具がこの自動魔法保存機能が付いたこの魔道書。

 現在『魔法制作』スキルを持つ魔道士ウィザードは少ない。加えて言えば、魔道士ウィザードギルドエミルフィア支部にそのスキルを持つ者はいないのだ。だから、菜月がその魔道書を貰う事を躊躇う必要は無かった。


「確かにこれは珍しくて、購入するには値が張るけれど、それでも道具は使われる事に意味がある。この魔道書が埃を被って部屋の片隅に忘れられるより、あなたが使った方がこの魔道書の為にもなる」


 そこまで言われてしまえば、もう言い返す言葉は菜月には無かった。

 素直に「ありがとう、大切に使う」と言い、自分の物となった自動魔法保存機能付き魔道書の感触を確かめながら地下書庫から立ち去り、今度こそ魔道士ウィザードギルドのボロ屋から出てきた時には、既に空は真っ黒だった。

 元居た世界とは全く違う並びをした星がまたたき、天を貫く程に伸びた『天霊樹』がひらひらゆらゆらと黄金色の葉を風に揺らしている。前の世界の都会のようなギラギラとしたネオンライトの街並みとは違って明る過ぎないこの町では、光の弱い五等星でも肉眼で捉える事が出来る為、沢山の星々を視界一杯に映し出せ、更にその幻想的な雰囲気を加速させていた。


「やっべー。早く宿取らないと……いや、その前にまず憂莉と連絡取らないとまずいか」


 とは言ったものの、特に合流場所を決めていなかった為、周囲に視線を巡らせながらぶらぶらと歩くだけだ。そんな方法では効率は果てしなく悪い。次回はきちんと合流場所を決めておこうと心に決め、菜月はエミルフィアの東側でも人が多く集まる露店通りを進む。

 途中、通常の五倍の荷物を収納できる魔道具のバッグだとか、魔法が使えない人でも魔石セットするだけで第一位階の魔法が放てる杖など、興味が惹かれる物を多く見かけたが、しかしよくよく考えればどれも菜月には必要無い物であった。魔法は自力で使えるし、インベントリーがあるので超収納バッグはむしろ余計な荷物になる。軽く考えれば便利だなーくらいだが、真剣に考えればチートであった。やはり、女神の恩恵はどんなものでも、例えあの阿呆さ加減半端ない女神ばかが与えたものでも、性能はチートなのだ。


「お、そこの茶髪のにーちゃん」


 と、菜月がアホ女神の事を考えながら歩いていると、丁度通り過ぎようとした露店の商人に声を掛けられた。

 聞き覚えのない声なので知り合いではないだろうが、無視する理由は無い。菜月は足を止めて振り向くと、そこには商品を並べる持ち運びの茶色のカーベットの上に、短剣や小さな魔石を飾りもせず決して見栄えが良いとは思えない風にただ並べただけの商品を前にして、しわの寄った気前の良い笑顔を浮かべる男性が腰掛けに座っていた。

 年の程は四十歳前後だろうが、痛んだぼろい服装や手入れの殆どされていないくすんだ髪色から、余計に老けて見えた。どうにも儲かっていない様子なのだが、彼の笑顔は長年の商人人生で培ったものなのだろう、どんな状況でも顔色を変えない鉄壁の笑顔が自然体のように張り付いている。


「俺ですか?」


 菜月が訊くと、商人の男性はがはははと欠けた歯を覗かせて笑い、


「そうだ、にーちゃんの事だよ」


「えっと、見てけって事っすか? すいません、早く宿取って連れと合流しなきゃいけない関係で時間無いので、また今度って事でお願いします」


「いやいや待ってくれよにーちゃん。確かに品を見てってくれるなら嬉しいが、俺が呼び止めたのは別件だよ」


 商品を見せる為に呼び止めたのだと勘違いした菜月を、商人の男性は品を見てくれない事を残念に感じたが、決して顔には出さず引き止める。


「じゃあ、何の用ですか?」


「お、聞く気になってくれたか。――んっとな、一、二時間前くらいだったっけな。〝虐殺する双角獣(スローターバイコーン)〟の連中がここらの地区に、茶髪の魔道士ウィザードを見つけたら、東区の空き倉庫に来るように言えっつってきたんだよ」


「〝虐殺する双角獣(スローターバイコーン)〟……?」


 どこかで聞いた名に眉を顰める菜月。しかしすぐに冒険者協会で一悶着あったベルガーや、彼を舎弟にしているという戦闘士ウォーリアーの男の事を思い出し、彼らの所属クランの名だと気付いた。


「何でまた?」


「さぁな。とりあえず、俺は伝えたからな」


 商品見てかないならさっさと行け、とばかりに手を振る商人の男性。菜月は言伝をしてくれた事に一言お礼を言ってから、彼の迷惑にならないよう再び歩みを再開した。

 自分に一体何の用があるのだろうか――一瞬そう呟きかけて、心当たりは十分にある事を思い出して苦笑する。


(意趣返しか? まぁ、それ以外は特に理由が無いよな)


 昼間遭遇した、〝虐殺する双角獣(スローターバイコーン)〟メンバー五名による、半殺しにされたベルガーの仕返しは、菜月の反撃と途中の【土壁法式ソイルウォール】によるエミアリスの介入から、失敗に終わっている。恐らく、というか菜月の事を知る〝虐殺する双角獣(スローターバイコーン)〟のメンバーからの呼び出しの時点で、確実にその事を根に持った彼らからの呼び出しだ。

 呼び出された先で起こる出来事は容易に想像できる。多人数で襲いかかり、やられた仲間のベルガーよりも手酷い傷を負わせるのだろう。

 危険だ、行く必要は無い。

 だが、放っておけば、怒りを蓄積させた彼らが、周囲に当たり散らす事が無いとは言い切れない。特に、直接やられた戦闘士ウォーリアーの男を合わせた五人と、ベルガーや彼の仲間である二人はその可能性は高いだろう。

 菜月は自分への果たし状について考えながらも、魔道書のページをぺらぺらと捲っていた。

 正直、面倒事には付き合いたくない。しかし自分が原因で起こった事の尻拭しりぬぐいはきちんと自分でしなければならないだろう。実際ベルガーの四肢を斬り落として半殺しにしたのは憂莉なのだが、これから長く共に行動するつもりであれば、彼女の行動の後始末も請け負う必要がある。


「ま、あれは俺を守るためにやってくれた事だし……」


 ベルガーが魔力を纏わせて強化した拳で菜月を殴ろうとした時、憂莉は『血器術ブラッドオーダー』のスキルで生成した血器長剣ブラッドソードで菜月に迫る魔手を斬り裂いた。それは、まぎれもなく菜月を守る為の行為であった。


「……仕方ない」


 パタン、と考え事をしながら流し読みをしていた為に殆ど内容が頭に入って来なかった魔道書を閉じ、菜月は誰に聞かせるともなくそう呟いた。

 その足取りは決して軽いものではなかったが、しかし若干の緊張はあっても恐怖は抑え込んだ、しっかりとした足で歩を進める。

 菜月は幾億もの星が輝く夜道で、厚い魔道書の重みを左腕に感じながら、彼を呼んだ者達が待つ人気ひとけの無い空き倉庫を目指すのだった。

 四話ほど空けて、やっと読書を終了した主人公でした。長時間部屋に籠って読書とか羨ましい……。

 ちなみに、菜月はまだ『肉体・身体能力強化術』スキルを手に入れてません。でも、地下書庫で本を読んでいる時に魔力で強化するのが出来ていたのは、別にスキルが無くても感覚で分かれば使えるからです(効果は幾らか落ちますが)。菜月、感覚で出来るとか地味に凄い……。

 次回も読んで頂けると有り難いです。

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