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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第一章 始まりの異世界ライフ//第零階層世界編
19/84

第十四話 剣舞闘師

 昼食を終えて菜月なつきと別れた後、一条いちじょう憂莉ゆうりは自身の加入志望の剣舞闘師ソードアリア職業クラスギルドに向かった。

 冒険者協会エミルフィア東支部があった東地区とは違い、剣舞闘師ソードアリア職業クラスギルドが構える中央区は華美に飾られた建物や質素でも他より上質な素材で作られた家など、上級階級の者が居を構えるに相応しいものが揃っていた。人通りも多く、それゆえ喧騒がとめどなく町に響いていたが、それはこの町が賑わっている証拠でもある。

 試しにと憂莉は鍛冶屋や雑貨屋などを数件回ってみたが、どこも端の地区に追いやられたような店の品と違い、数量優先だが優秀な物が揃っていた。試し振りした感覚では、西洋剣のような重く刃で斬ると言うより叩き割る事でダメージを与えるものだろう。切れ味を重視して確実に致命傷を与えるスタンスで行きたいと考えている憂莉には合わないものだったが、冒険者がダンジョンなどから持ち帰って店に売り、それを綺麗に整えてから並べられた魔道具の中にはなかなか面白い効果で切れ味もあるものがあったので、憂莉はその中の長剣二本と短剣一本を購入していた。

血器術ブラッドオーダー』で武器が自在に生み出せるとはいえ、血液の武器を生成するたびに魔力を消費してしまうため、メインウェポンは別に持っておいた方が楽で便利だ。それに、菜月に必要以上に吸血鬼種としての能力を使うなとも言われているため、人と遭遇する可能性のある場所で戦闘になった場合にスキルで生成したものではない武器が必要となるだろう。そういった打算的な考えからの行動であった。

 ちなみに武器の購入代金はこの世界で目覚めた時からインベントリーに入っていた財布内の金貨を使用している。

 金貨は高い金額設定なのか珍しく強力な魔道具でも買えた。全部で三本購入したため白金貨まで使ってしまったので、これからは濫用しないように気をつけねばならないだろうが、冒険者として依頼を受けて金を稼げるようになれれば、その心配もいくらか無くなるだろう。

 ちなみにシフォリール聖王国を中心とするシュルフィード地方――どころでなく、この世界での金銭は共通で鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、聖金貨が使われている。一番金額設定の低い鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚などと、全て十枚ずつで一つ上のランクのもの一枚と同等の金額になるのだ。

 現在の残金は金貨二枚と銀貨と銅貨が数枚になってしまっている。小さめの堅いパン一個で鉄貨三、四枚程度なので、この世界のパンを製作する素材や器具の値段を推測し、考慮した上で鉄貨一枚を五十円と仮定すると、現在の憂莉の手持ちは約十三万円ほどだ。決して少なくは無いのだが、防具や服を何も買っていないことを考えると、些か問題ではあった。……まあ、買ってしまった物を今更戻す気もないので、そこはすっぱり諦めることにするのだが。


 ともあれギルドに到着し、気を悪くしない程度に装飾された白亜色の建物の中に堂々と入っていった憂莉は、受付で加入希望の旨を伝えると、加入試験を始めるまでしばらくロビーで待っていろと言われ、大人しく硬めのソファーに座って待っていた。

 暇なので購入したばかりの長剣二本の調子を確認したり、有名な職業クラスギルドなのか人が多いので他人の装備や種族などを観察して時間を潰していると、突如後ろから声がかかった。


「お譲さん、こんな所に何かご用かい?」


 自身の背後の気配には気付いていたので慌てることもなく憂莉は視線だけ声の主に向ける。

 背後に無駄な優雅さを纏って立っていたのは、華美な装飾が施されたマントを羽織る、金髪碧眼の長身の青年。輝く柄の豪奢な双剣を憂莉と同じように左腰に差し、その端整な顔立ちに異性を魅了する微笑を浮かべていた。

 憂莉は一欠片の興味も無く冷めた瞳で青年を見、平坦な声色で答える。


職業クラスの登録に来ました」


 それ以外に言うことは無いと憂莉は青年から目を放すが、青年は顔に笑みを浮かべたまま会話を継続させる。


「そっかぁ。君みたいな可愛い子は荒事の多い冒険者には向かないと思うけど、でも、剣舞闘師ソードアリアを選択したのは正解だよ」


 青年はまるで自分の事を話すように続ける。

 特に聞く意味も必要も無いと思った憂莉だったが、どうせ暇なのだし勝手に話すのなら聞くだけ聞き、情報の整理に時間を使う事にした。


剣舞闘師ソードアリアは、片手武器や二刀流で武装した刀剣を操って踊るように闘う、まさに芸術を体現する職業クラスだ。ただまぁ、火力が素晴らしい反面協調性の薄い戦い方をする者が多く、パーティーを組まずにソロで活動する者も結構いるんだ。ゆえに、『独奏アリア』の名が付けられているのだけどね」


 青年の言う通り、良く知られるメイン五職業クラスの中では、剣舞闘師ソードアリアは文句無しの最大火力保有職業クラスである。

 二刀流をメインとするバトルスタイルの多い剣舞闘師ソードアリアは、軽装備による敏捷性と切断系武器の鋭い攻撃、二刀流による手数の多さを生かした戦い方を得意とし、また肉体強化と身体能力強化を存分に使ってブーストした剣舞で敵を屠るアタッカーのかなめだ。その単独で戦うことを主とする戦闘スタイルがパーティーメンバーの支援を受け入れる隙を潰してしまい、剣舞闘師ソードアリア側にとってはパーティーを組む利点が少ない――と感じてしまうのである。実際は連携を話し合ったり後衛のパーティーメンバーが邪魔をしない程度に支援したりすることで協力が可能だし、さらにピンチになった時の生命線として仲間は必要不可欠である。まあ、そこら辺を考慮した上でもソロの方が合っている者が最低三割程度はいるのだが。


戦場ステージで美しく剣と舞い踊り、衣装を華麗に返り血で彩り、まるで一陣の銀風のように次々血肉を斬り裂いていく……。この感覚は、やはりたまらないよ。君も、そんな快感を得たくてここにやって来たのだろう?」


「いえ、別にそういう理由ではないですけど」


「へぇ? じゃあ、二刀流で闘う孤高の剣士になりたいのかい?」


「パーティーを組む人がいるので、孤高の剣士になるつもりは全くありません」


「なるほど。ならば、の有名な冒険者、『一月の剣帝』ことレービス=アルフォギアに憧れたのかい?」


「違います。そもそもその人を知りませんので」


「ほう。剣帝様を知らないのは頂けないが、では、君は何が目的で剣舞闘師ソードアリアを志望したんだい?」


「パーティーを組む人の職業クラスとの相性と、わたし自身の戦闘スタイルが合っているからです」


 少し感性の曲った青年からの、まるで事前に用意されていたかのように続けて放たれる問いに対し、憂莉は内心ウザいと感じながらも答える。

 するとその答えに対し、青年は意外そうに眼を丸くした。――だが、それが演技だと見抜いている憂莉が眼を細めると、青年は「失礼」と一言びてから、爽やかな笑みを顔に浮かべ直しながら続けた。


「試すような質問をして悪かったね。でも、これが剣舞闘師ウチのギルドのやり方だから」


「面接試験みたいなものですか? まあ、ウザいのは置いておくとしても、そこそこ有効だとは思いますけど、でもやっぱりウザいですよ」


「なんか凄くウザがられてるけど、そんなに気分を害するような質問だったかなぁ……?」


「そうですね、まずあなたと言う人間がウザいです。女性で遊ぶような軽い態度と顔に、演じるような作り笑顔がイラつきます。控え目に言って、どこぞの火山にでも行ってマグマダイブして、全身が溶けて消えてほしいですね」


 控え目と言っているのに容赦なく死ねと告げる憂莉の態度に、周囲でその会話を聞いていた冒険者たちは顔を引き攣らせる。

 だが面と向って言われた青年は「……ふむ」と顎に手を当てて数秒考え込むと、


「マグマダイブも悪くは無いと思うけど、僕的には熱いのより冷たいのが好きだから、北のフロストレイクの地下ダンジョンで氷漬けの方がいいかなぁ」


 などと頭のおかしい返し方をしてくるのだった。

 それに対して憂莉は「氷漬けは顔がそのまま残るので駄目ですね」などと言い、青年は青年で「川流しなら許容範囲だけど、その場合抱き枕を抱きながらがいいなぁ。ってことで、君を抱きながらでいいかい?」と肩をすくめておどける。


「あはは、その時にはあなたの腕は繋がっていないかもしれないので、抱き枕は不必要だと思いますが?」


「いやぁ、その時は脚を絡めて道連れにするつもりさ」


「へぇ、脚も切ってから流してほしいんですか? なるほど、徹底して詰みたいんですね。あ、ノコギリ必要ですか?」


 ツッコミ不在の、どこか頭のネジが一つ二つ飛んでいる二人の会話は、段々と物騒な方向に向かっていくのであった。


   ◆ ◆ ◆


「ああ、そうだ。ちょっと時間食っちゃったけど、とりあえず伝えておこう。――おめでとう。面接試験は合格だよ」


 十分ほど二人は常人とは一歩も十歩も違う会話を、双方造り物の笑顔を張り付けたまま内心毒を吐いていることを隠しつつ、でもやっぱり言葉にも毒を混ぜながら交わした後、思い出したように青年が告げた。


「そうですか。『面接試験は』ということは、まだ他にも試験があるんですよね?」


「まぁね。試験は二つしかないから次合格すれば君も晴れて剣舞闘師ソードアリアの一員なわけだけど、次の試験はちょっと難しい実技試験だよ」


 そう言ってから青年はギルドロビーに居る剣舞闘師ソードアリアの冒険者達を眺め始めた。ややあってから一人の少年に目が止まると、「テニー!」と名を叫んで呼び寄せた。


「ぼ、僕に何か用でしょうか、マルクさん?」


 呼ばれて急いで来たテニーと呼ばれた少年の問い掛けに答える前に青年――マルクは憂莉に視線を向けると、途中で少年の説明を入れて実技試験の内容を語り出した。


「こいつはテニー。君の実技試験の監視役みたいなものだよ。で、試験内容は、エミルフィア近郊の南東にあるアマネフ洞窟の奥地に生息する魔物――怒れる雄牛(アングリー・カウ)を倒して、その魔石と角を持って帰るだけだ」


 ただし、とマルクは付け加える。


「戦うのはあくまでも君一人だ。テニーが手助けしてもいけないし、パーティーメンバーに手伝ってもらっても駄目。勿論、どこかから買い付けてそれを提出されても失格だから気を付けてね」


「了解です」


 しっかりと頷く憂莉は心配いらないだろうとマルクは感じ、次に視線をテニーへと向けた。


「まだ君も新人の部類だから大変だと思うけど、死にそうになったりしたらヘルプ頑張ってね。……って言ってもまぁ、平均レコード1200pt程度のアングリー・カウに手古摺てこずっているようじゃ、これから生きていけないだろうし。せいぜい四肢が千切れないように頑張ってねー」


 軽い口調で言うマルク。

 憂莉はそれに特に何も感じず頷いて了承だけを示すと、すぐに身を翻してギルドを出発しようとする。幸いここに来るまでの情報収集のお陰でアマネフ洞窟の場所は知っていたので、すぐにでも発てるのだが――しかし、監視として付いてくるテニーはそうではないらしく、五分で支度するから外で待っててと言われてしまう。

 本当は一人でさっさと行ってさっさと帰り、剣舞闘師ソードアリアになってすぐに菜月の下へと戻りたかったのだが、テニーを置いて行って不合格になってもいけないので、仕方なくギルドの外で待つことにした。


(……あ。『四十秒で支度しな!』とか言えば良かったですかね)


 などとネタをテニーが去ってから思いつくが、どうせこの世界の人にはの有名な空中海賊の女頭領の台詞は分からないので、グッと飲み込む憂莉であった。

 次回も読んで頂けると有り難いです。


 九月二十日 テニーの一人称を「俺」から「僕」に変更。彼のイメージ的にこっちの方が合っていると思ったので変更しました。

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