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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第一章 始まりの異世界ライフ//第零階層世界編
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第十三話 〝純白百合花〟

 十万字超えてました。これからも頑張ります。



魔道士ウィザードギルド……って、ここがか?」


「そう。ここ、この家が〝純白百合花ホワイトリリィ〟の本拠地」


「その……〝純白百合花ホワイトリリィ〟ってのはなんだ?」


「ギルドの支部を運営するクランの名前。各ギルドには本部と支部があって、ギルド全体の人数が少ないギルドは支部の運営をクランに任せることが多い。それで、このギルドはA級クラン〝純白百合花ホワイトリリィ〟に運営を任せているわけ。……というかあなた、〝純白百合花ホワイトリリィ〟を知らないの?」


 クランとは多人数の冒険者――一般的には数十から数百人――でチームを組み、協力して大規模なダンジョンに挑んだり商業をしたりと、主に損得で結びつくコミュニティだ。勿論全てが全て損得勘定でクランを作っているわけではないが、この世界を冒険者として生き抜くためには、時に他者と協力し、時に仲間を裏切って自身の得を掴み、踏み台にしていかなければならない。そんな苦しい世界において、やれ仲間だの家族だのと叫んで皆無事幸せに生きていけるわけがない。


 菜月なつきは自身の記憶を洗い直したが〝純白百合花ホワイトリリィ〟というクランに心当たりは無く、首を横に振って否定を示す。すると、その菜月の反応を受け取ったエミアリスが表情の乏しい顔にショックの色を浮かべた。


「……本当に知らない?」


「……悪い、マジで知らない」


「…………そう」


 次はもっとクランの事も調べておこうと反省しながら菜月が〝純白百合花ホワイトリリィ〟がどんなギルドなのか尋ねると、エミアリスはそれこそじっと見ないと気付かないくらい極小の変化だったが、今度は目を輝かせながらとうとうと語り始めた。


「〝純白百合花ホワイトリリィ〟は、魔法大国セルデセン帝国で結成したA級クラン。主に魔法の研究と『神魔造具アーティファクト』の収集を行っている」


 クランには冒険者協会からある程度のランクが与えられており、上からS級、A級、B級、C級の四段階だ。

 冒険者登録した直後に菜月と憂莉ゆうりに絡んできたベルガー達が所属していたクランは〝虐殺する双角獣(スローターバイコーン)〟で、〝純白百合花ホワイトリリィ〟と同様にA級に属する有力クランだ。A級ともなれば所属する冒険者の質も良く実績も多い。まぁ、質が良いと言っても、メンバーの性根や性格は置いといて、の話だが。

 与えられるランクはクラン全体での冒険者協会、または町への貢献度と、B級以上ならば『天霊樹の迷宮』を探索し、その成果――魔物の討伐数や、『神魔造具アーティファクト』と呼ばれる特殊な道具を持ち帰ることなど――で決まる。やや傭兵寄りの冒険者クランならば戦争での貢献度もプラスされ、知名度でも加算がある。


「所属人数は十三人で魔道士ウィザード職業クラスを選択している人は五人と少ないけど、皆レコード3000超えの上級冒険者。『天霊樹の迷宮』にも何度か挑戦していて、最高で第八階層まで進んだこともある」


 レコードとは、ステータスに記されている――菜月と憂莉はウィンドウから能力情報ステータスを選択して確認できるが、通常は今回測定に使った淡い水色の水晶を使用する――自身の実績であり、強さの目安だ。

 例えば、レコード2500の魔物がいたとしよう。同じレコード2500の冒険者ではほとんど強さが同程度ということなので、苦労はするが倒せないことは無い。上下200範囲内ならば単独ソロでも勝てるだろう。

 しかし、相手のレコードより500を下回れば、独りで戦うと勝率が薄い。むしろほとんどないと言っていいだろう。命が尽きればそこで終わりなので、基本自分より高いレコードの敵には単独では挑まない。五、六人程度のパーティーを組むか、あまりにも離れていればクラン全体で討伐するか、といったように、多人数で戦うのが常識だ。

 それはともかく、レコードという強さの数字は、魔物や凶悪な動物など、人間に危害を加える生物を殺すことで上昇する。自身の魂に直接記録されるため誤魔化しが効かず、討伐依頼などではこれを利用して正確に依頼達成の成否を確認しているらしい。

 基本的に自分より強いレコードを持つものと戦えば上がり易く、同程度なら普通、離れ過ぎて下なら全く上がらない。レコードの低下=敗北=死なので、特殊な場合を除き、生きているうちにレコードの低下は起こらない。しかしパーティーを組んだ場合のレコード上昇は未だ解明し切っていないので良く分からないのだが、大体の目安は、パーティーの平均レコード+平均レコードの三割、らしい。あくまで目安であり、正確ではないのだが。


 ちなみに冒険者の実績を示すレコードはあるが、個人のランク自体は無いため、協会から情報が回ってきたり支援が手厚くなったりなど待遇の変化は所属クランのランクで変動するのだ。

 新人冒険者がいきなりA級のクランに加入して高待遇――なんてことはクラン側が認めないのでほとんど起こらないが、中級程度の実力でS級クランに籍を置き、クランの名を翳して好き勝手やる者も完全にいないとは言えない。そういった者から新人が被害を受け、それが原因で死亡する新人が後を絶たない。所謂いわゆる新人潰しなのだが、そこで耐え抜いた見どころのある者をスカウトし、自身のクランの力を増していくという方法もとられているため、一概に悪いと言えないのが協会側らしいが。

 S級クランは現在四つ存在する。数が圧倒的に少ないため、一般にA級クランが有力クランと言われ、B級は有り触れた大勢、C級は駆け出しだ。

 そのうち〝純白百合花ホワイトリリィ〟はA級に属するため、実力も知名度もある。ギルドの支部の運営も任されるくらいなのでもっと名が知れているはずなのだが、菜月が知らなかったのは単に情報収集が不足していただけではなく、そのギルドがこのシフォリール聖王国では魔法が使えるのは選ばれた貴族だけという国風上歓迎されない魔道士ウィザードギルドであったのが原因でもあった。


「『天霊樹の迷宮』……って、町の真ん中にある馬鹿でかい樹だよな?」


「それ以外に何があるって言うの」


「いや、ここに来たばかりだったから良く知らなくてさ」


 ここ――というのは、エミルフィアにではなくこの世界『ラグナスヘイム』になのだが、事情を知らないエミアリスはやや怪訝そうに表情を歪めて菜月を見る。


「別にエミルフィアに居なくたって、『天霊樹』の事はどこの国でも知られてると思うけど」


「え、あーその、ほら……あれだ。世間に疎くて?」


「何故疑問形。……まあいい。冒険者になる人は知識不足の人ばかりだから。……流石に『天霊樹』を知らない人は初めてだけど」


 エミアリスはどこか残念そうに言うと、部屋の壁際まで歩き、質の悪い硝子の窓を開く。そこから昼過ぎの熱い陽射しが差し込み、惹かれるように窓の奥に広がる景色に視線を移せば、堂々と聳える巨大樹――『天霊樹』が目に映った。


「『天霊樹』はこの九つの世界――『ラグナスヘイム』という星世界を支える柱。その中は凶悪な魔物が跋扈するダンジョンになっていて、各地の遺跡から発見された書物や壁画、王家に伝わる伝承に記されていた事によれば、その突破があまりにも困難な階層が百も続き、十階層ごとにこことは全く違う世界が広がっているらしい。そして……その最上階層、第百階層には――」


 エミアリスが一度言葉を切り、菜月と目を合わせる。

 彼女の美貌に思わず落とされそうになったが、エミアリスのその真剣な視線に菜月も無意識のうちから気を引き締めた。

 そして――魔道士ウィザードの少女は、まるで真理を示す賢者のように、だが夢を述べる一人の冒険者として続きを語る。


「――全ての願いを叶える事が出来ると言われる、『流れ星の泉』がある。世界の始まりであり、世界の要であり、世界の終着点。本来の役割がどんなものか、そもそも泉の形をしているかすら知らないけれど……でも、それ(・・)はある」


『流れ星の泉』――その単語を聞いて、何故か菜月は魂の底が疼いた。

 行きたい。見てみたい。そして――守らなくては(・・・・・・)

 意味が分からない衝動を抱えながら、菜月は思う。


(この世界に来た理由ってあの女神アホが強制的に送ってきただけだったから、目的とかあんまりなかったけど……)


 しかし。今この瞬間、『流れ星の泉』の単語を聞いただけで、『そこに向かわなければならない』という使命的なものを感じた。

 それを何故感じたのか、何故『守らなければならない』と思ったのかは理解できない。

 だが、それでも。


『――目指せ、目指さなければならない。そして、『泉』を守れ。それが、天魔の役目なのだから――』


 内なる何か(・・)がそう囁く。


(……そう、だな)


 そして、菜月は人知れず頷き、呟いた。


「『泉』を目指す。そうすれば、役目を果たせるしな」


 それは誰の言葉なのか。

 それすら理解せず、菜月の行動方針は『流れ星の泉』へと向うことに決まった。


『天霊樹の迷宮』攻略に臨む冒険者の大多数が『流れ星の泉』を目指す者たちである。

 その者達は皆それぞれの理由で『流れ星の泉』を目指すのだが、その理由の根は『流れ星の泉』に魅せられたからだ。

 全ての願いが叶う。そんな夢物語のような馬鹿馬鹿しいものに魅せられ、彼ら彼女らは命を賭けるのだ。

 まるで、憑かれたように。

 まるで、誘導されたかのように。

『泉』を――世界の中核を目指す。


 しかし、それらとは菜月の理由は違うのだが――誰も、その事にはまだ気づかない。


   ◆ ◆ ◆


「――それで、ナツキは魔道士ウィザードギルドに入る?」


 ひとしきり説明を終え、何故か満足げのエミアリスが訊いてくる。


「ああ、勿論。そのために探してたわけだし」


「そう。あなたのステータスはおかしいところがいっぱいあったけど、全体的にはとても良い能力だった。強い魔道士ウィザードになれる」


 相変わらず無表情だが、少しばかり嬉しそうにふふっと小さく笑みを零すエミアリス。

 赤髪の少女は「そこで待ってて」と言って部屋から去ると、先程菜月の適正属性を測った宝石やステータスを表示した水晶を取ってきた奥の部屋に向かい、五、六分がさごそと何かを探す音が響く。それから一枚の紙とペン、そして青色の徽章を持ってきた。

 それらをテーブルの上に広げると、エミアリスはインクを付けたペンを菜月に握らせる。


「この紙がギルドの加入申請書。承認はわたしがするから、書いたらすぐギルドに加入したことになる」


「……ここのギルドって〝純白百合花ホワイトリリィ〟が管理してるんだよな? ギルドに加入したら〝純白百合花ホワイトリリィ〟に強制的に加入したことになるとか言わねぇよな?」


「心配しないで。ならないから。クラン加入は別の紙だし、それに試験もある。ただの平メンバーであるわたしが承認なんて出来るわけないから。……まぁ、あなたなら試験なんて簡単だと思うけど」


「ふぅん」


 さして興味もなさそうに流す菜月。エミアリスは不満そうにじと眼で見てくるが、努めて無視し、視線を加入申請書に落とした。

 注意事項やもろもろの情報を読み、あらかた理解し終えると、名前、性別、年齢の覧を記して終了。冒険者登録の時よりも簡単な内容だったが、気になってエミアリスに訊いた話によると、どうやら魔道士ウィザードギルドへの加入は本場のセルデセン帝国を除き、全てスカウトされて加入することになっているらしい。だから人格とか能力とか才能とかを事前に把握されているので、面接やら何やらの試験が不必要なようだ。


「じゃあ、この紙はこちらで預かるから。次はこっちを付けて」


 そう言ってエミアリスが青色の徽章を差し出してきた。

 サファイアのように透明で輝く青の宝石の中に、黒と紫で描かれた杖と本のマークがあった。どうやらこれが魔道士ウィザードギルドの紋章らしい。

 菜月は徽章をYシャツの胸ポケット――八重里第一高校の校章の横に付けた。現代のものとファンタジーなものが並んでどこかおかしく感じるが、徽章の方は宝石――の様なもの――であるため、どちらかというと高級そうで似合わない、だろうか。

 菜月が付け終えたのを確認すると、エミアリスは「こっちに来て」と手招きする。何だろうと思いながら菜月はエミアリスの後を追って奥の部屋に入った。

 その部屋は魔法の道具やら実験道具やらで溢れ返っていたが、どうやらその部屋が目的地ではないらしく、エミアリスはさらにもう一つ奥の部屋へと足を踏み入れる。それを追って菜月も中に入ると、そこは部屋ではなく地下へと続く階段だった。

 長い長い木製の階段は途中から石造りへと変化し、その雰囲気を一気に変えた。

 しんと静まりかえる石の通路に、コツコツと靴音だけが響く。

 歩き出してから二分経った頃、ようやく扉が見えてきた。その古びた木製のドアをギィィと音を鳴らして開けると、その奥に広がる部屋の圧倒的な光景に思わず後退あとずさった。

 その部屋は――文字通り、全て本棚で出来ていた。

 壁は全て本棚で埋め尽くされ、天井も取り付けた小ケースに本が保管されている。唯一光源として蝋燭を置く場所だけは本に火が移らないよう配慮されて避けられていたが、それ以外全てを本で埋めていた。


(あの家の地下に、こんなに広い空間があったんだな……)


 ざっと見渡した限り、縦約一五〇メートル、横約一七〇メートル高さ十二メートルほどだろうか。相当広い空間だろう。その全てが本で埋め尽くされていると言うのだから、その量は測り切れない。

 こんな部屋に呼んだと言うことは、エミアリスは菜月に本を読ませようとしているのだろう。ただ、これだけ多ければ必要な本を探し出すのでも一苦労だ。手入れも大変だろうが、その辺をどうしているかはいつか訊いてみようと思う菜月であった。

 しかし――渡されても二、三冊程度だろうと勝手に思っていた菜月に、エミアリスはあっさりと死刑宣告を言い渡す。



「――じゃ、ここにある本、全部(・・)読んで」



「……………………は?」


 なんだこいつ何を言っているんだ、え? と口の端を引き攣らせて言う菜月に構わず、エミアリスは淡々と続けた。


「魔道書、魔法研究レポート、古文書、歴史書、文学書、その他諸々。魔法だけに限らず、冒険者として知っておかなければらならいもの(実際に知っている者は少ないのだが)がここにはほとんど揃ってる。多分身体能力強化と肉体強化のブースト効果で一週間もあれば読み終わると思うから、頑張って」


「ああ、うん。…………つまり、寝るなと?」


 例え徹夜でも終わるわけねーじゃん、などと投げやりに嘆き、菜月は頭を押さえながら、まず近くにあった魔道書に手を付けるのであった。



 メインヒロイン不在。

 ということで、次回は憂莉の出番――の、つもりです。

 次回も読んで頂けると有り難いです。

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