第十一話 仕返しは魔法で対処
冒険者協会エミルフィア東支部の近辺にある飲食店にて昼食を終えた菜月と憂莉は、協会で受付の女性にアドバイスされた通り職業に就くため、まずはそれぞれ自分に合った職業を選択することにした。
能力情報に表示されていたスキル構成から二人とも己に適した職業を判断することになり、『魔法・全』『無詠唱』等の魔法関係に役立つスキルを所有している菜月は魔道士を選択した。一方憂莉は『全武器術』『体術』『肉体・身体能力強化』等の近接戦闘に適したスキルを所持していたが、その場合、戦闘士、剣舞闘師、武闘家、戦狩人、盗賊武者のメイン五職業全てに適応可能なため、そこから絞らなくてはならない。しかし最終的には魔道士を選択した菜月とパーティーを組んだ場合の相性によって、剣舞闘師に決定した。
中、遠距離からの魔法攻撃&魔法支援をメインとする魔道士とパーティーを組む場合は、前衛で敵を引きつけておくことが重要となってくる。本来は壁役としての活躍が期待できる戦闘士が良いのだろうが、がっしり着こんだ鎧や大盾等の重装備は防御よりも俊敏さを武器とする憂莉が装備するには都合が悪いため、却下と憂莉本人が判断した。
そして、魔道士と同じ遠距離戦闘を主とする戦狩人も除外。せっかく『全武器術』のスキルがあるので、スキルの補正や魔力によって強化した拳での戦闘を基本とする武闘家も候補から外し、残った剣舞闘師と盗賊武者の二つから一方を選ぶこととなった。
そこまで行き着いた所で、憂莉が自身の判断で剣舞闘師を選択した。
当然菜月は理由を訊いたが、その時返ってきた答えはこの言葉だった。
「刀剣の扱いなら、前の世界で経験があるので自信があります。それに、盗賊武者は暗器の扱いが得意な方が多いそうです。そういうのは一之瀬家みたいな影が薄くて暗い人達が入ればいいので、一条であるわたしは、直接戦闘で大火力を持つ剣舞闘師の方を選びますよ」
天道三大家の事情を深くも浅くもほとんど知らない菜月には何のことか理解できなかったが、本人が決めたことなのでわざわざ追及しなかった。
さて、これで選択する職業が決まったが、昼食を取った飲食店で得た情報によると、憂莉の剣舞闘師はともかく、菜月の魔道士のギルドが現在二人が居る町、エミルフィア――ひいてはエミルフィアの統治国であるシフォリール聖王国にすら魔道士の職業ギルドは無いらしい。
ギルドがなければ職業に就くことは当然不可能だ。実際は冒険者の全てが職業ギルドに就いているわけではないのだが、戦闘に慣れない初期のうちは色々と学ぶことが多いためきちんと就いていた方が良い。後々に役立つ特殊な情報を得たりギルドの伝手を利用したりとギルドに就いていなければ得られない恩恵も沢山あるので、早めに就いておきたかった。
そして先に憂莉を剣舞闘師のギルドに向かわせてから、どうしたものかと町をぶらぶら歩きながら悩んでいるのが菜月の現在の状況だった。
「……ううーむ。真面目に困ったな」
呟きながら、菜月はインベントリーから取り出したミネラルウォーターをぐびっと飲み干す。中身が空になった瞬間ペットボトルは菜月の手の中から消滅したので、この世界に余計なものを残さないようにするために配慮が働いているのだろうと推測する。仕掛けたのは恐らく女神だろうが、これから水筒代わりにでも使おうと思っていたところでこの現象だったので、菜月は舌打ちと共に他次元の空間に居るであろう女神に向けて怨念を送っておいた。……実際に届くことは無いだろうが。
苛立たしげにミネラルウォーターと同じくインベントリーから取り出したじゃ○りこをバリバリぼりぼりと食べて、少しでも気分を晴らそうとしていたところで――突如、菜月の前に五人の男が立ち塞がった。
男達は全員冒険者のようで、何かしらの武器をまるで見せつけるかのように手に持ちあるいはすぐにでも抜けるよう柄に手を掛け、中央のがたいの大きい――恐らく戦闘士――男に従うように数歩後ろに控えながら、にやにやと菜月に視線を送っている。
彼らはあまり素行が良いとは思えない風貌をしていた。ざっとメンバーを確認したところ、右の二人が短剣持ちの盗賊武者、一番左が弓装備の戦狩人、左から二番目は分からないが、小型片手剣を腰に吊るしていることから前衛職なのだろう。中央の戦闘士の男は背に二メートル越えの大剣を背負い、さらにそれにつり合うほど迫力のある巨体で構えていた。
(……? 道のド真ん中で仁王立ちとか邪魔なんだが、……もしかしてこいつら、俺に用でもあんのか?)
その用とやらは確実に平和な事ではないであろうが、道の真ん中で通行止めされては無理に通ることもできず、とりあえずじゃ○りこを全て食べ終えて箱がペットボトルと同じように消滅したのを確認してから菜月は男達に向けて質問をぶつけた。
「なにか用でしょうか?」
丁寧さを心がけて言うと、戦闘士の男はただでさえ鋭い目をさらに細くし、威圧的な態度で返答してくる。
「ああそうだ。てめぇだろ? ベルガーのやつを半殺しにしたのは」
ベルガーと言われてもすぐにはピンとこなかったが、男たちの素行の悪そうな姿を見て、そう言えば似たような奴らと冒険者登録した時に遭遇したっけと記憶を探りながら呟き、その時憂莉が血器長剣で両手両足を斬り飛ばして芋虫状態にした奴がそんな名前で仲間たちから呼ばれていたということを思い出す。
実際に半殺しにしたのは憂莉なのだが、言ってもややこしくなるか関係無いとか言い出すだけだろうし、何より憂莉に危険が及ぶ可能性が高まるので男の問いに頷いておく。
菜月の返答を確認すると、戦闘士の男はにやりと笑って手に掛けていた大剣をガチャリと鳴らした。それを合図に他の四人も武器を抜いていなかった者は各々の武器を構え、元々抜いていた者は道路の石畳を叩いて鳴らした。
威嚇だ。変わらず後ろの四人はにやにや笑いを浮かべているが、戦闘士の男は殺気を放っている。迫力のある体格も相まってさらに菜月に恐怖を与えてくるが、彼の殺気は、森で遭遇した菜月の命を奪おうとしてきたあの犬のものより――弱い。
簡単に慣れるものではないがしかし、少し耐性のできていた菜月は冷静だった。
「半殺しにしたが、それが何か? そのベルガーって奴は、あんたらの仲間なのか?」
殺気を向け、武器も抜いたということは、敵対する意思があるということだ。わざわざ敬語を使う必要もないと判断した菜月は、内心ひやりとしながらも視線を細くしながら男達に尋ねた。
周りには、菜月や男達の異様な雰囲気を感じた者達が野次馬として徐々に集まってきている。
その様子に目を回し、戦闘士の男は不機嫌そうにふんと鼻を鳴らすと、
「ベルガーは後ろのこいつらと同じでオレの舎弟だ。舎弟がやられたってんなら、きちんと相応の礼ってモンをしねえと示しがつかねぇだろ?」
「仕返しか? ご苦労なこった」
「ほんと、面倒な下を持つと苦労する。だからよ。オレの気分が晴れるまでボコらせろや」
「痛いのは勘弁してほしいんだが……言っても無駄か」
「たりめーだろ? 歯ぁ食い縛れやッ!!」
怒声と共に、戦闘士の男は背から抜いた彼にはやや不似合の美麗な大剣を菜月目掛けて振り下ろした。
重く、速い一撃。
手に武器がなければ戦闘士の男ほど強靭な筋肉も無い菜月には真っ向から防ぐなど到底不可能な話なので、昔からの強みだった動体視力を活かして大剣の刃から回避を試みる。部活を引退してからもちょくちょく自主的に身体を動かしていたこともあって菜月の身体は素早く反応し、横に逸れて回避すると同時に、昔習っていた武道の癖からか無意識に蹴りを放ってしまう。
菜月の爪先が戦闘士の男の脇腹にめり込み、ごりぃ、と嫌な音を鳴らした。運動靴越しに脚撃の鈍い感触が伝わり、普段人を蹴る機会などほとんど無い菜月は僅かに顔を顰めた。
しかし男からの反撃を警戒してすぐにバックステップで距離を取る。幸い男は菜月が交わす上に反撃をしてくると思っていなかったのか、蹴られた脇腹を押さえたまま反撃せずに菜月を睨みつけるに留まっていた。
「糞がっ! おい、てめぇらもやれ!!」
厳つい顔を怒りで染め上げ、戦闘士の男は後方の仲間に怒鳴り付ける。指示を受けた男達は戦闘士の男の睨みに怖じ気づきながらも、自分達の従う者に攻撃をした菜月を強く睨みつけ、各々の武器を手に斬りかかってくる。
――しかし、菜月はそれにわざわざ付き合う必要などない。
戦闘士の男が怒鳴った時には、既に菜月は身を翻して走り出していた。
つまり――逃げたのである。
「ああ!? 待てやゴラア!?」
「逃がすかよ! ――【三つ星撃ち】!!」
『弓術』スキルの武技能力、【三つ星撃ち】。三本の矢を武技能力特有の魔力によるブーストを掛けて一斉に放つもので、『弓術』では初期に叩き込まれる基本の武技能力だ。
武技能力とは、『力と意味を持つ言葉』を口にしたり、決められている発動動作をすることで使用できる技だ。戦闘に使うものもあれば、鍛冶などで武具を作る際に用いる場合もあり、効果や威力は多種多様である。厳密には魔法も武技能力に含まれるのだが、魔法は貴族の特権だと騒ぐ輩がいる為か同一視されることは少ない。
戦狩人の男が放った【三つ星撃ち】によって飛来する三本の矢は、弾丸ほどのスピードは無いが肉眼で避けるのは難しい。まして、菜月は男達から逃げる為に後ろを向いている。そんな中で回避することは彼にはまだ不可能だった。
――だが。
「――大地よ壁と成りて守れッ!」
騒ぎに気付いて集まっていた野次馬達の中から、力強く芯があり、そして微量だが魔力の籠った少女の声が響いた。
紡いだ言葉は呪文。『力と意味を持つ言葉』であるそれが形作る魔法は、第一位階に位置する土属性魔法、【土壁法式】だ。
呪文の詠唱に反応し、菜月のすぐ後方の地面が強く振動する。と、一秒と経たぬうちに石畳が割れ、その下に広がる土が隆起、そして他者の攻撃を防ぐ土の壁が生まれた。
「なあ!? クソッ!」
戦狩人の武技能力によって加速した矢は全て土の壁によって弾かれ、または数センチほどしか穿てず、菜月に届くことは無い。
舌打ちと共に戦狩人の男は今度は矢を山なりに放って土の壁を迂回するがしかし、続いて攻撃が来ると悟っていた菜月が振り向き、それら全てを雷属性魔法【電撃法式】によって出現したうねる無数の電気の線達が焼き払ってしまう。それによって後方の男達や集まっていた野次馬が「あの野郎、魔法使うのかよ!?」「しかも無詠唱だと!?」「何者だよ!?」等と騒いでいたが、立ち止まる前に菜月の手を少女が引いて走りだした。恐らく、先程【土壁法式】を使って菜月を矢から守ってくれた少女だろう。
「こっち! 早く逃げるわよ!」
自身より十五センチくらい小さい少女に手を引かれ、菜月は男達に背を向けたまま町を駆け出す。後方の男達の数人は追ってこようとしたが、菜月が振り向き、魔力を調節して小さくした【炎球法式】を足元を狙って連発したため足止めを食らい、どんどん距離を離していった。
「おい待て、逃げんな! っらァ!!」
それでも諦めずに、戦闘士の男が剣術系スキル共通の武技能力、【飛刃斬】を発動させ、大剣を水平に薙ぐと同時に出現した透明な斬撃を飛ばしてきた。【土壁法式】によって生成されていた土の壁は時間経過で消滅しているため不可視の刃は遮る物の無い道路と平行に飛翔し、菜月と少女の肉体を切り裂こうと襲い来る。
「ぐっ。【風刃法式】!!」
瞬時に魔力を練り上げ、菜月は第一位階に位置する風属性の魔法を発動させた。
焦って発動することになり、じっくり魔力を練る時間が無かったためか魔法に魔力を流し過ぎてしまい、通常よりも三倍近く大きい約三十センチの鎌鼬が亜音速で放射、【飛刃斬】の斬撃を切断してしまった。
しかし、菜月の無限にも等しい魔力を『つい流し過ぎてしまった』魔法の風刃はそれだけで消えるほど低威力ではない。
キン、という不可視の斬撃が切られる音が鳴った一瞬後には、戦闘士の男の大剣が、刃の七割程の部分で切り飛ばされた。
「ッッッ!?」
戦闘士の男は危険を感じて菜月の魔法が放たれる前に地を蹴ったため風刃から逃れることに成功したが、長く大きく重い大剣はあっさりと風刃の餌食となってしまった。
綺麗な切断面を描いて刃の先は地に落ち、カラランと石畳を叩く。その様子を、驚愕の表情で戦闘士の男――そして、その仲間や周辺の野次馬達は眺めていた。
それもそのはず、戦闘士の男が使っていた大剣は、希少なミスリル製の武器だったのだ。
別名魔法金属と呼ばれるミスリルは、そう簡単に折れるようなものではない。銅より硬く、銀のように輝き、武具の作製時に呪文を記したり魔法陣を描いたりして、使用時に魔力を流すことでさらに強度を増し、特殊な効果を持つ事が出来ると言われる希少で強力な金属だ。その強度はダイヤモンドに近い――物によってはそれ以上――で、ミスリル製の刃は純鉄を易々と斬り裂いても刃毀れ一つしない。例え鉄のハンマーで叩かれようとも折れず、斧で斬り断とうとしても傷一つつかない程の丈夫さである。
そんな超強度を誇る金属で製作された武器を、魔法で最底辺の第一位階に位置する【風刃法式】で切り飛ばしてしまった。
常識的に考えても不可能な現象。しかし実際に起こってしまった事態を前に、皆愕然としたまま動けずにいた。
その隙に菜月と少女の二人はその場を離れ、男達の目に留まらぬうちに狭く入り乱れる路地裏へと逃げ込むのであった。
メインキャラの女子率がヤヴァい。
でも、モブは男の方が書き易いですよね。基本的に自由ですし、あいつら。
そしてルビが多い……。読みにくいでしょうか? でも技とか魔法って基本的にルビ付けますし、減らしようがないんですよね。
次回も読んで頂けると有り難いです。
八月十八日:後半部分(少女の台詞を中心に)若干修正しました。




