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ヤンデレ後輩と異世界ライフを!  作者: 月代麻夜
第一章 始まりの異世界ライフ//第零階層世界編
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番外二  ある放課後の告白の日の昼

 番外編二話目です。なんか色々単語が増えてきて、読者様に覚えてもらえているか不安になります。

 じゃあ減らせよ、と言われても減らす気は無いんですけどね。

「それじゃあ始めようか! 第一回、東雲しののめ菜月なつきのラブレターの差出人はだぁれ? 会議ー!!」


 わーぱちぱちとわざとらしく言ってにこやかな笑顔を作るのは、八重里第一高校の敷地内にある中庭のベンチで自分の膝上に弁当を広げる美咲みさきだ。

 中庭は生徒に解放されており、点在するベンチやテーブルを友達のグループやカップル達がうめている。美咲が腰を下ろすベンチは校舎のすぐ近くにあるため日陰になり、ほぼ夏の気候になった今は日向よりいくばくか涼しくて良いので、高頻度で利用している場所だった。ついでに後ろの校舎に窓があるので、たまに探している人がいれば見つけてもらい易い場所でもある。そのため、風紀委員長で何かと呼ばれることの多い美咲には都合の良い配置だった。

 美咲は弁当――自分の手作りではなく、妹が作った物――に詰められていた唐揚げを頬張ほおばり、黒曜石のように透き通った黒眼を幸せそうに細めている。何と言うか、楽しく盛り上げて言った割に、菜月のラブレターの差出人を突き止めるよりも自身の昼食の方が優先度が高そうであった。

 しかし美咲の左に座る奏渚かんなは自分の昼食より菜月の方が優先であるため、膝に自分の手作りの弁当を置きながら、真剣な表情で美咲を見つめている。


「それで、美咲先輩の心当たりは誰なんですか?」


「……心当たり?」


「朝言ってましたよね。『ちょいと心当たりがある』って」


「あー、そういや言ってたっけ。忘れてたわー」


 てへっと可愛らしく舌を出す美咲。しかし奏渚が本気の殺気を混ぜた視線を浴びせると、あざとい仕種しぐさをしていた顔を、一瞬怯むように体を僅かに震わせてから苦笑いに変えた。


「もー、冗談なのに、そんなに怒らないでよ。私は一応一条いちじょう家に仕える分家の人間で、色々危ない事にも関わってるから耐性があるけど、裏に関わらない一般人相手にさっきの威力の殺気を向けたら、良くて失禁、最悪ショック死しちゃうんだからね?」


「分かってます。そんなことより、早く先輩の心当たりを教えてください。五分以内に消してきますから」


 箸を持っていたはずの奏渚の右手がいつの間にか腰の拳銃に行き、引き抜くと同時に発砲できるよう安全装置を外してトリガーに指が掛けられていた。それに遅れて気付いた美咲が密かに冷や汗を垂らしながら、奏渚がいきなり銃を抜いても対応できるよう全身に緊張を走らせた。……それでも、昼食を食べる手を止めずに、だが。


「物騒な事はやめなさいな。そもそも噂程度からの推測だから、確証は無いよ?」


「問題ありません。可能性は全て排除すれば良いのですから」


 キリッとした目で頷く奏渚に、美咲は半ば呆れながら人知れず溜息をつき、奏渚に聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「……どうしてこうも、あいつの事が好きな女子は頭のおかしい奴ばっかなんだろ」


 本人達の耳に入れば間違い無く殺されそうな言葉だったが、幸い声が小さくて隣の少女には聞こえていないし、美咲の心当たりの人物も見当たらない。美咲はもう一度溜息をつき、それから少し表情を引き締めて奏渚に視線を向けた。


「ねえ、かなかなは本当にアイツの事が好きなの?」


「なっちゃんの事ですか? 何を辺り前の事を言ってるんです、わたしはなっちゃんの全てを愛していますよ。なっちゃんの優しさは勿論、なっちゃんの仕種も、なっちゃんの視線も、なっちゃんの筋肉も、なっちゃんの息も、なっちゃんの手やなっちゃんの目、なっちゃんの口、なっちゃんの、」


「もういい、もういいから。かなかながどれだけアイツの事が好きなのかはよぉーっく分かったから」


「ええー? この程度の言葉じゃ、わたしがどれほどなっちゃんの事が好きなのかは表し切れませんよ。今度原稿用紙千枚ほどに纏めてくるのでそれで判断して下さい」


「読みたくないわ、それ。読破するのにどんだけ時間かかると思ってんのよ」


「なっちゃんへの愛に溢れた字を読むのに時間が使えるなら本望じゃないですか」


「……ああ、うん。もういいや本当に」


 呆れてまともに返答する気も失せた美咲は、半眼で黙々と弁当に箸を伸ばしだす。妹の『料理が出来ない姉の為に仕方なく作ってやった弁当』という愛に溢れた料理を一口一口大切に味わうが、横から奏渚に話しかけられたことで中断された。


「それで、結局美咲先輩の心当たりって誰なんです?」


「あ、そういやそれを訊かれてたんだっけ」


「忘れないで下さいよ。というか、早くしないと昼休み終わっちゃうので、とっとと教えてください。……る時間が無くなっちゃうじゃないですか」


 再び奏渚の右手が銃に伸び、さらに左手がスカートの中――左脚の太ももの辺りに隠した短剣に触れたことに気付くと、美咲は逃げるように奏渚から距離を取った。と言っても、弁当を食べ終わっていないのでベンチからは立ち上がらず、端に寄っただけなのだが。

 暗殺を得意とする一之瀬家の娘である奏渚は直接戦闘を得意としていないが、相手の短剣のリーチ内である至近距離で、しかも武器を携帯していない美咲では、止めようとしても一瞬で殺されてしまうだろう。普段の奏渚なら人の目があるこの場で暗器を取り出し、血が流れてしまうような事態を起こすことは無いだろうが――しかし、今の奏渚は菜月に関わる事で半ば暴走しかけているため、その限りではない。下手をすれば、この学校の女子生徒全てを殺し尽くそうとするかもしれない。そうなってしまえば間違いなく奏渚には刑罰が下るだろうし、最悪天道三大家が罰という名目で、奏渚を裏で密かに行われている生物実験の被検体にしてしまう可能性もあった。実際、この学校には天道三大家の息がかかった魔術師達がいるため、捕縛自体はそう難しいものではない。

 しかし戦闘力最強と言われる一条家の長女、真祖吸血鬼トゥルーヴァンパイアの力を持つ一条憂莉ゆうりが通っているため、命までは奪わない捕縛より発見次第即座に殺される可能性の方が高いのだが――それは、奏渚だけに限られた話だ。


(……まぁ、多分ラブレターの差出人って憂莉様だろうし。あの人、四月下旬辺りからずっとなっつん――菜月のストーカーしてたしなぁ)


 そう、美咲の心当たりの人物は、一条憂莉だったのだ。

 二葉ふたば家は一条家に仕える分家だ。その主である家の長女の情報は信憑しんぴょう性の薄い噂も含めて伝わってくるし、自分でも頻繁に彼女の行動をチェックしている。ただ、憂莉は内に秘めた才能と、一条家一族の身に流れる特殊な血――『銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』によって発現した真祖吸血鬼トゥルーヴァンパイアの力を持っているため、完全に把握しきれていないことが多いのだが。

 ともかく、今ここで美咲が心当たりの人物の名を明かしてしまえば、双方の性格上、必ず憂莉か奏渚のどちらかが死ぬことになってしまうだろう。

 直接的な戦闘能力では奏渚は憂莉には敵わないだろうが、奏渚は高度な暗殺技術を持っているため、憂莉に密かに付いている護衛達の目を盗み、人知れず始末することが可能だ。直接対決で奏渚が死ぬか、暗殺によって憂莉が死ぬか。どちらにせよ、そのような結末を美咲は――そして、二人の最も大切な人である菜月も望んでいない。


(……仕方がない。今日の所はとりあえず、先延ばしかな)


 美咲は密かに息を吐き出すと、決まり切らない覚悟を置き、食べ終わった弁当箱を袋に戻しながら奏渚に問いかけた。


「私の心当たりの人は一先ひとまず置いといて。そう言うかなかなこそ、なっつんに告白しないの?」


「へ!? え、えと、いや……その、こ、こ、告白は……その……」


 先程までの殺気はどこへやら。逆に尋ねられた奏渚の声は語尾に至るにつれて小さくなっていく。

 そのあまりの変わりように美咲は思わず噴き出しそうになるが、せっかく成功した会話の路線変更を駄目にさせるわけにもいかないので、必死にこらえつつ言葉を続けた。


「想い続けて十年以上。それまでアイツの隣に居続けたのに、ついに告白せず他の誰かに先を越される……。かなかなは、それでいいのかい?」


「それは……良くない、けど…………でも、」


「でも?」と美咲が返すと、奏渚はうつむいてしまう。それから十数秒の思考の後、顔を上げずに弱々しい声で奏渚は答えた。


「……なっちゃんが、わたしを選んでくれないかもしれないし……」


「えー……こいつ、急に小心者になったんだが、どうしたし」


「……美咲先輩。声に出てますよ」


 感じた事を思わず声に出して呟いてしまった美咲を、奏渚はじろりと睨む。しかしその視線もどこかしぼんだ印象があり、前に殺気を向けられた時とは比べ物にもならないくらい弱々しかった。

 変化した空気を美咲は咳払いで強引に切り替えると、口元ににやりと笑みを浮かべる。


「ああもう、あんたの自信が無いのはどうでもいいや。とりあえずかなかながラブレターの子より早くなっつんに告白して、『なっちゃんはわたしのものよ!』って言って抱きついとけば良くない? そうすりゃ相手も納得して諦められるっしょ?」


 実際にそれをやられた憂莉が納得するとは思えないのだが、あえて口には出さない美咲。

 しかし提案された奏渚の表情は暗いままだった。


「……でも、そもそも告白を受けてくれなかったら意味無いですよ?」


「いやぁ、大丈夫でしょ。一緒に居る時間が長い人には自然と魅かれるもんだし、なっつんはかなかなの事が嫌いなわけでもないんだから、断んないと思うなー」


「……でも、」


「ああもう、あんたは何でそう自信がないかな……。ほら、昔から当たって砕けろって言うし、大丈夫でしょ! もし駄目でもパフェくらいは奢ってあげるからさ、頑張れやい」


「……わたし、もし断られたら自殺するので、奢って貰わなくても結構です」


「うわお、そこまで重症でしたか。いやまぁ分かってはいたけどさ……」


 こんなに愛されて幸せ者だなーなっつんは、と笑い混じりに美咲は言う。そしてその愛がもう一人からもそそがれているので、愛に潰れないよう頑張れーと、やはり気楽に呟く美咲であった。――もっとも、後者の意味は奏渚には正しく伝わらないのだが。

 と、その時、校舎に取り付けられたスピーカーからチャイムの電子音が放たれ、中庭に昼休みの終了を告げる音が響き渡った。


「さて、そんじゃま、教室に戻りますか」


 美咲がそう言って立ち上がると同時、突然隣に座っていた奏渚が勢い良く立ち上がった。

 驚きぎょっとして美咲が奏渚に振り向くと、奏渚は何か重大な事を決意したような深刻な表情をして、強く拳を握り締めていた。そして奏渚は強い瞳で美咲を見ると、おもむろに口を開けて宣言する。


「――決めました。わたし……今日、なっちゃんに告白します」


 そのあまりに力強い声色に圧倒され、美咲は「あ、うん。……頑張れ」と小さく返すことしかできなかった。



 ――その二人の背後の校舎、窓を開けて二人の会話を聞いていた何者かが逃げ出すような気配が美咲の意識の端をかすった気がしたが――しかし、美咲が視線を向けた時には、既にその者はどこにもいなかった。

 ただ、白銀に反射する紫苑色の髪だけが、ひらりとその場に落ちるのであった。



 当初予定していたより番外編が長くなってきており、困る今日この頃。本来は番外編の中、前話と今話、そして次話辺りまでは一話に纏めようと思っていたんですけど、気力と私の平均文字数的に諦めました。

 基本的に番外編は番外編で独立したストーリーにするので、本編に関わるのはもうちょっと後になると思います。


 いやあ、個人的に奏渚は好きなんですけど、美咲相手に敬語にするとなんとなく憂莉とかぶってしまいますね。個性を出すのって大変ですね……。

 それはともかく、一条家に流れる血――『銀虐魔王の血脈アルジェント・ブラッド』の〝Argento(アルジェント)〟がイタリア語で〝Blood(ブラッド)〟が英語になっているんですが、それには深い理由が……あ、いや、別に深くはありませんでした。普通に語呂と印象の問題です。あと、一之瀬と一柳の血はそのうち出すかもしれないです。


 次話は番外編ではなく本編を予定しています。番外編は点々と書いていくつもりです。読み辛いかもしれませんが、読者様が覚えている内に投稿できるよう、早め早めに書いていくつもりなので、宜しくお願いします。


 次回も読んで頂けると有り難いです。

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